ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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怪事件の影響

 いきなりだが、僕は今話題の2階層の魔石大量発生したあの異常現象の犯人だ。

 いや、わざとじゃないんだけどね?

 色んな人に迷惑かけちゃって悪かったなーとは思っているんだ。

 

 まあ、それはいいとして。

 なんでそれが闇派閥(イヴィルス)の仕業ということになっているのだろうか。

 

闇派閥(イヴィルス)って確か10年前くらいにオラリオを騒がせた邪神の眷属(ファミリア)たちのことだった気がする。あまり詳しくはないけど、もう壊滅したんじゃなかった?)

 

 数年前に疾風っていう一人の冒険者によって止めを刺されたらしい。

 【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】との抗争で衰退していたとはいえ、幾つものファミリアを一人で壊滅させるなんてすごい人だ。

 やり方が過激すぎてギルドからブラックリストに指名されたらしいけど。

 

 なんでこんなことを僕が知っているかと言うと、ダンジョンで探索する傍らに冒険者たちから情報収集を行っているのだ。

 もう一度言うけど今回の事件の犯人は僕だ。

 あの事件が闇派閥(イヴィルス)によるものだと誤解されたまま僕のことがばれたら、最悪の場合は僕が闇派閥(イヴィルス)の残党と言うことになって【ガネーシャ・ファミリア】の御用となるだろう。

 

 だからいつもより必死になって情報収集に努めている。

 ダンジョンの中では相互不干渉が原則だが、こうやって冒険者同士で情報交換することもよくあることではあるのだ。

 僕はいかにも駆け出し冒険者な見た目だからか、意外と同業者たちからの感触は悪くない。

 結構、色々なことを聞くことができた。

 それに思わぬ再会もあったんだ。

 

「しかし、あの時の坊主とダンジョンでまた会うとはな。面白い縁もあったもんだ。」

 

 顔に大きな傷をつけた男性が豪快に笑う。

 体に装備した重厚な鎧と言い、がっしりとした体躯と言い、いかにも冒険者って感じの見た目。

 僕なんかと違って明らかに大ベテランなこの人はハシャーナ・ドルリアさん。

 神様たちから【豪拳闘士】の二つ名を授かったレベル4の冒険者だ。

 

 なんでこんな人と話せたかと言うと、僕がオラリオに来た日に少しこの人のお世話になったことがあったのだ。

 それから会ってはいなかったのだが、さっき偶然見かけたので情報収集もかねて声をかけさせてもらったのである。

 

「それで、例の事件と闇派閥(イヴィルス)とのつながりだったか?単純な話さ」

 

 ハシャーナさんはオラリオの憲兵とも呼ばれる【ガネーシャ・ファミリア】に所属するだけあって、オラリオで起きた事件には詳しいらしく、快く教えてくれた。

 

「あの魔石の大量発生の後、ダンジョンには何の変化もなかった。ダンジョン由来の異常事態(イレギュラー)は次々と畳みかけて起こることが多いからな、その時点でギルドはこれが人災だと結論付けた。」

 

 ゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 確かにあれは人災だ。

 真相はひみつ道具という規格外の力に振り回された、何の変哲もない新米冒険者による陰謀も何もない事故だが。

 それがどうして闇派閥(イヴィルス)の仕業ということになったのか。

 

「こうなった時、最もやばいのは闇派閥(イヴィルス)による陰謀だった場合だ。疾風によってボロボロのあいつらは見境がない。あの時代を知らないお前にはピンとこないだろうが、あいつらは狂信者と言っていいからな。これが奴らの仕業ならば早急な対処が必要だとギルドは闇派閥(イヴィルス)との関係を疑われたファミリアを徹底的に調べなおした。」

 

 ……いや、徹底的に調べなおしたっておかしいのでは?

 そんな調査もっと時間かかるんじゃないの?

