【ガネーシャ・ファミリア】が主催した
それは犠牲者0と言う最大の成果や、これまでの【ガネーシャ・ファミリア】の都市への貢献によるものではあるが、それは【ガネーシャ・ファミリア】にとってこの事件を水に流してよい免罪符にはなり得ない。
あの事件を契機に明らかにオラリオの治安は悪化した。
暗黒期を数多の仲間と盟友の犠牲によって、ようやく手に入れた平和を乱す者を許すわけにはいかないのだ。
主神であるガネーシャの勅命の下、
「やはりここは
現在、シャクティが来ていたのは闘技場であった。
【ガネーシャ・ファミリア】によって管理されていたモンスターが放出されたあの一件は、間違いなく都市の憲兵の汚点だ。
その再発防止は必須である。
だがこの闘技場のモンスターが放たれた件に関しては謎が多い。
まず、この場所を襲った理由。
ダンジョン産の強力なモンスターを暴れさせることが目的かと当初は思われていたが、極彩色のモンスターをあれほど大量に保有しておいて、新たに上層レベルのモンスターを欲するのは不自然だ。
次は警備を無力化した方法。
警備に当たっていた眷属には外傷がなかった。そもそも、モンスターを管理するこの場所にいた団員は並の眷属に後れを取ることは無い選りすぐりだ。
それが他の場所にいた団員が気が付かないほどに素早く撃退されるはずがない。
ならば薬物かとも疑ったが、【耐異常】のアビリティを簡単に突破するには下層以上のドロップアイテムが必要なはず。そんなものを無差別に使用できるほど集められるだろうか。
更に最も不可解なのはこの際のモンスターたちの動きである。
モンスターは人類の天敵。人を襲う事は本能に刷り込まれた
そんな存在が暴れたにしては被害が少なすぎる。
如何に【剣姫】を始めたとした第一級冒険者の活躍があったとしても、その極力被害を出さないかのような動きには不可解な点が見えた。
通常のモンスターを逸脱した存在についてはシャクティも知ってはいるが、理性を持っていたとは思えない。
(そうなると……モンスターを操るマジックアイテムが使われていたのか?)
何者かの意思通りに動くモンスターと言えば、極彩色のモンスターが思い浮かべられる。
だが、極彩色のモンスターと
(駄目だな。なにか、見落としているピースがある)
シャクティは一度思考を切り替えた。
しかし、それに囚われすぎては意味がない。
「団長」
「モンサータか、どうした」
「いやモダーカですっっ!?」
「……?」
いつもモンタークは騒がしいが有能な団員だ。
恐らく、頼んでいた事で何かが分かったのだろう。
「あの娼館はどうだった?」
「まだ尻尾は見せませんが……クサいですね。あんな人がいなくなっている【イシュタル・ファミリア】のエリアで妙にあの辺りは人通りが多い。おまけに如何にも寂れた人気のない場所です、なんて面しておいて警備の数が多すぎる」
先日、勝手に【イシュタル・ファミリア】の娼館に忍び込んだベル・クラネルを追った際、ベル・クラネルが入っていた娼館の妙に多い警備と人通りに気づいたシャクティは、モクナースにその娼館を監視させたのだ。
「あの糞蛙が途中で来たので撤退しましたが、団長の睨み通り何かありますね」
「【イシュタル・ファミリア】はあの暗黒期を共に乗り越えた派閥。考えたくはないが……」
元々【イシュタル・ファミリア】に
だが火のない所に煙は立たぬと言う。
怪しいところが無いとは言い切れない。
「引き続き監視し続けろ」
「いいんですか? 下手に突いてギルドの二の舞になりかねませんよ」
「神イシュタルの危険性を考えれば必要経費だ」
そこまで言ってふと思い出す。
もう一人違う意味で気を付けなければいけない人物がいたことを。
「そう言えば監視中にベル・クラネルは現れなかったか?」
「はい。ここ数日は【剣姫】との訓練ばかりですね」
「そうか、まさかあの【剣姫】が気に入るとはな……」
事あるごとに、かつて共に正義を志した戦友と比べられることが多かった少女を思い浮かべた。
危うい所も多い少女だったが、人は成長しているという事なのだろうか。
「【剣姫】と言えば、【ロキ・ファミリア】も
