「俺がガネーシャだああああ‼」
象の仮面を被った褐色の偉丈夫が暑苦しく叫ぶ。何やらポーズを取りながら。
僕は至近距離で発せられた大声に目を白黒させ、神様はゲンナリした様子だった。
見た目も行動もツッコミどころだらけだが、この方も
その名は彼が今叫んでいる通りガネーシャ。
群衆の主の通り名で知られ、民から敬愛される偉大な神格である。
神様らしく奇行も大分目立つが。
「ガネーシャ、今日も元気だね」
「俺はガネーシャだからな!」
会話のキャッチボールが成立していない気がする。
ガネーシャ様の独特なコミュニケーションは有名で、オラリオに来たばかりの僕でも知ってはいたけど、本当に自分の名前を事あるごとに叫ぶ。
護衛で来ている眷属の疲れ果てた顔からも、ファミリアの団員の苦労が伺えた。
しかし、ガネーシャ様はただのエキセントリックな神様ではない。
群衆の主の名に恥じず、そのファミリアの力は大きい。
ギルドによるファミリアの評価は最高ランクのS。あの【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】と同等なのである。
なぜそんな大派閥の主神様と零細派閥の僕たちが対面しているかというと、先日の
ロキ・ファミリアの提案は突っぱねたが、【ヘスティア・ファミリア】が危機的状況にあるというレフィーヤさんの指摘は事実だ。僕は内心、スキルの存在を明らかにしても【ロキ・ファミリア】の庇護下に入るべきじゃないかと思ったんだけど、神様は初めから【ロキ・ファミリア】ではなく【ガネーシャ・ファミリア】を頼る気でいたらしい。
曰く、「犯罪者に襲われたら猟師会じゃなくて警察に行くだろ?」との事だった。
オラリオの憲兵として知られる【ガネーシャ・ファミリア】は、確かな実績と実力がある。
実力が最高峰でも肝心のロキ様を信頼できない【ロキ・ファミリア】より、この派閥を頼るべきだというのが神様の考えだった。
実際に奇行を目の当たりにするとこれで良かったのかと不安になったが。
「それで?なんで君がここにいるんだい?零細ファミリアの被害届を受けとるのは団員の仕事だろう?」
何か裏があるのではないかと勘ぐる神様。
神格は折り紙つき。しかしガネーシャ様も神だ。腹の内では良からぬことを考えている可能性も限りなく0に等しいがないとは言えない。
愛しいファミリアを守るために幼女神は警戒心を見せるが。
「ウム!ヘスティアのこどもが
存分に頼っていいゾウ!?と暑苦しく僕に迫るガネーシャ様。
子の心を思いやる神の鏡と言うべき考えだが、当のベルはガネーシャのハイテンションに若干引き気味だ。
「で、でも【ガネーシャ・ファミリア】の神様ですし、忙しいんじゃ……?」
「団員たちに余計なことはするなと怒られてな!仕事が回ってこないのだ!ぶっちゃけ暇だ‼」
(あ、コレ裏ないや。いつものガネーシャだ)
威風堂々とファミリアにハブられている現状を語るその姿に謀の影はない。
脱力しながらも、ヘスティアは疑い深くなりすぎた自分を反省する。
世の中には数こそ少ないが善神とて存在している。
ひねくれた目で周りを見すぎないようにしなければ。
「しかし成る程!ひみつ道具とは珍妙なものだな!
これから庇護下に入ろうと言うのに
正直かなりドキドキしながらの説明だった。だが、全てを聞いた後の発言がこれである。
ひみつ道具自体よりもそれを開発した異世界の人間たちに興味津々らしい。
やはり彼は群衆の主。
神々の中でも特に下界の人間たちを愛し、守護する存在だ。
人々の平和を脅かす
「少年の状況は理解した!ヘスティアと少年の安全は【ガネーシャ・ファミリア】が保障しよう‼まずは
(なんで最後自己紹介したんだろう……)
(多分意味ないから気にしなくていいぜ)
至れり尽くせりとはこのことだろう。
精々パトロール範囲内に、ホームの周りを入れる程度の対応だと思っていたヘスティアは飛び上がって喜んだ。
家賃の安さからどう考えても事故物件な前のホーム二つとは違い、Sランク評価のファミリアのホームに泊まれるのだ。どう考えてもこちらの方が快適だ。
最も、【ガネーシャ・ファミリア】のホームである【アイアム・ガネーシャ】は団員たちの間では超不評なのだが。なにせ彼のホームは30
そんなものに彼はファミリアの貯金からとんでもない額を溶かして建築したらしい。そして経理を担当する団員は、ブチギレてガネーシャの仮面を空にスパーキングしたんだとか。
「お前たちの情報提供に感謝する!