 大量の魔石が跡形もなくなっていた昨日の出来事を考えると自信がなくなるけど。

 

 多分、正規のやり方じゃないんだろうな。

 公にならないギルドの隠し玉。

 噂でしか聞かないそれが動いたのかもしれない。

 

「そしたらなんと、奴らが怪物祭り(モンスターフィリア)に乗じて大規模なテロを引き起こそうとしていることが分かった」

「えっと?怪物祭(モンスターフィリア)って……」

「おっと、お前はまだオラリオに来たばかりだから知らなかったか。要はモンスターと冒険者がコロシアムで戦う見世物だ」

 

 そう言うとハシャーナさんは鼻で笑った。

 

「大方、魔石を撒き散して陽動をかけたつもりだったんだろうが、それが原因で計画が露呈するなんざお笑い草だな」

 

 すいません。

 多分、闇派閥(イヴィルス)の人たちも予想外だったと思います。

 どうやら僕の起こした珍事件が巡り巡って闇派閥(イヴィルス)の企みを日の目に晒してしまったらしい。

 それで、ハシャーナさんみたいにギルドの偉い人も魔石の大量発生も闇派閥(イヴィルス)によるものだと勘違いしてしまったのだろう。

 

(べ、別にこれに関しては悪くないよね?闇派閥(イヴィルス)の企みなんて失敗したほうが良かったわけだし)

 

 だからこの件に関してはファインプレーなのでは?

 ……無理があるよなぁ。

 結局、やらかしていることには変わりないし。

 なんだかすごい憂鬱な気分だけど、ハシャーナさんにはお礼を言わないと。

 

「ハシャーナさん。色々と教えていただいてありがとうございました。」

「いいってことよ。」

「何かお礼をさせてください。」

 

 そう言って僕はバックパックに仕舞っていたひみつ道具を取り出す。

 このひみつ道具、便利だけどスペース取りすぎなんだよなぁ。

 

「うん?さっきから気になっていたがその中身はなんだ?」

「ハツメイカーって言うらしいです」

(よし、あらかじめ出してたからあのバカ丸だしな声を聞かせなくていい。)

 

 バックパックから取り出したのは両手で抱えるほど大きな箱状のひみつ道具。

 いろいろなメーターやら角やらがくっついた変な形なひみつ道具なので、地味に運びにくい。

 

「……なんだ、それは?」

「これは欲しい道具を言うと注文に応じて道具を発明して、設計図を作ってくれるひみつ道具……マジックアイテムみたいなもので……」

「まてこら」

 

 さっき試して分かった能力を説明していると、ハシャーナさんが頭が痛そうな表情をして僕の説明を止めた。

 

「なんでそんな物を持っているんだとか、それをダンジョンに持ち込むのはおかしいだろとか、色々突っ込みたいが、まず一つ聞かせてくれ。……それ、俺が聞いても大丈夫な奴か?」

「あ」

 

 神様に散々口止めされてたのに普通に話しちゃったよ。

 いくら恩人とは言え迂闊(うかつ)だった。

 

「えっと、その……」

「やっぱり口止めされていただろ?万能者(ペルセウス)も真っ青なアイテムだからな。」

 

 ハシャーナさんは呆れたようにため息をついた。

 ど、どうしよう……

 

「まあ、いい。今の部分は聞かなかったことにしてやる」

 

 今回だけだぞ?とハシャーナさんは僕に釘を刺した。

 確かに注意が足りてなかった。反省しないと。

 

「それで、ほしいアイテムの設計図だったか。どこまで作れるか分からんが……そうだな……」

 

 少し考えるそぶりを見せた後、ハシャーナさんは何かを思いついたように笑みをこぼす。

 

「坊主。前にあった時にお前に言ったこと、覚えてるか?」

「え?えっと、冒険者にとって一番大切なものですよね」

「そうだ。俺はお前の質問に対して、最も重要な資質は“運”だと答えた。」

 

 オラリオに入国するときに僕は初めて会った冒険者であるハシャーナさんに、冒険者にとって一番大切なものはなにか、という質問をしていた。

 それに対してハシャーナさんは、いい(おや)や仲間に巡り会い、ダンジョンで僅な可能性を掴めるができる運だと答えたという出来事があったのである。

 

「アレの続きになるが、運と言うものはブレちまう。どんなにツイている奴でもな。だからこそ、冒険者は常に最悪への対策を講じる必要がる。」

 

 ハシャーナさんはこの後、仕事のために下層へ潜ることになっているらしい。

 たった一人で。

 ハシャーナさんは適正階層だから問題はないといっているけど、実力的には問題なくてもアクシデント一つでそれが覆るのがダンジョンだ。

 

