ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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新装備試着

「いやに疲れているな……何かあったのか?」

「うん……ちょっと怖いものを見ちゃって」

 

 ヴェルフが改修した兎鎧を受け取ったベルは、約束通りヴェルフをパーティーに加えて10階層を探索していた。

 相変わらず、どこから出てきているのかも分からない白い霧のせいで視界が悪い。

 パーティーの人数が増えたことで、霧に巻かれてバラバラになってしまうリスクも増えた。

 いつも以上に周りに注意を払わなければならないと、昨日のことで少し脱力気味だったベルは気合を入れなおす。

 

「昨日はお前もハシャーナさんも大変だったらしいからな」

 

 今日も護衛のためについてきてくれたモダーカが気の毒そうにベルに話しかける。

 昨日は大変だった。と言うか恐ろしかった。

 逃げ込んだ左右反対の世界から出たらあのフリュネがいたのだ。

 何故か禍々しい変顔を披露していたが。

 

「確かに迂闊な行動ではあったけど……シャクティ団長もあんなに怒らなくてもなぁ」

 

 そして命からがら帰ってきたらそこには仁王立ちするシャクティだ。

 勝手にホームから出た僕とハシャーナさんはそれはもうこっぴどく叱られた。

 闇派閥(イヴィルス)に襲われたのはつい最近だというのに、歓楽街で夜遊びとは何事だという至極真っ当な内容で。

 

 暫くは春姫さんには会いに行けないかもしれない。

 ゆうれいストローみたいな相手の攻撃を無力化できるひみつ道具が出たら行けるかもしれないが、何のひみつ道具が使えるようになるかは運次第。【幸運】のアビリティがどの程度働いているかは分からないから、あまり期待はしないほうがいい。

 

「モダーカ様もお疲れの様ですが……?」

「あー、俺も昨日は大変だった。ジャガ丸くんを求める剣姫が暴れててな」

「剣姫様が?」

「ああ、幻のジャガ丸くんを求めてオラリオ中を動き回ってな……【フレイヤ・ファミリア】なんかは警戒するし、何を勘違いしたのか剣姫は牽制に来た幹部を倒せば情報が入ると思ったらしくてな……」

 

 何故か立ちふさがる幹部たち→この人たちも幻のジャガ丸くんを狙ってる(?)→何か情報を持ってるかも(!?)と言う天然爆裂な思考が展開されたらしい。

 オラリオの二大派閥が抗争を始めたと誤解した住民たちが阿鼻叫喚、【ガネーシャ・ファミリア】が出動する事態になった。

 それに参加したモダーカは、モンスターより化け物してる第一級冒険者たちの超人戦争に巻き込まれてグッタリだったらしい。

 最終的に保護者(リヴェリア)がアイズに拳骨を落として事態は収まったんだとか。

 

 漁夫の利を狙えるチャンスと勘違いした一部の闇派閥(イヴィルス)が、全てが終わった後にノコノコやってきて、闘争心を持て余した暴れ猫のストレス解消に使われてたのは笑うしかなかったと言う。

 

「っとお喋りはここまでだな。インプの群れだ」

「オークも2体います!」

「1体は天然武器(ネイチャーウェポン)を装備してるな。どっかのアホがミスったな」

 

 一度、仲間内から除け者にされてやけくそで10階層に突撃し、案の定返り討ちになった記憶がヴェルフの脳裏に蘇るが、ヴェルフはそれでも不敵に笑った。

 

「よし! オークは俺に任せろ。ここいらで俺の冒険者としてのアピールもしたいからな」

「なら、僕はインプを。リリはクロッゾさんの援護お願い!」

「分かりました」

「よっしゃ、なら新装備も試してくれ。感想を聞きたい」

 

 ヴェルフの言葉にベルは頷き、自身のポーチに目を落とす。

 ベルが依頼したのは兎鎧(ぴょん吉)の改修のみだったが、ベルとの世間話の中でハツメイカ―で設計図を作ったはいい物の、想定不足で結局使い物にならなかったアイテムの話になった。

 その中の一つのアイディアに目を付けたヴェルフによって、彼なりにアレンジを加えた追加装備も造ってきていたのだ。 

 

 ヴェルフ曰く、ちょっとしたサービスらしい。

 

「……行きますっ」

 

