ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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不協和音

 地下水路で偶然鉢合わせたベルたちと【ロキ・ファミリア】。

 双方の主神は早速、恒例の喧嘩を始めていた。

 

「なんでドチビがここにおんねん」

「それはこっちのセリフだ‼こんな眷属(こども)たちをぞろぞろ引き連れて何のつもりだ!まさか……ここに住むボクを笑いに来たのか!?」

「アホウ。そんだけのためにこんな薄暗いとこに来るわけないやろ」

 

 額がくっつきそうなほどに顔を近づける両者は険悪な空気を隠さない。

 以前からの知り合いなのだろうかと困惑する眷属を置き去りに、喧嘩はヒートアップしていった。

 

「ジャガ丸くんの屋台をぶっ壊した次は自分のホームか?まじで貧乏神やん、ドチビ」

「うるさいやい!そもそもどうやってここまで来たんだ!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

闇派閥(イヴィルス)のクソ共の調査や。オラリオの情勢考えればすぐ分かるやろ。脳に行く栄養全部胸にいってるんか」

「どうやって入ったかに答えて無いぞ!さては不法侵入だな!?調査はギルドの仕事だろう‼胸だけじゃなく常識もないのか君は!?」

「あ゛あ゛ん!?闇派閥(イヴィルス)の容疑者としてしょっぴくぞコラ」

「上等だ裁判で賠償金巻き上げてやるぞコラ」

 

 一体いつ息継ぎをしているのだろうかと心配になるほどにポンポン出てくる罵倒。

 

「ロキ!いくらなんでも失礼です!」

「神様!急にどうしたんですか!?」

 

 レフィーヤとベルがそれぞれ己の主神を引き剥がす。

 確かに【ファミリア】の主神同士、牽制しあうくらいがちょうどいいのかもしれないが、これはいくら何でもやりすぎだろう。

 

(神様ってアイズ・ヴァレンシュタインさんの主神様とこんなに仲悪かったんだ……)

 

 眷属(ファミリア)にとって主神は絶対的なものだ。

 故に神の我儘で苦労する眷属は多いという。

 恩恵(ファルナ)という強力な加護を得られるにもかかわらず、ファミリアに入団しようとしない人が多い理由の一つは、こうした神々(トラブルメーカー)たちの起こす騒ぎに大半の人は巻き込まれたくないからだ。

 

 【ファミリア】の主神の意向は、時に人間の色恋すら捻じ曲げる。

 愛し合う二人がそれぞれ対立する【ファミリア】の団員であるために結ばれない。そんな悲恋は神々が降りてきた時代から変わらずある創作の題材だ。

 ヘスティアとロキの仲が悪いという事は、その眷属であるベルとアイズも良好な関わりが持ちにくいという事。

 これでは憧憬と恋人になることなど不可能。

 それどころか、もしアイズがロキの熱心な信者ならば、ヘスティアと一緒に敵視されかねない。

 

 未だにお互いを威嚇しあう女神たち。

 ベルとレフィーヤの懸命の説得により、なんとかその場は収まった。

 

「あーまじ最悪や。なんでこんな辛気臭いとこでドチビと会わないかんねん」

「じゃあ帰ればいいだろ」

 

 未だにブツブツと文句は言っているが。

 

「止めてくださいロキ。彼は私の命の恩人なんですから」

「……っち」

「【ロキ・ファミリア】の皆さんにはミノタウロスの時に助けていただいたんです。あまり、悪く言うのは……」

「……分かったよ」

 

 ベルもレフィーヤもお互いに悪く思っているわけではない。

 いや、レフィーヤは前のアイズを前にしたベルの反応はむむむ……となっている気もするが、彼が良いヒューマンなのだろうという事は分かっている。

 

(会ったらちゃんとお礼を言いたかったのに……)

 

 主神二人が大喧嘩した後では中々言いづらいものだ。

 レフィーヤは闇派閥(イヴィルス)との戦闘の後、ずっと探していた少年を見つけ出したというのに暗い気持ちだった。

 

 そしてベルは別の意味で居心地が悪い。

 ヘスティアとロキの喧嘩も見ていてあまり気持ちのいいものではなかったが、それ以上に対応に困る人物がここにはいたのである。

 

「……何か用か」

「い、いえ……」

「…………」

 

 先頭を歩く狼人(ウェアウルフ)である。

 数週間前に【豊穣の女主人】でベルのことを嘲った第一級冒険者。名はベート・ローガ。

 【凶狼(ヴァナルガンド)】の二つ名はオラリオに来たばかりのベルでも知っている。

 敵を食いちぎるかの如く屠ることからその二つ名をつけられた彼は、ベルとは比べ物にならない本物の冒険者。

 そんな相手だ。緊張して仕方がない。

 先の一件で、ベルに友好的な人間ではないと分かっているからこそ尚更だ。

 

