それはノエルがのび太たちの世界について聞いている時のことだった。
遊びたい盛りの子供が友達に聞くことと言えば、やはり普段はどんな遊びをしているかだろう。
例に洩れず、ノエルも異世界の子どもたちの遊びを知りたがった。
「のび太たちは、いっつもなにをやってるの?」
「う~ん。色々あるなぁ……あやとりとかはよくやるよ。お金かかんないし」
「僕は絵を描いたり、手品をしたり、後は遊びって言うかは分かんないけど……料理が好きなんだ」
「……! ノエルも、おとーさんと、おかーさんといっしょにやった‼」
わいわいと友達同士で盛り上がっている子供たちを横目に、ドラえもんは昨日手に入れた『クノッソスの鍵』を弄びながらこの後の動きを考えていた。
(タイムパトロールが来るまでどのくらい時間がかかるか分からないし、ここはこの世界の憲兵である【ガネーシャ・ファミリア】に渡したほうがいいかな)
後でタイムパトロールが到着したとしても、【ガネーシャ・ファミリア】に協力を仰げばいいわけだから、問題は何もないだろう。
いつ渡すかに関しては宛がある。
ベルに同行している護衛に直接渡せばいい。
(問題はなんでこんなものを持っているか説明するのが大変……いや、それこそベル君に口添えを頼もう。僕よりよっぽど信じてもらえるだろうし)
丁度、今日に遊びに来る予定だったはずだ。
そう頭の中を振り返っていると、のび太がドラえもんの手の中にある身慣れないアイテムに興味を持った。
「ねぇ、それなに? 新しいひみつ道具?」
「いいや。ちょっとした拾い物だよ」
「ふーん。なんだか野球ボールみたいだ」
のび太はドラえもんの持つアイテムを白っぽい玉だからか、彼らの世界の球技に例えた。
実際にはこんなものをバットで打った日には、中身はこぼれ出て大惨事だろうが。
他愛のない雑談だったが、のび太の言葉にノエルが反応を示す。
「やきゅう?」
「ん? この世界には野球ってないの?」
「さあ、私は聞いたことないけど」
のび太たちの世界での一番人気のスポーツも、世界を跨げば無名の競技だ。
子どもたちを見守っていたルノアに聞いてみても、初耳と言った様子だった。
「えーと、野球って言うのはボールを投げて打つことだよ」
「???」
「野比君、それじゃ伝わらないよ……ノエルちゃん、野球って言うのは野比君が言ったようなことを2つのチームで繰り返して、点数を競い合うことで……」
意外と説明しようとすると大変だなと思いながらも、何とか野球を説明する出木杉。
四苦八苦しながらも何とか説明しきると、概要を知ったノエルは強く興味をそそられたようだ。
「やって、みたい」
「よーし、それじゃあ、早速……」
「ちょ、ちょっと待ってのび太君!」
「……やれやれ」
ノエルに野球を教えようと奮い立つのび太だったが、何やら慌てた様子の出木杉とドラえもんに止められる。
ドラえもんはノエルに「ちょっと待っててね」と言うと、のび太の耳を引っ張って部屋の外に出た。
「なんなんだよもう……」
「いや、あれは不味いよ野比君」
「忘れてるみたいだから言うけどね。ノエルちゃんは動けないんだよ」
「……あ」
のび太はノエルの足が不自由だったこと遅まきながら思い出す。
しまった、とばかりに口に手を当てるが後の祭りだ。
ちらりと部屋の中を覗き見ると、わくわくとのび太が教えてくれる新しい遊びに期待マシマシな少女の姿があった。
「う、腕だけ振れば……」
「ボール一つ投げるだけでどれだけ体を動かすと思ってるのさ」
「うう……」
「ノエルちゃん……凄い楽しみにしてるね」
「どどどどうしよ~」
「おバカ! いつも考えなしに動いて‼」
ここで「やっぱりさっきのアレなしで~」と言ったらどうなるか。
自他ともに認めるおバカなのび太でも分かった。絶対にノエルが悲しむだろう。
純粋に善意で楽しいことを教えるつもりだったのび太は、もうパニック寸前だ。
「ドラえも~ん! 何とかならないのぉ~!?」
「何とかって言ったってなぁ……」
ノエルの体がドラえもんのひみつ道具で直せないとなると、動けない人でも野球が出来るひみつ道具を使うことになる。ドラえもんのひみつ道具を使えば誤魔化せはするだろうが……
