ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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マイナスからのチュートリアル

「冒険者登録をお願いします……」

 

 ズーンという音が聞こえてきそうな雰囲気でギルドの受付に来た少年。

 完全に目の光が完全になくなっている彼に引いて周りに人が集まらない。

 

「か、確認しますが、新規の冒険者の方でお間違いないでしょうか?」

「ハイ……」

 

 眼鏡をかけたハーフエルフの受付嬢──エイナ・チュールは少年の様子に困惑しながらも、業務通りに羊皮紙に必要事項を記入させた。

 

「あの、顔色が優れないようですが……」

「すいません。ちょっと昨日困ったことがあって、まだ立ち直れていないんです。」

 

 白い髪に深紅(ルベライト)の瞳の兎のようなヒューマン。

 普段は快活であろう少年がこんなにも落ち込むこととは何なのだろうか。

 少し心配になりながら少年の書いた登録申請書に目を通す。

 

 名前はベル・クラネル。

 見た目通り年端もいかない少年のようだ。

 所属は【ヘスティア・ファミリア】。

 特に壁外で実績を持つわけでもない、新興の派閥らしい。

 こうした冒険者志望の少年の末路を幾度となく見てきたエイナは僅かに顔を暗くした。

 

(病気はなさそうだけど、この子は……)

 

 だがエイナはすぐに笑みを纏いなおし、また明日来るように伝えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「はぁ……受付の人に迷惑かけちゃったなぁ」

 

 憧れの冒険者になったというのに、受付を終えたベルはトボトボと街を歩く。

 こんな不幸そうな顔をしていてもしょうがないと分かってはいるのだが、昨日の事件はまさに青天(せいてん)霹靂(へきれき)だったのだ。

 

 昨日、ヘスティアが作動させてしまったビッグライトはのび太たちから聞いていた通りの効果を発揮した。

 ビッグライトから出る光に照らされたベッドは巨大化、ただでさえ狭かった教会の地下室が耐えられるはずもなく【ヘスティア・ファミリア】結成初日にホームは崩壊したのだ。

 ただでさえないない尽くしだったのに、僕たちは多額の借金を抱えてしまったというわけだ。

 

 ダンジョンに出会いをとか言ってる場合じゃない。

 早くお金を稼がないとホントに野垂れ死にだ。

 

「入団早々……僕って疫病神なんじゃ……」

 

 神様はこれまでしていたじゃが丸くんのバイト以外にも2つ新しいバイトを始めたらしい。

 過重労働もいいところだ。

 こんなことになっても僕を見捨てずにいてくださることに感謝しかない。

 

(運命の出会いは今は置いておこう。まずはお金だ。何とか稼がないと……!)

 

 しかし今の僕は装備も碌にない。

 【神の恩恵(ファルナ)】のおかげでゴブリン程度には負けないけど、これでダンジョンなんて無謀だ。

 

(っていうかダンジョン探索ってどうやるんだろう?)

 

 魔石ってモンスターのどこにあるんだ?

 武器ってどこで売ってるの?

 必要な書類はさっきのあれだけでいいのかな?

 

 【ヘスティア・ファミリア】には先達はいない。

 他の【ファミリア】の人に師事しようにも、対価として出せるものなんてないし……

 

(やばい、考えれば考えるだけドツボに嵌っていく。)

 

 だが思考停止はできない。

 こんなになっても変わらず僕に笑いかけてくれる神様の為にも、少しでも力にならないと。 

 

(武器もない僕が唯一頼れるのは【スキル】だけだけど、)

 

 皮肉なことだ。

 こんな状況に追いやった【スキル】が僕の最後の砦なんて。

 思うところはあるけど手段を選り好みしている余裕はないんだ。

 やるしかない。

 

 改めてスキルを確認する。

 一日経ってスキルの説明文に変化があったのだ。

 

  《スキル》【四次元衣嚢(フォース・ディメンション・ポーチ)

