ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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パーティー結成

 ダンジョンに潜る時、ベルはいつも一人だった。

 団員が一人しかいない新興ファミリアの定めなのだ、現状に不満を抱くことは無かったが、それでもダンジョンに潜っている時に連携してモンスターを倒すファミリアや、探索でヘトヘトになった帰りに見る他のパーティーの冒険者たちの様子を見るたびに、羨ましいという思いはあったのは否定できない。

 

 他のファミリアに助力を求めようにも、ベルには実力がない、お金がない、人脈がない。

 ないない尽くしの新米冒険者。生活が懸かっているダンジョン探索にそんな奴を連れていくことは無いだろう。

 命を預ける仲間は同じファミリアの方が信用できるに決まっているし、ファミリア外の冒険者と組むならば、そのファミリアの団員に勝るものがなければならない。

 

 ベルがこれならば勝っているだろうと自信を持って言えるのはひみつ道具のみ。

 他言無用とヘスティアに釘を打たれている以上、強力なひみつ道具を交渉材料に加えることもできない。

 何かほかに有益な魔法なりスキルなりがあればいいのだが、そんなものそうポンポンと生えては来ないだろう。

 だからパーティーのメンバーを見つけるまでは、一人でやるべきなのだろうとも思っていた。

 

 彼女と出会う幸運がなければ、僕のパーティーデビューはずっと先だっただろう。

 

「ベル様、改めてリリを正式に雇っていただいてありがとうございます」

 

 燐光を宿すダンジョンに入ったリリは、振り向いてお礼を言う。

 ありがとうは僕のセリフなんだけどな。どう考えても闇派閥(イヴィルス)に目を付けられた僕との契約なんて打ち切られたっておかしくない。

 

「今日はどのくらいまで潜りましょうか?」

「えっと、とりあえず7階層でまた粘ろうと思ってるんだけど、どうかな?」

 

 念願のパーティーを組めたのはいいけれど、それで調子に乗って階層を下げればエイナさんに怒られるのは火を見るより明らかなことだ。

 一歩前進したら急がずに地盤を整える。冒険は最小限に。

 

「ベル様がそうお決めになったのなら。ですが、いいのですか?リリは戦うことができませんが、このパーティーにはもう一人冒険者様がいます。もっと下の階層も目指せるかと」

 

 そう言いながらリリが視線を向けるのはヒューマンの青年。

 彼の名はモダーカ。

 【ガネーシャ・ファミリア】から派遣された僕の護衛。

 

「えっと……モナカ様でしたか?」

「モダーカだ」

「失礼しました。モダーカ様の実力ならば下層のモンスター程度敵ではないでしょうし、もう少し強気の階層を目指してもいいのでは?」

「確かにモダーカさんなら下層のモンスターくらいわけないだろうけど、モダーカさんはあくまでも闇派閥(イヴィルス)に対する護衛で、僕たちのパーティーってわけじゃないから」

「大体、俺がこいつに掛かりきりでいられるわけじゃない。上級冒険者が下級冒険者の探索に首を突っ込みすぎると、下級冒険者は育たないからな。俺はヤバくなった時だけ手を貸してやる」

 

 彼の言う通りだ。

 神様の受け売りだけど、僕たちの恩恵(ファルナ)は倒した敵の数じゃなくて、その人にとってその行動がどんな意味があるかが重要だ。

 先輩のお零れにあやかる様な人間を神の刻印は評価しない。

 

 努力しない冒険者は行き詰まる。

 どんなに強力な魔法を持っていても、どんなに希少なスキルを発現させても。

 持って生まれた才能に胡坐をかいているだけの冒険者がランクアップを果たすことは無いのだ。

 

「それより、リリは大丈夫?魔石とかドロップアイテムとかで凄く重くなると思うんだけど」

 

 リリの背負うバッグパックを見る。

 小人族(パルゥム)の彼女よりも大きなそれは、確かに僕が持っていた支給品のバッグパックよりは多く収納できるのだろうけど、あんなにたくさん入れたら重量がすごそうだ。

 

「ご心配なく。スキルの補助で荷物が負担になることはありません」

「重量に対する能力補正か?」

「はい。運搬作業で足手まといになることはありませんよ」

 