「ああ、我々が協力するのが一番いいのだろうが、そうもいかん」
都市の存亡をかけた戦いになるかもしれないのに何をと思われるかもしれないが、それが政治と言うモノだ。
【ロキ・ファミリア】は独断専行が多い。
暗黒期にその行動に散々助けられたわけだが、それでチャラにしていいわけではない。
シャクティが飲み込んでも、他の団員は確実に不満を持ち、敵を前に足の引っ張り合いになりかねないのだ。
無論、シャクティもフィンも統率力のある団長であるがゆえに、それらの問題を解決することも頭が痛くなるだろうが可能である。
だがそうなると【フレイヤ・ファミリア】の動向が怖い。
こちらにその気はなくとも、【フレイヤ・ファミリア】への牽制ともとられかねない。
(暗黒期にまがりなりとも共闘できたのは運がよかったのだな)
あの頃も仲良しこよしとはいかなかったが足並みを揃えられた。
だが、正義側が強くなったことで協同する必要性が薄くなり、今はこうなってしまっている。
「だが、わざわざ反発しあうこともあるまい。情報のやり取りくらいはしていいだろう」
(どっちから提案するかでまたグダグダになるんですね分かります」
「途中から声が出ているぞ」
どっちが主導権を握るかにあまり頓着していないモウダーマはウンザリしているようだが、納得してもらうしかない。
せめて他者の目のないところでフィンと話し合いが出来れば違うのだろうが、とシャクティはため息をつきたくなった。
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「……」
「どうしたんじゃ? リヴェリアは。妙に落ち込んでいるようだが」
「なんだかアイズに顔を見られただけで怖がられて落ち込んでいるみたいだよ」
所変わって【ロキ・ファミリア】のホームである【黄昏の館】。
最近古参三人が集まることが多い執務室で、リヴェリアは周囲の空気まで澱んで見えるほどに項垂れていた。
「怖がる? 何かあったのか?」
「ンー……今朝は特に問題はなかったようだよ。でも、彼との訓練でね……」
「なるほど例のマジックアイテム。ひみつ道具か」
地下水路で
アイズもそれにやられたかと笑うガレス。
「それで? 今度はどんな効果なんじゃ?」
「楽しんでるねガレス」
「そりゃあ見ていて飽きないからのぅ。こちらに被害が来ない限りは」
ガレスはベル・クラネルの被害を受けてはいない。
愛の奴隷となったベートを嗾けられたことは被害と言えば被害かもしれないが、あれはベートのダメージが圧倒的過ぎた。
「効果は分からないな……過剰反応しているのはリヴェリア以外だと水や漬け石とかだね」
「まるで意味が分からんな」
「……随分と楽しそうだな」
呑気に今回のひみつ道具を考察するガレスとフィン。
それに対し、リヴェリアは怒りを滲ませながら睨みつけた。
「おっとリヴェリアはお怒りのようだからここまでにしよう」
「そうじゃな
(後で書類仕事投げるか)
親指の危機感からガレスに全部擦り付けることを心の奥で決めつつ、フィンは集まった二人と先程までの寸劇を肴に昼間から酒を仰いでいる主神を見渡した。
「さて、今回はそのベル・クラネル……正確には彼を監視している【フレイヤ・ファミリア】について話したい」
「先日は遂に襲撃まであったそうだな」
「アイズ一人で撃退できたのを見るに本気ではなかったようだが……神フレイヤへの抗議はどうなった」
「『ごめんなさいね? 少しウチの
手ぶりでその時のフレイヤの所作を再現しているらしきロキ。
それを見たリヴェリアは目を細めた。
「それだけか?」
「……」
「こちらの幹部が襲われて、それだけか?」
のらりくらりで引き下がる。
自分のファミリアを溺愛する余りにもロキらしくない対応。
「……それだけや、そういう契約になっとった」
「先日、神フレイヤを揺さぶりに行って返り討ちにあった時のものか」
「ああ……ん? 何で知っとるん!?」
自分の眷属にカッコ悪いところを見せたくなかった自分の隠し事が、あっさり見抜かれたことに驚愕するロキ。
それを苦笑するフィン。