     ・ひみつ道具を具現化できる。

     ・使用可能な道具は一日三つ。

     ・一日ごとに内容は変化する。

     ・現在使用可能なひみつ道具。

      【くうき砲】【アンキパン】【とりよせバッグ】

 

 使えるひみつ道具の内容が昨日と違っていた。

 僕がこの段階で把握できるのは名前だけ。

 ビッグライトはドラえもんさんたちの話に何度も出ていたから効果が分かったけど、今回は初見の名前ばかりだ。

 一体何ができるのかまるで分からないが、何とかするしかない。

 

 まず【アンキパン】は多分戦闘には使えない。

 と言うか食べられるのだろうかこれ?

 後で毒味してみて、問題なかったら夕飯に神様と食べよう。

 

 次に【とりよせバッグ】。

 これは……どうなんだろう?

 好きなバッグをお取り寄せできると言うことだろうか?

 僕にはピンと来ないが、女の人は高級バッグが大好きだってお爺ちゃんが話してたし、神様なら喜ぶかな。 

 

 最後に【くうき砲】。

 うーん、武器なのかなぁ……?

 よし、今回のダンジョンではこれを使おう。

 

 さて、いかに常識に疎いとはいえ、こんな右も左も分からない初心者が、一人でダンジョンに入るのは誉められたことではないと僕にも分かる。

 

 だけど、少しでもお金を稼ぎたい。

 私服でダンジョンの入り口に立つ僕はもの凄い浮いているけど、羞恥心を圧し殺して中に入っていった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 入ってすぐにゴブリンたちの群れを見つけた。

 群れと言っても3体位だけど。

 ダンジョンの上層は比較的モンスターが少ないらしいけど、この数は多い方なのか僕には判断がつかない。

 

 心臓の鼓動がうるさい。

 子供の頃にゴブリンにぼこぼこにされたトラウマが脳裏によぎるが、頭を振って切り替える。

 とにかく準備しないと、僕は自分が使える唯一の【スキル】を起動した。

 

 

 ……ダンジョンに明るい僕の大声が響き、ゴブリンたちが一斉に僕を見た。

 

(副作用忘れてたああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!?)

 

 まさかのポカミスに先制のアドバンテージを完全に失ったベル。

 間抜けを晒した冒険者を放置するはずもなく、ゴブリンたちは一斉にベルに襲いかかる。

 

「ガアアアア‼」

「ほわあああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 慌ててゴブリンの爪を回避しながら、構成されたひみつ道具を確認する。 

 

「え?ナニコレ?」

 

 現れたのは右手を覆う鉄の筒。

 スイッチもなにもない。

 

(ハズレだ……)

 

 これのどこがひみつ道具だというのか。

 たまに人気のない露天商に置いてある意味不明なアートじゃないか。

 

(ど、どうやって使えばっ!?)

 

 バカなこと考えてる場合じゃない。

 雄叫びを上げながら迫るゴブリンから逃げ出す。

 次から次へと対処しきれない。

 一騎当千の英雄が何であんなに持て囃されるか理解できた。

 数が多いって言うのは普通に強いからだ。

 

 もの凄い当たり前のことが僕には分かってなかった。

 せめて、孤立したゴブリンを狙うべきだったんだ。

 

(こんなとこで死んでたまるか!神様一人を路頭に迷わせる訳にはいかない!)

 

 必死に手を振り回してゴブリンを遠ざけようとする。

 すると、大振りの右手がゴブリンの頭にクリーンヒットした。

 ゴィィン‼と鈍い音がしてゴブリンは吹き飛ぶ。

 

「ガアァァ!?」

 

(凄い吹き飛んだ!?)

