MH ~IF Another  World~   作:K/K

36 / 44
前回が悪い意味での共存だったので今回は良い意味での共存を書くつもりです。
一話一話は短いですけど数話続く感じになります。


護国のモノたち/その1 良き隣人

 とある小さな国。小国ながら資源に恵まれており、小さいながらもそこに暮らす国民は豊かな生活を送っていた。

 だが、その国は一つの問題を抱えている。その国を挟むように二つの国がある。二つの国は大変仲が悪く、絶えず戦争を繰り返していた。その間に挟まれている小さな国は、二つの国が行き交う場所にあるので常に二つの国から同盟という名の従属を迫られていた。

 小さな国が出した答えは中立。どちらの国にも属さないし、どちらの国にも手を貸さない。ただし、戦いを挑んでくるのなら全力でこれを撃退するという中立。

 小さな国の生意気な宣言に二つの国は腹を立て、小さな国を力尽くで従わせることを選び、戦争を挑んだ。

 しかし、小さな国が中立宣言したのは決して無謀なことではない。小さな国は自然の要塞と言えるぐらいに攻め難い土地であった。

 水棲の魔物が多く生息する巨大な湖。断崖絶壁で挑む者たちを阻む山。先が見えないぐらいに生い茂った深い森。それらが小さな国を囲んでいることで二つの国は簡単には落とせない。

 しかもそれだけではない。それぞれの場所にはその土地を縄張りとする強大な存在が居た。それらは二つの国の兵士たちをいとも容易く屠り、小さな国への侵入を許さない。

 命からがら逃げ帰って来た者たちは畏怖を込めて、小さな国の国民たちは尊敬と崇拝の念を込めてその存在を護国のモノたちと呼んだ。

 小さな国と護国のモノたちの間に明確な契約がある訳ではない。利害関係が一致しているだけで下手に踏み込めば小さな国の国民であっても牙を剥くことがある。しかし、それでも小さな国の者たちの意思は変わらず、それらの失敗を経て正しい付き合い方を学んだ。

 そして、長い時間を掛けてその付き合い方は一つの形へとなったのだ。

 

 

 ◇

 

 

「ふむ……お前も今年で成人となるな」

「はい。父上」

 

 玉座に座る中年男性に若々しい青年が頷く。彼らは小さな国の王と王子。今いるのは彼らの城の謁見の間。だが、謁見の間という割には中身は至って質素。金銀宝石で飾られている訳ではなく王の玉座も手の込んだ意匠はあるが木彫りであり、謁見の間に飾られているのは名も無き絵描きが描いた王や王子の肖像画や彩り溢れた刺繍が施された飾り布などなど。

 王や王子の姿も動きやすい服装であり、肩書きを知らない者から見たら小金持ちの親子ぐらいにしか映らない。

 二人のやりとり見守っている臣下たちなどほぼ家用の私服であり、そういった雰囲気も相まって厳かな印象が薄い。

 

「ならば今度の巡礼はお前に任せるとしよう」

 

 巡礼。その言葉を聞いた瞬間王子は息を呑む。緊張した面持ちになるが、すぐに使命感による興奮により顔に赤みが差した。王子の分かり易い反応を臣下たちは暖かな目で見ている。殆ど親戚の子を見るような顔であった。

 

「はい! その役目! 謹んでお受けいたします!」

 

 自分で思っていたよりも大きな声を出してしまったので、王子は言い終えた途端に恥ずかしくなったのかますます顔を赤らめた。

 やる気は満ち満ちているが少々空回りしている我が子の様子に王は苦笑する。王と同じ位の年齢の臣下の反応は半分が王と同じような反応だが、もう半分は目頭を押さえている。赤子から今に至るまでの成長を見てきたこともあって大人になったことを実感してつい感極まっているようだ。王もそれと同じ反応をしていた臣下たちも表立って見せないが、内心は似たようなものであった。

 暖かい眼差しと少々湿っぽくなった空気を吹き飛ばすかのように王子は快活に宣言する。

 

「我が国を守護する護国のモノたちに対する礼賛の大義! 必ずや成し遂げてみせます!」

 

 王から王子に引き継がれた巡礼とは、小さな国を守護してきたモノたちに感謝の意を伝えるのが王家の役目。年に一度王自らが護国のモノたちの縄張りに赴き、そこで感謝の気持ちを物として納める。それが王としての習わしなのである。