 草原を蹴り、紫紺の群れに突撃する。

 既に前回の戦闘でコツは掴んだ。万が一は無い。

 だから余裕を持って改修したアーマーと追加装備を試す。

 

 まずはすれ違いざまに先頭のインプの首筋をはね、続く二体目をその勢いのまま蹴り飛ばす。

 決して足を止めず、白い稲妻のような軌跡を描いて敵を翻弄する。目標は紙一重での回避。

 シビアな体捌きを要求されるこの動き、生半可な防具では悲鳴を上げるが。

 

(うん、大丈夫)

 

 ベルはあの嫌な音がアーマーからしないことに安堵する。

 これならば新作の防具が完成するまで持つだろう。

 

 今日一番の懸念事項が解消されたことを確認したベルは、チラリとヴェルフたちの戦闘を見る。

 オークは上層では有数の怪力の持ち主、ベルとしては一撃が重いこのモンスターは苦手だったが、ヴェルフは全く動じた様子が無い。

 ゆっくりと自分から間合いを詰め、オークが攻撃を仕掛けようと腕を振り上げた瞬間に右手の大刀を見舞った。たるんだ緑の腹が衝撃で波打ち、豪雨のようなくぐもった断末魔が轟く。

 

 流石に鍛冶師なだけあって力のアビリティは高い。

 レベル1上位というベルの予想は当たっていたということか。

 自身に注がれる視線に気が付いたヴェルフは、ベルに向かって歯を見せて笑った。

 それにベルも微笑み返す。

 向こうはこのまま任せても大丈夫だろうと、ベルは残るインプたちを片付けるためにナイフを構えなおすが。

 

(……っ、何!?)

 

 強力なプレッシャーを感じて霧の奥に向かい直す。

 遅れてヴェルフたちもそのモンスターの存在に気が付いたのか、慌てて振り返った。

 

 大地を揺らす鈍い音色。

 階層が軋むような重厚感を含むその響きは、徐々に霧の中から黒い影を伴い冒険者に近づいてくる。その大きさは……およそ4M(メドル)

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼」

 

 空気が揺れるほどの凄まじい猛り声。

 思わず耳を塞ぎそうになるのを何とかこらえる。そんな隙は見せられない。

 

 やがて、そのモンスターは白いカーテンを突き破って姿を見せる。

 鋭利な爪に、刺々しい鱗。

 その姿は小竜。

 

「インファント・ドラゴン……」

 

 呆然と呟くリリの言葉が空しくフロアに響く。

 下級冒険者の活動範囲(フィールド)に出現するモンスターでありながら、その強さは階層主に例えられる稀少種(レアモンスター)

 

「やべっ」

 

 小竜が現れたのはヴェルフとリリの真正面。

 下級冒険者によって構成されたパーティーを、尽く壊滅させたという報告が大量にあるこのモンスターを相手にするにはリスクが大きすぎる。

 尻尾をゆらり、と振るインファント・ドラゴン。恩恵(ファルナ)を受けた眷属の骨すら砕く一撃の前動作だとエイナに教わっていたベルは、息をのんだ。

 

「ベル様!クロッゾ様!相手を交換します」

「うん!」

「すまんっ、頼んだ!」

 

 リリの判断は早かった。

 まだレベル1で十分に対応できるインプたちをヴェルフが、インファント・ドラゴンを上級冒険者のベルが相手する。

 すれ違い様にヴェルフとハイタッチをしたベルは、まずはポーチから追加装備であるグローブを取り出し、走りながら装着。そして魔法を行使する。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 既に振り抜かれた尻尾。

 このまま回避すれば足の遅いリリに当たる恐れがある。

 それを防ぐにはこの攻撃をベルが迎撃しなければならない。

 如何にレベル2の火力と言えども、無詠唱(ファイアボルト)だけでは尻尾にかき消されるだろう。

 故にベルは咆哮した。

 

「あああぁぁっ‼」

(あれは……!?)

