知れば誰もが偉大な才能、そして人の域を超えた
その広大な敷地に目を付けた
【ガネーシャ・ファミリア】の襲撃を受けて大騒ぎになっているのは
侵入してくる憲兵たちへの防衛のために人員が駆り出されているだけあって、他の
暗闇と共に、時間が停止したかのような無音が辺りを支配していた。
そこに、小さな穴が突然現れる。
「誰もいないニャ」
穴から潜り抜けてきたのはアーニャだ。
さらに、少女に続くように次々と少女たちが現れる。
「
「ギルドは何をやってんだっつー話だニャ。ダイダロスって
「まあまあクロエ。ダイダロス通りは元々住民たちでも全貌が分かっていない場所だったし、こんなところを調べる酔狂な人はそうそういないよ」
薄暗い空間を物珍し気に眺めまわした一同は、気を取り直して目的地を目指す。
「確か、穢れた精霊が眠っているのは中層の辺りだっけ?」
「うん。そこにノエルを連れてきて、精霊の力を使わせることで目覚めさせようとしてるみたい」
「なら、
デンジャがノエルの確保に失敗した時に備えて予め用意していた
通り抜けフープを併用すれば、大幅に時間のロスを削減できるはずだ。
「ところでシル。ノエルが精霊って話、元々知ってたニャ?」
「うん。それがどうかした?」
「……やっぱ怖い女だニャ」
クロエはデンジャから真実を告げられた時はかなり動揺したものだが、やはりシルはそうではなかったらしい。
底の知れない少女だと思いつつ、クロエは自身の感じたものをシルに話した。
「モンスター取り込んでおかしくなった精霊を利用するために、ノエルを攫う。多分、これ自体はずっと前から計画されていたことだニャ。それはいい。いや、破滅願望持ちの馬鹿が付き合わせんなって言いてーけど」
「クロエが言いたいのは、それだけで終わるのかってことだね?」
「穢れた精霊が強いって言うのは理解できるニャ。それでも、一体で何が出来るつー話ニャ。世界どころかオラリオで討伐されてお終いだニャ」
穢れた精霊がどれほど強いのかは不明だが、一体で【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】を同時に相手どれるわけではないだろう。
異世界人がそう言っているのなら、無知な奴らと笑って終わりだが、この計画を立てたのは
「確かに、穢れた精霊だけなら世界がどうこうとはなりそうにないよね」
「……なーんか嫌な感じがするニャ。ミャーたちだけだと穢れた精霊だけでも十分にやばいけど、それ以上の札が出されたら詰みニャ」
「クロエの不安は正しいと思う。きっと
「その根拠は?」
「
その言葉を口にした時、シルの目がすっと細められた。
(やっぱ、どう考えても普通の街娘じゃないニャ)
普段でもシルは小悪魔的なところがあるが、時々見せる表情の中に得体の知れないものをクロエは度々感じていた。
人間性を欠いた瞳とでも言うべきか、何もかも見透かすその視線はどこか神に似ている。クロエにはそう思えてならない。
クロエが黙り込んだのを見て、すぐにそんな気配を霧散させたシルは笑いかけた。
「……なんてね。一応、ちゃんとした根拠はあるよ? 異世界の人たちが使っているひみつ道具。今まで大盤振る舞いしているところから見て、穢れた精霊なんて玩具にそれを使いそうだな、とは思ったよ。あんな風にね」
シルが指を刺した先にはモンスターの姿があった。
「コボルトに変な触手がうみょうみょしてる……あれが冒険者君のいってた『コボルトヴィオラス』?」
「ギニャーッッ!? 気持ち悪いニャ!?」
コボルトヴィオラスの登場に警戒する少女たち。
涙目になって叫ぶアーニャだったが、ふと、あることに気が付いた。
「……ニャ? うねうねの先がピカピカしてるニャ」
「光が反射してる……あれって槍の穂先がくっついてるの?」
コボルトヴィオラスの外見は凡そベルの説明通りだったが、一点だけ違う部分がある。
