ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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ココガアナタノカエルイエ

「んで?キッチリ吐いてもらうで?ドチビィ」

「うぬぬぬ……」

 

 闇派閥(イヴィルス)を倒してめでたしめでたし……とはいかないようだ。

 ひらりマントにキューピッドのや、常識はずれな二つのひみつ道具を見たロキはその詳細を追及してきた。

 

「ファ、ファミリアのことを根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だぞ!?」

「自分でも無理だと思っとる言い逃れは止めえやアホ。あんな出鱈目見せられておずおず引き下がるわけないやろ」

 

 ファミリアの手札についてとやかく言うのは無粋。

 それが神々のスタンスだ。

 どんなファミリアでも隠し札の一つやや二つは持ってしかるべきであるし、そうしたものを駆使した駆け引きも下界の楽しみだろう。

 ロキとてその辺りは弁えている。

 しかし、ひみつ道具は余りにも逸脱し過ぎている技術だ。

 

「まさか力使ったんやないやろうなぁ?」

「そんなわけないだろう‼」

 

 ヘスティアの不正が疑われる程度には規格外なのだ。

 特にキューピッドのやは見逃せない。

 下位のモンスターを惑わせる程度のアイテムなら下界でもなくはない。しかし、深層に生息するようなモンスターを魅了するなどというアイテムは、いくら【神秘】のアビリティを磨いていても異常だ。

 間違っても駆け出しが持っていて良いものではない。

 

 ……最も、ヘスティアがルールを破ったとはロキも思っていない。大方何かの拍子にたまたま手に入ってしまったのだろう。

 調教師(テイマー)を嵌める際にはたまたまなどあり得ないと言ったが、ここは不自由で不完全な下界。あり得ないことなど日常茶飯事だ。

 

「ならあのアイテムの出どこを言ってみぃや」

「……黙秘だ!」

 

 だから今、ヘスティアを問い詰めているのは単にヘスティアが困るであろうからだ。

 ケケケと嫌らしく笑う道化師にヘスティアはぐぬぬと歯を食い縛る。先の共闘を得ても犬猿の仲なことに変わりはないらしい。

 

「ヘスティア様。私からもお願いします。闇派閥(イヴィルス)から皆さんを守るために状況を把握しておきたいんです」

 

 レフィーヤもひみつ道具の詳細を開示するように求めた。最も彼女はロキと違い純粋な善意からだが。

 闇派閥(イヴィルス)との抗争に巻き込まれたことで、【ヘスティア・ファミリア】は間違いなく敵に注目されてしまった。自衛能力すらまともにない新興派閥であるにも関わらず。

 このままでは闇派閥(イヴィルス)によって二人が潰されるのは火を見るよりも明らか。レフィーヤはそれを黙って見過ごせる性格ではない。恩人なら尚更。

 そうならないために【ロキ・ファミリア】による後ろ盾を得るべきだとレフィーヤは考えた。

 図らずもロキのハッタリ通りになるが、【ヘスティア・ファミリア】は闇派閥(イヴィルス)への抑止力を。【ロキ・ファミリア】は未知のマジックアイテムを得ることができる。win-winの関係だ。

 

「いやっ、駄目だ。信用できない」

 

 だというのに。ヘスティアが頑なに【ロキ・ファミリア】に情報を渡すことを拒否しているのは、神ロキをヘスティアが信用できない。これに尽きる。

 都市最強派閥を率いるロキが、今更闇派閥(イヴィルス)と組んでいるということは無いだろう。

 しかし、それはイコールロキが信用できるという事ではない。

 

 今でこそ落ち着いているが、ロキは退屈を持て余して神々に殺し合いを吹っかけていた危険な神だ。娯楽のためならば何をしてもおかしくない怖さがある。

 そこにベルのスキルは不味い。異世界のアイテムをランダムに具現化するというギャンブル色の強いスキルは、実に神好みの能力だ。

 

 神の琴線に触れた冒険者は玩具にされる。

 レアスキル・レアアビリティを発現させたことがばれた眷属(ファミリア)の末路は悲惨だ。

 面白がってストーキング程度ならまだいい。中には試練と称して過酷を強いる者も存在する。

 そうやって神々によって潰された才能は山ほどいた。

 そして、ロキは自分のファミリア以外には神らしいはた迷惑な態度で接する。数多の人生を娯楽で潰してきた他の神々と同じように。

 

