ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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闘牛猛撃

 膠着は一瞬。

 ぶつかり合った力と力はすぐに一方を打ち消した。

 そう、ベルの力負けだ。

 

(うっ……強い!)

 

 ミノタウロス。

 中層で活動するにあたって一番驚異的なモンスターだ。当然ながらベルも予習済みだ。

 中層の中盤から出現する大型のモンスターであり、その特徴はランクアップした眷属を簡単に捻りつぶす【力】と、生半可な装備を寄せ付けない【耐久】が特徴だ。

 レベル2であっても一対一は厳禁な強豪だが、そうであっても()()()()

 

 ベルのレベル1時の最終評価はオールS。

 ランクアップを果たし、ステイタスがリセットされても下地として、これまで積み上げたその規格外の能力値は残っている。

 既に能力値だけならレベル2上位陣に匹敵するベルならば、ミノタウロスとの一対一でも有利を取れるとエイナも太鼓判を押してくれていた。

 

 だが、一合のやり取りだけで理解する。

 このミノタウロスは規格外だ。

 

(不味い、簡単に突破させてくれないっ)

 

 空中で体勢を立て直し、着地後すぐに構えなおす。

 ひみつ道具を駆使すれば倒せるだろう。だが、時間がかかる。

 ヴェルフの救助に一刻の猶予もないこの状況で、それは致命的だ。

 思考を回し、ベルは決断する。

 

「リリッ、ここは僕に任せてヴェルフさんの所へ!」

「ベル様!?」

「ライトニングボルトサーベルなら中層でも活動できる! ヴェルフさんを援護で連れてきて欲しい! 三人でこのミノタウロスと戦えば、確実に勝てるよね!?」

 

 リリがベルを置いていくことに反発することを見越して、ヴェルフとの合流のメリットを語る。

 実際に三人ならば勝てるだろう。ミノタウロスはそもそもパーティーで戦うことを推奨されているモンスターだ。

 

「分かりました! どうか、お気を付けて!」

「うん!」

 

 ダブルナイフを持って再び突撃する。

 今度は力で突破するのではなく、ミノタウロスの反撃を受け止めるように二つの刃を交差させて。ミノタウロスが持つ、冒険者のものと思しき大刀を封じると大声で指示を出した。

 

「お願い、ストーンアニマルたち‼」

 

 兎袋(ぴょんぴょん)から跳び出す複数の石たち。

 鳥、蛇、飛蝗のイラストが描かれたそれらは、ベルの指示し従ってミノタウロスに襲い掛かる。

 

「ヴォオオオオッ!?」

 

 全射程波状攻撃(オールレンジ・アタック)

 一対一と思っていたミノタウロスはまさかの攻撃手段に呻き、その動きが鈍る。

 ベルが作り出した隙を逃がさず、リリは通路を一気に駆け抜けた。

 

 自分を無視して背中を向ける小人族(リリ)に怒号を発し、追跡をかけようとするミノタウロスだが、そうはさせないとベルは砲声した。

 

「【ファイアボルト】!」

「ヴォ……ッッ」

 

 至近距離からの一撃。

 並のモンスターならば粉砕される一撃だが、ミノタウロスは僅かによろめくだけだ。

 ミノタウロスの皮は熱にも強い。既に予想していたベルに動揺はない。

 この異常な強さを持つ個体ならば、予想して然るべきだろう。

 

 それでも、ベルは眦を吊り上げて敵を見据えた。

 ミノタウロスもリリに向けていた怒気と殺気を全てベルにぶつけた。

 

「お前の相手は僕だ……っ」

「ヴォオオオオオオオッッ‼」

 

 言葉など通じない。

 それでも、それが目の前の人間による挑発であることは理解できたらしい猛牛が吠える。

 そして殺し合いが始まった。

 

 ベルの刺突とミノタウロスの叩き潰しが、互いの心臓部を狙う。

 刺突は鋼鉄の筋肉に阻まれ、叩き潰しは神の刃の受け流しで地面にその力をぶつけた。

 空回りした殺意の矛先は、血みどろの死闘の合図だった。

 

