ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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水晶柱の挟撃

 (エアリエル)によって伸びた滞空時間を利用して、通常ではあり得ない跳躍を繰り替えし、ポジショニングを止めどなく行う。

 第一級の力を持つと予想される二人を相手に足を止めて応戦することは自殺行為だ。

 アイズの魔法は防御力も向上させるが、あの人外じみた怪力に晒され続けても問題ないと言えるだけのものではない。

 ガレスのような受けの技術を持っているのならばともかく、ヒューマンとしての適正レベル程度の耐久の熟練度しか持たないアイズでは数発食らっただけで致命傷だ。

 

 だからこそ、足は止めずに自分に優位な空中での戦いを維持し続ける。

 この場で戦う三人の中で最も空中戦に長けているのはアイズ。ほんの少しの戦闘でそれを見切ったアイズは、そこに活路を見出した。

 戦いにおいて背後と頭を取られることは死と同義。

 戦うものならば誰もが知るその鉄則を、アイズは味方につける。

 迂闊に手を出せば手痛いしっぺ返しを食らう。そう印象付けることで相手から積極的な選択肢を除外させた。

 

 仮面の男が大地を蹴り、襲い掛かるが、それをアイズは宙に浮かぶ花弁の様にふわりと躱して見せた。そして、空中で無防備になった男を斬りつける。

 咄嗟に腕を交差し防御の構えをとる男だが、人の腕が剣を防げるはずが……

 

(!?)

 

 その時、アイズが感じたのは異常な硬さ。

 人間を斬るつもりで放った一撃であったために、その剣撃は男を地面に撃墜させるに留まった。

 

(ガレスが言っていた赤髪の人の固さと同じ……この人も?)

 

 スキルによる加護か、それとも魔法(エンチャント)か。

 装備、アイテム、身体改造……様々な可能性が脳裏に浮かんでは消えた。

 仲間らしき赤髪の女と同じ特徴というところから、ステイタス上の能力である可能性は低いが。

 

「ようやく止まったか」

「!」

 

 仮面の男の攻撃を対処したことでアイズの動きが空中で止まる。

 それを待ち構えていたようにレヴィスが迫った。

 だがアイズもレヴィスの考えは想定済み、剣を構えて迎え撃つ姿勢を取る。

 アイズの空中戦の高さはあくまでも足場があっての物、踏ん張りの効かない空中に留まってしまえば、いかに風を纏っていようとも先ほどまでの剣撃は不可能。

 そう考え、レヴィスは必勝を期した平刺突(ひらつき)を繰り出す。

 

 だが、彼女は【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 その二つ名は、アイズが魔法(エアリエル)だけの冒険者ではないことを示している。

 アイズは自らに迫る紅蓮の刃を確認すると魔法を解除、風を霧散させた。

 今までのように力任せに弾く戦い方だと予想していたレヴィスは怪訝な表情をするが、その先で見たアイズの行動に驚愕する。

 

 猛然と突進するレヴィスの刺突に対し、アイズは剣を添わせた。

 そして、レヴィスの赤い大剣を滑るように受け流して見せたのだ。

 そのままぶつかり合うような至近距離で互いの視線を躱す両者であったが。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 アイズは再び詠唱し、神秘の風を纏う。

 その風に押されるレヴィスであったが、彼女も只者ではなかった。

 即座にアイズの狙いを看破し、アイズの鳩尾(みずおち)に掴み掛り、装備ごと肉を引きちぎった。

 

「くっ!?」

「~~っ!!?」

 

 空中で弾かれて水晶の柱に激突するアイズとレヴィス。

 レヴィスは持ち前の頑丈さで、何事もなかったかのように立ち上がるが、アイズのダメージは深刻だった。

 鮮血が溢れ出る腹部を抑え、何とか高等回復薬(ハイ・ポーション)で治療する。

 傷こそふさがったが、アイテムによる治療はあくまでも応急処置。

 腹部に残る灼熱のような痛みは消えない。

 

「クククッ……随分と苦しそうだな?剣姫?」

「……」

「その苦しみは果たして今の負傷だけが原因か?」

 

