ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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嫌な揺れ

 時間犯罪者と言えども年がら年中悪巧みをやっているわけではない。

 仕事(あくじ)のない休日……と言うのは改心した今となっては、真面目に働いてる皆に申し訳ない、厚顔すぎて憤死したくなる表現だが、兎に角デンジャにも一般人のように普通の娯楽を楽しむこともあった。

 1番は何と言っても野球だったが、それ以外にも流行りの映画を観に行く位のこともしていた。

 その中で、戦場に初めて出た主人公が飛び交う銃弾に怯えるシーンが朧げながら記憶に残ってる。確か自分は情けない奴だと笑っていたと思う。

 

(あの時の主人公に謝りてぇ……)

 

 オラリオ東区。

 都市の憲兵(ガネーシャ・ファミリア)本拠地(ホーム)から少し離れた場所で、この世界には似つかわしくない弾丸の雨あられが降り注ぐ。

 

(ジャックめ、ころばし屋DXをどれだけ保有しているんだ‼)

 

 デンジャは詳しくは知らないが、怪盗デラックスなる時間犯罪者が逮捕されたときに一緒に押収された違法改造ひみつ道具だったはずだ。

 恐竜ハンターが捕まったことで、自分の余罪も芋づる式に暴かれることを恐れたドルマンスタインが、タイムパトロールを目障りに思っていた殺し屋ジャックの支援者(スポンサー)となった時に、提供されたものだと聞いている。

 

(なんで警察の押収品を持ってるんだよと突っ込みたいけど……金持ちの闇って奴だよな)

 

 便利ではあるが脅威ではないと思い、そこまで危機感は持っていなかったが、十数体いれば話は変わってくる。

 1体ならばデンジャ1人でどうとでもなるが、数で押されればどうしようもない。

 

(妙に多すぎる闇派閥(イヴィルス)呪詛装備(カースウェポン)と言い……やっぱりフエルミラー持ち込んでやがったな)

 

 一応、味方同士とはなっていたものの悪党同士が信頼し合う事は基本的にない。

 裏切り裏切られが当たり前の世界なのだから仕方が無いことだが。

 一応大っぴらに裏切りが出来ないように協定のようなもので持ってくるひみつ道具はお互いに見せあい、自分たちの脅威ではないと確認しあっていたが、やはり何らかの手段でこの世界に隠し札を持ち込んでいたようだ。

 

 糞ったれめ、と喋れない口の中で吐き捨てるデンジャ。

 しかし、そんな彼が恐怖を覚えていたのはころばし屋DXなどではない。

 そんな玩具の弾に怯える精神なら、豪華客船の中でミサイルぶちかましたりしないのである。

 デンジャが恐れているもの。それは彼のすぐそばで静かに唄っていた。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

 

 その詠唱文は知っていた。

 自分が隠れ潜むことになる世界だ。漫画を流し読みするくらいはする。

 主人公(ベル)を何度も救ってきたこの魔法が分からないはずがない。

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を】」

 

 ただ、自分は知っていただけなのだと理解せざる得ないだろう。

 絵や文と言った情報ではない、確かな現実(リアル)として見せつけられると……

 冒険者の恩恵(ファルナ)に魔法が3つしか刻めないことも頷ける。

 

「【汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

 この世界に来てから魔法を見る機会はあった。

 魔剣と戦う羽目になったこともある。

 しかし、この砲撃の前には全てが霞む。

 

「【来れ、さすらう風、流浪の旅人】」

 

 魔力が装填された。

 五感ではない何処かがそう感じる。

 もしもデンジャの身体に人間の様な皮膚組織があったとしたら、きっと見るに堪えないほどに鳥肌が立っていただろう。

 

「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ】」

 

 デンジャよりも小さなその体から、濁流のように魔力が流れ出す。

 自分たちが隠れている壁の向こうのジャックはどんな顔をしているだろうか。

 隣にいる自分の顔は間違いなく引き攣っている。

 絶世の美女と評するであろうその容貌は、魔力光によって照らされており、壮絶なまでに美を引き出していた。妖精、と言う原作における表現は誇張でもなんでもなかったのだ。

 

「【星屑の光を宿し敵を討て】っ‼」

 

 引き金(トリガー)に指がかかった。

 14の緑風を纏った大光球が主の号令を待つ。

 圧倒的な破壊の嵐が吹き荒れる直前になっても、デンジャの身体は意識から断絶されたように動かなかった。

 

「【ルミノス・ウィンド】ッ‼」 

 

 盾代わりに使っていたレンガの壁を背にしたまま、号令のようにその奇跡(まほう)の名を呼んだ。

 冒険者による特大の砲台を前に、人を転ばすだけの玩具などあっという間に一掃される。

 

(す、すげぇ……)

 

 これがリュー・リオン。

 今後『ダンまち』の物語に深く関わることになる、ベル・クラネルを導き続けた者。

 恐るべきことに、あれほどの大火力を放っておいて街の被害は最小。精々地面の塗装がボロボロになっただけだ。

 

