このパーティーはベルをエースとした構成だ。
レベル高ステイタスを活かしてベルが斬り込み、ヴェルフが大刀で力を補い、リリが遠方から攻撃を仕掛ける。
リリの遠距離攻撃がボウガンと言うダンジョン産のモンスターには効果が薄い物であり、魔導士が所属するパーティと比べると決定打に欠けるという弱点はあるが、中層でも十分に機能するパーティになっていた。
しかし、現在のパーティーは常とは少々異なるフォーメーションになっている。
「合わせろリリ助!」
「
その最たるものはリリの前衛投入だろう。
現在のリリの装備は、ベルのひみつ道具であるライトニングボルトサーベルである。
その特性は装備した者の接近戦能力を飛躍的に高めると言う物。
今のリリはベルよりも強い。
「っと!……助かったぜ、蛇のヤツ!」
ミノタウロスの振り下ろしがヴェルフを襲うが、蛇の絵が描かれた石の体当たりによって攻撃は逸らされた。
ベルの指示で援護をしてくれているストーンアニマルにヴェルフは、そう礼を言った。
レベル1のヴェルフはストーンアニマルたちの尽力によって、なんとかミノタウロスに食らいついていた。
ストーンアニマルが作り出した隙を逃さず、リリとヴェルフは同時に斬りかかる。
しかし、ミノタウロスはその巨体に見合わぬ速さで二人の刃を弾く。
「これでもダメか……」
「技を持つミノタウロスなんて、迷惑過ぎます!?」
思わず二人は悪態を吐いた。
反則的なひみつ道具を使っているにもかかわらず、届かない。
圧倒的な怪物の力の前に、二人は戦慄すら覚えていた。
その時、フッ、フッ、とミノタウロスが鼻息を荒げ始めた。
何かに苛立つようにミノタウロスの眼光が鋭くなり、その意味を理解したヴェルフは焦りと共に冷汗を流す。
(畜生、
生物の心身を原始的恐怖で縛り上げる、怪物の雄叫び。
それは戦闘中であっても
器を昇華し、心身ともに強靭になったベルですら、不意を突かれれば無視できない隙を誘発されるのだ。レベル1の二人がそれをまともに食らえばどうなるか等言うまでもない。
ミノタウロスが何故中層最恐と呼ばれるか。
それはこの強力なモンスターの前では、戦う資格のないものは動くことすら出来なくなるからだ。如何にひみつ道具を持とうとも、使い手が恐怖に縛られれば意味がない。
「【ファイアボルト】‼」
「ルグゥッ!?」
緋色の瞬きが猛牛の顔面に炸裂し、放たれる威圧は意味のない悲鳴として掻き消えた。
何者よりも速い無詠唱の魔法は、ミノタウロス必勝パターンに入る前に動きを潰す。
「ありがとうございます! ベル様‼」
リリの前線登用と同じく、目立つ大きな変化。
それはベルの後衛としての活用である。
ファイアボルトは最弱の魔法だが、それでも弓矢よりも速くて強い。
ベルの【魔力】のアビリティの高さも相まって、このミノタウロスですら無視できない威力があるのだ。
「やっぱり僕も前に……っ」
「駄目だ‼ 今は体力の回復に専念してろ! ボロボロだっただろうが」
このような形になったのは、合流前にミノタウロスによって負わされていたベルの負傷に起因する。ベルはエースだが、万全ではない状態でその力が十分に発揮されることは無い。
まずはその身の回復が先決と判断したのだ。
「ベル様の性格に合わない役目なのは分かりますが、お願いします! それと、ハシャーナ様は見つかりましたか!?」
「うん、ここから西側にいるみたい!」
「……途中まで同じ方向に流されていたからな。近いだろうとは思っていたが」
それともう一つ。
ベルの
三人になったとはいえ、状況が悪いのは変わらない。
向こうは無数のモンスターなのだ。
今も戦いに乱入してくるモンスターを、ベルやストーンアニマルたちが排除することで、リリとヴェルフがミノタウロスに専念できるようにしているのだ。
(ミノタウロスを倒すことは出来てませんが、膠着状態ならもう少しは続けられる……なら、ここは無理に倒そうとせずに、ハシャーナ様との合流を優先するべき!)