 今まで王がやって来たことを王子が引き継ぐ。それは近い将来彼が王位を継承することを意味する。

 王子は使命感で胸の奥が熱くなる。言葉以上の決意がその心に宿っている証であった。

 

「──最初に何をするべきか、分かっているな?」

「はい! 我らの隣人の許へ行くのですね!」

 

 王は頷く。この巡礼に護衛は付かない。それどころか従者すらいない。一人で各地を巡る。今までは王不在の間は王の側近や王子が──将来の勉強を兼ねて──政を代行していた。

 比較的危険な場所や生物が少ないとはいえ国の未来を左右する存在の一人旅は心配しかない。そこで頼るのが彼らの隣人──護国のモノたちの一人に手を貸してもらうのだ。

 

「それならば良い。では準備を始めるがいい。出発は明日の朝だ」

「はい!」

 

 王子は活気ある返事をした後、一礼して自室へと戻る。既に頭の中は使命感に加え、巡礼に必要な物の一覧やこれからの事で一杯であった。

 

 

 ◇

 

 

 翌朝。王子は巡礼に必要な道具一式を詰めた袋を背負い、旅をし易い軽装で城の外に立つ。元々王子らしい恰好をしていないが、この時点でそこら辺の一般人とは見分けがつかなくなる。

 

「では行ってきます!」

 

 見送ってくれる王、側近たち、従者たちに挨拶をする。従者や側近らの声援を背に受けて王子は前へ進む。

 王はその背中に声を送ることはしなかった。出来ると信じているからこそ改めて何か言葉を贈るのは野暮。遠くなっていく背中を見守りながら贈る言葉ではなく帰って来た時の言葉を今から考えるのであった。

 城を離れ、城下町に着く。小さな国ではあるが流通の中心である為、店、物、人が賑わっている。

 

「あ、王子」

「王子、お出掛けですか?」

「おはようございます。王子」

「王子さまー、おはよー!」

 

 老若男女問わず王子の姿を見ると誰もが彼に気さくに声を掛ける。

 

「やあ」

 

 王子もまたそれに気さくに答える。

 王族という肩書を持っているが彼らと国民たちとの距離は近い。恐れ多いといって声を掛けない者など皆無。だからといって軽んじられている訳ではなく挨拶をする者たちは全員親しみを込めていた。

 また威厳も無い訳ではない。この国の王族の信条に『王たる者、常に国民と共にあるべき』というものがある。その信条に従い、この国を王族は幼き頃から国民たちの仕事を手伝いや共に祭や行事を行うことをしてきた。故に王族たちと国民たちの距離感が近い。

 王子もまた例外ではなく年齢が十を超えた時から農業や漁業など様々な仕事を体験、従事していた。

 国の将来を背負う為、国民たちの期待を背負う為。王族がするようなことではない泥臭い体験だったが、王子は嫌ではなかった。寧ろ楽しさすら覚えており、王族としての習い事よりも先に農業などの知識が豊富になっていた。

 良く働き、腹が減ったら良く食べ、また良く働く。それらを繰り返した結果、王子は国でも上から数えた方が早いぐらいの立派な背丈と厚みのある体になっていた。国民たちとすれ違っていく王子。その背は他と比べて頭一つ分、もしかしたら二つ分抜けていた。

 その立派な体格も国民たちが王子だと一目で分かる理由である。因みに体型が恵まれているのは家系であり王も筋骨隆々とした肉体を誇っている。

 殆どの国民たちと挨拶を交わし、いよいよ国の外へ出る。門を潜った先に広がるのは平野。遠くには山が見え、まず最初にその山を目指す。そこが彼らの隣人の住処だからだ。

 

「ご無事を祈っております」

「王子ならばきっと大丈夫でしょうが」

 

 門を守っている兵士たちが王子に声援を送る。王子は白い歯を見せて笑う。日で焼けた肌に似合う笑みであった。

 

「楽しんでくるさ」

 

 見送ってくれる兵士たちに手を振りながら王子は目的地を目指す。

 いつもならば護衛や従者を連れて行くが、今回は初めての一人旅。一人故に周りの景色をじっくりと見ながらゆっくりと先へ進んで行く──

 

「……少し走るか」

 

 ──が、早々に徒歩から走りへ切り替わる。景色を楽しむ、という情緒はあるがそれを上回るぐらいに王子はせっかちであった。ゆっくりと歩いていると体がそわそわしてしまい、逆に思いっきり動かしたくなってしまうのだ。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ走ろう」

 

