ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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スキル×スキル×クリティカル

 ダンジョンの中と外での戦いの大きな違いは民間人の有無だ。

 剛力や大魔力を持つ超人たちである冒険者たちが暴れれば、周囲が無傷でいることは殆どあり得ない。

 ダンジョンならばどれだけ荒らされようが人など【迷宮の楽園(アンダー・リゾート)】以外に住んでいないし、どれだけ破壊されようとも迷宮は勝手に修復される。

 何も気にする必要はなく、自由に力を振るえるだろう。

 だが、人が住む都市部ではそうはいかない。

 敵を倒せても、その過程で街が廃墟になってしまっては無意味なのだ。

 

 そう言った意味では、周囲のこと等お構いなしの敵程厄介なものはない。

 敵は自由に力を振るえても、自分は戦い方を制限されるのだから。

 

「気を付けろ! あのころばし屋Zは無差別に攻撃を仕掛けることで、未来デパートが製造中止にするほど危険なひみつ道具だ! DXとはレベルが違うぞ!」

 

 デンジャの警告によってリューはそんな厄介な敵の出現を悟った。

 同時に自分たちが殺し屋ジャックを追い詰めていた事にも気づく。

 

(無差別と言うならばここまでこの手札を切らなかった事も頷ける。これほど街で暴れてしまうひみつ道具を使えばオラリオ中から恨みを買うのだから)

 

 ここであんなひみつ道具を使ってきたという事は、本格的に後が無いからだ。

 ならば、あのひみつ道具を攻略すれば、勝利は確定する。

 

「……しかし、人がいなくなっていたことが幸いしましたね」

 

 ころばし屋Zによってボロボロになった街の景色を見てリューは苦々し気に零した。

 同系統のひみつ道具であるころばし屋DXの効果からして、敵の弾丸を受け止めるのは愚策。よって回避に専念するしかないが、回避した弾丸の威力は絶大。

 風穴があいた街の建物は簡単には直らないだろう。大金をはたいて【ゴブニュ・ファミリア】に依頼しなければならないのではないか。

 

「おらあああああっ‼」

 

 大火力を持つ冒険者を警戒してか、リューへの攻撃が一層激しくなる。

 持ち前の敏捷の高さでそれらを回避していくも、徐々にまき散らされる木片が肌を掠める回数は増えていく。

 正に乱れ撃ち。人一人に向けられるには余りにも過剰な弾幕。

 リューを追い詰めていくそれは、逆に言えばデンジャに向けられる弾が少なくなったことを意味する。

 

 薄くなった弾幕を見逃さず、突進するデンジャ。

 指を組み、振り上げた両手でハンマーのようにころばし屋Zを叩き潰そうと雄たけびを上げる。

 

「ぐ……っ!? こんなに硬いのかっ」

 

 しかし、砕けない。

 冒険者ともそこそこやり合える程度には高性能なデンジャであっても、ころばし屋Zを一撃では破壊できなかった。

 ならば何度でも殴りつけてやると、左手で捕まえたまま右の拳を振り上げるが。

 

(なっ、脱皮だと!?)

 

 ぬるり、と生物的な皮がデンジャの左手の中で滑る。

 明らかに無機物でできているはずのころばし屋Zが、蛇のように己の皮を脱ぎ捨て、拘束から抜け出したのだ。

 

(なんでも有りかよ畜生……!)

 

 驚愕するデンジャの鼻先に尽きつけられる銃口。

 この弾丸が当たって通常のころばし屋同様に転ぶだけで済む……そんな楽観を持てるはずがない。その程度のひみつ道具なら未来デパートが製造中止になどしないだろう。

 サングラスの奥に勝利を確信した眼差しを込めて、ころばし屋Zは引き金に指を掛ける。

 

「──ふっ!」

「……!」

 

 だが、デンジャの攻防は無駄ではなかった。

 一瞬だけでもあってもころばし屋Zを拘束したことにより、リューに対する弾幕は途絶えていた。歴戦の冒険者たるリュー・リオンはその一瞬を最大限活用する。

 

 肺を満たすように空気を散り込むと、重心を低く落とす。

 そして、その脚にあらん限りの力を込めて疾走した。

 故郷【リュミルアの森】の大聖樹の枝から作られた木刀【アルヴス・ルミナ】。

 その見た目に見合わぬ頑強さは、レベル4の膂力にも十分に耐えられる。

 

 【疾風】の一閃。

 岩すら砕く一撃はミシリッと嫌な音をひみつ道具の奥から響かせた。しかし、ころばし屋Zを破壊するには至らず、弾き飛ばすだけに留まる。

 だがそれはリューの想定通り。デンジャを連れて高速でその場を離脱すると、間髪入れずにデンジャに指示を出す。

 

「このまま戦いを長引かせるわけにはいかない。【スキル】を使います」

「……は?」

「少し時間がかかる。援護をっ!」

「お、おい! 訳が分からないから説明を……!」

 

 一方的に告げると、デンジャを離してさらに加速していく。

 今からデンジャが走っても絶対に追いつくことは無いだろう。

 

(敵に作戦を聞かれることを警戒して説明できないのは分かるが……にしたって不親切だろうが!)

