ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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現実からの侵入者

「でも……手掛かりを探そうって言ってもどうするのさ。イビルスの基地がどこにあるかなんて分からないよ」

「イビルスじゃなくてイヴィルスだよ」

「カタカナの言葉は言いにくいから嫌だ」

 

 自分たちの世界の何者かがこの『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』と言う物語を乱している。

 そう言われれば、のび太とて黙ってはいたくない。

 だが、現実問題として、闇派閥(イヴィルス)の手掛かりが全くない以上は動きようがないではないか。

 そんなのび太の主張に答えたのはドラえもんだった。

 

「だから街に出て手掛かりを探そうってことだろう?」

「僕たちがちょっと質問して見つかるんならもう警察が見つけているはずだろ」

「警察じゃなくて【ガネーシャ・ファミリア】」

「日本人は日本語だけ使うべきだと思う」

 

 そこら辺の人を捕まえて「この世界にやって来て、悪いことをしている人たちはどこですか?」と聞いたところで答えが返ってくるはずがない。その程度はのび太にだって分かることだ。

 常識的に考えれば確かにそう。しかし、物語の外側から来た自分たちにはアドバンテージがあると出木杉は説いた。

 

「この漫画の世界に誰かが紛れ込んで流れがおかしくなっている。つまりは、本来のストーリーとの違いを見つければ、そこから元凶への手掛かりを見つけられるって言う事だ」

 

 物語の住民である【ガネーシャ・ファミリア】は原作の流れなど知ることは出来ないが、絵本入りこみぐつでこの世界に来た自分たちならそう言った視点を持てる。

 要は推理ドラマで物的証拠ではなく、物語として、或いは俳優で誰が犯人かを言い当てる感覚に近いと出木杉は言った。

 

「犯人が最初に分かれば、後付けで証拠だって作れるだろう? ドラえもんのひみつ道具には過去の行動を明らかにするものだってあるんだから」

 

 もしも推理ドラマでこんな展開をされたら、間違いなくテレビ局には非難の嵐が来るだろう。

 しかしこれは現実。遠慮をする理由はないのだ。

 

「確かにそれなら僕たちにも手掛かりを探せるけど……よく思い付いたね」

「向こうがどんな人間かは分からないけど、裏の世界を生きている人間だ。反則の塊であるひみつ道具をフル活用してもまだ足りないよ」

 

 だからこそ、やれることはすべてやっておきたい。

 後手に回ってしまっては翻弄されるだけなのだから。

 

「でも、もとのダンまちとの違いって言ったって一杯あるじゃないか」

 

 例えばベルと春姫の出会う時期。

 本来ならばまだずっと後だったはずなのに、ベルはもう春姫を知っていた。

 流石にこれに元凶が関わっているとは思えないとのび太は反論する。

 

「うん。確かにこの漫画はひみつ道具を使う主人公と、ひみつ道具で好き勝手する元凶の二つの要素でかき乱されている。どれがクラネルさんが原因で、どれがそうじゃないか、なんて探していると絶対に時間が足りない」

 

 ほんの少し、話を聞いただけだがベルの動きは原作と全く異なる。

 そもそも闇派閥(イヴィルス)とやらとの交戦など原作にはなかったのだ。

 

「だから、確実にクラネルさんが関わってないと断言できるものから調べよう」

「確実にベルが関わっていないもの?」

「あーなるほど。でもいいのかい? あそこにまた近づくのは危ないと思うけど」

 

 会話から何かを察したらしいドラえもん。

 一方ののび太はまだ出木杉の考えが分からずに首をひねる。

 

「ほら、つい先日見たばかりだろう? 明らかにおかしい敵を」

「ん? んんっ?」

「コボルトヴィオラスだよ。のび太君」

「……あ、そっか。あんな奴いなかったもんね」

 

 狼の背中にウニョウニョした触手が張り付いているという、明らかに不自然な姿。

 すっかり頭から抜けていたが、あれも「違い」の一つだろう。

 

