背が高く、がたいのいい男、二人が互いに見合っている構図というのは絵になるが、だが、この場合は嫌な予感しかしなかった、というのも二人の顔は笑っていないのだ、多分、いや、仲かいいとは言えないのだろう、見ていて分かるからだ。
これは逃げよう、いや、その邦画絶対にいい、この選択ルートは一つしかない、この場から立ち去るしかない、間違っていないはずだ、こっそりと、そろりそろりと、数メートル離れたところで早歩きだ、走る事をしなかったのは履いている靴がウォーキング屋、コンフォートシューズなどではなく、
ヒールのある靴だからだ。
現実でも、こんなに靴は履いた事はない、黒のエナメルっぽい、いかにも、お洒落な靴、こういうのは背の高いナイスバディの格好いい女が履くのだ、自分には百年、いや、一万光年早すぎる、そんな事を思いながら袋を抱えて歩き出した、ところが、急いでいたせいで建物の角を曲がろうとして、ぶつかって見事に転んでしまった、のだ。
野球のスライディングじゃあるまいし顔面からだ、そして袋に入っていたパンは見事に散乱した、この瞬間、頭の中を有名な中○みゆきの歌詞がよぎった、いや、自分の運命を呪いたいぐらいだと思ったが、我に返った、パン、まだ一つも食べていないのだ。
パンは砂にまみれていたパンは三秒ルールは通用しないぐらいに、いや、運の悪いことに水たまりまであった、脱力なんてモノではない。
だが立ち上がろうとしたとき、ガクンとなり、そのまま転倒、ダブルだ、ところが、足元を見て気づいた靴のヒールがなかったのだ、何、これ、駄目じゃない。
三度目、トリプルショックーッッ、気持ちが折れてしまいそうだ。
(解説者、恨み、いや、恨むわ、所持金は金貨一枚とか、特別待遇、チートなし、これじゃあ、バッドエンド、まっしぐら)
情けないと言うより、泣きたい気分になった、ライトノベルや映画の主人公でももう少しマシな扱いではないだろうか。
「おい、大丈夫か、あんた」
顔を上げると葉巻を咥えた男が立っていた。
「だ、大丈夫です」
さっきの人も葉巻を咥えていた、ニコチンは体に悪い、長生きできないと言っても立派なおっさんになるとやめられないんだろうと思いながら立ち上がる。
「いや、こっちこそ、悪かったなあ、あー、よかったら飯でも奢らせてくれないか」
空腹なので、そう言われた時、素直に嬉しいと思ったが、後で何か良くない事があるのではと思ってしまい、素直に頷く事ができない、それに靴だ、右のかかとだけが取れたのだが、まさか片足、最悪、素足で歩くというのは遠慮したい。
「ありがとうございます、でも」
「その靴もだ、悪かった、本当に」
すまないといわんばかりの言葉、顔も強面だ、うーむ、悪い人では、いや、そんな事を思ったけど、やはり、ここは遠慮した方がいいのかもしれないと思ったが、そのとき、目の前が真っ暗になった。
「ああ、良かった、忘れ物ですよ」
目の前にいたのは解説者だ。
「大丈夫ですか、生きてますか」
もしかして、これってバッドエンド、空腹で終わりなんて情けない幕切れは回避できないんだけど、そう思っていると解説者は話し始めた。
大事なこと忘れていたんです、注意事項ですとと言われても、投げやりになってスルーしたい気分になった。
ここはアニメやゲームの世界ではない、あなたにとって未知の世界。
もし、戦闘に巻き込まれたら秒殺でエンドですと言われて、しばし、無言になってしまった、最悪なんてものじゃない、残酷すぎると思った。
悪魔の実を食べた能力者ならともかくと言われて、あっと思った。
確か、食べたら特別な、それこそ、チート、人間離れした力を持つ事ができるんじやない、だったら、その悪魔の実を思ったとき、目の前でバッテンと両手をクロスされた。
「駄目なんですよ、それ、特別待遇になりますから」
非情だ、ううっ、現実に戻りたいと思った、ところが。
「ここが、もう、現実になってしまったんです、だから、貴方には」
えっ、何を言ってるのか、解説者の言葉がヒュリラーっっっ、正直、右から左へ聞き流したい気分になったのだが、何故か目が、瞼がひどく重い。
「だから、貴方には能力者の力を」
何を言ってるのか分からない、空腹なのかそうでないのか分からない、ああ、もしかしたら死にかけ、いや、これがジ・エンドなのかもしれないと思いながら、目を冷ました。
生きているんだとほっとしたけど、情けないことに感じたのは空腹感だけだった。