 

 しかし、スキルだと? とデンジャは内心首をかしげる。

 リュー・リオンと言えば魔法のイメージがあったが、スキルの方には余り覚えがない。

 

「仕方ねぇな!」

 

 どのような手を使うのかは気になるが、ここで問答している暇はないだろう。

 リューが何かを仕掛けようと言うのならば、自分はその邪魔をさせないだけだ。

 

(最も、ころばし屋Zも囮なのは承知のはず、半端な攻撃じゃ見向きもされねぇ。本気でぶっ潰す気持ちで行く!)

 

 囮をするならばまずは敵の意識を自分に向けなければならない。

 あまりやりたくなかったが、こちらが強烈な一撃を持っていると示すべきだろう。

 デンジャは体に仕込んだバズーカを取り出すと、そのままころばし屋Zに向けて発射した。

 

 危なげなくヒラリと躱すころばし屋Z。

 しかし、その意識は確実にこちらに向いた。

 

「いるかも分からない逃げ遅れた奴‼ 熱かったらスマン‼」

 

 心の声スピーカーで叫びながらバズーカを連射する。

 建物に致命的なダメージが行かないように注意を払いながら、B級映画の様なド派手な弾丸の嵐を見せつける。

 時空を操る機能があるのか、転移(ワープ)を繰り返すころばし屋Zだったが、バズーカの弾が途切れるまでは迂闊にデンジャやリューに攻撃できないだろう。

 爆風の熱を感じながら、リューはスキルを使うために街を縦横無尽に駆けまわる。

 

「おらおら! 弾なら腐るほどあるぞ! ジャックとの戦いではほとんど使え……ッ!?」

 

 その時、デンジャはあることに気が付く。

 否、思い出す。

 

(待て、そのジャックの野郎は何処に行った?)

 

 そもそもころばし屋Zはジャックが放ったひみつ道具だ。

 デンジャとリューは殺し屋ジャックと言う時間犯罪者と戦っている。だが、ころばし屋Zと言う強敵の出現で、いつの間にかころばし屋Zの攻略ばかりに目がいき、ジャックへの注意が削がれている。その戦法は、正に今デンジャとリューがやっているものだ。

 

 殺し屋から目を逸らすことの愚かさなど、今更説明するまでもない。

 

(ヤベェ!?)

 

 慌てて周囲を見渡すと、建物の陰から銃でリューを狙うジャックの姿。

 冒険者の勘の良さならば撃たれた後でも対処できる……そう安堵しかけたデンジャはその銃の正体に気が付き、今度こそ凍りつく。

 

(【原子核破壊砲】だと!?)

 

 デンジャは悟った。これがジャックの冒険者に対する必勝法なのだと。

 如何に無双の力を振るう凄腕の冒険者であっても、核の力には抗えない。一方のジャックは核に対応できる何らかのひみつ道具を所持しているに違いない。

 ころばし屋Zと言う無視できない戦力を囮に、一撃必殺を叩き込む気なのだ。

 

 情報が知られているデンジャをジャックは放置できない。その分析は正しい。 

 だからジャックは都市諸共吹き飛ばす気なのだ。

 正気じゃない。一体幾つの命が粉微塵になると思っているのだ。

 

(ジャックはこの世界の人間を人間と思っていない。だからと言って、こんなにも躊躇しないのか……!?)

「【星屑の光を宿し敵を討て】ッ!」

 

 小声で詠唱を口ずさんでいたのか、高速で駆け回るリューの周囲に星屑の(つぶて)が再び現れる。

 魔法種族(マジックユーザー)に相応しい圧倒的魔力は、殺し屋ジャックにとっては体のいい隠れ蓑でしかない。

 

「……クッ!?」

 

 デンジャは咄嗟に駆けだした。

 あの男を止めなくては。それが出来るのは今、ここにいる自分だけだ。

 

「これを借りるぞ!」

「っ!? 何を……」

「一つだけだ!」

 

 デンジャは待機状態の緑風を纏う魔弾に飛び掛かる。

 突飛な行動にリューが戸惑いの声を上げるが説明している時間はない。

 

「ピッチャーライナーだ!」

 

 バズーカをバットに見立て、空中に浮かぶ魔弾に渾身の打撃(バッティング)をお見舞いする。

 こんな技術はのび太に教えられないな、と心の声スピーカーから発せられたボヤキを置き去りにして、現実の試合だったら病院送り確定の突き穿つような剛速球がジャックに襲い掛かる。

 

「グゥッ!?」

 

 間一髪回避するが、魔弾は原子核破壊砲を掠めただけで粉砕する。

 会心の成果にデンジャはガッツポーズを取ろうとして、目を見開いた。

 