それは触手の先端についた、金属質な輝き。鈍色の穂先だった。
「鈍色の武器……ひょっとしてこれが
「だろうニャ。見てるだけで背筋が冷たくなって尻尾がピンとしちゃうニャ」
最初に見た時は触手の先に槍の穂先を括りつけたのかと思ったが、そうではないらしい。
触手の黄緑と、槍の鈍色が融合したかのように一体化している。
生物と生物ならば出木杉の言う移植手術でどうにかなるのかもしれないが、生物と無機物をあそこまで完璧に合わせることはこの世界の技術ではまず不可能。
つまりはひみつ道具の影があるという事だ。
「……元々こんな感じのモンスターを作るのが目的だったのか。それとも
「その口ぶりだとシルは後者だと思うニャ?」
「だって、あんなのもいるからねぇ……」
現れたコボルトヴィオラスは1体だけではなかった。
恐らくは複数体での運用を考えられているであろう
しかし、その
コボルトの頭が槍に置き換わっている個体。
全身が金属質になり、鈍色の光を放つ個体。
槍の先端にコボルトの頭と触手が生えた個体。
胴体から鈍色の槍が突き出され、動く度に血が流れ出る個体。
どう考えても、まともに戦えることが出来ない失敗作たちだ。
そんなものが成功作と思しき個体と共に活動しているという事は、
「どんなひみつ道具を使ったのかは分からないけど……穢れた精霊と何かを合体させようとしてるのかもね」
「うーわ。流石
ウンザリとした様子になりながらも、クロエは自身の得物であるバイオレッタを構える。
ルノアとアーニャもそれぞれ
「時間が惜しいからとっとと倒す。私はあの硬そうな銀メッキをやるからね」
「硬いのには脳筋をぶつけんのが効果的だニャ。じゃーアーニャはハリネズミをやるニャ」
「嫌な感じがするからあんまり近づきたくないニャ……」
「だからこそ一番レンジが長い槍使いのアーニャがやるんだニャ」
「ニャー……じゃあクロエは頭が槍と、身体が槍のどっちをやるんだニャ?」
「両方やるニャ。バイオレッタは毒武器だからパパッと倒せるのがいいニャ」
「最後のまともな奴は早いもの順ってことでいいね!」
素早くそれぞれの役割を確認しあった少女たちは、目の前の敵を殲滅すべく一斉に駆けだした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
デンジャの言う通りに、援軍を求めるために走り出したのび太。
しかし彼は今、かつてないピンチを迎えていた。
「ま、迷った……」
「何をしてるんだい君は」
ドラえもんのジト目が痛い。
テンションに任せて飛び出したはいいが、ここは迷宮都市オラリオ。
ダイダロス通りではなくとも、土地勘のない小学生が迷子になるのに時間はかからなかった。
ドラえもんがいなければ、のび太は完全に現在位置を見失っていただろう。
「それで? どこに行こうとしたの?」
「こ、この前にノエルちゃんやベルと一緒に車椅子を試した場所……」
「ここは東側だよ……あそこは北西と西の間の大通りにあるから、反対じゃないか」
「うぅ……」
しっかりと現在位置を把握しているらしいドラえもんの呆れた視線から目を逸らす。
慌てると本当に碌なことがないものだ。
「でもあそこって廃墟じゃないっけ。誰か知り合いでもいたの?」
「うん。ベルには内緒にしておいてって言われたけど、ベルやノエルちゃんのピンチに何もしないなんてできないし」
「強いの?」
「凄い強い人たちと戦ったこともあるって言ってた」
どうやら本当に考えなしではないらしいと悟ったドラえもんは、四次元ポケットからタケコプターを取り出した。
「今からあそこまで走っても時間がかかりすぎるし、タケコプターで飛んで行こう」
「どこでもドアは?」
「この世界の地図が記録されてないから駄目」
目立つことで余計な騒ぎになったり、
眼下に広がるオラリオはいつも通りの日常を送っていた。
