MH ~IF Another  World~   作:K/K

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前置きしてたら長くなりました。次で森編は終わります。


護国のモノたち/その6 森の中へ

 王子たちは森の村で朝を迎える。

 昨日、案内役の褐色の子は明日から森の案内兼カエル獲りと虫獲りをすると言われた。村に着いた時はまだ日が高かったので今からで行けないか訊ねてみると──

 

「あのさぁ、森の中央まで結構な距離があるんだよ? その上でカエルやら虫やら獲ってたらあっという間に夜になるよ? 森の中央から入り口付近まではあんまり危険な獣や虫とかいないけど、それでも安全じゃないの」

 

 これだから何も知らない奴は、と呆れ果てた眼差しを向けられたので王子は大人しく従うことにした。どちらにせよ案内役が居なければ森の中を進むことは出来ない。案内役が今日は案内しないと言うのだからそれに従うのが賢明である。

 村の長の計らいで村の長の家に泊まり、そして朝早くに起床。隣ではお供アイルーが仰向けになって腹を見せながらまだ眠っているので、その無防備な腹を突っついて起こしてやる。

 

「ニャっ!?」

 

 体をビクンと一瞬震わせてからお供アイルーが起き上がる。

 

「ニャー……おはようだニャー……」

「ああ。おはよう」

 

 半分寝ている目で顔を擦るお供アイルー。王子は立ち上がって寝床の整理をしていると、村の長の身内が呼びに来た。

 

「おはようございます。朝食の準備が出来ております」

「分かった。ありがとう」

 

 身なりを整えた後、中央の広間へ行く。そこには豪勢な朝食が並べられていた。

 キノコや山菜の汁物。初めて見る焦げ目の付いた白い楕円形の物体。一匹丸々焼かれた鳥。果物らしきものまで皿に添えられている。

 朝食にしては少々豪華過ぎる。あまり豊かそうではない建物の感じからして少し背伸びをしている、と失礼ながら思ってしまう。

 そこまでする必要はない、とは今更言えず折角の持て成しの心を無下には出来ないので有難く頂く。

 

「有難く頂こう」

 

 目の前の食事と用意してくれた村の長たちに感謝を述べてから王子は朝食を食べ始めた。

 一品一品味わうように平らげていく王子。傍に座るお供アイルーも小柄な体型ながらそこそこの量を食べていた。

 

「いつまで食べてんだよー」

 

 急かす声が家の出入口から聞こえる。出入口の壁に背を預けて半眼でこちらを見ている褐色の子が立っていた。

 

「あんまりのんびりしないでくれよ? 行きも帰りも時間が掛かるんだぜ?」

 

 王子の対して口の利き方がなっていない褐色の子に村の長以外の大人たちが蒼白になった後、逆に顔を真っ赤にして何か言おうとするがその言葉よりも先に王子の声が割って入った。

 

「いやー、すまん。美味い食事だったのでじっくりと味わいたくてつい時間掛けてしまった」

「早く食べてくれよー」

 

 周りの心情など全く気にせず、褐色の子は王子が手に持っている骨付きのもも肉を見ながら催促する。

 村の長たちへの感謝の意を込めてなるべくゆっくりと食べていたが、村の中でも誰よりも森のことを知っていると言われている子の言葉を信じるのなら、悠長な朝食はここまでである。

 王子は骨付きもも肉を骨ごと齧る。誰かが『えっ!?』と声を上げたが王子は構うことなく残りを二口で頬張ると硬い鳥の骨を強靭な顎を高速で動かして嚙み砕き、摺り潰し、まとめて呑み込む。

 

「ご馳走になった──よし、行こう」

 

 十秒で咀嚼し終えた王子に皆言葉を失って啞然としていた。

 

 

 

 

 森の中。頭上高くを長く伸びた枝が張り巡らせているが、葉の隙間からは朝日が差し込んでおり森を照らす。

 濃い緑のニオイと少し湿った土のニオイ。そして、あまり嗅いだことがない独特なニオイが森の中に満ちている。

 

「ここは比較的に道が均されているけど、それでもそこそこ歩き難いから。最短距離で行くつもりだけど、はぐれないでよー? 」

 

褐色の子を先頭にしてその後に王子とお供アイルーが付いていく。王子とお供アイルーは木の皮で編まれた篭を背負っている。この森の棘神と呼ばれている護国のモノに捧げる為のカエルや虫を入れて為のもの。褐色の子曰くそれが棘神の好物らしい。

 

「ああ、足腰には自信があるつもりだ」

「アイルーはこれぐらいの道、平気だニャー」

 

 褐色の子は口調はぶっきらぼうだが相手をきちんと気遣ってくれる。今も王子たちの様子を確認しながら歩くペースを王子たちに合わせてくれていた。

 

「しかし──」

 