「不味……!?」

 

 空中に飛び上がったデンジャの身体は既に当初の勢いはなく、跳躍の力と重力の定めが釣り合って空中で浮かぶような形になっている。

 それは、ころばし屋Zにとっては格好の的だったのだ。

 回避は出来ない。反撃しようにもバズーカは魔法を打った反動でスクラップ同然。

 打つ手はない。

 

「……助けられたようですね。ならば今度はこちらが」

 

 しかし、デンジャの無力はリューが埋める。

 ころばし屋Zが発砲したと同時に、無数の光が瞬いた。

 

「【ルミノス・ウィンド】ッ‼」

 

 先ほどの倍近い数の弾幕。

 そのうちのいくつかはころばし屋Zの弾丸に向かっている。

 しかし、ころばし屋Zに焦りはない。電柱すら破壊する一撃を、街を壊さないように加減した魔法では迎撃できないのだから。

 

 だが、魔法の目的は弾丸の破壊ではない。

 数度の交戦でころばし屋Zの攻撃を理解したリューは、その特性を見切っていた。

 【ルミノス・ウィンド】の本質は風だ。即ち、空間を直進し、標的を狙い撃つころばし屋Zの弾丸とは極めて相性がいい。

 

 魔力弾に纏われる風は弾丸に干渉し、その射線を僅かに、しかし確実に歪めた。

 その結果、必殺必中の一撃はデンジャの命を奪うことはなく、その胴体を掠め、小さな傷を作るに留まった。

 

「!?」

「デンジャ! 失礼します!」

「は……?」

 

 さしものころばし屋Zも動揺の気配を隠せない中、リューは空中でデンジャを足場に跳躍する。

 リューの身体は風を切り裂き、緑の閃光となって驀進する。

 ……「おげっ!?」と絶叫を上げながら蹴り飛ばされた勢いで建物に激突したデンジャがいた気がするがきっと気のせいだ。

 

 すぐさま回避行動を取ろうとするころばし屋Zだが、無数の魔法が周囲に着弾し、身動きが取れない。

 ならば転移(ワープ)だところばし屋Zは即座に選択するが、【疾風】はその判断よりも速かった。

 サングラス越しに映る空色の瞳はすぐ傍にある。逃がさない、と言う意志を漲らせ。

 非力なエルフならば先ほどのように一撃を耐えきれば凌げる。そんな思考ごとリューは切り伏せる。

 

「──はぁっ!」

 

 魔力に長ける代わりにその他の能力値(アビリティ)は他種族に劣りがちなエルフだが、リューはそんな種族でありながら、嘗ては【剣姫】と並び称された剣士だ。

 無論、エルフでは育ちにくい【力】の能力値(アビリティ)はE評価とそこまで秀でているわけではないが、それを補うスキルが彼女にはあった。

 

 【疾風奮迅(エアロ・マナ)

 走行時に走る速度が上昇すればするほど攻撃力により強い補正がかかるスキル。

 

 【精神装填(マインド・ロード)

 精神力を消費することで【力】を強化するスキル。

 

 これらの力で限界まで強化された一撃が、魔法で逃げ道を塞がれたころばし屋Zに直撃する。

 先程の攻防で転ばしやZの構造的に弱い部分を確認したリューの攻撃は、寸分の狂いもなく急所に入った。

 

 致命的一撃(クリティカル・ヒット)

 

 ドワーフすら凌駕しかねないリューの全力に、ころばし屋Zの耐久力も遂に崩される時が来た。

 

「……ッ!?」

 

 断末魔の叫びすら上げられずに爆散するころばし屋Z。

 散らばる鉄屑(スクラップ)の雨を浴びながら、油断なく残心するリューは、やがて木刀の切っ先をジャックに向けた。

 

「これで、貴方を守る物はない」

「……」

「ここまでです」

 

 リューの降伏勧告を無視して逃走しようとするジャック。

 

「いや、手前ェはここで終わっとけ」

「ギャッ!?」

 

 しかし、その先に現れた槍に弾き飛ばされ、再びリューの前に戻された。

 顔に灼熱の痛みが走り、苦痛にあえぐジャックの視界に入ったのはミアとアレンだ。

 

「街がボロボロじゃねぇか。どんな教育してんだ糞ババア」

「問題ないさ。修繕費はリューの給料から引くからね」

「……これは私ではなくそこの男がやりました」

「へぇ? この道にいくつもある丸っこい穴や辺り一面に広がってる魔素もその男の仕業かい?」

「……私はいつもやりすぎてしまう」

 

 暫く金欠生活が確定したリューの目が死につつ、ミアとアレンは油断なくジャックを拘束した。

 こうして、この世界に混乱をもたらした全世界指名手配犯は異世界にてお縄となったのである。




 ミアとアレンがピンポイントにやってこれたのは、リューが最初に放った魔法を感知していたからです。

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  • 狂乱野兎《フレイジー・ヘイヤ》
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