 一方でベートも表情にこそ出さないが、内心戸惑いを感じていた。

 ダンジョンで無様を晒した雑魚。それがベートの知る少年だ。

 だが、レフィーヤの語る少年はその記憶とはかけ離れている。

 ミノタウロスどころではない。ベートたちですら手を焼く極彩色のモンスターに立ち向かったと言うではないか。

 

(どうなっていやがる……)

 

 人は自分で見たモノこそ信じる。ベートの中でベルはまだ戦う覚悟もない雑魚のままだ。

 だが、レフィーヤが嘘を言っているようにも感じない。少なくとも、あの戦場で最も過酷な戦いを生き延びたのは確かなのだろう。

 故に迷う。一見何も変わったようには見えない少年はただの弱者なのか。それとも己と同じ冒険者なのか。

 

(人間そう簡単に変われるもんか?)

 

 自分一人で考えて解決する疑問ではない。

 にもかかわらず考え続けてしまうことに苛立ち始めるベート。

 その不機嫌さにベルが怖がり、その冒険者らしくない反応にさらに不機嫌になる悪循環。

 恐らく、この場にいる物の中で最もストレスを感じていたのはベートだっただろう。

 

「このままでは埒が明かん。神ヘスティア、それとベル・クラネルとリリルカ・アーデだったか。少し聞きたいことがあるのだが構わんか?」

 

 お互いに気まずい空気が流れ始めた時、空気を吹き飛ばすような重厚な存在感が言葉を発した。

 言葉を発したのはドワーフのガレス・ランドロックである。

 【ロキ・ファミリア】でも最古参の幹部であり、重傑(エルガルム)の名は世界中に轟いている。

 巨大派閥を纏め上げる立場なだけあって、場の空気を変えることにもたけているのか、先ほどまでの重苦しい空気は彼が喋るだけで消え失せた。

 

「はいはいはい!何でも答えますよ!この空気が変えられるなら!?」

 

 完全に蚊帳の外の状態で居心地の悪さを感じていたリリは、その質問に飛びつく。

 【ソーマ・ファミリア】の団員たるリリからしてみたら、他派閥の主神であるヘスティアとロキの因縁などまるで興味がない。

 どうぞ二柱でご勝手にと言う話だ。

 

「今、儂たちは先日の闇派閥(イヴィルス)によるテロに利用されたモンスターを調査しておる」

「あの極彩色のモンスターですか?」

 

 リリの問いかけにガレスは黙って頷いた。

 極彩色のモンスター。突如オラリオの街に現れたあのモンスターの残した傷跡は深い。

 被害が大きかった区画では未だに復興作業が進められているくらいであり、バベルの塔と言うダンジョンの蓋に守られた一般市民たちに改めてモンスターの恐怖を思い出させた。

 冒険者たちも今回の一件では被害者は出なかったが、あのモンスターに対応できたのは【ロキ・ファミリア】がダンジョンで同種のモンスターと遭遇した経験があったからだ。

 あれが闇派閥(イヴィルス)によって人工的に産み出されたモンスターならば、その脅威は計り知れない。

 

「ダンジョンではあるまいし、あのモンスターたちは街に突然生まれ落ちたわけではあるまい。必ず保管されていた場所があるはず」

「……それが、ここだと?」

「オラリオ全域に広がりながら、ギルドすら全貌を把握しきれていない地下水路。うってつけとは思わんか?」

 

 ガレスの語る仮説にベルは背筋が凍るような恐怖を感じた。

 その考えが正しければ、ベルとヘスティアはずっと闇派閥(イヴィルス)の傍にいたという事だ。

 あんな恐ろしい事件を引き起こした存在が、自分たちのホームの近くにモンスターを隠していたとなると穏やかではいられない。

 

「この辺りに住んでいるならばちょうどいい。何か心当たりはないか?」

「……実はリリたちは今、レクリエーションをしていまして。この地下水路で時々聞こえる声を調べていたんです」

「声か……(くだん)のモンスターである可能性があるな」

 

 ガレスは髭をいじりながらリリからの情報を頭の中でまとめる。

 ヘスティアたちが地下水路に住み着いたのはつい最近の話だという事から、どれほど前からここにモンスターが運び込まれていたかは定かでない。

 地下水路に暮らしているヘスティアですら、それだけの情報しかないと考えると、ほんの最近の話なのか。それともヘスティアたちに悟らせないほどに統率がとれていたのか。

 

(後者ならば凄腕の調教師(テイマー)闇派閥(イヴィルス)に存在することになるが……【ガネーシャ・ファミリア】のテイマーですらそんなことができるとは思えん。あるとすればレアスキル持ちか、あるいは強力なマジックアイテムを有しているか)

「なんで自分から危険に飛び込んでるねん。アホか」

「ぐぬぬぬぬ……」

「ロキ。そうやってすぐに挑発するのはやめてください‼」

「神様、落ち着いて……」

 