 闇派閥(イヴィルス)から身を守るために迂闊にひみつを口にして、遊び好きな神々に潰されてしまっては意味がない。

 故にヘスティアは【ロキ・ファミリア】の要請を拒む。

 

「こうなれば三十六計逃げるに如かず‼」

「いや、逃がすわけないやろ」

 

 ベルとリリを連れて脱兎のごとく逃げ出そうとしたヘスティアだったが、力を封じた神と冒険者では地力が違いすぎる。あっという間にベートに先回りされた。

 

「ああ!?第一級冒険者なんて卑怯だぞ‼」

「やかましいわ。とっとと観念せぇ」

 

 しかし、ヘスティアは諦めない。

 確かに状況は不利だが、このままロキにスキルのことを知られてしまえば絶対にいいように遊ばれる。

 

「うおおお‼こんな時こそひみつ道具の出番‼頼んだぞキューピッドの矢‼‼」

 

 ヘスティアは(ヴィオラス)から回収しておいたキューピッドの矢をベートに向かって放り投げる。

 刺されば美の女神の魅了の如く、相手に好意を植え付ける規格外のひみつ道具だが……

 

(いや、当たるわけねぇだろ)

 

 ベートは【ロキ・ファミリア】最速の冒険者。

 一般人以下の腕力で投げられた矢など止まって見える。

 無意味な抵抗で余計な手間をかけさせられることに苛立ちながら、このまま躱してどこかに紛失しても面倒だからと矢をつかみ取ろうとした。

 それがこの後の彼の運命を決めてしまうとも知らずに。

 

「ベル様。ちょっと貸してくださいね」

「え?ちょ、リリ?」

 

 その時、リリが動いた。

 ベルからひらりマントをかすめ取ると、キューピッドの矢に向かってひらりマントを振る。

 ひらりマントの効果により、勢いを増した天使の矢はベートの手をすり抜けた。

 突然速度が跳ね上がったキューピッドの矢にベートが目を見開く。(やじり)はそのままベートのコメカミに向かって真っすぐ飛んで行き……

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 結論から言えば僕たちは【ロキ・ファミリア】から逃げのびることに成功した。

 あの後、キューピッドの矢の効果でベートさんが僕たちを逃すためにした行動は、ベートさん本人の名誉のため伏せさせてもらう。 

 ただ、神様への愛を叫びながら奮闘する彼を見るレフィーヤさんの何とも言えない表情が忘れられない。

 素の声で「うわっ」と言われていたあの人の今後のファミリア内での立場が心配だ。

 さっきキューピッドの矢の具現化を解除したので、もう効果は切れていると思いたいが。……(ヴィオラス)から矢を抜いても様子に変化がなかったから、やっぱり駄目かもしれない。

 そういえば一緒に逃げてきたけど、このモンスターはどうしようか。凄腕の調教師(テイマー)がそろえられている【ガネーシャ・ファミリア】に預けるべきだろうか。

 

「いやー見事な機転だったよサポーター君」

「いえいえ、お役に立てて光栄ですよ」

 

 さわやかな顔で笑い合う二人が怖い。

 ベートさん。正気に戻っていたら絶対に黒歴史になっているんじゃなかろうか。

 

「今日は大変なことに巻き込んでしまって悪かったね。ベル君と話し合って結果は後日伝えるから、今日はもう休んで疲れを取ってくれ」

「はい。いいお返事を期待しますね。それではさようなら。ベル様、ヘスティア様」

「あ、送っていくよ」

「いえ、ベル様はヘスティア様の傍にいてください。闇派閥(イヴィルス)がまだ近くにいるかもしれませんし」

 

 リリはそう言うともと来た道を帰っていった。

 ……なら、リリも危ないのに。そう訴えようにもリリはあっという間に地下水路の暗闇に消えてしまった。

 

「あ……行っちゃった」

「まあ、彼女なら大丈夫だろう。ものすごく機転が利く」

 

 確かに今日のレクリエーションの中でリリは頭がいいんだな、と感じる場面は多々あった。

 そんな彼女が一人で行くなら心配しすぎることはない……のかな?