 物を運ぶときに補正をかけるスキル。

 そんなものもあるのかと驚く。

 ひみつ道具は色々な種類があるけれど、冒険者のスキルも多様性は負けてない。

 

「あと、本当に契約金とか前払金とか払わなくてもいいの?」

 

 もう一つ、気になっていたことを確認する。

 僕とリリの契約に前金やら契約金なんてものはない。報酬はその日の探索でダンジョンでとれた分から分け前を出す。

 あんまりにも僕に都合のいい契約に、つい心配になる。

 これじゃリリばかり損をすることになってしまう。

 

「いいんです。リリはベル様の将来性に賭けているんです。信頼のためのサービスは怠りません」

 

 いいのかな……

 僕、一応雇っている立場なのに。

 

「今日の探索でたんまり稼いでくれればいいのです。そうすればベル様もリリも懐が潤ってウハウハ。何も問題はありません」

「もう、プレッシャーだから止めてよ……」

 

 全ては僕の腕に掛かっている。

 ちょっとお腹が痛くなった。

 もし、今日の探索が赤字だったら僕のなけなしのお小遣いから絞り出そう。

 密かに僕はそう決意して、7階層を目指した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 なんだコイツ。

 モダーカは思わずそう呟いた。

 

 普通の少年だと思ってた。

 物腰が丁寧で、思いやりもできる。荒くれ者ばかりの冒険者には正直向いていない。

 だから、精々半月程度の経験(キャリア)で7階層に向かうと言っていた時は呆れたものだ。

 新米冒険者が陥りがちな慢心だと。安全な上層に満足できなくなって、十分な積み重ねをせずに到達階層を増やす愚行だ。

 

 それでもモダーカは何も言わなかった。

 恩恵(ファルナ)を授かって全能感を堪能しているうちは、そんな先輩の正論など鬱陶しいだけだ。

 恥ずかしながらモダーカにも覚えのある心理。

 こういった場合は無理に諭すのではなく、一度痛い目にあって学ぶべきだ。

 ランクアップを果たしているモダーカにとってみれば、こんな上層のモンスターから冒険者を救うことなど訳はない。闇派閥(イヴィルス)も暗黒期ならばともかく、【ガネーシャ・ファミリア】がいるこの状況で襲ってくる可能性は低い。先の敗戦は闇派閥(イヴィルス)から大幅に力を奪ったはず。下級冒険者のために力を割く余裕はないだろうとモダーカは思っている。横やりはないだろう。

 最も、この世に絶対などないので、気を抜くつもりはないが。

 

 そうして7階層でのベルの戦いぶりを見た。

 なんだコイツ。

 

 まず現れたのはパープルモス。

 自身の最大の武器である毒鱗粉をばら撒こうとするが、パープルモスの応戦距離に入った途端、ベルは勢いよく飛び出した。

 パープルモスの毒鱗粉に即死性はないとはいえ、放っておけばボディーブローのように徐々に体力は削られていく。だからこそパープルモスを見かけたら即対処。これが冒険者の常識だ。

 

 これを見た時はまだ冷静でいられた。

 よく勉強しているなと、お手本通りの行動を取ったベルを賞賛する余裕もあった。

 しかしこの次が問題だ。

 少し進むとキラーアントの大群に襲われたのだ。

 その数5体。【新米殺し】とも呼ばれる凶悪なモンスターが、大量に現れる事態にモダーカは舌打ちした。

 

 どこかのはた迷惑な冒険者がキラーアントを仕留め損ねたらしい。その証拠にベルの前に立つ一体は今にも死にそうだ。

 キラーアントは死にかけると特殊なフェロモンで仲間を呼ぶ。

 このままでは次々とキラーアントが階層中から集まってくるだろう。

 

(これは流石に新米には荷が重い)

 

 痛い目に合うどころか一瞬でなます切りだ。

 少し考えた後、モダーカはそう結論付けた。

 これは自分の助けが必要だと、得物を抜こうとするとそれより早くにベルは動いていた。

 

「な、馬鹿!」

 