黄金バットできたボールを必ず打て、エースキャップで毎回三者三振になる試合は楽しいだろうか。自分なら絶対に途中で飽きると断言できた。
「やっぱり今から謝ってきなよ」
「そ、そんなぁ~。出木杉君~」
「ごめん。僕も解決策は思いつかなくて……」
いよいよ泣きべそをかき始めたのび太。
彼に悪気が無かったことは分かっている分、ドラえもんも強くは出れない様子だった。
どうしようと出木杉が助けを求めるようにあたりを見渡していると。見覚えのある白髪赤目の少年が通路から首を覗かせていた。
「ちょっとドラえもんさんに聞きたいことがあったんだけど……どうしたの?」
「ベ、ベル~」
「ごめんね、騒がしくって。のび太がまたやらかしちゃったんだ」
鼻水を垂らしながら縋って来るのび太にベルもッ困惑気味だ。
それを引きはがしつつ、ドラえもんは話題を逸らそうとベルの用事を聞こうとして、彼が持つあるアイテムに視線を固めた。
「そ、それは……」
「ああ、このひみつ道具の使い方が分からなくて、ドラえもんさんに聞いてみようかと」
「確かクロえもんたちが……それだああああああ!」
ベルが持ってきた起死回生のひみつ道具にドラえもんが喝采の声を上げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本物電子ゲームドラマチックスぺシャル~」
ベルの掛け声と共に、光が収束して現れるのは薄箱型のひみつ道具だ。
上下二つに割れる構造で、開くと上の部分には黒いパネルがはめ込まれ、下の箇所にはいくつかなボタンがある。
異世界で言うところの『らじこん』に近い構造だとベルは感じた。
「えーと……こんなひみつ道具あったっけ?」
ドラえもんのことを誰よりも知っているのび太も、ベルが具現化したひみつ道具に首をかしげている。
ひみつ道具を使った経験が豊富な彼でも初めて見るようだ。
「ん~……説明すると難しいんだけど、君たちの時代にテレビゲームってあるじゃない?」
「うん。クリスマスにパパが買ってくれたよね」
「その技術がものすごく発達するとこれになるの」
「という事は……未来のゲーム機なのかい!?」
ドラえもんの説明を飲み込んだ出木杉は驚愕をあらわにする。
子どもたちにとってテレビゲームとは、時代の最先端を行くハイテクな遊び道具だ。
それの何十年先の進化系を見ることになるとは、と彼にしては珍しく目を見開いた。
「すごいすごい! どうやって使うの?」
「やり方は簡単だよ。ベル、ちょっと……」
「ん……?」
ごにょごにょとベルに何事かを耳打ちするドラえもん。
それに対し、ベルは「ええ!?」「いやそれはちょっと……」と慌ただしく反応を見せる。
ドラえもんに頼まれた何かに最初は拒否的だったが、根負けしたのかやがて無言で頷いた。
「ごめんごめん。待たせたね。これには誰かの協力が必要なんだ」
「うう……大丈夫かな……」
ドラえもんはベルから距離を離すと、【本物電子ゲームドラマチックスペシャル】を構えた。
本物電子ゲームドラマチックスペシャル(以後、本物電子ゲームDS)の裏側にあるセンサーを、不安げな表情のベルに向けると、本物電子ゲームDSの上側の画面にベルが表示される。
「こうやって人を画面に映して……」
「わ‼」
ドラえもんがパシャ、とボタンを押すと、ベルはあっという間に姿を消す。
「お、おとーさん……どこ……」
目の前でベルが消えたノエルが泣き出しそうになると、慌ててドラえもんは本物電子ゲームDSの画面を見せた。
「大丈夫だよ。こうやって人をゲームに取り込めるんだ」
『変な感じがします』
「おとーさん、大丈夫……?」
『うん。大丈夫だよ。……いや、自由に動けないんだけど、ホントに大丈夫なんですかコレ』
鏡を触るかのようにペタペタと画面に手を当てている(様に見える)ベル。
ベルが無事だったことを確認したノエルはホッと息を撫でおろした。
「凄いけど……これが何なのさ」
「ノエルちゃんは実際に動くことは出来ないけど、ゲームなら体を動かさずに野球を楽しめるでしょ?」
「つまり、これでノエルちゃんを監督みたいにして、野球が体験できるってことかい?」
「そうそう、テレビゲームでも野球のやつがあるでしょ? それと同じだよ」
(……そんなのあるの?)
