ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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初めての神会は絶体絶命!?

 巨大な円卓をぐるりと囲んで神々が向かい合う。

 硝子張りの壁から透ける太陽の光が白い円盤に反射して、神々の整った容貌を照らした。

 その光景は正しく神話の一ページ。

 世の画家たちがその光景を見てしまえば、己の想像力の限界を悟って筆を折るであろう美しい光景だ。

 

「第ウン千回神会(デナトゥス)開かせてもらいます、司会進行はうちことロキや‼ よろしくなー」

「「「「「イエエエェェェイッッ‼」」」」」

 

 そんな幻想をブッ壊すかのようなゆるーい言動。

 下界の子どもたちは神会(デナトゥス)を厳正なる神々の審判、などと思っているらしいが、実際の所は何時もの迷惑な神たちだ。

 

 そもそもこの神会(デナトゥス)の成り立ち自体、ダンジョンという未知の塊の前に住み着き、世の流れの中心を特等席で見物してきた神々が、「よく考えたら俺ら神だからダンジョン行けねーじゃん。つまんな」といつもの病気を拗らせたことが発端であった。

 要するに神々は平常運転という事である。

 

「なんでロキが司会なんだよ……」

「本人曰く暇だから、らしいわ。今は殆どの眷属が遠征で出払っているらしいし」

 

 初参加なだけあって、バリバリに緊張していたヘスティアの肩の力が抜ける。

 絶対にこの後疲れるぞ、当初想定していたのとは違う方向で、と何処にいても頭痛の種しかもたらさない同族どもに頭を抱えた。

 

(最も、それだけではないでしょうけどね)

 

 終始ふざけたノリで進む神会(デナトゥス)だが、それだけのお気楽な場ならばギルドがわざわざ諮問(しもん)機関と言うくくりにはしない。

 一癖も二癖もある神々が集まるだけあって、そこには陰謀が渦巻くものだ。

 もとはただのお茶会だったというのに、すぐさま腹黒神の化かし合い会場となったのは流石は神と言うべきだろうか。

 

 この場にいるほとんどの神は情報収集や、派閥争いの延長線上で来ている。

 いや、本命は暇つぶしなのだろうが。

 

「うへぇ……」

 

 つまりこの場に入る神は馬鹿騒ぎをしつつも、冷徹な判断を出来なければならないことだ。

 裏表がなく、面倒ごとを嫌って天界では自分の神殿に閉じこもりきりだったヘスティアには中々酷な作業である。

 

「……」

「ん?」

 

 ふと、ロキの視線を感じた気がした。ヘスティアはチラリとロキを見返す。

 その時には既にロキは別の方向を見ていたが、ヘスティアは常ならざるロキの様子を怪訝そうに見返した。

 

「よぅし、サクサクいくで。面白いネタ報告できるやつおるかー?」

(き、来た‼)

 

 早速の難関である。

 ヘスティアは事前にヘファイストスから神会(デナトゥス)での大まかな流れを説明してもらっていた。

 気まぐれな神々の会話であるが故に、決まった形があるわけではないのだが、大抵はくだらない笑い話を始めに語りつくすのだという。

 くだらない笑い話、どこかの誰かさんのおかげで今のオラリオはそのネタに事欠かない。

 

 その誰かさんの主神がノコノコやって来た日にはどうなるかと言うと……

 

「はいはーい! 魔石の大量発生で低品質な魔石が都市に溢れかえった結果、魔石の買い取り額が過去最高に下がっていて下級冒険者たちは阿鼻叫喚だそうでーす」

「ゴリラの水死体がダンジョン上層で見つかったらしい。何言ってんのか分からねぇと思うが俺にも分からん」

「ギルドのロリコン幽霊を奉る賽銭箱を置いてみたら、ヴァリスがウッハウハでこの都市真面目にヤベェなと思いました」

「ロリコンと言えば【凶狼(ヴァナルガンド)】だな! この前団員たちの前で弱ぇ女は嫌いだぜ~的なこと言ってたところにエルフィたんが「でも幼女が好きなんですよね」って突っ込まれてて爆笑したわ」

「ジャガ丸くん愛好家たちの進撃が止まらん……幻のジャガ丸くん捜索のために、またヘファイストスの下っ端たちの工房に突撃する気らしいぞ」

「歓楽街の厄災見てきた……なんていうか……うん、後悔するから見ないほうがいいぞ?」

(お腹痛い)

 

 もう見事に話題はベルが関係した事件ばかりだ。

 どういう目で見られているのか怖すぎてヘファイストスのいる方を見れない。

 

(平常心、平常心……)

 

 バレなければ問題はないのだ。

 こちらがボロを出さなければ、スキルで具現化したひみつ道具による犯行など分からないだろう。

 

「最近は賑やかなものだ。時にヘスティア。君は……正確には君の眷属はどの事件でも目撃情報があるね?」

(ディオニュソスウウウウウゥゥゥゥッ!?)

