「あ‼ベル様ーー!こちらですよー!」
日も傾き出した頃、相変わらずの盛況ぶりを見せる【豊穣の女主人】に足を踏み入れた僕をいち早く発見したリリが奥のテーブルからぶんぶんと手を振ってきた。
なんだかとても嬉しそうだ。
元々小動物っぽい可愛さがあるリリだけど、最近それに磨きがかかってきている気がする。
こう、足元でじゃれつく
【ソーマ・ファミリア】との因縁に一応の決着がついて、開放的になっているのだろうか?あんなリリを見ていると頑張って良かったと思える。
(まぁ、僕は大したことはできなかったけど)
でも、幸せそうに笑うリリのほんの少しでも支えになれたのなら本望だ。
準備されたテーブルにはリリだけではなく、シルさんやリューさんもついていた。
予約より早めに来たつもりだったが、僕が一番最後らしい。
「ごめんなさい。結構待ちましたか?」
「いいえ?私たちもさっきついたばかりですよ」
「謝らなくて結構です。クラネルさん。この前に
僕の謝罪も微笑みをもって流すシルさんと静かに返答するリューさんに促されて席に腰かけた。
よく考えたらパーティーを開いてもらうなんて初めてのことだし、持ってきたひみつ道具もどのタイミングで出すべきだろうか。
「クラネルさん。まずはおめでとうございます。よもやこれほど早くに【ランクアップ】を成し遂げるとは……どうやら私は貴方を見誤っていたようだ」
乾杯の後すぐに頂いた祝いの言葉に照れてしまう。
リューさんはとんでもなく美人だからすごい緊張してしまうのだ。
「い、いやぁ……」
「そうですよ~ベルさん?あんな偉業を成し遂げてランクアップした冒険者様なんてきっと歴史上いませんよ」
「シルさん……」
「そう‼ギルドの真正面で幼女に愛を叫び、追手の【ソーマ・ファミリア】をロリコンパワーで薙ぎ払い、立ちはだかるレベル2のDV男を倒すなんて偉業、後にも先にもベルさんだけにしかできません!」
「違いますよ!?」
きっと
『ベル……あぁ、ロリコンか』
『【ヘスティア・ファミリア】で幼女二人を囲っているってあの?』
『白髪のヒューマン……間違いねぇよ。二人目の勇者()だ』
『この街でギルドに喧嘩を売るとは……若い時は無茶するもんだな……』
『レベル1一人で【ソーマ・ファミリア】倒したってホントかよ』
『マジらしいぜ?ダイダロス通りの住人が噂してた。ロリと結婚するために【
『漢だな……』
『あいつと【
『つーか大丈夫かあそこ。ガチで幽霊に呪われてるんじゃね?』
『ずっと勇気が出せなかったけど俺もそろそろ覚悟を決めるか……ッ!』
『乗るしかないっ、このビッグウェーブに‼』
『おい誰か【ガネーシャ・ファミリア】連れてこい』
散々な言われようである。
なんでこうなってしまったのか。
よく考えなくともエルフの少女に変身していたリリに言った台詞のせいなんだろうけど。
あの時は兎に角必死だったから何言ったのか覚えてない。
「えへへ……困りましたね」
元凶と言えなくもないリリはもう満面の笑みだ。
可愛いけど少しは誤解を解いてください。
「クラネルさん。落ち着いてください」
「リュ、リューさん……でも」
「貴方が犯罪的行為に手を染めない人だとは分かっています。もっと堂々としていなさい」
やはりこういう時に頼りになるのはリューさんだ。
冷静で、頼りがいがあって……なんだか先生みたい。
「何より貴方はシルの伴侶なのですから、浮気をすることなど有り得ない」
この人も誤解しているよ!?ちょっと斜め上の方向に‼
この前会ったときもそんなこと言ってなかった!?ひょっとして天然さん!?
シルさんもキャーキャー言ってないで誤解を解いてください‼
初っ端から大ハプニングで始まった僕のレベル2昇格祝いのパーティーであったが、料理が運ばれてくると途端に皆がそれに夢中になる。
やっぱりミアさんのごちそうは凄い。
途中、アーニャさんやクロエさんの悪戯でちょっと僕の髪が乱れた以外はおかしなことは起きない。うん、こういう平和な時間って凄い大切。
オラリオに来てからトラブルだらけだったからとてもそう思う。
「さあさあ、ベルさん。たくさん食べて飲んでくださいね?今日はベルさんが主役なんですから」
「えっと、ありがとうございます」
いつの間にやら隣で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたシルさんに「いつ近づかれたんだろう……?」と戸惑いながらも、シルさんの持ってくれた小皿を受け取る。
何故かじとーと見てくるリリが怖いです。
「あ……ベル?」
その時だった。
あの金髪の彼女が声をかけてきたのは。
その声を聞いた瞬間、僕は弾かれたように振り返った。
「アアア、アイズさん!?何でここに!?」
「えっと……フィンにここに来ればベルに会えるかもって……」
そう言えばさっきフィンさんに【豊穣の女主人】で食事の予定があるって話した気がする……いやそれでも会えるかもって?