 

 炎雷がベルの手から離れる前に、それに追いつかんと全力をもって跳躍する。

 さながら拳に魔法を纏っているかのような光景に、リリは既視感を覚えた。

 その一撃はあの戦いの再現。

 

 爆裂音と共にフロアが緋色に照らされる。

 自慢の一撃を真っ向から弾かれたインファント・ドラゴンは驚愕する。

 

「ベ、ベル様っ、腕は!?」

「ちょっとチリッ、って感じになったけど大丈夫!」

 

 流石は精霊の護符。流石はヴェルフ謹製の武具。

 ザニスを倒した一撃をこの程度の負担で再現できるとは。

 ただ、ナイフは少し掴みづらい。慣れるまでは無理はしない方がいいだろう。

 

(残ってたオークが来る。このグローブにはウォーシャドウの爪が指の部分に使われているはず。なら……)

「ォオオオオオオオッ!」

 

 オークが棍棒を振り上げて襲い掛かる。

 本来ならば大きく回避するのがセオリーだが、敢えて足を止めてヘスティア・ナイフを左手に投げ、右腕を掲げた。

 そんな愚かな人間(ヒューマン)を嘲笑うかのように、唇を吊り上げて棍棒を叩きつけ……

 

「ヴォ?」

 

 オークが頭の中に描いていた、頭蓋が砕け、脳漿が弾け飛ぶ光景が霧散する。

 腕が止まった。頑強なドワーフすら八つ裂きにする怪力が、目の前の子どもの力で封じ込められていた。

 棍棒を正面から掴み取ると言う、非常識極まりない方法で。

 

 ウォーシャドウが冒険者にとって、最初の難関と呼ばれるのはその頑強な爪。

 ナイフと遜色ないその威力は防御にも活用できるのだ。

 

(おいおい……あんな使い方想定してないぞ)

 

 ヴェルフが作った追加装備はあくまでも超近距離での魔法を軽減する物。

 モンスターの打撃を完全に受け止めるなどできない。衝撃はそのまま使用者に届く。

 それでも微動だにしないのはベルの【耐久】と、力を受け流す【器用】の異様な高さ。

 

(【敏捷(はやさ)】だけじゃないのかよ!?)

 

 インプたちを掃討し、ベルの援護に行こうとしていたヴェルフは思わず足を止めてしまった。

 ベルの真価を目の当たりにしたヴェルフは、自分がまだ契約をした冒険者を評価し損ねていたと悟る。

 アビリティオールS。

 それはベル・クラネルの規格外さを証明するには十分な事実だ。

 

 棍棒を【力】の限り握り砕く。

 武器を失った衝撃でよろめくオークは迸る【魔力】に思考を凍らせた。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 オークの顔面を掴むと爆裂と共に、その巨体をインファント・ドラゴンに向けて投げ飛ばす。

 脂肪をたっぷりと抱えたオークの超重量が、インファント・ドラゴンの首に激突する。

 

「ギャアアアアァァァッ!?」

 

 ビキリッ、と首から出た致命の音に小竜は絶叫した。

 敵を前にして見せる最悪の隙。

 その愚をベルの【敏捷】は見逃さない。

 

「せやあああああああっ‼」

 

 右手のグローブが朱い炎雷を纏い。

 左手に持った神の刃が紫紺の光を放つ。

 少年の超高速の連撃は、最早インファント・ドラゴンに立て直しの余裕を与えなかった。

 

「アアアアアァァァッ!?」

 

 悲鳴は爆音にかき消され、血しぶきはその白い髪に汚れを残すことすら許されない。

 肉も骨も削られるインファント・ドラゴンはあっという間に崩れ落ちる。

 

「ガ…ァ……」

 

 ピクリと痙攣した後、絶命するインファント・ドラゴン。

 再び静寂が戻る11階層。ベルは少し残心した後、無言でナイフを鞘に戻した。

 

「ありゃーレベル2クラスだったが……やっぱぶっ壊れてんなお前」

「それ褒めてます?」

「ぶっ壊れているは冒険者への誉め言葉だよ。それと、そのグローブもいいな。なんて名前だ?」

「ありがとよ、兎肉球(ぴょんきゅー)だ」

「え?」

兎肉球(ぴょんきゅー)

「お、おう……」

 

 最後まで手を出さなかったモダーカはベルの成長を称えた。

 ミノタウロスほどではなくても、レベル2でも倒すのが難しいと言われる相手に余裕をもって対処したのだから、多少なりとも少年の成長を見守っていた先達としては喜ばしいことなのだろう。

 

 ヴェルフのネーミングにはちょっと引いていたが、しばらくすれば慣れるのでベルは放置した。

 

「しかし、こんな稀少種(レアモンスター)。なんで急に……」

 

 インファント・ドラゴンが突如現れたことに疑問を抱いた様子のモダーカだったが、突如ベルの後ろに回ると抜刀する。

 モダーカの行動に、少しの間混乱したベルだったが、これまでの経験から何が起きたのかをすぐに察し、慌ててヘスティア・ナイフを抜刀。

 

(敵襲!?)