 やっぱり、危ない目にあってないか気になる。

 

「しかし、あのサポーター君……」

「神様?」

 

 リリが見えなくなると、それまで普段通りの様子だった神様は一転、何か深刻そうに考え出した。

 

「何か気になることでもありましたか?」

「……こういうことを言いふらすのはあまり良くないんだけどね」 

 

 少し考えた後、神様はこのレクリエーションを通して感じた少女の印象を僕に伝えた。

 それは、僕が想像していたものとは大きく異なっている。

 

「まず初めに言っておくと、あの子はかなり追い詰められていると思う」

「……え?」

 

 追い詰められている?誰が?

 

「追い詰められているって……お金のことですか?」

「いいや。心だよ」

 

 そんな様子あっただろうか。

 僕たちとの会話でリリは常に笑顔だった。

 初対面の神様ともすぐに打ち解けていたように感じていたんだけど。

 

「……ベル君。最初にアイスブレイクで木の絵を描かせたのは覚えているかい?」

「はい。それが何か?」

「あれはバウムテストと言ってね。人は木に自己投影しやすいという性質を利用して、その人の無意識の領域を調べることができるものだったんだよ」

 

 人の無意識。

 漠然とした言葉に戸惑う。

 それじゃ、木の絵を見ただけで神様はリリの心を理解できたというのだろうか。

 

「あの子が描いた木を思い出してくれ。枝や葉のない丸裸の木が塗りつぶされていた。周りには草も生やしてあったね」

 

 枝を描かない──変身願望。自分に不満がある。 

 葉を描かない──孤独。今の自分に仲間はいない。

 塗りつぶされた地面──人間不信。手助けが無いという感じ方。

 

 明らかにされていくリリの内面に絶句する。

 朗らかな笑顔を見せる小人族(パルゥム)の少女とはつながるように思えない要素が次々と浮かび上がる。

 

「でもっ、このテストだけで決めつけるのは……」

 

 リリに心を許し始めていた僕は神様に反論する。

 こんなもので人の心全部が分かるはずがない。

 誰にだって心に問題はあるだろう。そこだけを見て拒絶するのは違う。

 

「うん。これはあくまでも心理テスト。参考以上の意味はない。でも、こうした要素を考えてみてみると彼女の奇妙な点はいくつも浮かんでくる」

 

 例えばヘスティアとの会話。

 ベルへの惚気話に一見同調しているように見えて、実のところ中身のある返答はしなかった。リリの目的は神様の警戒を解くこと。話の中身は何でもよかったのだろう。

 

 例えば闇派閥(イヴィルス)との戦闘後の態度。

 あんなことが起きたら契約はチャラにしたくなるもののはずだ。ベルと組むことはもはやデメリットの方が圧倒的。人間不信の少女が善意で契約を続行しているとは考えにくい。

 

「どれもこじつけじみた意見だ。ただ、それもこういくつも出てくると警戒したほうがいいとボクは思う」

 

 安全を考えるならば、リリルカ・アーデとの契約は結ぶべきではない。

 それが神様の結論だった。

 

「……」

 

 多分、それが一番賢い選択。

 反論していた僕だけど、こうもリリの怪しい部分を並べられたら流石に呑気で居られない。

 どんな目的かは分からないけど、リリは何かやましいことがあるのかもしれない。

 

 僕は探偵じゃない。

 それが真実かどうかは分からない。

 でも、怪しいと言うのは立派な判断材料だ。

 パーティーの仲間は運命共同体。怪しいところがある人物に背中など預けられない。

 

 それが当たり前。

 だけど。

 

「────────」

 

 僕の発した言葉を聞いて。

 神様は一瞬驚き、すぐにやっぱりこうなったかと苦笑した。 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(サポーターとして役に立てることは示せたはず。コミュニケーションも悪くなかった)

 