「ンー。まあ、そうなるだろうとは思ってたし」
「ウグゥ!?」
「それでも落としどころはしっかり見極めると思ったんだがのぅ」
「ガッハァ!?」
「まさかアイズが襲撃されてだんまりを決め込むような内容とは……見下げ果てたぞロキ」
「グエエエエ!?」
愛する
血反吐を吐きながら地に沈んだロキはそのまま痙攣し始めた。
「せやかてぇぇぇ~分かるわけないやん~。あの色ボケの色ボケに首突っ込むなちゅう契約がこうなるなんて想像つかんってええええ!?」
フレイヤの次の標的がベルだったことが運の尽き。
何故かその少年の師匠にアイズがなり、フレイヤの嫉妬爆発などと言う未来がロキに予想できるはずもなく、色ボケの騒動に何て関わってたまるかいと言う判断は完全に裏目に出たのだ。
「しかし神フレイヤの寵愛を受けるとは、あの小僧もこの先大変じゃのぅ」
「神フレイヤは魂を見る眼を持っているという。ベル・クラネルがああいったスキルに目覚めていることに早くから見抜いていたのか?」
「……いや、そこまで便利なもんじゃ無い筈や。フレイヤが少年に目を付けたのは本気で偶々やろうなぁ……どないせいっちゅうねん」
ロキはついに頭を抱えて丸まってしまう。
色々言ったとは言え、流石にこれを予想するとは言ったのは無茶だ。
「つーか、少年に対する対応が今までの色ボケと違いすぎるやろ……なんであっちのほうで近づいてんねん」
「ロキ?」
「……あー、なんでもないなんでもない」
「マジか? マジでマジなんか?」と未だにブツブツと呟いているロキは使い物にならないと、フィンはガレスに視線を向けた。
「それで、聞きたいんだが。オッタルが中層にこもっているというのは本当かい?」
「ああ、ラウルやアキが話していた。マジックアイテムを買い込んで数日泊まり込んでいるらしい」
オッタルは都市最強のレベル7。
中層ではステイタスはピクリとも変動しないだろう。
そんな階層に泊まり込むのは不可解だ。
あの愚直に力を求める男にそんな真似をさせられるのは……
「神フレイヤの意思か」
「だが【
リヴェリアの発言は正しい。
オッタルは正に武人と評するのが相応しい性格だ。
冷酷なように見えて、筋はしっかりと通す男。それは正しい。正しいが。
(オッタルは謀を好まない性格……だが、謀が出来ないわけではない)
フィンからしてみれば意味のないようなことに、オッタルは至上の価値を見出す男。
自分たちの視点では気付けないことにオッタルが気付き、彼の価値観で謀をするだけの価値があると判断されれば、女神の神意に粛々と従うのもあり得る話だ。
「オッタルも神フレイヤのベル・クラネルへの騒動に関わっている、そう想定しておいて損はないさ。オッタルがマジックアイテムを買い込んだというのが個人的に気になっていてね。彼がアイテムに頼る姿は想像できない」
「だが、これが【試練】だとすれば……そう言うことか」
「それに中層……これでベル・クラネルと言えば……」
「ミノタウロスだな。確かにうってつけの試練だ」
オッタルの思惑を完全に読み切ったフィンは続けて言った。
「神フレイヤと契約したのはロキ
「ああ、ウチとフレイヤは主神としてではなく、
ファミリアとして動けるならばオッタルの行動を邪魔することに問題はない。
ベル・クラネルを女神の気まぐれで殺されるわけにはいかないのだ。
(今の所盤上にいるのは、僕たち【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】、それに【フレイヤ・ファミリア】と……
何とも複雑になってしまったが、これが都市で活発に動く勢力たち。
それぞれに何らかの形で影響を与えているベル・クラネルが鍵だというのは全勢力の共通認識。
「僕たちは【フレイヤ・ファミリア】への牽制を行っていこう。横から突かれて
それぞれの勢力が動き出す中、近いうちに何かが起きるとフィンは予感する。
中心にいるのは恐らく……
フレイヤを刺激したくない【ガネーシャ・ファミリア】。
フレイヤとの対立も視野に入れる【ロキ・ファミリア】。
色々とこんがらがってきました。