 王族として慌てているような姿を見せては国民に示しがつかない。誰も周りに居ないことを確認してから王子は走り出す。

 腕を交互に振り、脚を高く上げての快走。野営の為に必要な道具一式は少なくとも子供一人分の重量はある筈だが、王子にとっては重石にもならない。

 風を切る感覚と一人っきりという解放感が合わさって王子の走りは止まらない。

 

「あれ王子様じゃね?」

「本当だ。相変わらず凄い体してんなー」

 

 畑を耕している農民らが遠目で走る王子の姿を確認する。風を突き破るような勢いで走る王子には特に驚かない。凄まじい身体能力は周知の事実であり、王子が十二の時に丸太二本を両肩に担いで歩いていたのは今でも語り草になっている。

 有り余る体力と使命感に突き動かされて爆走する王子。気付けば歩いて二日掛かる筈の道を一日で踏破してしまった。

 

「……はしゃぎ過ぎたか」

 

 衝動のまま走った結果、目的の山の麓まで来てしまった王子。せっかちだと周りによく注意されていたが、その悪癖は未だ直っていないことを改めて自覚する。

 

「どうするか……」

 

 日は既に傾き始めているが、王子は汗こそ流しているがまだ山を登る体力は十分ある。

 少し考えた結果──

 

「──登るか!」

 

 ──性分に従って登山を決行した。

 道具袋の中からランプを取り出して光源を確保。前以って言われた道から山の中を進んで行く。

 殆ど整備されていない凹凸の目立つ山道。しかも斜面となっているので登山者の体力を容赦なく奪っていく──筈なのだが、王子はそれを平地のように鼻歌まじりで登っていた。

 どんどん先へ進んで行く。日も沈み、夜空になる。ランプ一つで暗い山を登るなど自殺行為なのだが、王子は微塵も恐怖した様子はなかった。

 やがて、目的地付近にまでやって来る。

 

「この辺りの筈だが?」

 

 周りを灯りで照らすがそれらしいものは見当たらない。

 その時、茂みが揺れる音がする。その音は王子に向かって近付いて来ている。

 この山には凶暴なモンスターは住んでいないが、それでも人を害するモンスターがいない訳ではない。普段は大人しくても縄張りに余所者が入った瞬間、牙を剥いてくるモンスターも居る。

 王子は表情を引き締め、拳を固く握り締める。金属製の鎧すらも凹ませる程の威力を持っているそれが王子にとって今一番の武器である。

 音が間近まで来た瞬間、それは茂みから顔を覗かせた。すると、王子は先程まで真剣であった表情を緩ませる。

 

「ああ、お前たちか」

 

 彼らと王族との出会いは今から先々代の王の時代まで遡る。

 ある日、山で狩りをしていた王はモンスターに襲われてしまい、護衛たちとはぐれてしまった。またその際に運悪く足場を踏み外して滑落しており、足を負傷して動けない状態で遭難してしまった。

 万事休すかと思ったとき、王の前に彼らは現れ、そして王を安全な場所まで運んでくれた。

 王は助けられたことに深く感謝し、彼らを城へと招いた。

 彼らは王たちとは異なる種族であり、言葉が通じなかった。しかし、身振り手振りで事情を凡そ察することが出来た。

 彼らは何かしらの事情で故郷を離れてしまい、安住の地を求めて彷徨っているとのこと。

 彼らの事情に心を痛め、また恩義を感じていた王は感謝の気持ちを込めて自分の国の一部を彼らに与え、そこを安住の地とするよう勧めた。

 居場所を与えてくれたことに彼らもまた深く感謝し、それ以降彼らは王族を陰ながら支えることを誓った。

 自分たちの居場所を手に入れた彼ら。最初は十にも満たない数しかいなかったが、やがて何十倍にもその数を増やす。

 彼らは器用で、賢く、勤勉で、勇敢な種族。

 この国に馴染み、言葉を覚えたとき初めて口に出したのは自分たちの種族の名前。

 彼らは小柄な体型をしており、頭頂部には三角形の耳。両目はガラス玉のように大きく、丸く、煌めいてる。白や灰、茶などの異なる体毛を全身に生やしているが共通して腹部には肉球の形をした模様がある。

 

「ニャー。王子様ニャ」

「ニャ? 何でいるニャ? 予定だと明日ぐらいの筈ニャ?」

「もしかして急いで来たのかニャ? 相変わらずせっかちだニャー」

 

 この国の良き隣人。彼らの種族の名はアイルーという。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。