唐突だが人間を生物界の頂点に君臨させている要素とは何か。
分かりやすく人間が他の生物に勝っている点と言えば頭脳だ。しかし、当たり前だが殺し殺されの世界では呑気に頭を使っている余裕はない。
頭を使って自分たちに有利な状況を作り出せるのは、あくまでも準備期間があってのことで、人類が生まれた当初、その余裕が初めからあったわけではなかった。
ならば、その頭脳を活かせるだけの余裕を作り出したのは一体何かと言う話になる。
その答えは単純明快。攻撃可能範囲だ。
詰まる所、投擲である。
牙や爪などでは到底届かない距離からの攻撃。
これがどれだけ一方的なものであるか等、語るまでも無いことだろう。
のび太たちの世界では野球選手と呼ばれる人間は、時速160㎞もの剛速球を投げることが出来る。それを
ヘスティアは空気の断末魔の声と共に理解させられた。
「無理無理無理無理……」
割れた、と表現するしかない。自然界に会ってはならない不自然な音がボールよりも遅れて飛んできた。
当然、身体能力一般人以下の糞雑魚ナメクジ駄女神に反応できるはずがない。
ヘスティアは全てを諦めた表情で涙を流した。
「クソゲーじゃないか……」
チーム【豊穣の女主人】は早速お通夜である。
そもそもこのチームは零能の神が3人もいる時点でバランス調整がおかしい。
「なんで俺がこんな目に……」
だがクソゲーは向こうも同じらしい。
都市最強の投擲攻撃を喰らうことになってしまったモダーカが、闘技場の壁に減り込みながらこの世の不条理を嘆いた。
受け止められるか馬鹿、と言う彼の言葉は本物電子ゲームDSには届かない。
飽きないようにという事でゲームは1イニングだけだが、彼は生き残ることが出来るだろうか。
「これ、あてれるの……?」
ヘスティアは本物電子ゲームDSを操作するノエルのタッチペンによって動くが、ノエルは全く当てれる気がしなかった。
しかし、隣でアドバイスをするのび太はその野球知識である戦法を教える。
「ノエルちゃん、下の画面をこうやって押さえてみて」
「こう……?」
「お? おおお?」
ノエルが言われた通りに通りにすると、ヘスティアはバットを両手で横に持ち、頭の上に星が回っているモダーカの構えるグローブの前を陣取る。
俗にいう、バント作戦だ。
「ってちょっと待て―!? 顔寄せちゃうんだけど! さっきより間近にボール通るんだけど!?」
「……」
「うおおい!? 無視して投球体勢に入るなァー!?」
喚くヘスティアをよそに第二球を放つオッタル。
因みに、ノエルが操作するチーム【豊穣の女主人】とは違い、チーム【ガネーシャ・ファミリア】は
「ぎゃああああああああっ!?」
案の定、吹き飛ばされるモダーカ。
ヘスティアはツインテールが風圧で自分の顔にバシィッ! となっただけだが、涙が止まらなかった。
「だ、大丈夫なのかい? どう考えてもモーダカさん試合できそうにないけど」
「自、分は……モダーカ……ガクッ」
ついにノックアウトしてしまったモダーカがお医者さんカバンで治療される中、チーム【ガネーシャ・ファミリア】の次なるキャッチャーは……
「……俺がッッガネーシャだあああああああ‼」
「駄目―‼ S
何故かガネーシャであった。
都市の憲兵まさかのピンチに騒然となる一同。
オッタルすらも動揺している。
「のび太君っっ! これは本当に不味いから!?」
ベルの必死の訴えに、ドラえもんが流石に動いた。
ノエルから本物電子ゲームDSを貸してもらうと、ピコピコとボタンをいじり、設定画面を開く。
「もうこうなったら一番弱くしよう」
設定画面の『オッタルレベル』の表示を最低の1に変更するドラえもん。
すると、オッタルの姿が威厳あるものから見るからに貧相に……と言うかヘナチョコに変わる。
分かりやすく言うと一期EDに出てきた簡単イラストのオッタルが、頭に日の丸の旗をぶっ指して鼻水垂らしている。これは酷い。
先ほどまで打って変わって勝てそうになったオッタルの姿にヘスティアは元気を取り戻す。
「あ、あのアレンさんも強いから設定直したほうがいいよ」
「!?」
シルの笑顔と共に放たれた一言にアレンは弾かれたようにシルの顔を凝視する。
まるで何かに裏切られたかのような表情の
そして始まるチーム【豊穣の女主人】の反撃。
カキンカキンカキーンと景気のいい音が響くが、当のベルたちは気が気ではなかった。
(これは打っても大丈夫なのでしょうか……)
(後が怖いんだけど……)
(【
(団長絶対怒ってるニャ……そして狙われまくってる兄様も……!)