(いや、13巻だとダンジョンの壁に大穴をブチ開けてたか。これでもまだ手加減しているんだな)

 

 この時期はまだランクアップしていないと言うのだから驚きだ。

 つくづく『ダンまち』の冒険者はバケモノじみている。

 

「……妙だ。奴は何故逃げない」

 

 自らが行った超高等技術に何かを思う様子もなく、リューは訝し気にフードの奥から空色の瞳を覗かせる。

 その輝きは静かに知性の色を見せた。

 

「あのマジックアイテムは足止めにこそ最適なはず……何故馬鹿正直に我々と戦っているのでしょうか」

「それは多分、俺が原因だ」

 

 心の声スピーカーを付け、喋りかけるとリューは少し驚いたように目を見開いた。

 

「……喋れたのですか」

「正確には、心の声を伝えてるだけだ。嘘も言えないから中々に苦労した」

「それで、貴方が原因と言うのは……?」

「簡単なことだ。あいつは裏切り者の俺を粛清しないとピンチなのさ」

 

 何せデンジャは時間犯罪者の仲間として潜り込んでいるのだ。

 今後の予定や、取引先などは全てでないとしても把握されている。

 タイムパトロールから逃亡生活中のジャックからしてみれば、目障りのこの上ないだろう。

 

 と言うか、そう言った立ち位置になるように仕向けた。

 ジャックはフエルミラー等の有力なひみつ道具の持ち込みをしていたが、それはデンジャ対策ではなく、恐竜ハンターを主に警戒していた筈だ。

 なにせ、時間犯罪者側にいた時のデンジャは喋れない復讐以外に興味のないキャラを演じ続けていたのだ。

 おかげで何度使い走りにされて、ヘトヘトになったことか。

 

「本当はそうやって得た情報をタイムパトロールに密告する予定だったのに……なんでドラえもんが俺を見つけたんだか」

「ご愁傷様です」

「全く気持ちの籠ってないお言葉ありがとうよ。兎に角、俺をやらない限り、あいつに安息の日々は無いわけだ」

 

 実の所、デンジャの持つ情報はそんなに多くないが、ジャックはそんなこと分かるはずもない。

 何処まで情報を掴んでいるのか分からない以上、殺してしまえとなるのは当然だ。

 

「……向こうが妙に好戦的な理由は分かりました。デンジャ、何かこの状況を打破するひみつ道具はありますか」

「スマン、ここでは使えないような派手なものばかりだ。確実に街に被害が出てくる。隠し札として持ってこれたのは心の声スピーカーだけだった……」

「何故、そんなひみつ道具を?」

「タイムパトロールが来てくれるんだったらこれが最適解なんだよ。偽証してないってすぐに分かるからな」

 

 結局アテが外れて大ピンチだが、などとジョークを言おうとした瞬間、デンジャの高性能スピーカーが発砲音に届いた。

 まだころばし屋DXが残っていたのかとデンジャはため息を吐きそうになり、うんざりとする。

 

「……ッ‼ 躱せ‼」

「はっ? 何を……うおっ!?」

 

 その時、冒険者としての勘ゆえか、リューが咄嗟にデンジャを突き飛ばす。

 同時に、これまでころばし屋DXたちの銃弾から2人を守り続けたレンガの壁は粉みじんに砕け散った。

 

「な……!?」

「攻め手を変えてきた! 注意してください‼」

 

 木刀を構えるリューに合わせ、デンジャも徒手空拳の構えをとる。

 そのまま様子を見ていると、殺し屋ジャックがゆっくりと姿を見せた。

 

「遊びは終わりだ」

 

 その腕には精霊よびだしうでわが装着されたままであることを確認したデンジャは目を細める。

 魔法に劣らない科学による奇跡の再現。これは絶対に喰らえない。

 

(だが、どうやって壁を壊した? 冒険者の街なだけあって頑丈そうだったが)

 

 ジャックが使ったであろうもう一つのひみつ道具。

 その答えはデンジャの目の前にすぐさま現れた。

 

「な……!?」

「デンジャ? どうしました」

「ふざけるなよジャック。そんなものをどこで手に入れた」

「そう大したことはあるまい。()()を陽動のためだけに使ったのだ、今更発売禁止のひみつ道具を使う事をどうしてためらう必要がある」

 

 デンジャの忌々し気な視線の先。

 そこにはころばし屋がいた。

 正し、ころばし屋DXとは違う。赤い刺々しい印象のカラーリングだったが。

 

「……【ころばし屋Z】だと」

 

 その言葉に返答するように。

 ころばし屋Zは銃を撃ち始めた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 オッタルの乱入により、【ガネーシャ・ファミリア】の勝利で終わった人工迷宮(クノッソス)攻防戦。

 調教師(テイマー)たちから無事に鍵を確保した彼らは地上に引き返す準備をしていた。

 そんな時にそれは起こった。

 

「地震……?」

 

 ふと、出木杉は自分の足元が小さく振動していることに気が付いた。

 爆発の揺れかもしれないとも考えたが、それにしては小さすぎる。震度で言えばギリギリ3程度だ。

 自分たちは今、地下に建造された建物にいるのだから実際の振動はもっとあるのだろうが。

 

(オラリオにも地震の原因であるプレートがあったのか。いや、もしかしたら揺れたのはダンジョンそのものとか……?)