 王子は森の中から空を見上げる。青々とした葉に覆われているので殆ど空は見えない。見上げていた視線を周囲に向ける。少し前まで居た村とは肌で感じる空気が違う。良くも悪くも生命というものが満ちているような気がする。良くもというのは多種多様な木々や草、生物の部分。悪くもという部分は時折殺気に似た気配を感じること。

 

「……ここら辺の奴は積極的に人を襲わないよ」

 

 褐色の子は王子が周りを気にしているのを察し、不安を解消させるように教えてくれた。

 

「その割には狙われているように感じるのだが……」

「確かにニャー」

「命は狙ってないよ。狙っているのは──死体だよ」

「ほう?」

 

 褐色の子が説明では森の中入り口付近に潜む生物たちは戦闘能力や殺傷能力が低く、他の生物の死体を主に餌にしているとのこと。死体を生物たちが食事という形で分解し、その後に排泄。そして森は生物の排泄物を栄養にしてまた成長するという循環が出来上がっている。

 

「そういう訳で皆餌待ちということだよ。何かの拍子で死ぬのを待っているんだ」

「ふっ。ある意味では歓迎されているな」

 

 その時、お供アイルーの耳がピクリと動く。そして、上を見上げた。枝から枝へ何かが高速で飛び移っていく。お供アイルーから少し遅れて王子たちもそれに気付く。

 

「まあ、あれは大丈夫だよ」

 

 警戒する王子とお供アイルーに褐色の子は特に身構えることもしていない。

 

「森の浅い域で木の上で暮らしている奴は基本的に人を襲わないんだよ。後素早い奴も。木の上には実とか食べるものが豊富だし、素早いのは餌を獲るのが上手だから人を襲う程飢えてないの」

 

 長年森の傍で生活している者らしく豊富な知識で説明をしてくれる。褐色の子の頼もしさを感じながらふとある疑問が過る。

 

「ならば遅いものや地面で生活しているものは人をおそうのか?」

「さっきも言ったように地面で生活している奴は殆ど掃除屋。遅い奴は……ある意味では危険かも」

 

 ある意味ではとはどういうことなのか少々引っ掛かったが、話の感じからして直接襲ってくるようなものではないらしい。

 

「ニャ」

 

 お供アイルーが何かに気付き、少し道から逸れて木の根元にしゃがみ込む。

 

「寄り道するなよー」

「どうかしたのか?」

 

 お供アイルーが立ち上がると両手にキノコを持っていた。

 

「これ、うちの山にも生えているキノコニャー。薬草と混ぜると良い傷薬になるんだニャー」

 

 青々としたお世辞にも普通には見えないキノコをお供アイルーは嬉しそうに二人に見せる。

 

「へぇー。そっちでもそういう使い方してるんだ」

 

 褐色の子は既知であったが、アイルーたちも同じことをしている事実に関心を示す。

 

「今後の旅に役立ちそうだな──そのキノコは食べられるのか?」

『食べられるけど不味い』

 

 褐色の子とお供アイルーが口を揃えて言う。毒は無いが食用に向いていないとのこと。

 

「因みに傷薬は飲み薬ニャー」

 

 褐色の子は味を思い出したのか顔の部位が中央に集まったようなしかめっ面になっている。

 

「……今から味が楽しみだな」

 

 お供アイルーが青いキノコを採集した後、また歩き始める。少々時間が経過したとき、褐色の子が足を止めた。

 

「あれ」

 

 褐色の子が何かを指差す。指した方を見ると木の根元にまたキノコが群生している。かなり大きなキノコであり、傘の部分が赤ん坊の頭ぐらいある。しかし、目立つ大きさの反面色自体は薄い茶色という地味なものであった。

 

「あのキノコがどうした?」

「目当て虫の餌にしているキノコ」

 

 つまり、あのキノコの周辺で待ち構えていればその内虫の方から来てくれるかもしれない。

 

「まだ吸われた痕も無いからその内来るかもしれないよ」

「そうか──因みにだが、あのキノコは──」

「毒キノコ。食べたら上と下から溶けた内臓を出すことになるよ」

「……よく覚えておこう」

 

 お目当ての虫が来るまでの間にこの森のキノコに関して色々と教えてくれた。何でも森のキノコの半数は毒キノコであるらしい。ただし、正しい調理法や処理の仕方をすれば食べられるようになるのが大半。先程見つけた毒キノコは煮ても焼いても食えない例外。煮たり焼いたりすると毒の成分が気化して大惨事を引き起こす。

 この森が迷宮と呼ばれる所以の一つが森に群生するキノコ。森に迷った敵はやがて食糧が尽き、森に生えているキノコに手を出す。食べられる木の実などは木々の高い位置に生えているので手軽に獲れるキノコに手を出してしまうのだ。

 そして、手を出したら最期毒キノコの毒にやられる。毒キノコの種類によっては遅効性の毒もあるので食べた時には気付かず、じわじわと毒に侵され気付いた時には指一本動かせない状態になる。森の中ではまともに動けなくなった人間など他の生物たちの餌にしかならない。

