ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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怪魔強襲

 【ロキ・ファミリア】にとって今更芋虫(ヴィルガ)は脅威ではない。第一級装備すら溶かす溶解液は注意しなければならないが、既に能力が判明しており、先日の事件で嫌というほど葬ったモンスターだ。接近戦を主とするベートやガレスとの相性を考慮しても、厄介ではあるが危険な存在ではない。

 

 例え退路を塞ごうが【ロキ・ファミリア】が脅かされることはないはずだった。

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「ベート!奴等を破裂させるな!ここの水に溶解液が混ざってはコトだ!」 

 

 地下水路に巡る汚水は浄化柱で濾過され、再びオラリオの生活用水として利用される。

 しかし、いかにオラリオの誇る最新鋭の魔石製品と言えども相手は深層のモンスター。その力は人類の英知を結集したところで対抗するのは難しい。

 芋虫(ヴィルガ)の溶解液が浄化柱によって対処ができない可能性がある以上、迂闊に破裂させてしまうのは賢明とは言えない。

 

 【ロキ・ファミリア】は本来脅威ではないモンスターを相手に苦戦する。

 それこそ敵の狙いと知りながら。

 

(極彩色のモンスター……っ!神様が聞いた声はこの新種!?)

 

 つい最近見たばかりの新種のモンスターに動揺するベル。

 自分たちが今まで住んでいた地下水路に闇派閥(イヴィルス)が潜んでいたショックで、思わず体を固くする。

 

 前回の戦いでベルが立ち回れたのは、名刀電光丸とウマタケと言う最高に戦闘向きなひみつ道具が使えたこと。そして、ウマタケの機動力を存分に生かせる広い空間が戦場だったからだ。

 対して今回は下水道と言う狭い空間。

 レベル1の冒険者など容易く殺せる溶解液が飛び散るであろうこの戦いにおいて、この地下水路は致命的な地形だった。

 

 ひらりマントは相手の攻撃を受け流せる強力なひみつ道具だが、同じ防御系の名刀電光丸と決定的に違う点があるのだ。

 それは自動防御(オートガード)機能の有無。

 ベルは第一級冒険者の戦いにまるで反応しきれていない。それは前回の戦いで理解している。

 それでもあの戦場でレフィーヤを救出できたのは、名刀電光丸やウマタケが自動で相手の攻撃を迎撃していたからだ。

 しかし、ひらりマントにはそれがない。今回は飛んでくる脅威全てをベルが認識し、守らなければならない。

 

(厳しいけど、やらなきゃ……っ!)

 

 防御のイロハは名刀電光丸で学んでいる。

 刀とマントの違いはあっても、全く応用できないということは無いはずだ。

 気を引き締めて、ひらりマントを握る手に力を籠めるベル。 

 

「……違う」

 

 そんな彼の背後から、ヘスティアの声が聞こえた。

 

「え?」

「この声じゃない。似ているけど、ボクが聞いていた声はこれとは違う」

 

 これとは違う?

 神様が聞いた声はこの極彩色のモンスターじゃないのか?

 この芋虫以外のモンスターもいる?

 芋虫以外の極彩色のモンスターと言えば……

 

 ベルは己が出した結論に顔を青くするのと同時に、破裂音が神と冒険者たちの鼓膜を揺さぶった。

 

「オオオオオオオオオオオッ‼」

 

 ベルの前方の壁が吹き飛び、その中から黄緑(おうりょく)の体皮が現れる。

 大蛇のように長い体躯をくねらせて、現れるモンスターにベートは舌打ちした。

 

「花か、面倒くせぇな‼」

 

 ベートの怒号にそのモンスターはブルリと体を震わせると、先端部分を開花させる。

 毒々しい花弁の中から現れる醜悪な牙の群れ。

 自身の考えが正しかったことをベルは悟った。

 

「ヴィオラス……」

 

 闇派閥(イヴィルス)の構成員が口走っていた名前が唇からこぼれる。

 建物すら容易に破壊する巨大なモンスターが、下水道の狭い空間にいることに眩暈を覚えながら、ベルは飛んでくる破片をひらりマントで防ぐ。

 

「ギッ!?」

 