「……え?」
第一級冒険者が死を覚悟?
予想だにしていなかった情報に僕と神様は仰天する。
怖い人たちだと思っていたけど、
「断言はできん。だが、そうとしか思えない行動を取った者もいた。……ベート・ローガという【ロキ・ファミリア】の幹部なのだが……」
「「あ」」
何か嫌な予感がしてきた。
「ギルド本部の真ん前で黒髪ロリ巨乳への愛を叫んでいたらしい。日も暮れた時間帯に、探索から帰ってきた冒険者たちの目の前で想いを天に吠えたらしい。きっと心残りを残したくはなかったのだろうな‼」
「……」
ベートさんの奇行が耳に入ってくるが、青ざめる僕の意識からスルリと情報は通り過ぎてしまう。
キューピッドの矢だ。
御伽噺のように射られた相手の心を奪うあのひみつ道具で、神様への恋愛感情を植え付けられたあの人の醜態が思い起こされる。あの後、アレを大衆の前で……?
チラリと横を見ると、犯人の神様も顔を引きつらせていた。
一時のテンションで矢を投げた後、これヤバいんじゃない?と遅まきながら思っていたらしく、ベートさんの様子を心配していたけど、ここまでひどくなるとは……
これまで積み重ねてきた偉業を彼方に放り出すがごとき行為は、世の男性の尊敬を集め(でも間違ってもこうなりたいとは思えない)、女性に白い目を向けられ(もとから低かった評価は底辺を突き破ってマイナスと化したらしい)、そして神々は賞賛の声を上げた(そして彼ら彼女らの軽い口が噂を爆発的に広めた)。
「しかし【
そこでガネーシャはふと、ヘスティアを視界に入れた。
絶世の美女、そう表現できる彼女の姿を頭に入れて考える
黒髪……ロリ……巨乳……
「………………ふっ」
「その笑みなんですか!?」
「絶対勘違いしてるだろガネーシャ‼」
「なるほど!【
絶対に違います。
不味い、シリアスな空気が完全に吹き飛んだよ。
まさかここでベートさんがここまで存在感を放つとは思わなかった。
このまま勘違いさせていたら、いつかとんでもないことになる。
オラリオに来てから……スキルを発現させてから磨き上げられた直感がそう教えてくれた。
僕はそう思い、ベートさんの奇行はひみつ道具によるものであると訴えたが。
「なるほど……つまりガネーシャだな!?」
「どういうことですか!?」
「俺に任せろ‼【アイアム・ガネーシャ】ほど大きく造るのは、シャクティに小遣いを握られた俺では困難だが、ギルド前に銅像を建てるくらいならば何とかなる‼」
「何を言ってるのか分からないですけど、絶対に誤解解けてませんよね!?」
銅像ってなんだ。
まさかベートさんが愛を叫んだ場面を銅像にする気なのだろうか。
止めてあげてください。多分、もう元に戻ってます。
人の黒歴史を善意で掘り起こさないで。
結局、ちゃんと誤解を解くまで30分くらいかかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そうか勘違いだったか!ガネーシャ超反省‼」
ガハハと笑う浅黒い肌の偉丈夫に脱力するベルとヘスティア。
なんとかギルド前にベートの銅像が建つのは阻止できた。
「しかし第一級冒険者を惑わすアイテム……ひみつ道具か。確かにヘスティアが今まで秘匿していた事も頷ける」
困難ではあるが【
出てくるひみつ道具がランダムで、計画的に使うことができないというのは弱点だが、アドリブでその弱点を克服してしまえば何でもできるスキルだと言っても過言ではないだろう。
「しかし例の魔石の大量発生が少年のスキルによるものとは……」
「ご、ごめんなさい」
「いや!あまり気にするな!故意ではないのだから‼」
流石に都市を賑わせた騒動の真相にはガネーシャも神妙な顔にならざる得なかった。
そう簡単に暴ける答えではないが、ベルの存在が気づかれる恐れもある。
(情勢に与えた影響が大きいひみつ道具のことは何時までも隠すのは不可能。対応を誤ればヘスティアたちは
【ガネーシャ・ファミリア】は正義の組織とは言え、構成員はあくまでも人間。
ふとした気の迷いで重要な情報を漏らしてしまう者もいる。
ガネーシャの頭の中では、誰にベルの特異性を打ち明けるべきかピックアップが始まっていた。
「ガネーシャ。色々考えこんでいるところ悪いんだけど、もう一つお願いがあるんだ」