「クラネルさんも心当たりはない様子だったわけだしね。ひみつ道具を盗まれたのかとも思ったけど、一日で消滅するというスキルの制限を考えると現実的じゃないし」

 

 何より、出木杉が感じたあの違和感。

 それが22世紀の技術提供によるものだとしたなら。

 

「ドラえもん。何か、姿を隠せるひみつ道具を出してくれないかな」

「やっぱり、この前の現場に行く気だったんだね」

「それが一番の近道だ」

 

 のび太はようやく出木杉の考えを理解した。

 ついこの間のび太たちが襲われた場所に行って、ひみつ道具の力で元凶を見つけ出そうというのだろう。

 

「タイムパトロールにでも頼めばいいじゃないか。態々僕たちが危険を冒す意味はない」

「本当なら僕もそうしたいけど、タイムパトロールはすぐに来てくれると思う?」

「それは……」

 

 タイムパトロールは歴史と言う膨大な時間で活動する組織だ。

 街の交番のようなフットワークの軽さを発揮するには、マンパワーがどうあがいても足りていない。

 そもそも、この世界の元凶が犯罪者なのかも不明だ。

 

「犯罪者じゃないかもしれない!? なんでさ? こんなに悪いことしてるじゃないか!」

「クラネルさんたちと接していると忘れがちだけど、ここはあくまでも物語の中だよ。登場人物たちを現実の法律が守ってくれているものなのかい?」

「……」

 

 物語の中の人物を滅茶苦茶にする。

 それが果たして犯罪なのか、そう出木杉は問いかけた。

 

 のび太や出木杉たちの時代にも、熱心なファンならば二次創作と言うものをやっている。

 そこで自分を投影したキャラクターを物語の中に出して、登場人物を殺すというストーリーを作ったとしても、その人が殺人罪に適用されるわけではない。

 絵本入りこみぐつにおける改変も、同様のものとみなされてしまうかもしれないのだ。

 

「元凶が単に性格の悪い人だったら、僕たちが文句を言える筋合いじゃなくなる。だから、決定的に相手が犯罪者であるという証拠が欲しい」

「出木杉君は今回の元凶が犯罪者だと思ってるの?」

「うん。8割くらいは。わざわざ過去に未来の本を隠した辺り、やましいことをしているってことだと思うし」

 

 出木杉の言葉が的外れでないことは、ドラえもんの苦々しげな表情からのび太にも窺えた。

 

「つまり、出木杉は犯人の証拠を集めてからタイムパトロールに逮捕してもらいたいってワケ?」

「うん。僕たちに出来るのはその辺が限界だろうね」

 

 なるほど、とのび太は頷いた。

 それならドラえもんには簡単なことだろう。

 ひみつ道具を使えば分からないことなどないのだから。

 

「……ハァ。のび太君まですっかりやる気になっちゃった」

 

 何とか反論を探そうとしたドラえもんだったが、のび太の様子を見てため息をつく。

 こうなったら梃子でも動かぬ頑固さがこの少年にはある。

 もう自分が何を言っても聞かないだろう。

 

「仕方ないな、もう……

 

 ドラえもんが取り出したのは直系3cmほどの丸い玉だった。

 一番上にはボタンがあり、上と下で真っ二つになるひみつ道具が三人分その手に握られている。

 

「危なくなったらこれで緊急避難すること! 100mしか有効じゃないから、慎重にね」

「どこでもドアでいいじゃない」

「敵に襲われたりしたときに呑気に使えないだろ」

 

 教育ロボットであるドラえもんにとって、のび太や出木杉の安全は絶対に無視できない。

 出木杉はともかく、ああなったのび太は自分が協力しなくとも止まらないだろうと考えると、こうやって万が一を回避する以上に考えは浮かばなかった。

 

「それと、

 

 続いて出したのは三枚のマント。

 出木杉の注文通り姿を隠せるひみつ道具だ。

 これならば目視されることは殆どない。

 

「犯人は現場に舞い戻るって言葉もあるんだ。危ないと思ったら、直ぐに逃げるよ」

「「うん」」

 