リリは判断を下すと、ベルに西側への通路を塞ぐモンスターたちの掃討を指示した。
ダメージが抜けきってなくとも、ベルならば他のモンスターは問題にならない。
紫紺と白の線を駆け巡らせ、モンスターたちを切り裂いていく。
そして、ある程度通路の敵がその数を減らしたのを確認し、リリは号令を出した。
「後退します! 走って一気に距離を……」
「待てリリ助、ミノタウロスが背中に括りつけている斧に気を付けろ!」
「何を……」
「アレは魔剣だ! 迂闊に背中を見せたら丸焦げだぞ‼」
ヴェルフの言葉にリリは表情を険しくした。
何から何まで
明らかに自然発生した存在ではないだろう。
(誰かの意志が働いている……?)
これは果たして
疑問がよぎるが、敢えてそれを今は無視した。それは今考えることではない。
「なら、戦闘しつつ西へ誘導するしかありませんね……ベル様は引き続き進路の確保をお願いします」
「……うん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハシャーナは現在危機的状況にいた。
当然だろう。パーティーから離れ、
ヘルハウンドやアルミラージと言った中層域のモンスターが一斉に飛び掛かる。
「糞、邪魔なんだよ‼」
そして、あっさりと蹴散らされた。
ハシャーナのレベルは4。レベル2のベルが安定して戦えるこの階層で後れを取る道理はない。
彼を追い込んでいるのは別の存在だ。
「どいつもこいつも白装束で自爆装置なんぞ持ちやがって! この没個性どもが‼」
ステイタスは大したことは無いようだが、自爆の恐怖をよく知る【ガネーシャ・ファミリア】としては迂闊に攻撃はできない。
「ケインズウウウウゥゥウゥ‼」
「シャロオオオオォォォッ‼」
「ベイブウウゥゥゥーーー‼」
口々に違う名前を叫びながら迫る狂信者たち。
泣くぐらいならやるなと言いたい。泣きたいのはこっちだ。
別に派閥の幹部と言うワケでもない自分にこんなに犠牲を払ってどうするのか。
狂信者たちの爆発がモンスターを更に呼び寄せることも考えられる以上、その前に仕留めなければならない。
だが、魔剣を持っていないハシャーナは狂信者たちを倒すためには接近しなければならないわけで……
「契約のために‼」
「うおっ!?」
「汚れた命をもって彼女に‼」
「危な!?」
「悪の執行による世界是正をおおおおおおお!?」
「だあああああああああああっ‼ うっせえわ!?」
この頭のおかしい人たちの叫びを聞き続けた結果、精神的に参ってしまった。
変なことを言っては自爆の繰り返しで頭がおかしくなるかもしれない。
(こいつら本当にどっから湧いてくんだよ。実はダンジョンのモンスターなんじゃないか?)
「坊主たちは無事なのか……」
ベルの実力を考えれば、13階層なら安心してみていられると思った矢先にこれだ。
もうあの少年は呪われているのかもしれない。
今度のひみつ道具でお祓い系が出たら真っ先に使わせよう。
(坊主を狙っての犯行じゃねぇ。いくら何でも無秩序すぎる。そうなると別件に巻き込まれたってことか)
思い当たるのは、先日のシャクティとの会話だ。
ベルの中層への挑戦の前に、先輩冒険者としてあれこれ相談に乗っていたハシャーナは突然、シャクティに呼び出されていた。
『先日の歓楽街での一件は覚えているな』
『えぇ、まあ……』
『その際に得た情報、ロキ派とフレイヤ派の衝突に介入しようとしている
『遠征前のこの状況で? まさか……』
『あぁ、ロキとフレイヤがいよいよぶつかるのだろう。我々も
(影響ないんじゃなかったのかよ!?)