 駆け出し冒険者の余りにも無謀な突貫に、思わず叫ぶモダーカ。

 パープルモスへの対処から、よく勉強している新人だと思っていたからこそ、ベルがこのような自殺紛いの行動に出ることが予測できなかった。

 脳裏によぎるこれから起こるであろう惨劇を阻止すべく、モダーカはベルの下に向かおうとして、目の前で展開された光景に足を止める。

 

 宙にキラーアントの首が浮いていた。

 人類に仇を成すモンスターでありながら、呆然としたその顔はどこか間抜けに思える。

 恐らく己も似たような面を晒しているのだろうとモダーカはぼんやりと考えた。

 

 斬ったのだ。

 鎧のように体の表面を覆う甲殻の隙間を狙い、奥の肉を断つ。

 駆け出し冒険者には困難な、対キラーアントのセオリーをあっさりとこなす。

 

(あいつ、立ち止まっていなかった……)

 

 モダーカが驚いているのはモンスターを倒したことではない。

 倒すだけならば、ステータスが低くても研究を万全にしていれば可能だ。珍しいがあり得ないことでもない。

 しかし、ベルの倒し方が問題だった。

 通常、経験の浅い冒険者がキラーアントと戦う時は足を止める。熟練の冒険者からすれば敵の前で立ち止まるなど失笑モノだが、甲殻を斬るステータスも、急所を的確に狙う技術もなければ必然的にそうなる。

 そして棒立ちになった冒険者の中には、時折キラーアントの爪を無防備に食らってしまうものもいるのだ。キラーアントが【新米殺し】と恐れられる理由は、堅固な防御力に凶悪な武器()を併せ持つから。この組み合わせに初期の頃は誰でも苦戦する。

 【ガネーシャ・ファミリア】の先達として、新人のお守りをさせられることもある青年はよく、そのことを知っていた。

 

 だがベルは止まらなかった。

 キラーアントに反撃の隙を与えないように、スタートダッシュの勢いのままにキラーアントの首を跳ね飛ばしたのだ。

 立ち止まって攻撃するのと、走りながら攻撃するのとでは、後者の方が圧倒的に難易度が高い。

 体が揺らされて腕がブレがちになり、タイミングよく腕を振るわなければ力も中途半端にしか入らない。おまけに高速で動くほど目標の目視が困難になる。人間は並行してアクションを起こすことが難しいのだ。

 しかしベルはその難易度の高い行動を成功させた。

 ステイタス頼りの強引な攻撃ではなく、確かな技を感じさせる精密さで。

 

 まるで自分の体をどう動かせばいいのかが最初から分かっているようだ。

 

「お前……初心者だよな?」

「?はい。まだ半月くらいしか経ってません」

「俺の知っている初心者は、キラーアントをナイフ一振りで二体同時に葬ったりしないんだがなぁ」

 

 あっさりとキラーアントを全滅させたベルは自分の異常さに気が付いていないようだ。

 こいつヤベェ。

 

 ぶっちゃけモダーカはリリのことを胡散臭く思っていた。

 将来性に期待して契約金なしとかあるわけねーだろとも。

 その疑いが少し揺らいでしまうほどの規格外。この才能と縁を持つためならば多少の損は目を瞑るだろうと思ってしまうほどだ。

 これでひみつ道具なる異世界のアイテムを具現化するスキルまで有しているのだから末恐ろしい。条件がそろえば格上殺し(ジャイアントキリング)が成立できる。

 

(とんでもない新人(ルーキー)が出てきたな)

 

 今期の有望株はヤマト・命とやらだと思っていたが、それ以上の逸材が現れたかもしれない。

 壁を超えれば、団長(シャクティ)たちのような第一級冒険者にも届く才能と出会えたことをモダーカは感謝した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(やっぱり驚いてますね)

 

 モダーカの動揺を見て、()もありなんと頷く。

 上級冒険者から見てもベルの成長速度は異常なのだろう。

 或いは上級冒険者だからこそ、自身の経験と比較できるから、その異常さに気づいてしまえるのかもしれない。 

 

 本当にアンバランスな少年だ。

 一見すると普通の子どもで、人の悪意にも鈍感、荒事家業にはまず向いてない。

 にも関わらず、常識はずれな成長速度。

 前回の探索の時よりも動きが鋭くなっているようにすら感じられる。

 