 ドラえもんの釘を刺すような言葉にのび太も出木杉も頷いた。

 この世界に迷惑をかけている存在は懲らしめなければいけないが、自分の命よりも優先することではない。

 そう再確認しつつ、三人はオラリオ北西……旧【ヘスティア・ファミリア】ホーム近くに向かった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  

 

 ボロボロの廃墟である北西地区は、似たような瓦礫の山だらけであり、もしかすると迷ってしまうのではないかと思ってしまう風景だったが、コボルトヴィオラスとの遭遇場所はあっさり見つかった。

 

「改めてみると凄いね……」

「まだベルのファイアボルトの痕が残ってる」

 

 何せ、大きく焼け焦げた跡が地面に残っているのだから。

 この中で、何体ものコボルトヴィオラスが消し飛ばされたというのは現実感が湧かない。

 

(クラネルさんは漫画の中だと発展途上で強そうに見えなかったけど……実際は十分超人なんだな)

 

 あれでオラリオの上級冒険者の中では、下から数えたほうが高いとは冗談いいところだ。

 ひみつ道具がなければ自分たちは牽制すらできなかっただろう。

 

「それじゃあドラえもん。タイムテレビをお願い」

 

 うんしょ、と言いながら、ドラえもんは四次元ポケットから薄型テレビを取り出す。

 良く思うのだが、ドラえもんが使うタイムテレビは何時も微妙に違う気がする。

 未来ではちょくちょく取り替えないといけないのだろうか。

 

「えーと。コボルトヴィオラスに襲われたのは……」

 

 ダイヤルを弄ると、ちょうどベルとコボルトヴィオラスが接敵したところだった。

 

「あ、そうだ! この映像を撮って売ったら売れるんじゃない!? ベルの動き、どんなヒーローものよりもカッコイイよ!」

「ひみつ道具を利用した商売は犯罪だって言ってるだろう」

 

 のび太の提案を却下しつつ、ドラえもんは映像を逆戻りさせる。

 こちらがタイムテレビを使うこと等向こうには分からない以上、コボルトヴィオラスには必ず下手人が接触しているはずだ。

 案の定、コボルトヴィオラスがベルたちの前に出る前に、(ケージ)に入れられた状態で男たちに連れられていた。

 

「うーん。顔がよく分からないな。口元隠してるし、服もひらひらしてる」

「これはこの世界の人かも闇派閥(イヴィルス)はこういう格好が多いらしいし」

「こういう言い方は良くないけど、如何にも狂信者って格好だなぁ。肌も色白だし。まるでお日様に全く当たってないみたいだ」

「確かにテレビでたまにやってる病院の患者さんたちみたいだ」

 

 映像を更に巻き戻していくと、(ケージ)に黒い布をかけた男たちは逆向きに歩いていく。

 

「うん。思った通りだ。これで敵のアジトが分かるはずだ」

「あ、そっか。この人たちは基地からモンスターを連れてきてるもんね。こうやって過去を見ればどこから来たのか分かるんだ」

「のび太君。説明聞いていたよね」

「今やっと分かった」

 

 やがて男たちは下水道におりて、地下水路を進んでいく。

 曲がりくねった複雑怪奇な道を進んでいくので、出木杉が何とか地図を書こうとするが複雑すぎて断念。

 

「うーん。これじゃアジトの場所が分からないな」

「ドラえもん何とかならないの?」

「しょうがないなぁ」

 

 困ったドラえもんたちは苦肉の策として、【ラジコン宇宙人】に【トレーサーバッジ】を持たせ、タイムテレビで男たちが通った道を行ってもらって、レーザー地図で何処に行ったのかを把握することにした。

 タイムテレビを見つつ、ラジコン宇宙人を操作する作業は大変だったが、なんとかやり遂げる。

 

「なんか街の方が騒がしくない?」

「化け物が現れたんだって、おっかないよね」

「……あっ(察した)。え、えっと、ラジコン宇宙人も巻き込まれないか心配だし、早く下水道に避難させない? ね?」

「えー。でもだいいっきゅーぼーけんしゃが来るみたいだし、折角だから見ていきた……」

「いいから早く避難させようっ‼」

 

 途中ちょっとしたトラブルはあったが何も問題はなかった。いいね?