 飛び散った破片のうち、大きな破片が芋虫(ヴィルガ)に突き刺さる。

 潰れた耳障りな悲鳴に冒険者たちは時を凍らせた。

 ブクリ、と不自然に膨れ上がる芋虫(ヴィルガ)の身体。

 ベートも、ガレスも、レフィーヤも。そのモンスターに対処するには離れすぎている。

 突如現れた(ヴィオラス)に注意を向けていたことが仇となってしまった。

 黄緑の身体を突き破るように、溶解液が飛び散ろうとした瞬間。

 

「間に、あえっ‼‼」

 

 すぐ近くにいたベルが芋虫(ヴィルガ)に向かい疾走。

 目の前で今にも破裂しそうなモンスターに、ひらりマントを見舞った。

 モンスターは飛び散り、水の中に入ろうとしていた溶解液ごと壁に叩きつけられる。

 

「いっ!?」

 

 ドロリ、と石造りの壁が溶けていくのを見て思わず声が出るヘスティア。

 下手したら自分たちのホームがこうなっていたとは笑えない。ヘファイストスに泣きついてまた新しいホームを紹介してもらおうと心に決める。

 

 ほっとしたのも束の間。

 今度はベルの後方の壁が粉砕され、二体目の(ヴィオラス)が現れる。

 咄嗟のことに反応できないベルに狙いを定めて、(あぎと)を開くが。

 

「よくやった小僧‼」

 

 いつの間にかベルの背後に現れていたガレスが食人花を殴りつけた。

 悲鳴を上げながら倒れる巨大モンスター。

 それによって発生した大きな波から、ベルはヘスティアとリリを連れて逃げ惑う。

 

(え?速い!?ドワーフなのに!?)

 

 全身を鎧で包み、見るからに鈍重そうな見た目だというのに素早かった。

 ドワーフは力や耐久に秀でている代わりに、敏捷が育ちにくいにも関わらず。

 足に多少の自信があったベルだったが、どう考えてもタンク専門なガレスが自分とは次元違いの速度を出してみせたことで、ちょっとしたプライドがへし折れる音が聞こえた。

 

(あれが、ランクアップした冒険者の力)

 

 レベル1の敏捷など歯牙にもかけない。器が違う。

 ステイタスの数値をコツコツ上げきるより、ランクアップしたほうが楽という言葉の意味が実感を伴って理解できた気がした。

 

「よし。小僧、儂たちは今からあの花擬きを叩く。お前は芋虫どもを壁に叩きつけろ‼」

「あの、ものすごい壁が溶けているんですけど、大丈夫でしょうか……?」

「あの程度では地下水路はびくともせんわ!修繕費を心配しているのなら、後でロキがポケットマネーで出すから問題ないわい‼」

「ちょっ、おまっ」

 

 突然のガレスの裏切りに声を上げるロキ。

 ガレスは「さっきまで不快な思いをさせた詫びだ!」と豪快に笑うとグッタリとしている(ヴィオラス)に追撃をかけた。

 

(気持ちのいい人なんだな。僕もあんな風に頼りになる冒険者になれるかな……?)

 

 ドワーフの大戦士。

 オラリオのファミリアでドワーフが人気なのは、どんなピンチでも頼りになるあの存在感がダンジョン探索で有難いものだからなのだろう。

 偉大な先達の姿に、いつか、自分もあんな冒険者になれるのだろうかと不安になるベル。

 

「いや、今は悩む時じゃないか……今は新種の対処が先‼」

 

 ベルはひらりマントを振るい、芋虫(ヴィルガ)たちを弾き飛ばしていく。

 強い衝撃を与えれば簡単に破裂する分、倒すのは簡単だ。

 しかし、破裂と同時に飛び散る溶解液を下水道に流さないために、マントを溶解液が飛び散ろうとした瞬間にもう一度振らなければならないのが手間だ。

 (ヴィオラス)と【ロキ・ファミリア】の戦闘で飛び散る破片の対処もしなければならず、芋虫(ヴィルガ)の駆除が全く進まない。

 

(ヴィオラス)が邪魔すぎる!ベートさんやガレスさんが僕たちの方に来ないように戦ってくれているけど、この狭い空間じゃ限度がある。こうなったらあのひみつ道具で……)

「……なあ、少年」

 