 アイズの取った空中戦での時間稼ぎは諸刃の刃だ。

 発展アビリティ【精癒】を持たないアイズでは精神力(マインド)は、魔法を使えば使うほどに減っていく。アイテムで回復しようにも、一時的に戦闘が中断された今とは異なり、高速戦闘中にアイテムを使う隙などなかった。

 そして、アイズの切り札とも呼ぶべき【エアリエル】であるが、決して何のデメリットもなしに行使できる奇跡ではない。

 アイズの風は強力ゆえに、ヒューマンに過ぎないアイズの体は連続で使うと悲鳴を上げる。仮面の男の指摘通り、レヴィスから受けた傷以外にも、風を纏い続けた代償にアイズの体は既にボロボロだった。

 

 戦闘が中断されている今ならば、とも考えていたが、鋭くこちらに注意を向ける赤髪の女が二つ目の回復薬(ポーション)の使用を許すとは思えない。

 こんな時に体力と精神力(マインド)を同時に回復できる回復薬(ポーション)があればいいのだが、その開発にはまだ成功していないらしい。

 あのアミッドすら研究に難航しているというのだからその実現は当分先だろう。

 

「我々はお前を必死になって仕留めにかかる必要はないのだよ。お前はその魔法の代償で勝手に消耗していく。我々は時間をかけてお前が弱るのを見ているだけでいい」

 

 勝ち誇ったように笑う仮面の男の言葉に歯噛みする。

 このデメリットがあるために、アイズは独力で二人を打倒するという選択肢を捨てた。

 死に物狂いになれば一人は確実に討てるが、もう一人を討つ前に限界が来る。

 

 このアイズの諸刃の選択が吉と出るか、それとも凶と出るかは援軍を呼びに行った冒険者次第だろう。

 微かに聞こえてきた声では【泥犬(マドル)】を行かせると聞こえた気がするが。

 たしか、その名はこの街に来て最初の日に食人花に囲まれていた所を助けた【ヘルメス・ファミリア】所属の犬人(シアンスロープ)だったはずだ。

 レベルは2……に偽装した3だったはず、食人花に囲まれてもそこそこ立ち回れるだけの実力があるのは確認済みだ。

 彼女がフィンのいる場所にたどり着くまでアイズが持ちこたえられる可能性は、どれだけ甘く見積もっても5割に満たない。

 

 仮面の男が勝ち誇るのも当然の状況。

 だが、持ちこたえなくては。

 ここでは死ねない。

 アイズには悲願がある。命を賭してでも果たさなければならない誓いが。

 胸の奥で燻る黒い炎は自身を殺す狂気の刃。

 アイズを地獄へ追いやるこの憎しみが、戦場ではアイズの活力だ。

 

(血を流しすぎた……今までのような高速戦闘は出来ない。味方は引き上げを完了しているから、ここからは水晶に隠れるような戦い方でとにかく攻撃を受けないように……)

 

 幸いなことにこの二人は連携する様子が無い。

 レヴィスは仮面の男をいないものとして扱っているし、仮面の男などは露骨にレヴィスを見下している。

 本当に仲間なのかと言いたくなるが、そのおかげで首の皮一枚で生き延びられているのだ。

 もし、この二人が協力し合えば間違いなくアイズは為すすべなく討たれるだろう。

 

 一対一を心掛けて、足を止めずに動き回る。

 結局やることはダンジョンと変わらない。

 そう考えると少し気が楽になった。

 

 少しでも体力を温存するために魔法を解除し、乱立する水晶群に身を隠す。

 息が詰まる様な遅滞戦闘が始まった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(何のつもりだ?)

 

 アリア……剣姫と呼ばれた金髪のヒューマンは、この期に及んでもまだ時間稼ぎに徹している。

 それがレヴィスにはどうも不可解だった。

 いくら連携をしていないとはいえ、自分たちは共に第一級冒険者クラスの身体能力を持つ。

 更には周りの冒険者が撤退したせいで、芋虫(ヴィルガ)や狂信者どもの相手も一人で(こな)さなければならなくなっている。

 こうなれば稼げる時間などたかが知れている。

 冒険者たちが援軍を要請して、編成した援軍がここまで行軍する時間を計算すると、どう考えても冒険者たちによる援軍は間に合わない。

 気もしない援軍に期待するくらいならば一か八かに賭けて特攻、そう考えると踏んでいたのだが何故時間稼ぎに固執するのか。

 

