私が私になるまでの ~黒江真由、中学生編~ 作:ろっくLWK
【低音パート】
黒江真由
二年生。ユーフォニアム。この春、他県から曲北中学校に転校してきた。
長澤水月
二年生。ユーフォニアム。おしとやかで美人な子。何故か標準語で喋る。
荒川ちなつ
三年生。ユーフォニアム。低音パートリーダーで、吹部の部長も務める。
中島日向
三年生。チューバ。低音パートの副パートリーダーで、ちなつとは仲が良い。
伊藤雄悦
三年生。ユーフォニアム。長身痩躯で、体力が無いことがコンプレックス。
石川泰司
一年生。チューバ。サッカー部出身で、この春から吹奏楽を始めた。
三島玲亜
一年生。ユーフォニアム。小学生の頃からマーチングをやっていた。
【吹奏楽部部員】
秋山ゆり
三年生。アルトサックス。小学校の頃に他県から引っ越してきた。
秋山楓
二年生。クラリネット。ゆりの妹で、姉のことが大好き。
佐藤和香
三年生。オーボエ。四角いメガネが個性的なドラムメジャー。
草彅雅人
二年生。トロンボーン。真由とは同じクラスの寡黙な男子。
小山杏
三年生。トランペット。ちなつや日向らとは小学校時代からの付き合い。
松田奈央
二年生。トランペット。杏の直属の後輩でカラリと元気な性格。
【その他】
永田栄信
曲北吹奏楽部顧問。個性的な人物だが、音楽に関する指導力は確か。
戸嶋真理子
真由のクラスの担任。担当教科は国語。既婚。
進藤早苗
二年生。真由のクラスメイトで卓球部所属。
私が私になるまでの
~黒江真由、中学生編~
〈Follow The Leader〉
ごう、という音と共に、窓の外の景色が一瞬で暗闇へとすり替わる。今まで見ていたものはもはや、遥か彼方へと流れ去ってしまった。次にこの窓に映るのはどんな景色なのだろう。そんなことを考えながら、手元の写真帳へと視線を移す。
四角形のフレームに収められた画の中には、たくさんの笑顔、笑顔、笑顔。それは思い出といっしょにシャッターで切り取った大切な宝物の数々だ。例えあの日々がもう過ぎ去ってしまったものなのだとしても、こうして形に留めておくことが出来ればそれは、確かに自分がそこに居たことの証になる。そんな一枚一枚を積み重ねてこうして厚みを増してゆく写真帳は、つまり自分にとっては。
「お待たせ」
顔を向けると、そこにはお弁当のカラを捨てて来てくれた母の姿。「うん」と返事をして、
「どうだった? 真由のお弁当」
「おいしかったよ。牛タンも食べ応えあったし、それに紐を引っ張ったらお弁当が温まるのもすごいよね。ああいうお弁当見たの初めてで、面白かった」
「そう、なら良かった」
真由の反応に気を良くしたのか、母はにっこりと柔らかい笑顔を浮かべる。
「ずっと座りっぱなしで疲れてない?」
「ぜんぜん大丈夫。お母さんは?」
「私も平気。あと一時間ぐらいで着くから、もうちょっとの辛抱ね」
ガタゴト、と車両が小さく揺れる。埼玉で一度乗り換えてからの数時間、この新幹線に乗っていくつもの県境を跨いできた。近年新しい型に切り替わったらしい車両の乗り心地はけっこう快適で、ここまでの旅程にも疲れはほとんど感じていない。真っ黒に塗りたくられた窓にそっと手を当ててみると、車体が風を切って進む振動が伝わってくる。こうしている間にも、車両はものすごい速度でトンネルの中を突き進んでいるのだろう。
ここまでに車窓を通じていろんな風景を見てきた。ビルの立ち並ぶ大都会の街並み。草木生い茂る山中。まばらな家屋やビニルハウスを擁するのどかな田園の平原。目的地が近付くにつれ緑色の割合は減り、それと入れ替わるようにして、山陰に白いものが残っているのを見掛ける機会も増えてきた。まるで巡る季節を遡っていくみたい。そう思った時、真由の体はひとりでにふるりと震えてしまう。
「新しいところでも楽しいこと、いっぱいあるといいな」
くす、と吐息を漏らした母は果たして真由のことを可笑しがったのか、それとも一抹の憐憫を垂れたのか。ややあって、母は真由をなだめるように微笑みかける。
「きっとあるわよ。楽しくしたい、って真由がそう思えば」
そのとき、窓の外がぱあっと明るくなった。
思わず目をすがめた真由が次に見たのは、真っ白な絨毯を敷き詰めた山々の連なり。空はどこまでも抜けるような青色で、そこから燦然と降り注ぐ陽光が、分厚い雪に覆われた辺り一面を鮮やかに照らし出していた。折り重なる峡谷の底を遥か眼下に眺めながら、車両はまるで天上へと伸びゆく道を歩いているみたいにゆっくりと進んでいく。あまりにも幻想的な世界。それを見た真由の胸が、とくとくと高鳴りを打ち始める。
「どう? いいところでしょ、秋田も」
「うん」
頷く自分の声が高揚感に上擦る。新しい場所での、新しい生活。これからここでどんな出来事が待っているのだろう。自分はここでどんな日々を過ごしてゆくのだろう。そんなふうに期待と不安に胸を疼かせる真由を、その光景はまるで優しく迎え入れるかのように、どこまでも美しくきらきらと輝いていた。
――国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
いつかどこかで読んだ小説の書き出しを、そのとき真由は思い出していた。