 地面を揺らした叩き潰しに次いで血しぶきが飛んだ。

 大刀を受け流されたミノタウロスは、間髪入れずに残った角をベルに向けた。

 地面に密着したかのように伏せた猛牛の角が、ベルの左目を狙い、一気に浮上したのだ。

 それを首の捻りで回避したベルの左耳の耳輪(じりん)が横に切り裂かれ、雨の様に鮮血がミノタウロスの顔に降りかかる。

 

 だがベルは受け流した大刀の引き起こした衝撃を利用して、ヘスティアナイフをミノタウロスに向けた。弾かれるように紫紺の軌跡を描く女神の分身が、ミノタウロスの眼球ごとその脳を突き刺さんとする。

 しかしミノタウロスの角撃に気が付き、急遽回避行動を取った結果、狙いがそれてミノタウロスの額に傷をつけたに留まった。派手に血が噴き出ているが、こんなものはダメージですらない。

 

(最初の一撃が回避されることを予想、した……?)

 

 何だそれは、とベルは愕然とした。

 異様に身体能力が強い個体だとは感じてはいた。

 それでも、技と駆け引きで勝てるという見込みを付けていたのだ。

 

 とんだ見当違い。

 ベルとミノタウロスでは、向こうの方が格上だとベルは認識を改める。

 

「っくぉ‼」

 

 ベルはミノタウロスの肩を蹴り、距離を取る。

 そして、溜め込んだ空気をようやく吐き出せた。

 ダンジョンがこんなに狭いと感じたのは初めてだと、ベルはヘスティアナイフを握り直し、迷宮の燐光が照らす猛牛を睥睨した。

 

 ミノタウロスもこの攻防で殺せなかったことが不満なのか、鼻息を荒くし今にも飛び掛かってきそうだ。

 至近距離のやり取りでベルが気が付いた無数の傷は、きっとミノタウロスはここに来るまでの間に想像を絶する戦いを潜り抜けたのだろう。

 

「ヴォオオオオッ‼」

 

 休む暇など与えないとばかりに迫る巨体を大きく飛んで躱す。

 ミノタウロスの巨体はそれだけで超脅威力の武器だ。

 真正面からぶつかるわけには行かない。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 雷炎の三連撃。

 薄暗い洞窟を照らす速攻魔法が猛牛に襲い掛かる。

 無詠唱の特性を存分に発揮し、息をつく間も与えない。

 

 このまま遠距離から一気に押し通そうとするが。

 ミノタウロスではない、猛獣じみた声たちがベルの背後から迫る。

 

「っ……他のモンスター!?」

 

 闇派閥(イヴィルス)によって連れ込まれたモンスターたちが、ベルに襲い掛かる。

 ここは無限のモンスターの巣窟、ダンジョン。

 一対一に専念すること等できない。

 

 だが、ベルにはアイズから教わった集中の配分がある。

 モンスターたちの動きを短時間で見極め、攻撃を回避しつつ反撃していく。

 

(モンスターの群れは対処できる。でも、そうするとミノタウロスは……)

 

 他のモンスターたちを倒しつつ、ベルの視線はミノタウロスを離さない。

 この場で最もベルの命を脅かすのはあの猛牛だ。

 モンスター同士は連携をしないとは言え、数で押されれば必ず負ける。

 

(っく、あんまりこれは使いたくないけど……!)

 

 まずはすぐに倒せるモンスターを倒す。

 オークやアルミラージ等の自然武器(ネイチャーウェポン)を持つモンスターたちに、残弾がどれほど残っているか分からない武器よさらば灯を照射する。得物を失い、動揺するモンスターたちをベルは白い影となって切り伏せて回る。

 

 そのままミノタウロスに光を向けるが、そこでミノタウロスは予想外の行動に出る。

 その手に握っていた武器を空中に放り投げ、再び突進したのだ。

 そして、ベルを襲う連打(ラッシュ)

 武器よさらば灯を使用するために、両刃短剣(バゼラート)をしまっていたベルは防御に有利なダブルナイフではない。ヘスティアナイフを握る右腕だけで打突を防いでいくが、ミノタウロスは咆哮(ハウル)を浴びせ、その視野を狭めた。

 

(しまった!)