(それに、成長しているのはステイタスの上昇だけじゃない)

 

 キラーアントの爪を回避すると同時に放った蹴り。

 純朴な少年らしくない野性的な動きには見覚えがあった。

 先のレクリエーションで、偶然その戦闘を見る機会があった【凶狼(ヴァナルガンド)】のものだ。

 威力は比べ物にならないが、あの超攻撃的な姿勢をベルは取り入れ始めている。

 同じく敏捷性にものを言わせたスタイルが共通しているからか、その動きに違和感はない。

 モダーカもベルの一連の動きが今日初めて取り入れたモノとは思わないだろう。

 

(冒険者としての可能性は底知れない……でも人間的には未熟。付け入るスキがある……そう、思ったんですけどね)

 

 チラリと群衆の主(ガネーシャ)の紋章のついた装備を身に着ける青年を確認する。

 先の闇派閥(イヴィルス)との一件で、ガネーシャ・ファミリアが少年の護衛についてしまったのは想定外だ。

 護衛が付くのはしばらくの間だけだろうが、小悪党としては非常に不味い。

 

 第三者から見て自分の胡散臭さは自覚している。

 ベルの知人に指摘された程度ならどうとでも誤魔化せる自信はあったが、【ガネーシャ・ファミリア】はダメだ。

 公的な治安機関である彼の言葉の信頼は絶大。

 お人好しのベルでも無視できない影響力がある。

 

 それどころかリリのこれまでの悪行に勘づかれる可能性もある。

 【ガネーシャ・ファミリア】の悪行に対する嗅覚は有名だ。どれだけ隠していても、彼らはその隠そうとした行為から真実を探り当てる。

 これ以上ベルの近くにいるのは危険。

 身の安全を考えるのなら契約などすべきではなかった。

 

 しかし、リリはベルが正契約の話を持ち掛けた時、一も二もなく飛びついた。

 【ガネーシャ・ファミリア】を騙し通せる自信があったわけではない。

 リリはそんな確証のない賭けなどやらない小人族(パルゥム)だ。

 それでもこの契約を引き受けたのは現実逃避だ。

 もはや【ソーマ・ファミリア】は自分を逃さない。この少年との契約関係が切れれば、ザニスはリリを使いつぶすだろう。聡明なリリの頭脳はそう理解していた。

 新しい契約相手を探す時間などない。リリはベルとの契約に縋るしかないのだ。

 

「皮肉ですね……」

 

 呪縛を忘れられるこの時間は、嘘と悪意で造られた偽りの関係。

 きっとすぐに終わりが来る。

 【ガネーシャ・ファミリア】が気づくか、少年が気づくか、リリが終わらせるか。

 短い付き合いのつもりで造った歪な空間がリリの最後の()()とは、天の神々が見たらきっと大笑いしていることだろう。

 

 自分の滑稽さを自嘲しながら、それでもリリは現実逃避を止められない。

 あの男に会いたくない。

 あの(ホーム)に帰りたくない。

 【ソーマ・ファミリア】を少しでも忘れていたい。

 

「リリ、そろそろ行こう」

 

 無意識に魔石集めを修了させていた少女に少年は話しかける。

 何も知らない眩しい笑顔。

 その温かさは少し、心地よくて……

 リリは心を氷で覆う。

 知ってはいけない。溺れてはいけない。

 心を許せば後がつらくなる。

 

「はい!ベル様‼」

 

 小人族(パルゥム)の少女は、従順な少女の仮面を被って素顔を隠す。

 仮面の奥の自分の表情に気づかないふりをして、リリはダンジョンの奥へ足を進めた。

 

「……」

 

 そんなリリを見てベルは少し悲しそうに表情を歪めた後、頭を振って彼女の後を追うのだった。




 久しぶりにベルの無双回。
 ひみつ道具なしでもこのくらいはできるようになりました。

ドラえもんはどの回に登場してほしいですか?

  • 3巻(VSミノタウロス)
  • 4巻(日常回)
  • 5巻(VS黒ゴライアス)
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