 リリに預け、バックパックに入っている最後のひみつ道具を使うことを検討するベル。

 ひらりマントも十分超技術だが、最後のひみつ道具は色んな意味で規格外だ。

 あまり人の目に触れたくないのだが……

 

 そう考えていると、ちゃっかり安全地帯(ベル)の近くに避難していたロキが話しかけてきた。

 

「自分、あの花どもをもっと遠ざければ芋虫は楽に始末できるか?」

「え?は、はい……」

「……しゃあない。ドチビと協力とか死んでも御免やけど、レフィーヤの恩人の顔を立てるわ」

 

 「遅くなったけどこの前はサンキューな」と礼を言うロキ。

 ヘスティアとの仲の悪さから、自分もあまりいい印象を抱かれてないと思っていたベルは、その言葉に戸惑う。

 そんなベルを尻目に、ロキはレフィーヤを呼び出した。

 

「どうかしましたかロキ?」

「あの趣味の悪い花どもを遠くにやるための魔法のアイテムや。ベートとガレスに渡して」

 

 ロキは携えていた布袋を二つ、レフィーヤに渡す。

 中身は紫紺の輝きを放ついくつもの結晶。魔石だった。

 ベルの普段の稼ぎとは比べ物にならない高純度な魔石。

 

「これは……分かりました!」

 

 魔石をこの場でどう使うのか分からなかったベルだが、レフィーヤは理解したらしい。

 二つの布袋を持ってベートとガレスの下に向かう。

 

「なるほどのう!考えたな、ロキ‼」

「ったく……本当に食えねぇ」

 

 レフィーヤから魔石を受け取ったベートとガレスもロキの意図を受け取る。

 二人は布袋の紐を解くと、中身の魔石をモンスターに見せつけた。

 

「!」

 

 その効果は劇的だった。

 今まで無軌道に暴れまわっていたモンスターは目の色を変えて(どこに目があるかは分からないが)二人に突進する。

 どの動きの変わりようにベルとヘスティアは瞠目(どうもく)した。

 

(魔石に反応した?……いや、魔力?)

 

 そういえば、とベルは思い出す。

 この前に襲われた時、あの極彩色のモンスターは魔法を行使するレフィーヤの魔力に反応している素振りがあった。

 あの時は魔法に反応するなんて奇妙な習性だとしか思っていなかったが。

 

「やっぱり、遠いなぁ……」

 

 同じものを見たはずなのに。

 そんなものかと思考を終わらせてしまった自分と、それをどう利用できるかに思考を進めた【ロキ・ファミリア】の冒険者たち。

 ステイタスだけじゃない。

 冒険者として、自分は何もかも彼ら彼女らに劣っているのだ。

 

反則(ひみつ道具)に頼らなくても、この状況は切り抜けられた)

 

 ひみつ道具に使われる冒険者ではなく、ひみつ道具を使いこなす冒険者に。

 あの日の誓いの言葉のなんて難しいことか。

 アイズ・ヴァレンシュタインに並べる冒険者になる。そんなの今のままではただの夢物語だ。

 

「でもいつか、必ずあの場所へ」

 

 もうベルは力の差を見せつけられても腐ると事はない。

 腰に着けるヘスティア・ナイフがベルの想いに呼応して脈打った気がした。

 そう、胸を焦がすこの燃えるような想いだけは誰にも負けていないのだから。

 

「ああああああああ‼」

 

 想いを原動力に、防御の必要がなくなったベルは芋虫(ヴィルガ)たちを駆逐する。

 鈍重で、衝撃で簡単に絶命するモンスターなど、ひらりマントの格好の餌食だ。

 瞬く間に地下水路に蔓延る芋虫(ヴィルガ)たちは一掃される。

 

 流れは完全に冒険者たちにあった。

 しかし。

 

(足りない)

 

 力が無い故に傍観者で居続けたリリはこの戦況の違和感に気が付いた。

 

(これは恐らく【ロキ・ファミリア】を陥れるための罠。それは状況的に見て間違いない)

 

 闇派閥(イヴィルス)にベルやヘスティアを狙う理由はない。

 ひみつ道具狙いとも思えない。それならばひみつ道具の在り処を知るベルは生け捕りにすべきだ。少しの衝撃で溶解液をまき散らすモンスターなど使わないはずだ。

 

(でも、この戦力だけで【ロキ・ファミリア】を倒せると考えるのは甘すぎる。今、【ロキ・ファミリア】が苦戦したのは地下水路だから。でも、あくまでも戦いにくいだけで、彼らの命はまるで脅かされていない。彼らを打倒する最後の一手が足りていない)

 

 ひらりマントを使うベルと言う計算外はあったにせよ、この戦力で【ロキ・ファミリア】の屈強な冒険者を殺せるとはリリは思えなかった。

 

(なら、他に狙いがある?)