(コイツは向こうが勝手に消耗してくれるだけ有難いなどと能天気なことを言っているが……あぁ、嫌な予感がする)

 

 悪趣味な仮面を被るあの男は仮にも指揮官であったはずだ。

 それがこの期に及んでどうして楽観できるのか。

 冒険者がそんな容易い存在であったならば、自分たちはこうも苦労はしていない。

 自分以下の相手とばかり戦っている小者では、視野が狭いを通り越しておかしな妄想を見ている闇派閥(イヴィルス)の狂信者どもを相手にお山の大将を気取っているのが限界か。

 

(見慣れた鬱陶しい眼だ。希望を見失わぬ、しぶとい冒険者だ……あの白髪頭の子どものように)

 

 金色の瞳の先に、まるで似つかないはずの深紅(ルベライト)の瞳を幻視する。

 あの日の冒険者を思い起こすのは、最も間近な記憶に残る屈辱がこの身の奥で煮えたぎっているからか。

 何の力もないはずの矮小な存在の足掻きが、予定調和を狂わせることをレヴィスはよく知っていた。

 

「策があるのか……それとも仲間に対する信頼か、どちらでもいい。諸共屠るだけだ」

 

 小細工に乗る必要はない。

 既に相手は十分に消耗している。 

 レヴィスに敵を加虐して興奮するような性癖はない以上、速やかにケリをつけるべきだ。

 アレに渡すのは死体でも構わないだろう。

 暫くはうるさいかもしれないが、こちらは仕事の最中にくだらない茶番に付き合わされているのだ。文句を言われる筋合いはない。

 

「さあ、やるぞ‼剣姫の首を獲ったとあれば、彼女も喜ぼう」

 

 一人盛り上がっている男を冷めた目で見つめる。

 この男は闇派閥(イヴィルス)の狂信者を見下していたが、レヴィスからすれば男も同じ穴の狢だ。

 信じがたい話だが、この男にはアレが女神か何かに見えているらしい。

 アレに拾われる前は死にかけていたようなので、その時に気が触れたのだろう。

 

(それとも【ロキ・ファミリア】とやらがそれほどまでに気に入らないのか)

 

 レヴィスは地上のことは何も分からない。

 目下最大の障害であるという【ロキ・ファミリア】についても、エニュオが特に警戒すべき派閥(ファミリア)であると言っていたのを覚えていただけだ。

 元闇派閥(イヴィルス)らしきこの男には、執着するだけの理由があるのかもしれない。

 そこまで考えて思考を中断する。

 この男の内心などレヴィスには関係のない話だ。

 今はただ目の前のアリアを仕留め、アレの前に連れ出せばいい。

 

(だが、そう簡単には行かないようだな)

 

 レヴィスが感知すると同時にそれは姿を見せた。

 水晶群の奥から突如として発生した巨大な魔力。

 乱立する柱を照らす翡翠色の輝きは、魔導士たる証の魔法円(マジックサークル)か。

 それまで無秩序に蠢いていた芋虫(ヴィルガ)たちがぐるんっ、とその魔力に引きつけられて方向転換する。

 

 あれほどの巨大な魔力を有する魔法ならば超長文詠唱。

 詠唱文を言い切る前に芋虫(ヴィルガ)たちが圧し潰す。

 初めは予想よりはるかに速い援軍に動揺していた仮面の男だが、そう結論付けると落ち着きを取り戻す。

 だが、予想はまたしても裏切られる。

 芋虫(ヴィルガ)たちが魔導士の位置を把握するより早く、魔法は放たれたのだ。

 極彩色のモンスターを襲うのは三条の吹雪。

 この世の果てにあるという極寒の地から直接召還したかなような、無慈悲な絶対零度の暴風はモンスターたちを容赦なく凍らせ、その指揮をしていた二人や闇派閥(イヴィルス)たちに襲い掛かる。

 二人は咄嗟に躱すことができたが、闇派閥(イヴィルス)は為すすべなく氷像と化した。

 

(ちっ、凍り付いた芋虫(ヴィルガ)闇派閥(イヴィルス)が邪魔でこれ以上の行軍は出来ないか)

 