 

 コソコソとやり過ごそうとしたヘスティアに、槍のように突き刺さる言葉。

 金髪の爽やかな貴公子、と言った風貌のディオニュソスによるものだ。

 果たして故意なのか、偶然なのか、さらっとヘスティアを追い込む一手を打ってきた。

 

 ギラリ、と神々の目が光った気がした。

 これこそ神々の共通する特徴。面白いことは骨の髄までしゃぶりつくすである。

 いつだったか抱いた懸念。ベルの特異性に気が付いた神々によって遊びつくされる未来がすぐそこまで来ていた。

 

「ぐ、偶然だヨ! ウチのベル君は運が色々こう……凄いんだ!」

 

 私はアホですと自己紹介しているかのようなごまかしのへたっぴさ。

 先ほどは神友(しんゆう)の成長を喜んでいたヘファイストスも心なしかあきれ顔である。

 

「そもそも色んな事件でベル君は被害を食らいまくっているわけだし? ベル君が原因ならそんなことには……」

「いや、ひみつ道具っちゅうモン使いこなせていないだけやろ」

「ゲッ、ロキ……」

 

 それでも何とか疑惑を逸らそうとするヘスティアだが、ロキはひみつ道具のことを知っている。

 と言うかそのベートが餌食になった場面をバッチリ目撃しているのだ。

 

「年貢の納め時ちゃうか。なぁ、ド~チ~ビィ?」

 

 ケケケッ……と笑うロキにヘスティアはぐぬぬ……と唸る。

 共闘したことはあれどロキとヘスティアは犬猿の仲であることは変わらない。

 おまけにロキは人の嫌がることは進んでやる神格(じんかく)の持ち主なのだ。

 ヘスティアが必死こいて隠している秘密を知れば、こうなることは必然だった。

 

「あわわわ……」

 

 完全に手詰まりとなったヘスティアの目がぐるぐると回る。

 どう考えても誤魔化しようがないこの状況をどうにかしようと頭の中から言葉を引っ張り出しては、自分で否定するの繰り返し。

 

(あ、これもう無理)

 

 完全に自分の許容量(キャパ)を超えている。

 そう判断したヘスティアの行動は、隣にいるヘファイストスの手を円卓の下から握り叫ぶことだった。

 

「ちょ……ちょっとタンマ‼」

 

 突然大声で叫んだヘスティアに対する反応はなかった。

 何故なら、神々の全員が彫像のようにぴたりと動きを止めていたからだ。

 ヘスティアを追求するために立ち上がろうと腰を浮かせていた神など、中腰の姿勢のまま止まっている。

 

「本当にすごいわね……そのひみつ道具……」

「強いひみつ道具だからベル君たちに持って行って欲しかったけど……」

「今の有様じゃアンタが持っていて正解だったわね」

「う゛っ」

 

 先ほどまでガヤガヤと騒がしかった摩天楼(バベル)の30階は静まり返り、二柱の声しか響かない。

 ヘスティアとヘファイストスである。

 

 この神会(デナトゥス)に参加するにあたって、ベルがヘスティアに持たせてくれた二つのひみつ道具のうちの一つ。

 それが懐中時計型のひみつ道具【タンマウォッチ】である。

 その効果は時間停止と言う単純にして絶大な力。

 ボタン一つで世界が止まるのだ。

 例外はボタンを押した者と、その者が触っていた者だけ。

 

「それで、これからどうしよう……ここから逆転できる気がしないけど……」

 

 このひみつ道具によって、ヘスティアはヘファイストスと堂々とアドバイスできる環境が出来ていた。

 会議の場で自分の意見を温められる時間と言う物は貴重だ。

 策謀の類が兎に角苦手なヘスティアにとっては、この手札が生命線だった。

 ……使う間もなく追い込まれたが。

 