「魔剣を用意したりして今は準備を進めているが……坊主にも俺が生き延びる可能性を少しでも高めてもらおうか」

 

 つまり、ダンジョンで生き抜くうえで重要なアイテムの設計図。

 これはハシャーナさんによる遠回りなレクチャーだと僕は気づいた。

 違うファミリア同士、簡単に師事することができない僕に、依頼と言う形で冒険者に必要なものを教えてくれている。

 

「それで、どんなアイテムが必要なんですか?」

 

 レベル4という熟練の冒険者による教えだ。

 次の一言だけで値千金の価値がある。

 聞き洩らさないように僕はハシャーナさんの言葉に集中した。

 

「そうだな。俺が欲しいのは逃げるためのアイテムだ。」

「逃げるため……ですか?」

「ああ、次々とモンスターが()くダンジョンでは必ず逃げなければならないときがくる。武勇伝だと省かれがちな部分だがな」

 

 いや、エイナさんも言っていたことだ。

 『冒険者は冒険してはいけない』。

 不要な消耗を避けるために退避することは決して恥ずかしいことじゃない。

 僕はハシャーナさんの言葉を心に刻んだ。

 

「それと、一つ注文を追加させてもらうなら補給がないダンジョン内でも簡単に修理できるアイテムがいい」

 

 なるほど。ダンジョンでの応急修理も考えなきゃいけないのか。

 そうなると複雑すぎる物や素材が手に入りにくい物だとダメかも。

 ダンジョンで簡単に手にはいるもの……魔石はどうだろうか。

 ドロップアイテムみたいに運に左右されないで確実にモンスターから手にはいる。

 

 『魔石でできた、修理しやすい、逃走用のアイテム。』でハツメイカーに注文する。

 

 起動し出したハツメイカーをハシャーナさんは半信半疑で見ている。

 確かに希望通りの道具を発明してくれるマジックアイテムなんて聞いたこともないし、その反応は当然だろうけど。

 

 やがて、一枚の設計図が現れた。

 

「これは……想像以上に単純だな。本当に大丈夫なのか?」

 

 ハシャーナさんの言葉通り、設計図は子供のおもちゃレベルの簡単なものだった。

 必要なのは紐と瓶と魔石。

 紐は色々なことに使えるから冒険者にとっては必需品だし、瓶は小型でいいみたいだから空のポーションでいいだろう。

 早速作ってみよう。

 

(ええと、魔石を二欠片用意して……片方の魔石を紐で結んで……瓶の中に順番に入れて……後は紐を設計図通りに手首に結んで……)

「おお、結構器用だな坊主。」

「お祖父ちゃん……祖父に色々と教えてもらいましたから」

 

 雑談しつつ出来上がったアイテムを見る。

 手首に紐でくくりつけられたポーションの瓶と言う、とても原始的な仕掛け。

 正直、ひみつ道具と比べるとすごく格落ちする見た目だけどちゃんと機能するだろうか。

 

「これはどう使うんだ?」

「説明書には魔石を光らせて逃げるみたいです。」

「光か……確かに魔石灯のように光る魔石製品は山ほどある。なら出来ないわけではないだろうが」

 

 説明書の図だと二重に巻かれた手首の紐を引っ張ることで発光するらしい。

 

(なんだか……地味だな……)

 

 いや、工夫はされてると思う。

 でもひみつ道具の規格外さを何度も見せられた身としてはなんだか肩透かしな気がする。

 

「おお、これはいいな。」

 

 しかし熟練冒険者のハシャーナさんは違う感想を持ったらしい。

 

「一度見ただけでもなんとなく作り方がわかる程度の単純な構造はかなり広まりやすいだろう。本当にもらってもいいのか?これを特許申請するだけで中々の額になるぞ。」

 

 物凄い評価だ。

 僕なんかより断然経験があってダンジョンに詳しいこの人が言うなら、多分その評価は正しいんだと思う。

 でも、ひみつ道具に作ってもらった発明でお金儲けなんていいのだろうか?