 

 貧弱そうな少年のまさかの一撃に足を止めるゴブリンたち。

 ベルの生存本能は今こそ攻勢の時と悟る。

 

「うわあああああ!!!!」

 

 ケンカも(ロク)にしたことがない少年パンチ。

 ベテランの冒険者が見れば失笑してしまうそれも腕の筒が鉄製であるために、ゴブリンにとっては十分な驚異だ。

 

(そうか!これは殴るための道具だったんだ‼)

 

 考えてみればこんな武骨なデザインで精密なアイテムなはずかない。

 まさに天啓とばかりにベルはその鈍器を思う存分振るう。

 正直使い方を間違えている気しかしないが、ベルはその筒でゴブリンの頭を連打した。

 

「ガア?ガアアア!?」

 

 突然仲間たちを失った最後のゴブリンが狼狽える。

 手に装着した鈍器から血を滴らせながら徐々にゴブリンに迫る姿は、この場において狩人と獲物の関係が入れ替わったことを如実に示していた。

 

 心なしか目も()っちゃてるように見える猟奇ウサギから全力の逃走を試みる。

 連戦する気満々だったベルは虚をつかれる。

 

 追わなければと考えた時にはゴブリンとの距離はかなり空いていた。

 

「あーもう、一匹逃がしちゃった。」

 

 さっきまではどこかに行ってくれと思っていたけど、逆転したら惜しいことをした気がしてしまう。

 

「こんなとき魔法が使えたら、()()()()って遠くのモンスターも一撃なのに……」

 

 ポツリと呟いた瞬間。

 鈍器……じゃなくてくうき砲が突然爆発した。

 いや違う、筒から衝撃波のようなものを放出したんだ。

 

「うわ!?これ、こういうやつなんだ……」

 

 まじまじと手を覆う鉄の筒を観察する。

 ひみつ道具の名に恥じない能力だけど、もっと早くに気が付いてたらなぁ……

 

「何で使えたんだろう?キーワードかな?魔法……ドカーン」

 

 再びくうき砲が発動する。

 どうやら「ドカーン」って言うことで発動するらしい。

 出来れば説明書もつけて欲しかった。

 分かるわけないじゃないかこんなの。

 

「今からあいつを……って、あぁ!?」

 

 今も逃げ続けているゴブリンに照準を向けようとしたとき、とんでもないことに気が付いた。

 

「倒したゴブリンに当たっちゃってる‼」

 

 眼下にはさらさらと灰になるゴブリンの死体。

 聞いたことがある。モンスターにとって魔石は命の源であり、それが失われるとモンスターは体を保てなくなるって。

 

「今の一撃で体内の魔石を砕いちゃったんだ……ん?魔石?」

 

 みすみす換金できる魔石を減らしてしまったと落ち込んでいたら、とんでもないことに気が付いた。

 

(僕、どうやって魔石を()るの?)

 

 魔石はモンスターの体内にある。

 倒せばポンとでてくる親切な仕組みじゃない。

 倒した後に解体して取り出すんだけど……刃物なんて持ってない。

 くうき砲でモンスターの解体なんてどう考えても無理だし、残るひみつ道具のアンキパンは論外、とりよせバッグも多分無理だ。

 

「…………………………」

 

 結局、残った一匹もこのままじゃ他の冒険者の迷惑になるから魔石を砕いて灰にした。

 こんなに疲れたのに収穫ゼロ。

 

(僕の、バカ……)

 

 急激に重くなった体を引きずってダンジョンを後にする。

 これが僕の冒険者デビュー。

 夢見ていた華々しい活躍なんて出来ず、情けなさだけ残った初陣だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(僕、冒険者向いてないかも……)

 

 一日経って、昨日言われた通りにギルドに向かう足取りは重い。

 一人で思い詰めて結果はあの様。

 神様が汗水流して働いてる時に何をやっているのやら。

 

 一日で向き不向きが分かるなんて思わないけれど、突きつけられた現実の味は想像以上に苦かった。

 

「お待ちしていました。こちらの相談室で詳しい説明をさせていただきます。」

 

 受付に行くと先日のハーフエルフの女性が待っていた。

 ダンジョンでの規則とかを教えてもらうのだろうか。

 

 ……ただ、他の職員の人たちの視線が気になる。

 どうしてみんな僕を見ているんだろう?