 リリは住まいとしている安宿に帰還する途中、レクリエーションの成果を振り返っていた。

 闇派閥(イヴィルス)の襲撃という予想外のアクシデントこそあったが、それも乗り越えた今は仲間意識を生み出すのに役に立ってくれた。

 【ロキ・ファミリア】から共に逃げたことなど、彼らは共犯意識すら覚えているかもしれない。

 苦労に見合う結果は得られるだろう。

 

(ヘスティア様があまり乗ってきていないような気がするのが不安要素ですが、決めるのはベル様です。ヘスティア様が何か吹き込んでも、ベル様はリリを騒動に巻き込んだ負い目がある。問題ないでしょう) 

「……とは言え、流石に疲れました」

 

 戦闘能力皆無なこの体に、第一級冒険者や深層のモンスターとの戦いは負担が大きかったようだ。

 ベルのように積極的に戦っていないにもかかわらずこの疲労。

 改めて自分の貧弱さを思い知らされる。

 

 久しぶりに感じる倦怠感。

 ダンジョンに潜り始めたころに戻ったようだ。

 早くベッドで泥のように眠りたい。

 きっと今日は何の夢も見ることなく、快眠できるだろうから。

 

 気を抜けばトロンと垂れそうな(まぶた)に力を入れる。

 少し遠のきかけている意識のまま、安宿に近づいた時。

 

「ここにいたのかアーデ」

 

 この世で最も聞きたくなかった声がリリを強制的に覚醒させた。

 

「ザニス……様」

「おやおや、どうしたアーデ?そんなに驚くことは無いだろう」

 

 いやらしい笑みを浮かべた細身の男は、癇に障る口調で話しかけてくる。

 リリは少し不快気に眉をひそめた。

 

「……何か用ですか」

「いや、大したことではない。団長として団員の様子を見に来ただけだ」

 

 随分と殊勝なことだ。

 今までリリのことなんて気にも留めてなかったくせに。

 

 内心毒づくリリだが、この男の前で迂闊に口は開くべきではないと言葉にするのを我慢する。

 早く終われ。耐えていればこの男はすぐ離れていくはずだ。

 

「しかし良くないなアーデ」

「何がですか」

「あんな安全性の欠片もない安宿で生活していることがだ」

 

 少なくとも【ソーマ・ファミリア】に比べたらましだ。

 あんな人の悪意に満ちたところにいるくらいなら、防犯意識皆無でも外で寝泊まりする。

 

 ……ああ、でもそれも今日で終わりなのだろう。

 リリの聡明な頭脳はそう結論を出した。

 ここ男が話題に出したということはそういうことだ。

 リリの逃げ場所を奪いに来た。

 

「大切な団員をあんなところで寝泊まりさせるなど言語道断だ。ホームに戻ってこい、アーデ」

「……っ」

 

 俯き、歯を食いしばる自分を見て、あの男はどんな顔をしているだろうか。

 はいとは絶対に言わない。抗うことができなくとも、せめてもの意地を張った。

 

 そんなリリの内心を手に取るように把握しているであろうザニスはひとつ頷いた。

 紳士面の奥に弱者への嘲笑を滲ませながら。

 

 背を向けてホームに歩き出すザニスから、今すぐにでも逃げ出したい。

 あそこは檻だ。リリを決して逃がさない悪夢。

 この男は現実を突きつけているのだろう。決してお前を逃がしはしないと。

 

 どうしてこうなのだ。

 ベルとヘスティアのホームは貧しくても、あんなにも温かかったのに。

 リリのホームは冷たくて、残酷だ。

 

 二人は安宿から離れ、【ソーマ・ファミリア】のホームに帰還する。

 石造りの大きな建物。オラリオでも特に多くの団員を抱える【ソーマ・ファミリア】らしい、質素だが大きな建物。

 まるで監獄のようだとリリは思った。

 背中に刻まれた恩恵(呪い)は冷たく嗤う。

 

 ココガアナタノカエルイエ。




 キューピッドの矢は目路輪様のリクエストでした。
 少しリクエストの内容とは違いましたが、ご容赦ください。
 
 現在も活動報告にて絶賛コメント募集中なので気軽にリクエストをください。

ドラえもんはどの回に登場してほしいですか?

  • 3巻(VSミノタウロス)
  • 4巻(日常回)
  • 5巻(VS黒ゴライアス)
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