(僕は知らないな……もしかしたら、また少し未来の話をしてるのかも)
発想の転換だった。
ノエル自身がやらなくても、楽しめる方法。
子どもたちが楽しむゲームなら、問題なくプレイできるだろう。
「こうやって9×9、合わせて18人をゲームに取り込んで野球ゲームを作ろう」
「よぅし‼ やるぞー!」
「ただし、言うまでもないことだけど、人をゲームに取り込むなんて真似、簡単にやっていい事じゃない。ちゃんとお願いして、受け入れてくれた人だけ……」
「ドラえもん……もう、野比君行ってしまったよ」
「なんだって!?」
気が付くと、ドラえもんの手の中から本物電子ゲームDSが消えていた。
ついでにのび太も忽然と姿を消していた。
「また勝手なことをして‼ いっつも、そうやってロクなことにならないんだ!」
「あはは……はぁ……」
プンプンと憤慨するドラえもん。
出木杉も苦笑いを浮かべようとするが、顔が引き攣ってしまっている。
「そ、それにしても、こんなひみつ道具があるならどうして出さなかったんだい?」
「それは簡単だよ。僕、あのひみつ道具持ってないし」
「え?」
話を逸らすために出した話題だったが、予想外の答えに驚く出木杉。
ベルのスキルはドラえもんのひみつ道具を具現化することではなかったのか、と疑問を浮かべた。
「別に僕だってすべてのひみつ道具を持ってるわけじゃないし、ベルのスキルがひみつ道具を具現化することなら、僕の持ってないひみつ道具がスロットに現れてもおかしくないさ」
それこそ、万年金欠なドラえもんでは手が届かないひみつ道具が出てくる可能性もある。
ランダム・個数制限・時間制限と言う内容に誤魔化されがちだが、ベルの【
とんでもなく扱いにくくはあるが。
「なら、よく使い方を知っていたね」
「クロえもん……僕の友達が持ってるんだ。ちなみにあれを無許可で使った彼の末路は知りたい?」
「大体予想できるからいいかな」
「のび太君がそうならないことを祈ろう」
「……?」
どう考えても怒られる未来しか見えない二人は、遠い目をした。
そんな二人をノエルは不思議そうに見つめるのだった。
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「18人集まったよ~」
「もう、色々怖いけどフィールドを闘技場にセット!」
通りすがりのガネーシャから許可をもらい、特別に野球場として使わせてもらうことになったのだ。
因みにガネーシャはその後、ゲームに取り込まれた。恩を仇で返す所業である。
もう怒られてしまえ、いや、僕も怒られるだろうけど、と思いながらドラえもんは取り込まれた人たちを解放した。
「素材オープン!」
その瞬間、虚空から突然人と神が現れる。
折り重なるように倒れ伏す彼ら彼女らの服装は、緑の服とオレンジの服の二つに分けられている。
「……」
その中で、緑の服を着たベルが死んだ目をして倒れていた。
その上にはヘスティアとリリが乗っかっている。
「あの、色々言いたいことはあるんだけど、まず一つ言わせてもらっていい?」
ちらり、とベルは自分の後方を恐る恐る見る。
そこにいたのは2
もっと分かりやすく言うと【
「ナニシテクレテンノ?」
「強そうだから選んだ」
「もおおお!? もおおおおおおおおおおおおっっ!?」
(後で押さえつけてでも謝らせよう……)
今まで自由に行動できなかった反動か、のび太が兎に角自由だ。
ベルはオッタルばかりに注意を向けているが、その隣でこちらを凄い形相で睨んでいる黒髪の
「ふにゃにゃっ!? お兄様!?」
アーニャが辺りで一緒に倒れていた酒場のウェイトレスたちから、頭を蹴られた形になりながら叫ぶ。
何やら因縁があるらしい。漫画ではちっとも分からなかったが。
「おい、ベル。どうなってんだよ」
「私たちも状況が把握できんのだが……」
「っていうか屋台誰もいないじゃないか……ヤバイ」
ヴェルフが、こんなワケ分かんないことはお前のひみつ道具が原因だろうとベルを問いただす。
ミアハとタケミカヅチは全く状況がつかめていないようだ。
というか、タケミカヅチは絶賛クビの危機でそれどころではない。
「……取り敢えず、コピーロボットでなんとかしておこう」
ドラえもんによって、タケミカヅチ解雇と言う致命的な展開は回避しつつ、いよいよゲームが始まる。
画面上には【豊穣の女主人】vs【ファミリア連合】の文字が表示された。
「それじゃあゲームスタートだ。ノエルちゃん、本物電子ゲームDSとタッチペンを持って」
「う、うん」
「頑張れノエル!」
早速始まるのかと緊張するノエルを、ちゃっかりゲームに取り込まれることを回避しているシルが応援した。
プレイの掛け声が本物電子ゲームDSから響くと同時に、ベルたちの体が勝手に動き出し、闘技場で割り振られたポジション通りに配置されていく。
「なるほど、異世界のスポーツをやろうってことか」
ここまでの話の流れで、大まかな概要を掴んだヘスティアは最初こそ混乱していたが、そこは流石は神と言うべきか、早速この状況を楽しみ始めていた。
「のび太君、話を聞くにこの鉄の棒を振って投げられたボールを打てばいいんだろう?」
「うん。ノエルちゃんが操作するからヘスティアはその通りに動いて」
「チェスの駒になった感じか、珍しい経験だし面白そうだ」
良くも悪くものんびりとした気性のヘスティアらしく、これもまた未知だと楽しもうとする。
意気揚々とバッターボックスに向かうが。
『チーム【豊穣の女主人】一番 ヘスティア。チーム【ファミリア連合】 ピッチャー オッタル』
「……」
「あ、ムリ。ボク、送還されちゃう」
マウンド上に立つ巨人を前にして呑気な笑顔が凍り付く。
全知零能たるヘスティアが幻視したのは粉微塵になる近未来。
早速女神の心が折れた。
なんだこのひみつ道具? と思われる方もいるかもしれません。
今回のひみつ道具はドラベース特別編に登場しました。見た目はまんまあのゲーム機です。
コロコロ漫画らしい、かっとんだギャグ回で作者は好きでした。
後、シルはノエルと一緒にヘスティアの背後にいるので、ヘスティアには見つかってません。
これでバレる心配はありませんね!(なお