 

 その隙はミノタウロスの駆け引きが生み出したもの。

 先程空中に投げた大刀を掴み取り、一気に振り下ろされた。

 

「うわあああああああっ!?」

 

 もし、今身に纏う装備が強化された兎鎧(ぴょん吉MK-Ⅲ)でなければベルの体は両断されていただろう。

 ヴェルフの鍛えた防具がベコリとへこみ、防ぎきれなかった衝撃がベルを迷宮の壁まで叩きつける。血を吐き出し、倒れ伏せたベルが痛みに喘ぐ間にモンスターたちが襲い掛かった。

 

「っ!」

 

 咄嗟に兎弾足(ぴょん弾ブーツ)で壁を蹴る。

 魔石によって発せられる衝撃波による爆発で、吹き飛ばされるような形でベルはその場を離脱した。

 

「……ガフッ、ゴホ、ゴホ……」

 

 咳込みと共に血が飛び散る。

 霞む視界に歯を食いしばりつつ、レッグホルスターから回復薬(ポーション)を取り出し、飲み干した。

 

 モンスターに駆け引きで負けた。

 それはベルにとって途轍もない衝撃だ。

 ヴィオラスのような例外はいるが、怪物は本能で暴れる凶獣。その認識が覆された。

 

(下層なら駆け引きを駆使するモンスターもいるって言うけど、ミノタウロスが……?)

 

 最悪だ。

 中層域で最恐のモンスターが知恵を使ってくるなど。

 

(吹き飛ばされた衝撃で武器よさらば灯は手元にない。残っているのは兎袋(ぴょんぴょん)に入っているカミナリだいこだけ!)

 

 兎袋(ぴょんぴょん)からカミナリだいこを取り出し、ミノタウロスに突き付ける。

 まだ高等回復薬(ハイ・ポーション)の効果は出ていない。駆け引きが行えるならばこうした牽制が効くはずだと考えたのだが。

 

「ヴォオオオオッ‼」

「ぐっ、駄目か!?」

 

 多少の小細工ならばその頑強さで耐えられるという事なのか、怯まずに追撃をかけてくる。

 ならばとベルは太鼓を鳴らした。

 

 突如現れる雷。

 アルミラージたちはたちまち感電し、バタバタと倒れていくが、やはりミノタウロスは違う。

 迫りくる雷撃を大刀で叩き落したのだ。

 

(滅茶苦茶だ!)

 

 思わず叫び出しそうになる。

 だが、文句を言う余裕などない。

 重りを括りつけられたかのように重い体に鞭を打って、ミノタウロスの横凪の一閃を防ぐ。

 体が真っ二つになることは避けれたが、足は踏ん張りがきかずにゴロゴロと地面を転がった。

 

 凹凸のある岩の地面は不規則に転がる体を跳ね上げ、先ほどの一撃でへこんだ兎鎧が肌に突き刺さる。痛みが体中に走る中、ベルは決断する。

 

(ごめん、ありがとう)

 

 その謝罪と礼を向けたのはヴェルフと兎鎧。

 もはや可動域を制限し、防具の体を成してないぴょん吉MK-Ⅲを外す。

 ブーツと、無事だった追加装備を残し、命を守ってくれた防具に別れを告げた。

 

 ヒヤリ、とダンジョンの冷たい外気がベルの体から熱を奪う。

 乱れた呼吸を繰り返す喉に痛みが走る度、ベルの脳内が白黒にチカチカと点滅した。

 

(あの大刀を奪うんだ。武器よさらば灯を拾って)

 

 あの業物の大刀は驚異的だ。

 装備の恩恵をこんな形で実感するとは思わなかった。

 ミノタウロスは強敵。少しでも戦力を削らなくては。

 