 

「あれはそもそもお前のものならお前の力だ。何も躊躇(ためら)うことはないと思うがな」

 

 中々魅力的な話だ。

 今の【ヘスティア・ファミリア】の財政は完全に火の車だし、安定して稼げる副次的収入源があればかなり安心できる。

 ……いつもバイトでくたくたになりながらも、ホームで僕を迎えてくれる神様だって楽をさせてあげられる。

 

(でも、ほんとにいいのかな。)

 

 問題はこのアイテムの作り方を独占することで、救えたはずの命を見殺しにすることになるのではないかという疑問だ。

 もし、ハシャーナさんの言う通りにこのアイテムがダンジョンで有用なら、広めるべきじゃないか。

 そうするためには僕の利益なんて考えるべきじゃないと思う。

 

(どっちがいいんだろう。)

 

 あくまで現実を見てお金を稼ぐか。

 綺麗事のために利益を放棄するか。

 

 悩んで、悩んで……結局僕は冷徹になれなかった。

 首を振った後、ハシャーナさんを真っ直ぐに見つめた。

 

「いえ、お金はいりません。もし、このアイテムが有用なら遠慮なく広めてください。」

「……お前が特許を取らなくても別の奴がとるかもしれないぞ」

「それでも、それまでに多くの人に伝われば、きっと助かる命があると思うから。」

 

 ハシャーナさんは僕の答えを聞くと呆れたように……でも、どこか眩しそうに苦笑いをした。

 

「まあ、これはお前の発明だ。お前の好きにすればいいさ。だがな、ベル。【ガネーシャ・ファミリア】の一員として、都市(オラリオ)の憲兵として言っておかなければならない事がある。」

 

 空気を一変させてハシャーナさんは話を切り出した。

 さっきまでのどこか緩んだ雰囲気は霧散し、歴戦の強者としての顔を纏う。

 当然の変化に戸惑う僕に向かって、ハシャーナさんは厳しい現実を突きつけた。

 

「今までの人類の歩んだ歴史を見れば一目瞭然だが、偉大な発明は必ず何者かに悪用される。お前のその優しさなど気にも留めないクズによってその発明が悪用される覚悟はあるか?」

 

 思いもよらなかった言葉に目を丸くする。

 ハシャーナさんはハツメイカ―が作り出したアイテムの有用性は犯罪でも大いに発揮できると警鐘を鳴らした。

 例えば犯罪者の逃亡のために、例えばダンジョンにおける闇討ちのために、例えば愉快犯的な快楽のために。

 都市の治安を守る【群衆の主(ガネーシャ)】の眷属としての経験に裏打ちされた推測は、まるで目の前で起きてるかのような現実味を帯びた内容だった。

 

 このアイテムを公表すれば救える命はある。

 しかし、奪われる命もあるかもしれない。

 そう気がついた時、頭の中が真っ白になるのを感じた。

 

「ベル、何か行動を起こすということはな、誰かを犠牲にしてしまう可能性があることなんだ。」

 

 ハシャーナさんの言葉が深く、ベルの中に響いた。

 

 ベルは命の大切さは良く知っている。

 大切な人の命を奪われて、残される悲しみを知っている。

 

(このアイテムが、誰かの大切な人を傷つける?)

 

 そんなことない!と叫びだしたい。

 しかしベルは決して頭の出来は良くないが、言われた言葉を何も考えずに否定するほど馬鹿ではないのだ。

 ハシャーナのいった未来はきっと訪れる。

 

 動揺に呼応して激しく脈打つ心臓が酸素を欲している。

 目の前の光景がちかちかと点滅している気がして、涙があふれそうになるのを懸命にこらえた。

 ここで泣き出して、全てを投げだすのは簡単だ。

 でも、それはダメだ。

 自分で何も決めれずにいることは恥ずかしいことだと、お祖父ちゃんは言っていた。

 だから、しっかりと自分で考えないと。

 

(そんなの……でも……僕は……)

 

 先ほどよりも長い沈黙。

 ハシャーナさんはどれだけ待たされても静かに僕の決断を見守っていた。

 何度も拳を握っては開いてを繰り返し、歯を砕かんばかりに噛み締める。

 どれだけ時間が経ったのか、やがて僕は頷いた。

 