「ディオニュソスが何処まで意図したのが分からないのが怖いわね」

「……流石に偶然じゃないかい? 騒動にベル君が関わりまくっているのは確かだし」

「そもそもさっきの騒動にベル・クラネルが巻き込まれていることをディオニュソスが知っている方がおかしな話だけど」

「え?」

「いい? ベル・クラネルはついこの間まで無名の新人だったの。そんな冒険者に対してディオニュソスが情報を持っていることが気になるのよ。単なる好奇心で調べたと言われればそれまでだけど……」

 

 ヘファイストスはディオニュソスが言葉を発したことにより、ヘスティアが追い込まれている状況に嫌な予感を覚えているらしい。

 ディオニュソスがヘスティアを牽制している風にも見えるのだ。

 

「偶然だけど、ヘスティアの子がエニュオとしての行動を潰してきたのは事実だしね」

「でも直接的に潰していたのは【ロキ・ファミリア】だし、そんなにベル君に注目するかな?」

「ひみつ道具の厄介さに気づいたのかもしれないし、ヘスティアのことは眼中にないという可能性は捨てたほうがいいわ」

 

 今回の神会(デナトゥス)でヘスティアが行おうとしたのは敵と味方の判別だ。

 ディオニュソスに対する包囲網を作ると言っても、誰も彼も入れた結果、内通者が出たら堪ったものではない。

 神会(デナトゥス)でディオニュソスに同調する神をそれとなく探るつもりであったが、これでは探ることは困難だろう。

 この場の神々全てがヘスティアに傍迷惑な悪意を向けているのだから。

 

「ロキとヘルメスは同盟を結んでいるけどエニュオの手駒ではない。他に似たような理由でエニュオとしてではなく、善神ディオニュソスと手を組んでいる派閥もあるかもしれないし、神酒によって無自覚な協力者にさせられている可能性も……」

 

 そんな複雑な事情をこの滅茶苦茶になった神会(デナトゥス)で探るのはもう無理だろう。

 初戦は敗北、致命的打撃を受ける前に撤退するべきだろう。

 

(ディオニュソスが私たちの動きを察知したのか、それともヘスティアを目障りに思って牽制しているのか)

 

 やはりやりづらい相手だとヘファイストスは、都市を相手取って数十年騙し続けてきたであろう神を睨みつけた。

 この場で天界に送還してやりたい気分だが、ヘスティアがやり込められている状況でディオニュソスが不可解な死を遂げれば、確実にひみつ道具という摩訶不思議な力を持ったヘスティアがやったとバレる。

 ここは泥を飲むしかないだろう。

 

「兎に角、ディオニュソスは一旦置いておいて、ヘスティアは火消しに専念しなさい」

「火消しったってどうすれば……」

「周りをよく見なさい。すべての神がヘスティアの敵じゃない。ガネーシャは時間を止めなければ、そのまま話題を逸らすつもりだったらしいし」

 

 ヘファイストスに指を示したほうを見ると、確かにガネーシャが口を開こうとしていた。

 

(ボク、周りが全然見えていないな……)

 

 思った以上に上手くやれなかった自分に落ち込むヘスティアはぐて~と円卓に身を投げ出した。

 ベルの神様として頑張ろう! と決意したのは良かったが、それだけで上手くいくなら苦労はない。

 改めて自分の主神としての力量の無さに泣きたくなった。

 

「時間をまた動き出させる前に、あのひみつ道具を使いなさい」

「え? あれをどう使えっていうのさ?」

「ガネーシャは話を逸らそうとするけど一筋縄ではいかないでしょう。だから、それをガネーシャに使って援護するの。そうすればガネーシャの言葉を無視はできないわ」

 

 なるほど、とヘスティアは早速もう一つのひみつ道具を取り出した。

 それはベルが言うところのライト系のひみつ道具。その名も【目立ちライト】。

 本来はヘスティアが場の主導権を握るためのものだが、この状況でヘスティアが目立っても碌なことにはならないだろう。

 だが、ガネーシャに使えば話は別だ。

 

「後は頼んだ! ガネーシャ‼」

 

 ガネーシャに光を照射したヘスティアは、自分の席に戻ってもう一度タンマウォッチを押し、時間を動かした。

 

「……いい加減隠すのは」

「話の腰を折る様でスマンッッ‼ だが聞いてくれないか‼」

「あぁん?」

 