 元々、当てにはしていなかったが、こうも役に立たなければ苛立つ心は抑えられない。

 特に自爆兵など、爆発する前に凍り付いてどうするというのか。

 

「がああああっ!?おのれええええ‼」

 

 仮面の男は直撃こそ避けたようだが、左腕に魔法を掠めたのか肘が凍り付いていた。

 痛みに仮面から覗かせる口元を苦痛に歪め、唾を吐く勢いで激怒している。

 既に手勢は壊滅状態だが関係ない。もとより奴らはただの捨て駒だ。

 あれほどの魔法をいかにして発動まで隠し通したのかは分からないが、魔法は連発できるものではない。

 強力な一撃で自分たちを仕留められなかった以上、後は無力な魔導士が存在しているのみ。

 この痛みの返礼はその命で代えさせてやろうと殺意の刃を研ぐ。

 

 だが、相手は【ロキ・ファミリア】。

 凡百の冒険者たちとは格が違う。

 入り組む水晶群を縫うように一条の光がその姿を見せる。

 

「っ小賢しい真似を!」

 

 先ほどの大規模な魔法を(デコイ)に、別の魔導士がこの魔法を隠していた。

 その事実に気が付き、男は悪態をつきながら傍にあった柱を蹴り、空中に逃れる。

 鈍すぎるその魔法など、男からすれば見てからでも対処できるものだ。

 

(馬鹿が)

「何!?」

 

 だが、その光の矢は北西地区で存分に闇派閥(イヴィルス)を蹴散らした魔導士によるもの。

 狂信者たちを震撼させたその属性は必中。

 男の目の前で曲がったその魔法は、空中で動けない体に直撃する。

 

 その魔法を知っていたレヴィスは男の油断を内心非難するが、何も忠告をしなかった。

 する意味がないからだ。

 

「こんな花火で彼女に愛されたこの体が傷つくとでも思ったか!」

 

 モンスターと同質の頑強さを持った男にとって、この程度の魔法など小突かれた程度のものだ。

 故に対した苦痛もなく受け止められた。

 それだけにしてやられたという怒りが燃え上がる。

 

「絶望しろ!名も知らぬ魔導士‼貴様の魔法など私には何の痛痒(つうよう)ももたらさない!」

 

 必ずや自分がその愚か者を殺してくれると息巻く仮面の男であったが、この魔法を行使した少女は小さく呟いた。

 

──そんなことは承知の上です。

 

 小突かれた程度のダメージしかないという事は、小突かれたくらいの影響はあるという事。

 ならば意味はあるのだ。

 

「……!?何だ!?」

 

 魔法に突き飛ばされた仮面の男が向かう先に、突如として現れる桃色のドア。

 中から開けられたドアの中にはここではないどこかの光景が広がっている。

 空中で方向転換などできるはずがなく、男はそのままドアの中に入っていき、男を飲み込んだ桃色のドアは閉じられると同時にその姿を消した。

 

(今のは何だ?この異様な街の機能なのか?)

 

 想像外の方法で男と分断されたレヴィスは、その光景に思わず動きを鈍らせる。

 その隙をアイズは見逃さなかった。

 

「はあああっ‼」

「ぐっ!?」

 

 水晶の陰から飛び出したアイズの鋭い一閃に、レヴィスの顔が初めて歪む。

 超人的な反射神経で致命傷は避けることができたが、その右腕には赤い直線が刻まれていた。

 大地を濡らす鮮血を感じながら、その瞳は目の前の人物を鋭く睨みつける。

 

「アリア……っ!」

「その名前をどこで知ったのか、あなたを捕まえて聞き出す」

 

 剣を向けるアイズは、消耗していながらもその戦意は微塵も陰らない。

 第一級冒険者と思しき魔導士と、地下水路で遭遇した油断ならぬエルフ、そしてアリア。 

 形勢は既に逆転されたと悟るには十分だった。




 書いてるうちにレフィーヤが思っていたよりヤバい奴だったことに気が付きました。
 必中の魔法に、深層のモンスターすら倒す超広範囲魔法。
 極めつけはエルフの魔法ならいくらでもコピー可能という特性。

 レベル3で精神的に未熟と言う枷がないと、ダンまち世界でぶっちぎりのチートですね。
 その枷は最新刊でなくなってますし、今後が楽しみなキャラです。
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