 再び喧嘩になりそうな二柱とそれを抑える二人を横目に、ガレスは闇派閥(イヴィルス)の手札の一つに勘づき始める。

 

(もし、話が本当なら。ベル様たちはよほど運がいいのですね)

 

 そしてリリもこれまでの話の断片から、ベルの現状の危うさに気が付く。

 何かに利用できないかと考えるが、闇派閥(イヴィルス)の目的すら分からないのに接触など馬鹿げている。

 そもそも闇派閥(イヴィルス)を巻き込めば、ベルは容易くどん底に落ちるだろうがそれでは意味がない。リリ自身の手でベルを絶望させなければ、リリの心が晴れることは無いだろう。

 

 利用できれば利用するが、絶対に必要と言うワケでもない。

 リリは頭の片隅に闇派閥(イヴィルス)の情報を刻み込むと、そこから先の思考を閉じた。

 

「すいません……いつもはこんな喧嘩腰な方ではないんですけど……」

「いえ、あんなに挑発するロキが悪いんです」

 

 リリがそんな不穏な考えを巡らせていることなど露知らず。

 ベルはこの場で唯一自分の気持ちを共有してくれるレフィーヤに謝っていた。

 あんなに仲が悪いなんて天界で何があったのだろうとため息をつくベル。

 

(どうしましょう……今、お礼を言ったほうがいいんでしょうか)

 

 レフィーヤはレフィーヤで完全にお礼を言うタイミングを見失っていた。せっかく探していた恩人に出会えたというのにも関わらず。

 今、この場で言っても誠意がこもったお礼とは受け取られずに、やっつけな印象を持たれてしまうのではないか。また、【ロキ・ファミリア】の団員であるレフィーヤが【ヘスティア・ファミリア】の団員であるベルにこの場で礼を言うことは、ロキにとって気分のいいことではないはずだ。これではけんかの火種になりかねない。

 

(ただお礼を言うだけなのに何でこんなに言いづらく……恨みますよロキ)

 

 後の言葉が続かず沈黙する二人。

 

「あ、あの」

「な、何でしょうか」

 

 沈黙を先に破ったのはベルだった。

 

「お腹の怪我はもう大丈夫ですか?回復薬(ポーション)を使いましたが、あくまで応急処置でしたし……」

 

 あの後からずっと気になっていたことを聞く。

 腹部を触手で貫かれるという大怪我はベルの使う安物の回復薬(ポーション)では治しきれない。

 痕が残っていないかと心配だったのだ。

 

「ええ、あの後、最上級回復薬(エリクサー)で治療させてもらったのですぐに完治しました」

 

 唐突な質問に少し面食らったが、優しい少年なのだなとレフィーヤは少し顔を綻ばせながら傷の状態を伝えた。

 既に地下水路の探索をできる程度には回復している。

 少年が心配するように傷痕が残るということもなかった。目の前の少年の適切な応急処置のおかげだ。

 

(あっ、今なら自然にお礼が言える?)

 

 レフィーヤはこの会話の流れならば、お礼が言えることに気が付く。

 ロキがあれこれ言うかもしれないが、この流れでお礼を言わないほうがおかしいだろう。

 

「あ、あの時は……」

「無駄話はそこまでにしてろ雑魚ども」

 

 勇気を振り絞ってお礼を言おうとしたレフィーヤだったが、ベートの声に遮られる。

 少し不満げにベートを見るレフィーヤは、彼の表情の中に僅かに含まれる緊張感を感じ取った。

 

「例の声とやらだ。この耳障りな汚ねぇ音は間違いなくモンスターだな」

「やはりか、神ヘスティアたちはここで……いや」

「遅えよ」

 

 ベートの言葉と同時に暗闇の中から、下水道とミスマッチな極彩色のモンスターが現れる。

 前方に10体、後方に13体。

 

「囲まれた!?」

「っ、神様‼ リリ‼僕から離れないでっ!」

 

 驚愕するヘスティアとリリ。

 再び出会うことになった異形のモンスターの姿に冷や汗を流しながら、ベルはひらりマントを構える。

 

(随分と大盤振る舞いやな?それだけ向こうに余裕がない…か……?)

 

 そしてロキはこのタイミングでこれだけの攻勢を仕掛けてきた闇派閥(イヴィルス)の焦りを感じ取っていた。

 

「来るぞ‼」

 

 ガレスの言葉と同時に飛び掛かる芋虫(ヴィルガ)

 ベルは再び大きな世界の流れに巻き込まれた。




-各キャラの心境-

ロキ(ドチビうざい)
ヘスティア(ロキうざい)
ベル(ベートさん怖い)
レフィーヤ(お礼のタイミング無くした)
ベート(あいつは結局、雑魚なのか?)
ガレス(なんか面倒なことになっとるのー)
リリ(帰りたい)

ドラえもんはどの回に登場してほしいですか?

  • 3巻(VSミノタウロス)
  • 4巻(日常回)
  • 5巻(VS黒ゴライアス)
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