「その、ずっと君に謝りたくって」
「謝る?……あ、フィンさんにも言いましたけど僕は気にしてませんよ?寧ろ悪いのは迂闊に下に潜った僕で、ちゃんと現実見せてもらったことに感謝していて……」
フィンさんもそうだったけど、【ロキ・ファミリア】の人たちは真面目だ。
ベートさんの言い方はあれだったけど、そういわれるだけの醜態を僕は見せたわけで。
それをこんな風に謝ってもらえるなんて滅多にないことだろう。
それだけでいい人たちなんだなと分かる。
「それでも、君をいっぱい傷つけたから……ごめんなさい……」
「え、えっと……」
深々と頭を下げる憧憬の姿に心底困り果てる。
こういう時、どうすればいいんだろう?
ちょっと気まずい空気が流れてきたがそこに現れた一人の影。
「いつまで突っ立ってる気だい?営業の邪魔だよ‼」
「あ……すいませ」
「いいからとっとと座りな‼店に来たからには注文なしで何て帰さないよ‼」
そう言うとアイズさんの肩をぐわしと掴んで、僕がいつも着くカウンター席に座らせる。
きょとんとしたまま硬直するアイズさんは、ミアさんの言われるがまま注文を頼む。
……今日一番高いメニューにちゃっかり誘導している辺り、ミアさんも強かだ。
あっという間に特大ステーキがどかんと置かれる。
アイズさんってああいうのは食べれる人なのだろうか。なんだか顔が青い気がする。
「ア、アイズさん……それ、食べきれますか?」
「……ゴライアス」
何故か階層主級のモンスターの名を口にする。
どうやら駄目らしい。
「良かったら僕たちと分けませんか?こっちのテーブルにステーキはないですし」
リリやシルさんから「えー」という感じの視線が飛ぶが気にしない。
想い人云々以前にあれは見捨てたらだめだと思う。
チラリと厨房を見るとミアさんがこちらを見てにやりと笑っていた。
僕のこの考えはお見通しらしい。
流石に年季が違う……とか考えた瞬間オボンが飛んできた。痛い。
「……お願いします」
アイズさんが椅子と料理をもって僕たちのテーブルに座る。
な、なんだか緊張してきた。
誘ったのは僕なんだし、何か話題を……
「はぁ……」
テンパっている僕を見て、シルさんは一つため息をつく。
「ベルさん。ゲームか何か持ってきてませんか?さっきから何かをお披露目する機会を伺っているみたいでしたから」
(すっごい見透かされてる)
フィンさんと言い、僕って色々なものが見透かされ過ぎではないだろうか。
スキルのことをなるべく隠しておかなければならない身としては、心臓に悪い話である。
「ゲームと言うとウェスタンゲームみたいなものですか?」
「うん。あれよりは娯楽性は薄いかもしれないけど」
パーティーにおいて持っていくゲームに射撃は向いていないだろうとも思うが。
そんなどうでもいいことを考えながら懐から橙色の箱を取り出した。
「それは
「……ひみつ道具?」
ボタンが付いた奇妙な造形からか、リューさんとアイズさんはこれが普通のアイテムではないと見破った。
やっぱり観察力のある人だと、ひみつ道具が特殊なアイテムなのだと分かるものなのだろうか。
「はい。【うらないカードボックス】って言うらしいです」
これは名前の時点で分かりやすい効果だった。
万が一のフェイクの可能性を考えて、ちゃんと試用済みである。パーティーでやらかすのは失礼だし、そこは慎重に効果を試した。
危険性はないだろう。
「へー、なんだか変わった形ですね?どうやって使うんですか?」
うらないカードボックスをあれこれ弄りながら聞いてくるシルさん。
好奇心の赴くまま触っているのだろうが、初見のアイテムをあんなに大胆に触るのは凄い。怖くないのだろうか。
「名前の通り、占ってほしい内容を言ってから、箱を振るんです。そうすると三枚の絵が出てきて未来を暗示してくれるんです」
正直三枚の絵が何を暗示しているのかは分かりづらい。
神様が試したときは『笑った顔のロキ様』『ジャガ丸くん』『時計』だった。
これはどういうことだろうかと神さんと二人でうんうん唸っていたら、ジャガ丸くんのバイトの時間をとっくに過ぎていたことに気が付いて、慌てて飛び出した神様がバイトの上司に取っ捕まって説教を食らい、半泣きになっているところを通りかかったロキ様に盛大に煽られ笑われたことで理解できた。
始末書&残業が確定してしまった神様に、心の中で頭を下げておきながらこのひみつ道具を持ってきた。
お祖父ちゃんは女は占いが大好きだと言っていたし、パーティーを盛り上げるのには良いのではないかと思ったのだ。
「面白そうですね。じゃあ、まずは私から。私のこの先を占って?」
うらないカードボックスに囁くように言葉を伝えるシルさん。
そして、ゆっくりと3回うらないカードボックスを振る。
「これは……妖精……いや『精霊』『雪』『親子』?」
出てきた3枚のカードにシルさんはこてんと首をかしげる。
初っ端から分かりにくい組み合わせだ。どういう意味だろう。
「精霊……?」
アイズさんが何か考え込んでいるがどうしたのだろうか。
この占いの意味を考えているというよりは、精霊と言う単語につい反応してしまったような……?