 

 流石は異世界。現実世界の常識には捉われないと出木杉は感心しているが、冒険者たちはそうではなかった。

 

「これは……嫌な揺れだな」

異常事態(イレギュラー)でも起こったのか?」

 

 ダンジョンは生きている。

 冒険者なら誰でも知っているその定説から考えると、ダンジョンが身じろぎすること等、余程の事件が無い限りはない。

 ざわつく団員たちと同じ様に団長であるシャクティもまた、今の揺れに嫌なものを感じていた。

 この場において最悪なのは、この揺れが人為的に引き起こされた場合だ。

 【ガネーシャ・ファミリア】が来ることを予め知っていた闇派閥(イヴィルス)が何かを仕掛けた結果だとしても不思議ではないだろう。

 シャクティは捕縛した調教師(テイマー)を槍で小突いて強制的に覚醒させると、尋問を開始した。

 

「おい、これはお前たちの仕業か」

「クククッ……はははははッッ‼ そうだ! 世界是正の使徒が遂に動き出した! 愚かなる群衆共に鉄槌が下されるのだ!」

「似たような話はこれまでもウンザリするほど聞かされたが、今回は具体的に何が起こる」

 

 シャクティの問いかけに男はニヤニヤとした笑みを浮かべただけだ。

 この男の口を割らせるための時間的猶予があるかは分からない以上、これ以上の情報を得ることは難しいだろう。

 

「団長、ここは一度撤退したほうがいい。ベル・クラネルを探し出したら速やかに撤退を……」

「……」

「団長?」

 

 団員たちの進言は正しい。

 正しいが、シャクティには嫌な予感が拭えなかった。

 第一級冒険者に至るまでの正義の眷属としての経験が、この揺れの先にある恐ろしい破滅を予感するのだ。

 そんなシャクティを一瞥したオッタルは、団員たちの反応に戸惑う出木杉に声をかけた。

 

「……子ども」

「は、はい。なんでしょう……」

「俺は揺れの下に行く。お前はここに残れ」

「え……?」

「シル様からの命令ではあるが、異常事態(イレギュラー)が発生すると分かっている場所に子どもはつれていけん」

 

 そう言ったオッタルは背を向けて歩みだした。

 出木杉も【ガネーシャ・ファミリア】も気にせず、ただ敵がいる地を求めて。

 

「……そこで隠れている連中と行動を共にしろ。孤立することは無いだろう」

 

 オッタルが背を向けながら指さした空間が揺らぐ。

 そこには布の様なひみつ道具を持ったドラえもんとのび太の姿があった。

 

「なんで分かったの……?」

「気配が隠せていない。手練れにはすぐに気づかれるぞ」

「気配ってなんなのさ……」

 

 透明マントをあっさりと見破られたドラえもんのボヤキを無視してオッタルは通路の先に消えた。

 

「【猛者(おうじゃ)】も異常事態(イレギュラー)を重く見たか。私たちも現場に向かう。ハシャーナとモンモンは少年たちの保護をしろ」

「はい! 後、自分はモダーカです団長」

 

 シャクティもこの揺れは無視できないとオッタルの後に続く。

 団長の号令に合わせて戦場に向かう憲兵たちを見送ったモダーカは、さてとと子どもたちに向き合った。

 

「酒場の居候どもがなんでここにいるかは後で問い詰めるとして、ここは危険だから俺と一緒に……」

「待って‼ それよりもベルが危ないんだ! このままだとヴィトーって人に殺されちゃう!」

「な、お前その名前をどこで!?」

「2人が何処にいるか聞いたから、逃げる前にそこに行かせてよ!」




 ころばし屋Zは国辱超人様と暉祐様からのリクエストです。
 コメントありがとうございます。
 現在も活動報告でリクエストを募集していますので、気軽にコメントしてください。

 ドラえもんたちがいるのはヴィオラスたちを転移させる円を書くためです。まだ、ヴィオラスたちはここにはこれてません。

神会開催! ベルの二つ名!

  • 秘奥の少年《ワンダー・ルーキー》
  • 千の小道具《サウザンド・ガジェット》
  • 狂乱野兎《フレイジー・ヘイヤ》
  • 魅成年《ネバー・ボーイ》
  • 不思議玩具箱《ワンダーボックス》
  • 超耳兎《エスパル》
  • 奇妙な兎兄《ストレンジ・ラビッツ》
  • 開封兎《エルピス》
  • 幼女好兎《ロリコン・アナウサギ》

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