「ム?」
「ほら、キューピッドの矢で
「おお‼例の極彩色のモンスターか!」
「うん。あの子を君たちのファミリアで預かってほしいんだ。オラリオで唯一
キューピッドの矢による効果でベルたちの味方になった
こちらの勝手な都合で操ってしまったこともあり、用が済んだら処分などという酷い扱いはしたくなかった。
とは言え、この巨大なモンスターを隠しながら飼育するのは【ヘスティア・ファミリア】には不可能。
そこで、巨大なモンスターの飼育スペースを所有している彼らに引き渡そうと考えていたのだ。
……最もそれはガネーシャとあることについて話し合うための口実でもあるのだが。
「ベル君。ボクはこれからガネーシャをあの子の下に連れていく。君はその間にひみつ道具の詳細をこの用紙に書いておいてくれ。いやー突然こんなこと言いだして悪いね」
「は、はい」
ベルを適当な理由でホームに留める。
それを見てガネーシャも他言無用の話と察し、護衛を残した。
護衛たちはかなり渋ったが、ホームを魔改造するという脅しに屈したらしい。
ヘスティアとガネーシャの二柱はホーム近くの広い空間に向かう。
広い、といっても下水道の中にしてはといった感じでヴィオラスは窮屈そうだったが。
「これは……」
それを見た瞬間、ガネーシャの顔色が変わった。
仮面に覆われていない口元に浮かぶのは驚愕。
「……これを他に見た者は?」
「ロキがちらっと見ただけ。ボクをからかうのに夢中だったからあまりモンスターは意識してなかったみたい。……それでも、もしかしたらとは思っていると思う」
咄嗟に他の目撃者を確認するガネーシャ。
これがバレたら下界を揺るがす一大事だと理解しているヘスティアは素直に答える。
「やっぱり分かるよね、この異常性」
「ああ……これは、ガネーシャだ……」
「ホントに分かってるんだろうな?」
「スマン、間違えた」
いつもの口癖に思わずジト目になるヘスティア。
だが、ガネーシャの様子がおかしい。
驚いているのだが、モンスターに向ける視線は未知に対するものではない。
どうしてこれがここにいるのだという既知に対する驚きのような……
「そうか、恋心を植え付ける矢。心を持たないはずのモンスターに人間的な感情を植え付けた結果、人間の心を学習したのか……」
「ガネーシャ?」
「……これは隠し立てできんな」
いつも奇行に走る彼が滅多に見せない。偉大なる神の顔となった。
それはつまり、目の前にいるありえない存在はそれだけ危険だという事だ。
「ヘスティア。お前には話しておこう。このモンスターを知ってしまったお前にはその権利がある」
「……いいのかい?これ、不味い奴だろ」
「お前が邪な企てで動く神ではないことは知っている。ウラノスには後で俺から説明しよう」
ウラノス。
都市の最高神の名前にヘスティアは身体を固くした。
間違いない。これは
可能性が蔓延る下界が生み出した特大級の爆弾だ。
「このモンスターは通常のモンスターではない。理知のあるモンスター……
物語の流れが変わる。
もう、引き返せない。
はい。ヘスティアがロキを信頼できなかった最大の原因です。
孤児たちの守護者であるヘスティアは、キューピッドの矢直感的にヴィオラスがそう言った存在になったと感じていました。
このモンスターが下界をかき乱す要因にもなりえるとも。
そして、ロキとはこのモンスターへの対応で相容れないと考えたヘスティアは、ロキがヴィオラスの異変に気付く前にその場を離脱しました。(ロキもこの時のヘスティアの様子から何かあるとは思ってましたが)
このヘスティアの対応にモヤモヤする人もいると思います。
はっきり言って結構失礼な態度ですし、もっとスマートなやり方だってあったでしょう。
でもヘスティアはそんな器用な立ち回りはできないキャラだと考え、あの様な行動を取らせました。
作者は批評意見はOKというスタンスなので、今後も何かキャラの言動等でモヤモヤすることがあったら遠慮なく感想を送ってください。
こちらが間違っていると感じたら修正等の対応をさせていただきます。
ドラえもんはどの回に登場してほしいですか?
-
3巻(VSミノタウロス)
-
4巻(日常回)
-
5巻(VS黒ゴライアス)