(絶対に後で謝らせる。絶対にだ)
打順は一巡し、ヘスティアのボテボテピッチャーゴロにより、一回表は終了する。
得点は2対0だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてチーム【ガネーシャ・ファミリア】の攻撃の時間。
ここでもチーム【豊穣の女主人】の苦難は続く。
まるで先ほどのヘナヘナオッタルを焼き写したかのように、打たれまくっているのだ。
「うぅ……」
「ドラえもん弱いなー」
「仕方ないだろう!? ドラーズにいた時だってあんまり上手くないんだから!」
ピッチャーとして立ったドラえもんだが、相手はチーム【ガネーシャ・ファミリア】。
その名の通り、【ガネーシャ・ファミリア】の上級冒険者が中心のチームに、ドラえもんはスペックで圧倒的に劣っている。
そのせいで最早1点を奪われ、満塁と言う有様だ。
「せめてひみつ道具を使わせて‼」
「いや、それはルール違反でしょ」
「22世紀なら大丈夫なの!」
のび太はバランス調整と言うものがまるで出来てない。これではノエルが野球を面白いと思うはずがない。
そんなドラえもんの懸命な説得にのび太は……
「じゃあドラえもんは代えようか」
無常なるピッチャー交代を提案した。
凄い目でドラえもんが見ていることにも気が付かず、のび太は「誰と代えよっか?」とノエルに意見を聞く。
ノエルはうーんと悩んだ後、最も信頼できる人物を選んだ。
「おとーさんにする!」
「ノエル!? 信頼は嬉しいけど、僕じゃドラえもんさんと五十歩百歩……」
『チーム【豊穣の女主人】ピッチャー交代。ベル』
愛娘からの信頼の高さに涙が出そうになるベル。
レベル2の冒険者が太刀打ちできそうなのが、ガネーシャとヘナヘナ【フレイヤ・ファミリア】しかいない。
ガネーシャは気にしないだろうが、【フレイヤ・ファミリア】に許してもらえるかは未知数。
この試合が終わるためには3人をアウトにしなければならないが、次の次がよりにもよってアレンだ。今の弱体化した状態なら打ち取れるだろうが……ああなる前の剣呑な様子からしてタダでは帰してもらえないだろう。
「か、体が勝手に~」
行きたくないとどれだけ思っても、本物電子ゲームDSはそんなベルの訴えは無視して体を勝手に動かした。
そしてマウンドに立つ羽目になったベルは顔がドラえもんのように青い。
打球が自分の方に飛んで来たら間違いなくお陀仏である。
チーム【ガネーシャ・ファミリア】のバッターはハシャーナ。レベル4だ。
「坊主、顔色凄いぞ」
「代わってください」
野球のことは未だに分からないだらけだが、小細工でレベル2がレベル4をどうこうできるはずかない。
【豊穣の女主人】のウェイトレスたちの方がどう考えても適任なのに……とベルが考えてる間にものび太とノエルが作戦を話し合った。
「どうすればいいの?」
「うーん。ストレートだと多分打たれるし、ここはカーブで……」
「いや、野比君。ここに何かあるよ」
「え?」
二人のゲームプレイを後から見ていた出木杉がここで待ったをかける。
出木杉は戸惑う二人を尻目に画面をタッチしていき、『必殺技』のメニューを開いた。
「漫画とかでよくある魔球をこれで投げられるかも」
「おお! それなら凄い!」
「まきゅーすごい」
ベルが使える必殺技は『速球』『ファイアボルト』『アルゴノゥト』。
ゲージの分だけ使うことができるようだ。
「どれを使いたい?」
「ふぁいあーぼると! おとーさん、これでモンスター一杯倒してた!」
「ちょっと待てちびっこ共。その理由だと俺も倒されることに……」
「じゃあ、ファイアボルトにしよう」
「聞けよ!」
ハシャーナの訴えを聞き流しつつ、ベルの必殺技を発動させる。
「うっ⁉ 腕が勝手にっ【ファイアボルト】!」
砲声によって放たれる一条の雷炎。
電光石火の速攻魔法は唸り声を上げてハシャーナに向かう。
(ちょっと待て今動けな)
バットを構えた姿勢のまま固まるハシャーナの顔面に炎が直撃した。
「熱ちちちちちちッッ、アッチイイイイイイャアアアァァァッッ⁉」
威力が抑えられていることと、レベル4の頑強さによって大きなダメージにはなってないが、熱いものは熱い。