 ひょっとしてウジウジした気持ちが外に出ちゃっているのだろうか。

 

 受付嬢さんはこの視線を全く気にしているそぶりを見せない。

 というより、あえて無視している気もする。

 

 何だか居心地が悪くて、足早に僕は相談室に向かった

 

「クラネル氏、まずはこちらをお受け取り下さい。」

 

 相談室に入った僕は部屋に用意されていたバッグを受け渡された。

 これ……中に何か入っている?

 

「これは初心者の方に向けてギルドから支給される初心者キットです。中には(ライト・アーマー)やナイフ、ダンジョン1階層のマップが入っています。それと、こちらのバッグパックはこのレッグホルスターと合わせてダンジョン探索でお使いください。」

「え……いいんですか?こんなに頂いて」

「気にしないでください。これは支給品です。後払いでお金も払ってもらうことになりますし」

 

 これは凄い。

 さっきまで頭を悩ませていた装備の問題が一発で解決してしまった。

 

「サイズは合っていると思いますが、念のために確認をお願いします。」

 

 受付嬢さんに言われ、装備を身に着ける。

 私服の上に軽い鎧。

 間違いなく最低ランクの装備がこんなにも心強い。

 

「大丈夫そうです。ありがとうございます。」

「それはよかったです。それと、ご希望されていた迷宮探索アドバイザーの件ですが、私、エイナ・チュールが担当することになりました。」

 

 迷宮探索アドバイザー。

 ノウハウが全くない僕が申請した無料のサポート制度。

 この優しそうな人が担当してくれるのか。

 

「よ、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします。それで提案なのですが、話し方を砕けさせていただいてもよろしいですか?」

「はい、大丈夫です。」

「ふふ、ありがとう。これからは二人三脚になるから、気安い関係を作っていきたいんだ。よろしくね?ベル君。」

「こちらこそ……チュールさん」

「エイナでいいよ。」

 

 事務的な口調だった先ほどと違い、親しみやすい雰囲気になった受付嬢--エイナさんとのやり取りで僕はすっかり真っ赤になってしまった。

 この人はエルフの血を受け継いでいるだけあって凄い美人だ。

 女の人とのやり取りなんて慣れないから、ついしどろもどろになってしまう。

 

(考えてみれば僕、この人の前でアドバイザーの種族希望をエルフにしてたような……)

 

 あの時は何も考えてなかったけど凄い恥ずかしいことではないだろうか。

 自分の性癖をバラしてるわけだから。

 

「明日から迷宮について勉強していこうと思うから、時間は空けておいてね。」

 

 すごいなアドバイザー制度。

 至れり尽くせりじゃないか。

 

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(良かった。希望が見えてきた。)

 

 これでダンジョンに入る準備ができる。

 現状ただの役立たずだったけど、少しでも神様の負担を減らしたい。

 こんな僕を見捨てないでいてくれる神様に恩返しをするんだ。

 

「ギルドってすごいんだな。ただの換金所みたいなとこだと思ってたけど。」

 

 こんな手厚いサポートを全ての冒険者にやるなんて、すごい力だ。

 一時はどうなるかと思ったけど、あっさりと問題が解決してしまった。

 

「………ってあれ?バッグがない。」

 

 その時、僕がもともと持っていたバッグがないことに気が付く。

 装備を貰ったときに外して、そのまま置いてきてしまったようだ。

 せっかくもらったのにうっかりしてた。

 幸いギルドからはそう離れてないから、すぐに取りに戻れる。

 急いでもと来た道を戻った。

 

「すいま──────」

「ねぇ、ホントにいいのエイナ?あの子のアドバイザーになっちゃって」

 

 受付に着いた時、不意にエイナさんを見つけた。

 同僚のヒューマンと話しているらしい。

 勝手に聞くのも良くないから離れようとしたが、その内容は僕についてらしい。

 つい、足を止めてしまう。

 

「確かにあの子がいつ死ぬかで賭けをしているみんなは不謹慎だと思うけど、正直あの子が長生きできる気は私もしないよ……」

 