「それでも、救われる命があるなら……お願いします。」

 

 言った後に後悔が襲った。

 さっきの決意とは違う、後味の悪いものが胸に広がっていく。

 とんだ偽善者だ、僕は。

 ハシャーナさんを上手く見れずに項垂れる僕の肩を、ハシャーナさんはポン、と叩いた。

 

「悪かったな。意地悪な質問をしちまった」

 

 さっきまでの厳しい顔から、また先輩冒険者としての優しい表情に戻っていたハシャーナさんはそう、僕に謝った。

 

「坊主の優しさは得難いものだと思う。冒険者なんて基本は自分本位だからな。」 

 

 俺だって金払いの良い、当たりの依頼を見つけたら独占するぜ?とハシャーナさんは言う。

 ベルのように他人のことを考えられる奴は、だからこそ、この人の欲望が渦巻くオラリオでつぶれていくとも。

 

「お前の性格じゃ、いつか思い悩む時が来る。その時、今のうちにある程度覚悟を決めておけば、少なくともその場でパニックになることはないだろ?」

 

 いらんお節介だろうがな、とハシャーナさんは笑った。

 でも、彼の指摘は事実だ。

 これで本当にいいのか自信が持てない。

 

「お前が今悩むものは答えのない難問だ。俺でも何が正しい選択かなんて分からん。だからベル、矛盾と向き合え」

「矛盾と……向き合う?」

「そうだ、いつまでも考え続けろ。変に小賢しくあろうとすれば、楽なんだろうが……お前の優しさは失われる」

 

 ある意味、ひどいことを言われている。

 安易な冷徹さを身に着けずに悩み続けながら綺麗事を貫けなんて、潰れてしまえと言っているようなものだ。

 

「別に忘れちまってもいい。無茶苦茶言っている自覚はある。ただ……」

 

──できればお前はお前のまま成長してほしい。

 

 ハシャーナさんは続きを言わなかったけれど、そんな風に続けようとしたのではないかと僕は思った。

 それに頷くことはできない。

 そうなれればいいのだろうけど、僕には神様やエイナさんと言った支えてくれる人たちがいる。

 あの人たちまで危険にさらすような真似はしたくない。

 

 それでも、今日のハシャーナさんとの会話は強く僕の中に残った。

 

「……ま!これが言うほど良いものかは試してみないと分からんがな!」

 

 重苦しくなった空気を吹き飛ばすようにハシャーナさんは手首のアイテムを突いた。

 まだいろいろ考えたいけど、僕もいったん切り替えよう。

 ハシャーナさんの言った通りこれは答えのない問い。

 なら、長い時間をかけて答えを見つけないといけない。

 僕は今のままでいいのか、その疑問を持てただけで今は満足しよう。

 

「さて、どこかに手軽なゴブリンは……」

 

 しかしちょっとゴブリン相手に試し過ぎてる気がする。

 いや、すごく便利なんだ。

 ハシャーナさんも自然とそういう思考になるくらいには。

 

(いつか、手痛いしっぺ返し食らいそう。)

 

 何か予感めいた思いが芽生えたが、走行している間にハシャーナがゴブリンを発見した。

 

「よし、じゃあ使ってみるぞ!」 

 

 早速手首の紐を引っ張るハシャーナさん。

 いや小さい魔石だし、この距離じゃ効果薄そうだけど……

 なんて、油断したのがいけなかった。

 

 パァンッ、と軽快な破裂音が鼓膜をちぎれんばかりに揺さぶる。

 そして、突如太陽が出現したのかと錯覚するほどの閃光がダンジョンの通路を照らした。

 精々こけおどし程度だと高を括っていた僕たちはまともにその光を直視してしまった。

 

「「「ほぎゃあああああああああ‼‼!?‼!??」」」

 

 僕とハシャーナさんとゴブリンは目を抑えて絶叫する。

 これやばい。

 前後不覚ってこういうこと言うんだってくらいに方向感覚が滅茶苦茶になっている。

 というか立ってられません。

 

 恐ろしいことにレベル4のハシャーナさんですらこのありさまだ。(見えないけどうめき声とかが聞こえる。)