のたうちまわるハシャーナの横でそこそこの速さのボールが横切った。
『ストラーイク! ストラーイク! ストラーイク! バッターアウト!』
「……セコイ」
鳴り響く本物電子ゲームDSの音に紛れて誰かが言った。
自分だってやりたくてやっているわけではないと、ベルは泣きたくなった。
「次はアレンさんって人みたい」
プスプスと焦げた匂いを醸しながらベンチに戻っていくハシャーナ、入れ替わる形で現れたのはヘナヘナアレンだ。
子供の落書きみたいな作画のまま、枯れ葉のようなステップでバッターボックスに入っていく。
風が吹いたらそのまま飛んでいきそうなくらいに頼りない足取りである。
「こんな兄様みたくなかったニャ……」
チーム【豊穣の女主人】のキャッチャーがグローブで顔を覆う。
外から眺めているシルはニコニコだったが。
「よーし! この勢いのまま三者三振だ!」
「……ん! つぎは、これ」
必殺技がお気に召したのか、ノエルは再び必殺技のアイコンを開く。
そして、ベルのもう一つの力である【アルゴノゥト】を発動するのだった。
「このまえよんだえほんとおなじ!」
(あれ、このスキルって反動が凄いんじゃなかったっけ……?)
タラー、と嫌な汗を流す出木杉がベルの表情を伺う。
ベルの目から光は消えていた。
鐘の音が辺りに響く。
ボールを持つ右腕に光粒が収斂していき、蓄力が開始される。
「よし、この画面を擦って必殺技発動だ!」
「がん、ばる!」
てやー! と少女は気の抜ける声を発しながらタッチペンを上下に動かした。
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……
「おい、糞兎、いつになったら終わるんだ」
「……多分、後2分くらい」
「長ぇよ馬鹿」
一向に必殺技ゲージが溜まる気配がない。
それもそのはず。【
数秒の
その特性は本物電子ゲームDSでもバッチリ受け継がれていたらしい。
「つ、つかれた……」
女の子の細腕には余りにもキツイ作業だ。
辛さと作業の単調さに、ノエルは既にタッチペンを投げ出しそうになっている。
「うーん。無理してやるのもなんだし……休憩しようか」
『タイム!』
本物電子ゲームDSから響いた音声に従ってベルの体がビタリと停止する。
腕に光粒を纏わせた状態のまま。
(う、動けない……!)
「腕の痛みがなくなるまで休んでよ」
「うん」
(ちょっと待って、それまで僕ずっとこの状態!?)
プルプル震えながらスキル発動を留めるベル。
【
スキルによってベルからは発動中は常に体力と
今よりずっと練度が上がれば
「やきゅう……まだよくわからないけど、みんなすきなの?」
「うん! 野球はみんな大好きさ!」
子どもたちは皆、親に野球の道具一式を買ってもらうのが当たり前であること。
大人は好きな球団の話になると、大声で怒鳴り合う位に熱中するということ。
そして、子どもも大人もテレビで試合をやっていると夢中になって観ているということ。
のび太は野球の熱を少しでも伝えようと、身振り手振りを交えてノエルに説明する。
お世辞にもその説明は上手くなかったが、そこにある熱はノエルにも伝わったらしい。
「いっぱい、たのしいがあるんだね」
「うん! 僕の周りだけじゃない。いろんな国や年齢の人が……ううん、もっと言えば未来のロボットだって夢中になっちゃう凄いスポーツなんだ」
そう言うと、のび太は何かを懐かしそうに思い出していた。
まるで遠くに離れてしまった友を想うかのような表情。青空に向けた視線の先にその姿が写っているのだろうか。
「のびた……?」
「……あ、ごめん、ノエルちゃん。ちょっと友達を思い出していて……」
「……さみしいの?」
じっとのび太を見つめる灰色の瞳は少年の心の揺らぎを見透かしているようだった。
普段はぼーっとした少女だが、時折人の心の機微に聡い。
「……うん。一緒にいた時間は短かったけど、一杯楽しいことがあった。野球を教えてもらったりもしたんだ」
「……」
のび太の言葉にドラえもんは無言だった。
彼もその日のことを思い出しているかのように目を閉じ、思考を記憶の海へ飛ばす。
「でも、平気だよ」
「どうして?」