 武器よさらば灯はベルから2M(メドル)の距離に落ちている。

 遠いわけではないが、ミノタウロスを前に迂闊には取りに行けない微妙な距離。

 じりじりとベルはつま先をひみつ道具に向け、ミノタウロスの隙を伺った。

 ミノタウロスも、ベルがあのひみつ道具を確保することが、自身の敗北につながると悟っているのか、油断は見られない。

 

「「……」」

 

 探り合いの時間が続く。

 他のモンスターたちも両者の緊迫を感じ取っているからか、動き出す気配はない。

 ベルの耳輪(じりん)を伝う赤い滴が静かに地面を濡らす。

 その音無き合図が両者を動かした。

 

「届けぇえええええええ‼」

 

 走りだしたベルは、ミノタウロスの振り回す大刀を躱しつつ、右腕を突き出した。

 伸蛙(ノビエール)という何処までも届く腕を使い、武器よさらば灯を回収しようと試みる。

 しかし、ミノタウロスは飛び出したロープを素手で握り締めた。

 

「なっ……」

「ヴォオオオオッ‼」

(武器よさらば灯やカミナリだいこでもそうだったけど、このミノタウロス、対応力がおかしい‼)

 

 初見で伸蛙(ノビエール)の特性を見破られたことに動揺するベル。

 驚倒を置き去りにするように、ベルの体が宙に浮く。

 ミノタウロスが力任せにロープを上に投げ飛ばしたのだ……と理解したベルは、ミノタウロスが行うであろう次の行動に表情を強張らせた。

 

(ロープを握り締めたまま‼ まさか……っ!?)

「ヴォオオオオオアアアアアアアアアアアッッ‼‼‼」

「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ブンブンとローブを振り回すミノタウロス。

 その先に繋がれているベルは、時計の針のように空中を飛びまわさせられる。

 遠心力で自分の中身が飛び出しそうになるベルは、このままでは不味いと我武者羅に魔法を繰り出した。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 狙いなど付けられない。

 出鱈目な方向に飛ぶ雷炎の矢があちこちに着弾する。

 辺りのモンスターの悲鳴が木霊す中、ミノタウロスの右肩にも魔法が直撃した。

 

「ヴォッ!?」

 

 思わずロープを離してしまうミノタウロス。

 ベルは勢いよく放り出され、転がったまま魔法を乱射する。

 

「【ファイアボルト】ッ、【ファイアボルト】ッ、【ファイアボルト】ッ‼」

 

 モンスターたちを寄せ付けないように速攻魔法が連射されるが、ミノタウロスはそれを大刀で防いで見せた。

 何をしても届かない。

 そんな恐怖がベルの身を包む。

 

(同じだ……あの時と……)

 

 倒れ伏したまま動けない。

 体中のダメージと、嘗て何もできずに敗北した挫折の記憶(トラウマ)がベルを苛んでいる。

 あまりにも似すぎていた。

 ひみつ道具を使っても何一つ届かなかったあの日と。

 

 負ける。

 ステイタスで負け、駆け引きで負け、ひみつ道具も通じない。

 これでどうして生き残れると言えるのか。

 ここがベルの終着点なのだろうと、ベルは諦観の中で理解した。

 

「あっ……くくっ…ッ……」

 

 腕に力を込めようとするが、震えが止まらない。

 乗り越えたはずの記憶が、ベルから勇気を奪う。

 

 ダメだ。

 戦わなきゃだめだ。

 死んだらベル・クラネルが積み重ねてきた今まではどうなる。

 

 神様との約束。憧憬への誓い。仲間との思い出。

 

 ヴィオラスの未来。春姫の救い。

 

 やらなくてはいけない事なんて山ほどある。

 それら全てを、こんなところで?