 再開したロキの追及にガネーシャの声が被さる。

 いつもの五割増し大きいんじゃないかと言う声にロキは眉をひそめつつ振り返ると。

 

「俺が‼ ガネーシャだあああああああっっ‼」

 

 いつものように暑苦しく叫ぶ象男。

 普段ならば「そうかもう座れ」と塩対応だっただろうが、今回は違った。

 

「ガネーシャだ!」

「ガネーシャが動いたぞ!」

「ヘスティアなんか後回しだ! だってガネーシャだぞ!」

 

 まさかの大好評。

 神々はまるでアイドルを見たかのようにガネーシャに熱狂した。

 

 これこそ二つの目のひみつ道具。目立ちライトの効果だ。

 その名の通り、このライトを浴びた者は目立つ。

 街を歩けばどんな地味男でも黄色い声援を浴びるくらいに目立つのだ。

 

「思っていたより好感触でガネーシャ困惑‼ でも都合がいいから話を進めるゾウ‼」

 

 ガネーシャも予想外の反応に一瞬だけ面を食らっていたが、目立ちライトをためしたゴブリンが一階層で冒険者たちに追い掛け回されているという話を思い出し、これがひみつ道具によるものだと理解した。

 ならば、存分に利用するまでだと。ガネーシャは大声で話し始める。

 ヘスティアの話題を塗りつぶすがごとく。

 

「まずは謝らせていただきたい‼ 先日の怪物祭(モンスターフィリア)では我々の管理するモンスターの脱走で迷惑を掛けた。あの事件の解決に協力してくれたファミリアたちには感謝の念が尽きん‼ ガネーシャ超感謝‼」

「うおおおおおおおおおっ‼」

「既に下手人の調査を進めているところだ‼ あの事件を契機に闇派閥(イヴィルス)の活動も活発化しているが、奴らの起こそうとした事件は全て、オラリオのファミリアが協力して対処することで未然に防ぎ続けている‼」

「フォオオオオオオオオっ‼」

「調査の過程ですべての黒幕は都市の破壊者(エニュオ)を名乗り、暗躍していることが分かっている‼ 我が【ガネーシャ・ファミリア】は全力でこの巨悪に立ち向かい、群衆を守り抜くことを誓わせていただこう‼」

「いよっ‼」

「流石だぜ‼」

「ガネーシャ様愛してるううううっ‼」

「そしてっっっ‼ 俺がっっっ‼ ガネーシャだああああああああああッッッッ‼」

「「「「ガネーシャッ‼ ガネーシャッ‼ ガネーシャッ‼」」」」

 

 流石は巨大派閥の主神と言うべきか。

 過激な発言で神々の心を鷲掴みにしてしまった。

 目立ちライトの効果も相まって最早宗教である。

 

「なぁにこれぇ……」

「酷いわね……」

「なぁ、これ収拾つくのか?」

「うむ。無理であろう」

 

 余りの熱狂ぶりにヘスティアたちは引いていた。

 チラリとみると普段は涼し気な表情のフレイヤも流石にドン引きしている。

 ロキとヘルメスは先ほどから続くガネーシャコールにノリノリで参加していた。

 

「神に下界の術なんぞ効かないだろうに……」

「この場の全員が反抗(レジスト)出来るであろうが……神々にとっては何かに心を燃やすというのは得難い経験だからな。皆分かっていて乗せられているのだろう」

 

 タケミカヅチとミアハの分析も、タガが外れた神々の声に搔き消された。

 最早ロリ巨乳幼女神のこと等忘却の彼方だろう神々たち。

 そんな彼らにため息をつきながら、ヘスティアはディオニュソスを見た。

 

 そこには目立ちライトの効果を反抗(レジスト)し、静かに座る彼の姿があった。

 貴公子然とした男神は苦笑しつつ、くるくると前髪を弄っていた。




 まあ、初めてならそんなに上手くいかないよねと言う話。

 そしてこの後はなんやかんやで二つ名を決めることになる訳ですが、ここで皆様にお願いがあります。 

 ご存じの通りネーミングセンス皆無な作者に本作のベルの二つ名のアイディアを下さい。
 具体的には

①二つ名(漢字)
②ルビ(ひらがなor カタカナ)
③アピールポイント

 と言った感じで案を募集しています。
 活動報告にベルの二つ名と言うタイトルで項目を作りました。
 ご協力お願いいたします。

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