 女性の言葉に目を見開く。

 確かにギルドに来た時に他の職員の人たちから妙な視線を感じた。

 暗い気持ちが表情に出てるからだとあまり気にしてなかったけど、そんなことをされていたのか。

 

「………私も売り言葉に買い言葉で熱くなっちゃったとは思っているけど、後悔はしてないよ。」 

 

 エイナさんは同僚の言葉に毅然とした態度で答える。

 

「私たちの仕事は冒険者の支援(サポート)だよ?彼らの死を玩具にすることなんて、どんな理由があってもあっちゃいけない。私が担当になって、みんなの予想以上に彼が生きていれば、金輪際あんな賭けはしないって約束を守ってもらわないと。」

「エイナのそういうところは凄いと思うけど、いいの?エイナ、今は怪物祭(モンスター・フィリア)とか、次回の神会(デュナトゥス)の資料作りとかやることいっぱいあるじゃん。初心者のアドバイザーなんてやってる暇ないんじゃない?」

「大丈夫だよ。どっちも余裕をもって作業できるスケジュールにしたから、一人くらいなら担当冒険者を増やしても平気。」

 

 同僚の人が言うエイナさんの多忙さに、僕は自分の考えの浅さを恥じた。

 当然じゃないか。ギルドはオラリオの行政機関としてダンジョン以外の業務も行う。

 冒険者のサポートだって彼女たちには大きな負担だったんだ。

 

「平気なわけないじゃん!ダンジョンの講習だってエイナしかやってる人いないよ?」

「でも、必要なことだから。どんなに才能があっても、ダンジョンでは何があるか分からない。そういう時、対処法を知っているかいないかは重要だから。」

 

 立ち尽くす。

 悲劇ぶっていた自分が滑稽だ。

 自分がどれだけ恵まれていたか気が付いてしまった。

 

「今まで色んな冒険者の人たちを見てきたけど、その殆どが帰って来なかった。……私はそれを無駄にしたくない。今生きてる冒険者のために、彼らが残したものを伝えたいの。出会ってすぐお別れなんて嫌だから。」

「………でも、バックパックとホルスターはやりすぎじゃない?」

「うっ……確かにあまり良くないけど、彼には必要だと思ったし。」

 

 (まぶた)が熱くなって視線が下がってしまう。

 自分の情けなさが嫌になる。

 神様だけじゃない。こんな、今日会ったばかりの人にも支えられている。

 普通の初心者以下の僕はこの人たちの足を引っ張ってばかりなのに。

 

「絶対に死なせないよ。私は夢に向かって一直線な冒険者たちを応援したいから。」

 

 ……強くなろう。

 才能があるかないかなんて関係ない。

 こんなにダメな僕を支えてくれる人たちに応えるためにも。

 

 ベルはあふれる涙にそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ今日は大辞典5冊分覚えようか。」

「え?」

「大丈夫、時計の針が12回回るまでには終わるから。」

「え?」

 

 そんなことがあった次の日、受けた講習はとんでもなく過酷だった。

 実はエイナさんは冒険者たちの間では超スパルタ教師と知られ、どんな冒険者でも耐えきれなくなって逃げだすハードな勉強は妖精の試練(フェアリー・ブレイク)と恐れられていると知ったのは少し後のことだ。

 

「はい、確認。多対一の状況での立ち回り方は?」

「え、えっと…足を使って一対一を心掛けること。」

「背中を見せずに正面から相手することが抜けている。やり直し」

 

 僕、ダンジョンに行く前に力尽きるかも……

 真っ暗になった窓に映る自分の顔が心なしか痩せてしまった気がした。




 ひみつ道具が使えるからと言って、ラクラク大儲けなんて甘い話はない。
 就職して分かったけど初めての職場は分からないことだらけで、ほとんど何もできません。

 原作開始時点でベルがまともに冒険できているのは、親身に勉強を教えてくれるエイナさんのおかげなんだろうなと15巻を読んで思いました。

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