 

 振り返るとモダーカが仮面の人物と鍔迫り合いを行っていた。

 

闇派閥(イヴィルス)か!?」

「……ッ」

 

 モダーカの言葉に苛立ったように、強引に空中で転身した仮面の人物は再びベルを狙うがそれをモダーカは許さない。

 伸ばされた腕を切りつけ、敵からベルたちを遠ざける。

 

「リヴィラから碌に日にちを開けずにまた活動するとはな……今回の黒幕は随分と活発だな?」

「……」

 

 揺さぶりをかけるモダーカの言葉に反応はない。

 その視線はベルを見据えたままだ。

 

「それでやることはこんな新人を狩ることか? 随分と暇人なんだな? そんなお気楽な仕事、ごたごた続きの身としては羨ましいな」

(サエズ)ルナ、退()ケ」

 

 ようやく言葉を発した仮面の人物。

 リリはその声に違和感を感じる。まるで何人もの肉声が混ざり合っているような違和感。

 

(地声を隠してる……?)

 

「お前、リヴィラで暴れてたやつらの同類か。今の動き、人間らしくなかったぞ」

「……」

(駄目だな。碌に喋りやしない)

 

 モダーカはこれ以上の会話は無意味と判断すると、敵の戦力分析に勤めた。

 リヴィラで暴れた連中の同類であると仮定しても、あの二人ほど化け物じみてはいない。

 これならばちょっと大変だが問題なく撤退できる。

 

(っと。そう簡単には行かせてくれないか)

 

 モダーカとほぼ同時にベルも気配に気づいた。

 周りから感じる幾つもの視線に。

 

闇派閥(イヴィルス)の狂信者……っ」

 

 ベルの言葉にヴェルフとリリも緊張した様子でそれぞれの武器を構えた。

 数は凡そ10人前後。白装束はこの階層の霧に同化しているかのように見え、幽霊に囲まれているかのようだ。

 

「ぞろぞろと……ゴキブリか何かかよ」

 

 ヴェルフの軽口もどこか固い。

 レベル差は大差ないようだが、数が多い。

 少しだが、ベルたちの方が不利な状況だ。

 

 闇派閥(イヴィルス)たちはそれぞれ武器を構え、殺気を飛ばす。

 

(あれ……?)

 

 だが、その殺気が向けられているのはベルことではない。

 それが向けられているのは……仮面の人物。

 

「エイン様……ヴァレッタ様によるとその男はマジックアイテムの在り処を聞き出すために、拉致せよとのものだったはずですが」

 

 リーダー格と思われる男が、剣呑な雰囲気で仮面の人物に尋ねる。

 その口調はとても仲間に対する物とは思えない。

 

()ラン。(ワタシ)ハタダエニュオノシジニシタガウ」

「正体も明かさない。ただ状況をかき乱し事態を悪化させた者を優先するのか」

「……」

 

 互いに殺気をぶつけ合う両者。

 話を聞く限り、仮面の人物はベルを殺そうとしていて、白装束の一味はベルを捕まえようとしているようだが。

 

「仲間割れか……お前ら、隙を見て逃げるぞ」

 

 状況を理解したモダーカは小さな声でベルたちに指示を出す。

 

()セロ……」

「調子に乗るなエイン。怪人(クリーチャー)と言えども、お前は最も弱い!」

 

 3つの勢力がそれぞれの動きに警戒を払い、動きを止めた。

 モンスターたちの唸り声のみが響く、霧の都で混沌とした戦いが始まる。




 兎肉球(ぴょんきゅー)はカノ=セーレウス様のアイディアでした。
 コメントありがとうございます。
 ヴェルフの装備案はまだ募集しているので、気軽にコメントをしてください。

 原作よりは低いですけど、アビリティオールSは十分凄いですよね。
 そんな能力の引き立て役となったインファント・ドラゴン君。実はこの前にエインに攻撃されて逃げてました。
 ベルのパーティーに損害を与えるために。
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