「猫の人とミアさんも戦ってるみたいだけど、ここからは見えないね」
「戦いが起きてる様子も無いし、もう終わってたのかも」
オッタルは二人もいれば過剰戦力だと言っていたが、それでも不安は残る。
大丈夫だと良いんだけど、と話し合っているとオラリオ西区のストリートから悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思い様子を見に行くと……
「ほら全部吐くんだよ! 早くしな!」
「ガボガボガボ……ッ!?」
そこにはアレンによって逆さ吊りにされた男が、鼻に酒を流し込まれる姿だった。
どうやら全然大丈夫だったらしい。
あの後しっかり捕まったらしき誘拐犯への尋問の真っ最中。聞こえた声は誘拐犯の悲鳴らしい。
「「……」」
無言でUターンした2人はそそくさと北西に向けて移動する。
なんか鼻に酒を流し込まれている人は見たことがある気がするけど、きっと気のせいだろう。
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「何事もなく着いたね!」
「ソウダネ」
寄り道などせず真っ直ぐと廃墟に到着したのび太とドラえもんは、その中でも特に派手な壊れ方をした煉瓦でできた建物跡地にやって来ていた。
色とりどりの硝子の破片が散らばっているのを見ると元は教会だったのかしら、などと考えながらドラえもんはのび太の道案内の下、跡地に合った階段を下っていく。
「あ、この階段って」
「うん。ポップ地下室を使ったんだってさ」
「こういうのはベル君のスキルでも残るんだ」
少し感心しながら階段を下ったドラえもん。
そこで、彼は仰天することになる。
そこには数
「わっ!? モ、モンスター!?」
「アハハ、そんなに驚くことないじゃない。このモンスターはいいモンスターだってベルは言ってたよ。僕も遊んだことがあるし」
「そうなのかい? モンスターって皆危ないんだと思ってたよ」
無論、本来は友好的なモンスターなど存在しない。
のび太の言葉は無知な子供の戯言か、狂人の妄想と思われても仕方のないものだったが、この世界のことをよく知らないドラえもんは『そういうもの』で納得したようだ。
「彼? 彼女? を連れていこうってことだね?」
「うん! ヴィオラスはベルのことが大好きだし、きっと協力してくれるよ‼」
事情を説明すると、ヴィオラスは「いいよー」と言うようにコクコク頷いた。
意思疎通が出来るとは凄いモンスターだ。
なるほど、と頷くドラえもん。
ドラえもんに相手の強弱など分からないが、それでも大きいという事は強さに直結するものだろうとは考えられる。
援軍にはピッタリの存在だと納得する。
実際は全然ピッタリじゃないのだが、この世界住民ではない2人にはそれを想像しろと言うのは酷な話である。
「だけどこんなに大きくちゃ階段を抜けられないんじゃないかい?」
「……」
「ねぇ、のび太く……」
「ドラえもん、なんとかしてぇ~!?」
「あぁ、やっぱりのび太はのび太だったか。見直しかけて損した」
ヴィオラスを援軍にしよう! とは考えついても、どうやって
ドラえもんはため息を吐きつつ、既に解決策を思い付いていた。
「……色々言いたいことはあるけど、後回しにするよ。今はベル君やノエルちゃんのピンチだから」
「やったぁ!」
「説教は後でちゃんとするからね」
「流石ドラえもん‼ やっぱり頼りになるなァ‼」
「おだててももう遅いよ」
なんとかお説教は回避しようとするのび太を尻目に、ドラえもんは四次元ポケットからひみつ道具を取り出した。
「空間移動クレヨン~」
因みにシルの言うダイダロス通りを細かく調べて
気持ちは分かりますが、ウラノス様はフェルズを便利に使い過ぎですね。
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