「いつか、戻って来てよくなったら、また会えると思うから。そしたらもっと野球を教えてもらうんだ」
いつかの再会を夢見るその笑顔に、ノエルも安心したように笑った。
「どんな、ひと、なの?」
「口が悪い」
「怖い人?」
「うん。でも好きなんだ」
「……よく分からない」
「僕も自分で分かってないから同じだよ」
のんびりと思い出の人物について話し合う二人。
晴天の下、いつまでも続くかと思われたが……
「あの、二人とも……」
「ん? なに、出木杉」
「ひでとし?」
「楽しく話しているところ悪いんだけど……あれ」
出木杉が苦笑いしながらある人物を指さす。
それは完全に力を使い果たして倒れているベルだった。
「「あ」」
本物電子ゲームDSの画面を見てみると『必殺技 失敗!』の文字。
どうやら二人が話している間にスキルの制御が解けてしまったらしい。
オッタルやアレンと同じく、簡単作画になったヘナヘナベルがマウンド上にうつ伏せに倒れていた。
その後は簡単作画同士の低レベルな戦いが繰り広げられた。
遅すぎて逆に打ちづらいベルの投球に、力が無さ過ぎてバットに振り回されるアレンと言う目を背けたくなるような戦いの末、キャッチャーフライによってベルに軍配が上がる。
……が、そこで力尽きたベルは続くシャクティによって逆転満塁ホームランを叩き込まれ、チーム【ガネーシャ・ファミリア】の勝利が確定したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「相変わらずアホだな……」
本物電子ゲームDSから解放された人々に囲まれ、震えあがるのび太。
それを遠くから眺めていたローブの人物は呆れたような……それでいて懐かしむような素振りを見せた。
「ドラえもんがこの世界に来ていたからまさかとは思ったが……お前もいたのか、のび太」
なんでよりにもよってこの漫画に来ているんだと頭を抱えたくなるが、文句を言いたくなるが向こうもそんなこと分かるはずがないのだから、言うのは筋違いだろう。
いいさ。いいとも。のび太たちがそこにいるのが分かっていればやりやすい。
考え方を変えればこれは自分に有利な展開だ。
「恐竜ハンターどもとジャックにはなんとかバレない様にしないとな……」
彼らを見つけたのが自分で良かった。
面倒くさがりな人間たちに代わって、街で雑務を引き受けていた事がこう繋がるとは。
自分の運も捨てたものではないらしい。
しかし不用心なことだ。
この世界の最強派閥である【フレイヤ・ファミリア】。
そのワンツーが揃って弱体化など、
無論、自分は報告するはずがないが。
「……でも、そうか。覚えていてくれたんだな」
自分のような薄汚い時間犯罪者のことを。
そう思うと鉄でできた体にジン、と熱がこもる。これが目頭が熱くなるという現象か。
「のび太、お前に会えてよかった」
溢れ出す気持ちを飲み込むように空を見上げた。
こうなってしまった以上、更生して普通の暮らしに戻るには時間がかかりそうだが、それでもいい。
正しいことをしよう。
不思議な絆を育んだ少年を裏切らないために。
「さて、それはそれとしてどうするかなこの状況」
アレンの目が吊り上がりすぎて明日の顔面筋肉痛が気になる。
正直怒られて当然だが、ここで黙って見ているのも気が引ける。
ウンウンと考えていたローブの人物だったが、やがて「あー面倒くせぇ」と投げやりな言葉が出てきた。
「こうなったらとことん混沌とさせて有耶無耶にするか」
そういって取り出したひみつ道具は人の顔の様な形だった。
あたまについている角によって悪魔にも見えるかもしれない。
そのひみつ道具から発せられる電波はその場にいた人々を……
そこからあったことを語ることは本人たちの名誉のために伏せておこう。
ただ、闘技場にいた面々はギルドの前で幼女への愛を叫んだベートを笑えなくなっただけである。
おかしなでんぱは目路輪様からのリクエストです。
活動報告では旧来の名称でしたが、いろいろまずいので変更された名前を使用しています。ご了承ください。
現在も活動報告でリクエストを募集していますので、気軽にコメントしてください。
ローブの人物については今話で分かった人も多いかもしれませんね。