 

「あ、なんか目玉みたいなの出した。キモチワルー……」

「目玉みたいなっていうか、多分、本当に目玉だよ。加工してるみたいだけど」

「ウエー……」

 

 舌を出しながらのび太が気持ち悪そうな顔をする。

 出木杉も顔色が優れないようだ。

 悪者だとは思っていたが、こんな常識外れなものを持っているとは。

 

「赤く光ったら扉が開いたね」

「あの扉の鍵みたいなやつなのかな」

 

 この世界で言うところのマジックアイテムだ。

 単なる魔法のアイテム程度にしかとらえていなかったから、意識をガツンと殴られた気持ちになる。

 

「せめてモンスターの目の加工であって欲しいよ」

「人の目にDって文字はないし、モンスターのなんじゃない?」

「どうかなぁ。猫耳が生えてる人がいる世界だし……僕たちの常識は所々通じないみたいだよね」

 

 気持ち悪くなりながらも、扉の奥に続く道を逆向きに歩く二人。

 映像を巻き戻してるとは言え、違和感だらけの映像だ。

 

「あれだね。大昔のダンサーの踊りみたいだ。なんだっけ……ムーン」

「なにそれ」

「ちょっと僕も分からないな……」

「あれ、あのダンサーって君たちの時代の人じゃなかった?」

 

 チラッとドラえもんの未来知識がありつつ、黙々と通路を進む男たちを観察する。

 すると、誰かに呼び止められたらしい男たちが立ち止まった。

 何かを話し合っているようだ。

 

「ん? この人の服装、なんか22世紀っぽいな」

「そうなの? 確かにこの世界の中では浮いてるけど」

「全身ピッチリなのは確かに22世紀っぽいかも」

 

 V字型の髪型のその男は酷く冷たい目で男たちと話している。

 左の眉の近くについた十字の傷は、彼がそう言った世界で生きてきた住民であると示している。

 逆再生を止めると、どうやらコボルトヴィオラスに関して言っているようだ。

 

『それが俺たちがくれてやったひみつ道具で作ったオモチャか。どんな出来かと思えば子供じみた姿だな。22世紀の幼児が適当に新種植物製造機を弄ったほうがマシだな』

『……』

『言い返す勇気もないようだな。所詮は紛い物の人間か』

 

 十字傷の男の言葉は余りにもこの世界の命を軽視するものだった。

 男たちの目も心なしか敵意が見える。

 

『お前たちがひみつ道具をどう使おうが勝手だが、夢を見るなら俺たちの関係ないところでやれ。最近は象の仮面を被った奴らが鬱陶しくてかなわんのだ』

 

 暗に闇派閥(イヴィルス)のこれまでの失態を責める言葉に、男たちの苛立ちが目に見えて膨らんだ時、パンパンと手を叩く音に双方が振り返った。

 

『【顔無し】……』

『耳の痛い話ですが、どうかその辺りで。彼らはこれからコボルトヴィオラスの試験と言う重要な役割があります。貴方様方にとっても成功したほうがいいでしょう?』

 

 振り返った先にいたのは赤毛の男。

 全身を黒で包むそのいでたちは、薄暗い通路では見失ってしまいそうだが、その男の持つ存在感ゆえか、タイムテレビ越しに見るのび太たちにも不吉なものを感じさせた。

 

『うるさい、知ったことか』

 

 そんな赤毛の男に対しても、十字傷の男の態度は変わらなかった。

 

『幹部だか何だか知らないが、所詮は紙の上の人間擬きだ。俺と対等ぶるな、身の程をわきまえろ』

『対等ぶっている気はないのですがねぇ……』

『その態度が癇に障ると言っているのだ』

 

 ギスギスとした空気だ。

 こういった雰囲気が苦手なのび太などは、うんざりした様子でモニターから目を離す。

 