ロキとフレイヤがぶつかると予想されていたのが16~18階層。
距離的にもここまで波乱があることはあり得ない。
馬鹿みたいに量産されている狂信者でも、中層全域に配置、などと言う真似は出来ないはずだ。
一体、何が起きているのだとハシャーナは混乱する頭で状況を把握しようとしていたが。
「……畜生、お祓いが必要なのは俺の方か」
「オイオイ、女の顔を見ていきなり失礼な奴だな。お前モテないだろ?」
「うるせー高い酒買えば好感度もうなぎ登りに上がるわ」
「ヒヒッ、しっかり巻き上げられてるじゃねぇか」
出来ればもう一生見たくなかった顔に溜息をつく。
【
どうやら自分たちの予想は外れていたらしい。
ロキとフレイヤの衝突が起こった階層はここだ。
「あの堅物女にこんな辺鄙な所に配置されるなんざ、嫌われることでもしたのかよ? ナァ?」
「ちょっと後輩を大人の店に連れっていっただけだつうの」
(……この言い様。俺がベルたちの護衛とは分かっていないのか? つまり、今回の狙いはベルじゃねぇ)
敵の狙いがベルで、意図的に分断されたという最悪の状況ではないらしい。
最悪まで蟻の一歩手間であることは変わりないが。
「まあ、折角殺し損ねたやつを見つけたんだ。遊ばせろよ」
「おいおい……いいのかよ? 罠かもしれねぇぜ」
「ハッ……罠ならこの状況で、あの堅物女が出てこねぇハズがねぇだろうがッ‼」
猛獣のようにハシャーナに飛び掛かるヴァレッタ。
精一杯のブラフも通じなかったようだ。
余りにも絶望的な状況だが、それでも冒険者の意地を見せつけてやると剣を構えた時。
風が、吹き荒れた。
「ガッーー!?」
金色の人影が迫っていたヴァレッタを吹き飛ばす。
狂信者も、モンスターも、熱狂を忘れて立ち尽くした。
「……援護します」
最強派閥【ロキ・ファミリア】の幹部。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。
単独の戦闘能力ならばファミリア内最強と名高い第一級冒険者の存在を前に、まやかしの強さなど通用しない。
「クソがァ!? なんでここにいんだよ! 【
「みんなが押さえてくれている。私はミノタウロスを追っていただけだけど、貴女がここにいるなら、見逃すわけには行かない」
「……つまりはミノタウロスを放って置いたってワケか! ハハッ、流石冷酷無慈悲な勇者のファミリアだなァ!そんな奴らが正義を気取ってるなんざ笑わすな‼」
「……問題ない」
ヴァレッタの挑発にアイズはピクリと反応するが、直ぐに冷静さを取り戻す。
同時に、その姿が掻き消えた。
ハシャーナにはそう映った。
「ガフッ……ッ‼」
「貴女を倒して、それから追えばいい」
「舐めてんじゃねェぞおおおぉぉぉ!?」
ヴァレッタの獣じみた声と共に、彼女の周りを白装束の軍団が固める。
鈍色の武装は
「……今度の奴らはステイタスがかなり高いな。自爆兵じゃない実働部隊か」
【剣姫】と真っ向から打ち合えるだけの強者はいないようだが、向こうは鼻からその気はないだろう。
どうやら自分にもまだ役目はあるようだ。
「【剣姫】は【
「貴方は?」
「あの女さえいなけりゃどうとでもなる。頼んだ」
「はい」
アイズはヴァレッタに、ハシャーナは
ヴァレッタの悪知恵さえ封じれば、この階層には【ガネーシャ・ファミリア】も到着している。すぐにでも援軍が到着するだろう。
前に仕留めそこなったハシャーナにこだわったおかげで、ヴァレッタは徐々に追い詰められ始めている。
(状況は依然として分からんが……一先ずの平穏は確保できそうだな)
そうハシャーナが考えたのは当然のことだろう。
ヴァレッタに逆転の目はない。
冒険者としての経験が、そう断言していた。
『さてはて困りましたねぇ……私も少しは手助けすべきでしょうか?』
最後の声は誰なのか。
正直バレバレな気もします。