「これは……『雪』の降りしきる聖夜の中、『精霊』様の祝福の下で新しい『親子』が誕生する、と言うのはどうでしょう!ベルさん‼」
「おめでとうございます」
ロマンティックですねーと笑いかけるシルさんと、何故か真顔で祝福するリューさん。
どうして僕を見て言うんですか?
「まーきっと悪い意味ではないでしょう。では次はリリが」
そうして出てきたのは『花』『鎖』『牛』。
余計に難解になった気が。
(と言うかこの花って‼)
「随分と悪趣味な花ですねー。口がついているなんて」
「
アイズさんの表情が硬くなる。
アイズさんにとっては
でも僕たちはそうではない、そうではなくなった
(あの
ちょっとこの話題は深堀りされたくないので次はリューさんにやってもらおう。
「よく分からないですから、一旦後回しにしましょう?次はリューさんどうぞ!」
「は、はい」
リューさんは僕の剣幕に押されるように慌ててうらないカードボックスを振る。
出てきたのは……『天秤』『♪』『暗闇に浮かぶ崖』。
「天秤、ですか」
どこか哀しそうな表情で呟くリューさん。
僕には意味がよく分からなかったけど、何か心当たりがあったのだろうか。
「リュー……」
「失礼しました。では剣姫、次は貴女が」
「……」
アイズさんもリューさんの様子が気になっているようだったけど、うらないカードボックスを受け取ると3つのカードを取り出した。
「んと……『交差する剣とナイフ』『炎を纏った風』『光と闇』。……なんだろう、これ?」
アイズさんのカードは何だか複雑だ。
二つの概念が混ざり合っているのだろうか。
或いは……これらすべては同じものを暗示している?
この中に僕を暗示するものがあればいいなーと思うが、どうも剣とナイフとか物騒だったり、光と闇みたいに真反対のモノなのが気になる。
ひょっとしてあんまり良い物ではないのか。
「それじゃあ、最後は僕が」
アイズさんからうらないカードボックスを受け取る。
【アイアム・ガネーシャ】では神様がごたごたしていたから、僕自身の未来は占っていなかった。
どんな結果になるのだろうか。
「……僕のこの先の運命はどうなりますか?」
出てきたカードは……『赤い
何となく、占いの結果は繋がっている気がした。この先の僕の人生を左右する大きな波に。
僕たちは占いの結果をああでもない、こうでもないと言い合いながら料理を食べていく。
談笑と笑顔が絶えない【豊穣の女主人】で、束の間の日常を楽しむのだった。
「……」
何かをリリがうらないカードボックスに呟いた。
それから覚悟を決めるように、少しの間目を瞑ると小さく箱を振る。
ハラハラと現れた3つのカードのイラストをじっと見つめた後、ちょっとの間首をかしげたが、まあいいかと彼女は頬を薄す赤く染め小さく微笑んだ。
『花束』
『桃色と黒色』
『笑顔のベル』
どうも、14巻を何度も読み返していると早くリューさんのベルへの呼び方を変えたくなる作者です。
今回はランクアップという事もあって今後の伏線をばら撒いてみました。
分かりやすいのもあれば、どういう事やねんと言うもの、え?これ出すの?と言うものもあると思います。
カードから今後の展開を予想するのも面白いかもしれません。