 嫌な話ではあるが、そういう敵の犠牲があったからこそ森の傍で暮らす人々はキノコの毒性の有無に関して最小限の犠牲を払うだけで済んでいた。

 興味深いが面白いとは言えない森の歴史について学んでいた所、大きな羽音が聞こえてくる。

 

「──来た」

 

 森の陰に隠れていた王子とお供アイルーは、陰から顔を出して音の方を覗き見る。

 人の大きさもある黄土色の巨大な羽虫が羽を高速で震わせながらゆっくりと降下してきている。

 虫らしく頭、胴、腹の三つの部位に分かれているが、腹の大きさが全体の三分の二程あり、重いのか下に垂らしている。

 

「……でかいな」

「アブォブォ」

「ん?」

「村ではあの虫をアブォブォって呼んでいる」

 

 名を聞く限り巨大な虫の羽音をそのまま名付けたと思われる。

 アブォブォと呼ばれた虫は滞空しながらキノコへ接近し、口をキノコの傘へ近付けると口の中から筒状の器官を出してキノコに刺す。

 

「アブォブォはああやってキノコの汁を吸う。アブォブォはあのキノコを良く吸う」

「毒キノコなのにか?」

「アブォブォにはキノコの毒は効かないよ。だから、アブォブォは毒キノコばっかり食べる」

「悪食だニャー」

 

 アブォブォについての説明をしながら褐色の子はさりげなく落ちてある太めの木の枝を拾い上げ、キノコを吸うことに夢中になっているアブォブォに静かに近寄り、その頭部に木の枝を振り下ろした。

 キキィという甲高い鳴き声を上げながらアブォブォは地面に仰向けに落ちる。すかさず褐色の子は頭部を何度も叩き、完全に潰す。

 六本の足が空を掴むように寄り、頭部だった所から緑色の体液を流してアブォブォは絶命した。

 

「これ、篭に入れて」

 

 ピクピクとまだ動いているアブォブォを木の枝で指しながら指示を出す。

 

「うむ……」

 

 王子は言われるがままアブォブォの胴体を挟んで持ち上げる。見た目よりかは軽い重量。胴体の外骨格は硬い箇所と柔い箇所があり、その感触の差が鳥肌を立たせる。

 

「ニャー」

 

 お供アイルーも王子を手伝おうと大きな腹部に手を添えようとするが──

 

「破かないように気を付けた方がいいよ。アブォブォの腹の中は色んな毒で一杯だから」

「ニャッ!?」

 

 お供アイルーは反射的に手を引っ込めてしまう。

 

「遅い奴は危険だって言ったけど、その代表がアブォブォだよ」

 

 森の中で遅い生物は基本的に餌にありつけない。そこで遅い生物たちが目を付けたのが森に無数にあるキノコ。しかし、キノコの大半は毒である。遅い生物たちはそれらを耐える為に進化し、毒に対する強い耐性を得た。それは結果として体内に毒を持つことを意味し、アブォブォを含む遅い生物たちは毒故に他の生物から襲われることはなくなった。

 

「まあ、そんなことだから棘神様くらいしか食べないんだよ」

 

 悪食呼びした虫を食べる更なる悪食。一体どんな姿なのかますます気になってしまう。

 

「あと一、二匹獲ったら行こうか、向こうの沼に」

 

 王子は頷きながら未だに蠢くアブォブォを篭の中に入れた。

 

 

 

 

 アブォブォ。大きな羽を持ち、一定の速度で移動する大型の虫。その飛行速度は人の歩く速度とは変わらない。鈍足や攻撃手段の無さから体内に蓄えられた毒以外は危険性の無い虫と認識されている。

 森の人々は長くから森の中に生息する虫として思われている、実はアブォブォ自体に長い歴史は存在しない。

 ある日偶然この世界に流れ着いたある大型昆虫。元の世界ではランゴスタと名付けられた虫。肉食であり、緩急自在の飛行能力を持ち、獲物を麻痺させる毒針を尾に持っている。

 場所が変わってもランゴスタがやることは変わらず本能のまま獲物の捕獲、捕食、そして繁殖である。

 ランゴスタが現れた森には奇跡のような偶然か、それとも因果なのかランゴスタに良く似た羽虫が居た。似ているのは見た目だけでなく体内の構造すらも良く似ていた。

 ランゴスタとその羽虫はある日偶然出会い、交配。そこで誕生したのが交雑種のアブォブォである。

 ランゴスタのような飛行能力はなく、肉食ではなく、麻痺針も持たない混ぜ合わせた結果マイナスの方面に突出した雑種。唯一の強みは毒に対する強い耐性。これは羽虫の方の特性である。

 ランゴスタはやがて森の中最奥で巨大な巣を作り上げ、他の肉食生物たちから恐れられる存在となり、アブォブォは餌を求めて森の入り口付近へ移動。そして、この森に生息していた羽虫は、アブォブォと入れ替わるようにひっそりと数を減らしていき、いつの間にか見当たらなくなっていた。

 

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