 

 なんて世界は残酷なのか。

 走馬灯がベルの中で駆け巡る。

 ベルの始まったばかりの物語はこんな形で潰えるのかと、悲痛な叫びを魂が発した。

 

(動いて……お願いっ、動いて‼)

 

 他人のモノになってしまったかのように、言う事を聞かない体に懇願しても何も変わらない。

 猛牛の視線がベルを貫いた。

 止めを刺そうというのか、一片の油断もなく。

 

 ストーンアニマルたちがミノタウロスに飛び掛かるが、先程リリを逃がせたのはあくまでも不意打ちだったから。石たちの軽い体当たりではミノタウロスはビクともしない。

 

 絶望的な状況に体から力が抜けていく。

 抗えと言う心の叫びに、ボロボロの体が蓋をした。

 自身の意志から外れた体を奮い立たせようと、上体を起こし、ミノタウロスを涙で泡立つ瞳で睨みつけるベルに、無慈悲な鉄塊が振り下ろされようとした時。

 

「諦めるな!」

 

 男の声が響いた。

 それが誰のモノなのか。ベルは考えるほどが無いほどに、この耳はその声を聞いている。

 

 ヴェルフだ。

 ベルと別れたリリは、約束通り彼を連れてきてくれたのだ。

 二人がいるのは後方、その姿は見えない。

 それでも、聞こえてきた言葉がベルに仲間の存在を知覚させた。

 

──信じているぞ。馬鹿野郎。

 

「ッッッ‼」

 

 火が付いたように熱い。

 この階層の岩肌のように冷たくなっていた体が息を吹き返す。

 諦めるなと言う激励(エール)が、ベルの意志が肉体を超越する後押しをした。

 

「があああああああああああっっ‼」

 

 ヘスティアナイフと、残っていた右肩の防具で大刀を受け止める。

 死に体だったはずの獲物の奮起に、動揺する気配が武器越しに伝わった。

 ベルはそんなミノタウロスに倒れ込むかのように接近し、両刃短剣(バゼラート)を叩きつける。

 ダメージはない。上層では十分通じたこの武装も、ミノタウロスの筋繊維の前には無力。

 

(知ったことか‼)

 

 ベルは止まらない。

 一撃、二撃、三撃……

 切り裂けなくても、鈍器のように叩きつけられた切っ先から火花が散る。

 全く通用しないはずの武器がミノタウロスをよろめかせる。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 そこに炎の華が咲く。

 互いに吹き飛ばされるベルとミノタウロス。

 ミノタウロスは煙を立てながら、倒れることなくベルを睨みつけた。

 

 対してベルは、もう何度目かも分からない地面の味を経験していた。

 しかし、今度はその体が動きを止めることは無い。

 生まれたての小鹿の様に、プルプルとみっともなく震えながら、それでも力を振り絞り、獣じみた声を上げて立ち上げる。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 肩を大きく揺らし、息を荒げる。

 だが、その深紅(ルベライト)の瞳はミノタウロスを見据え続けていた。

 

 立ち上がったベルの隣に二人が並ぶ。

 ヴェルフは一張羅だと言っていた着流しをボロボロにして、重ね着ている鎧は僅かにそのひび割れた姿を覗かせていた。焼け焦げた臭いはヘルハウンドの炎弾に晒された名残か。

 リリはベル以上に息を切らせ、力の入らない手でライトニングボルトサーベルを握る。可愛らしいその顔には無数の傷があり、いつも被っているフードは泥まみれで、彼女の潜った死線を物語っている。

 

 言いたいことは沢山あった。

 

 無事でよかった。

 ありがとう。

 勝手に諦めてごめん。

 助かった。

 二人は大丈夫?

 

 それでも、今言うべきことはこれだけだ。

 

「……行こう、ヴェルフ! リリ!」

「あぁ!」

「はい!」

 

 無数のモンスターと共に咆哮(ハウル)を上げるミノタウロス。

 強大な敵に向かい、ベルのパーティーは駆けだした。




 今までなにか物足りないと思っていましたが、そうか。ここ最近ベルがボロボロになってなかったからか。
 もっとボロボロにしないと(邪悪な使命感)。

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