「なんなのこのひとたち?」

「赤い髪の人は闇派閥(イヴィルス)で、傷がついている方がこの世界を荒らす元凶……だと思う」

「正確には元凶たちの一人だね。俺たちって言ってるし」

 

 状況を見るに取引相手のようだが、その中は良好ではないようだ。

 悪人と悪人なのだから当たり前かもしれないが。

 

「仲間なのに仲が悪いなんてヒーロー番組の敵の組織みたいだ」

「自分勝手な人たちだから、喧嘩ばかりしてるってことだろ。のび太君はこうなっちゃダメだよ」

 

 その後もネチネチとしたやり取りが続く。

 言葉が難しくて半分も理解できていないのび太が、この時ばかりはドラえもんも出木杉も羨ましかった。

 

『もういい。時間の無駄だ』

『おやおや、そちらは忙しいようで。私はもっと話していたかったのですが仕方ありませんねぇ』

 

 十字傷の男が背を向けると、赤毛の男は肩をすくめ、馬鹿にするような口調で言った。

 それが気に入らなかったのか、十字傷の男は表情を歪め、吐き捨てる。

 

『ほざけ、【顔無し】どころか【名無し】風情が……』

『……』

 

 十字傷の男の捨て台詞に、赤毛の男の口が初めて止まる。

 細目の表情からその内心は受け取れなかったが、周りの人間の反応を見るに不味いのだろう。

 

『ひっ……』

『……さあ、行きなさい。また厄介なお客様方に捕まる前に、ね』

『し、失礼させていただきますっ!』

 

 男たちはいそいそとコボルトヴィオラスを連れてその場を離れた。

 決して、赤毛の男と目を合わせないように。

 

「……ここまでだね」

 

 ドラえもんがタイムテレビの電源を切る。

 そこでようやくのび太と出木杉は我に帰った。

 

「あの男が言っていたひみつ道具をくれてやったって言う話……そこに金銭が動いてるなら犯罪のはずだよ。ひみつ道具でお金儲けはダメだし」

「それじゃあ」

「証拠は見つけたってわけか」

 

 自分たちに出来ることは終わったらしい。

 タイムテレビで見た悪い大人たちの会話に圧倒されていたせいで、ピンと来ないが。

 ラジコン宇宙人に持たせたトレーサーバッチのおかげで、アジトの場所はバッチリ分かっている。

 

「もしかしたら余罪もあるかもね」

「なにそれ」

「他にも犯罪してるかもってこと。つまり、指名手配犯」

 

 そう言ってドラえもんはタイム電話で妹のドラミと連絡を取った。

 

「これでドラミに今の人を調べてもらってる」

「指名手配されてたらタイムパトロールもすぐに来てくれるってワケか」

「……これで終わり?」

「釈然としないのは僕も同じだけど……これ以上出しゃばるのは危険だと思うよ。野比君」

 

 そろそろ日も暮れてきたから【豊穣の女主人】に帰ろうとドラえもんが提案する。

 のび太も出木杉も今日は疲れてしまったので、その提案に賛同する。

 そうして帰る途中も、三人の頭の中にあったのはあの二人の会話。特に赤毛の男が最後に見せた表情だった。

 

(十字傷の男は人間擬きと言っていたけど……)

 

 最期に見せた無表情。

 その奥に轟く悍ましい感情は、自分たちのものと遜色ない。

 

「何事もなく終わって欲しいね……」

 

 ドラえもんの言葉が荒れ果てた風景に木霊する。

 予感、などという非科学的モノを信じていない出木杉も、きっとこのまま終わってくれない。

 そんな不安を感じずにはいれなかった。




 ちなみにどう見ての人間でもモンスターでもない化け物が、一直線にアジトの入り口まで来たことで、闇派閥(イヴィルス)は蜂の巣をつついたような大騒ぎになりました。
 そのままボーッと立ち続けた挙句、引き返していったその姿は超不気味だったと、殺したいくらい勇者が大好きな女幹部は証言しています。

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