 僕たちはしばらくダンジョンで仲良く頭や体をぶつけ合いながら悶えていた。

 ……一人レベル4がいるせいで僕とゴブリンはおはじきみたいな感じで壁にぶつかりまくって散々だったけど。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「やばかったな……」

 

 まだ少し目元を抑えながらハシャーナさんは壊れたアイテムを弄った。

 ……もう使えないはずとは言えやめてほしい。

 なんか暴発しそうで怖い。

 

「悪い悪い。けどまあ、これなら下層でも十分通じる。礼を言うぞ」

「いえ、こんなことになっちゃいましたけどお役に立てて良かったです」

 

 ハシャーナさんはこの後、鍛冶師の人に頼んだ魔剣を受け取るために地上に戻るらしい。

 噂のことだけじゃなく、この人には色々とお世話になってしまった。

 またちゃんとした形でお礼を言いたいな。

 

(なんだか最近、恩人が増えているな)

 

 僕が未熟者である証なんだろうけど、こんなにたくさんの恩を返せるか不安だ。

 

「じゃあ、俺はもう……そうだ坊主、このアイテムに名前はあるのか?ないと広めにくいんだが」

「え?」

 

 確かに考えてなかった。

 説明書に描いてあるのかもしれないけど、生憎異世界の言葉は読めない。

 作るだけなら図でどうにかなったんだけども。

 

「か、考えてないです」

「なら、次会うときまでに考えてくれ。この依頼が終わったらまたこの辺りの階層に顔を出す」

「そんな‼そこまでしていただかなくても……」

「いや、これは俺の為でもある」

「え?」

 

 アイテムの名前を聞きに来ることがどうしてハシャーナさんのためになるのだろうか?

 頭に?マークを付けていると、ハシャーナさんは得意げに笑った。

 

「坊主、最後のアドバイスだ!深い階層に潜る前には、必ずその後の予定を入れておけ!生きて帰る理由は冒険者の力になる!」

 

 そう言うとハシャーナさんは歩き出す。

 僕は遠ざかる先達の冒険者に姿が見えなくなるまで頭を下げた。

 

 そして再び探索を始める。

 だいぶ長いこと話し込んでしまったから、予定よりも成果が出ていない。

 神様が数日間ホームを開けている間、できるだけ稼いでおきたい。

 先日の事故で大量の魔石を確保したとはいえ、まだまだ借金返済には程お遠いのだから。

 

(さあ、魔石集めもひみつ道具のチェックもまだ済んでない。急がないと。)

 

 急いでハツメイカ―をバックパックに仕舞う。

 それにしてもハツメイカ―はすごいひみつ道具だった。

 無限の可能性と言っても過言ではない応用力を秘めている。

 ずっとあれが使えればな、なんてどうしようもないことだけどついつい考えてしまう。

 

(でも説明が十分に読めないのは問題かも。おかげでさっきはひどい目にあったし、もう二度とあんな光見たくない)

 

 おっと、思考がそれてしまった。

 そうだなまずはひみつ道具の確認をしよう。

 

 残るひみつ道具は【しゅん間リターンメダル】と【こけおどし手投げ弾】。

 どっちもよく分からないから適当に決めよう。

 

 ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……

 

 よし、こけおどし手投げ弾にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、背後からとんでもない光と音が発生したことで、なんか嫌な予感を感じたハシャーナによって見事にこけおどし手投げ弾により自爆して目を回らせていたベルは回収された。

 「イマイチ格好がつかないやつだ」と苦笑いしながら、ギルドまで白髪の少年を背負っていく【豪拳闘士】の姿が目撃され、街のちょっとした話題になったという。




 ベルの良さは分かりやすく優しい子だからすごく応援したくなるというシル役の声優さんのコメントは凄く共感できます。
 二次創作で擦れてるベルもいいけれど、作者はベル君と呼んでしまうくらい真っ直ぐな子供である原作主人公を応援しています。

 ……イマイチ再現できてるか自信ないけど。
 後ハシャーナさんこれでいいのだろうか。原作だと出番なさすぎるんだよなぁ。

※今回ベルがハツメイカーで作ったアイテムの名前を活動報告にて募集します。
皆さんのアイディアをネーミングセンスゼロの作者に分けて下さい。

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