 

 まず、こんな地下水路に潜んでいる時点で陽動の可能性はない。陽動は目立たなければならないのだから。

 ならば溶解液を地下水路に流すことかと言えばそれもないだろう。それなら極彩色のモンスターなど用意せず、素直に溶解液だけを流せばいい。

 他に考えられるのはここで【ロキ・ファミリア】が失敗して、溶解液がオラリオに流れたという事実を作ることだろうか。

 

(それも考えられませんね。そんなことで下げられる評判は僅かなもの。こんな大量のモンスターを使うことではないでしょう。コストパフォーマンスが悪すぎます)

 

 ならば考えられる可能性で最も高いものは時間稼ぎ。

 モンスターは芋虫(ヴィルガ)(ヴィライオス)がそれぞれ前後から現れた。まるで冒険者たちを挟み込み、身動きを封じるように。

 

(なら、足止めされた状態で来るであろう、次の策こそ必殺)

 

 さあ、何が来る。

 新たなモンスターの群れか。

 それとも例の自爆する闇派閥(イヴィルス)の狂信者か。

 あるいは地下水路を崩したり、大量の溶解液を流し込んでくるのかもしれない。

 

 そんなリリの予想を超えるものが闇派閥(イヴィルス)の切り札だった。

 

(視線!?)

 

 最初に気が付いたのはベル。

 オラリオに来てから頻繁に感じる無遠慮な銀の視線により、オラリオに来る前より警戒心が増していた彼が真っ先に気が付いた。

 自分を突き刺すような視線。

 

「まず一匹」

 

 それが殺意だと気が付いたベルは、咄嗟に視線の方向にひらりマントを振るう。

 視界には赤い影がブレて見えた。

 

(襲われていた!?)

 

 まるで気が付いていなかったベルは、命の危機を自覚した瞬間、鳥肌が立ったのを感じる。

 なにか不味いことが起きたのだ。

 そう気が付いたベルはヘスティアとリリ、そしてロキを背に庇ってひらりマントを構えた。

 

 ベルに襲い掛かった影は壁に激突し、めり込んでいた。

 芋虫(ヴィルガ)とは違う激突音に【ロキ・ファミリア】も異変に気が付く。

 

 そこにいたのはモンスターではない。

 血のように赤い髪に緑色の瞳の女だった。

 白い肌に、切れ長の瞳は暗闇の中でぼんやりと輝いて見える。

 絶世の美女、と形容されるであろう美貌を見てもベルの警戒は解けない。

 むしろ、彼の本能は目の前の女と自分の隔絶した力の差に警鐘を鳴らし続けている。

 

(これが闇派閥(イヴィルス)の切り札……)

 

──【ロキ・ファミリア】を屠る必殺。




 この女がこの時期にここにいるという事は……
 祝・ハシャーナさん生存ルート‼やりましたね(白目)

 なんでこの人がここにいるかと言うと、原作より【ロキ・ファミリア】優位な状況なのでエニュオ側も遊んでる余裕がなくなっているからです。
 原作だとロキとベートがここに来ていたのはあてずっぽうでしたが、今作では市民の中に流れる噂頼りに来ています。つまり、罠でした。

 そして、第一級冒険者と戦える戦力でヴァレッタは指揮官なので除外。怪人最強なあの娘はメンタルボロボロなのでまたの機会に。という事で安定して強いこの人が来ました。

 ハシャーナさんにはオリヴァスが向かっています。
 ……生存ルート確定してないって?
 レヴィスならともかく、オリヴァスなら発光瓶(フラッシュボトル)の直撃受けそうじゃないですか?という雑な理由で生存確定しました。

ドラえもんはどの回に登場してほしいですか?

  • 3巻(VSミノタウロス)
  • 4巻(日常回)
  • 5巻(VS黒ゴライアス)

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