MH ~IF Another  World~   作:K/K

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次回でこの話も完結となります。


護国のモノたち/その8 姿無き伝説

 棘神ことエスピナスとの邂逅は想像していたよりもあっさりと終わった。タマミツネと同じように王子たちというか人間に対して特に警戒している様子を見せず、日常風景の一部程度にしか捉えられていなかった。

 不思議と見下されているとは感じなかった。比べるような相手ではないと対峙した時に思ってしまったからなのかもしれない、と王子は内心思う。

 

「凄かったでしょ? 棘神様は?」

「──ああ。流石はこの国を守ってくれたことだけはある」

 

 我が事のように誇らしげに言う褐色の子に対し、王子は思ったことをそのまま言った。

 日が傾きかけた頃、王子たちは森を抜け、村へと戻って来る。道中森の中で迷うことは一度たりともなかった。褐色の子は道を確認するような動作や立ち止まることは一切無く、非常に簡単に戻って来ることが出来た。

 あまりに迷いの無い歩みに王子は森の中で褐色の子に訊ねてみた。木々が生えたりして風景などが変化する森の中をどうやって迷うことなく進めるのか、と。

 

「中は変わっても上から見たら変わっていないから」

 

 驚くべきことだが、褐色の子は特殊な視点と記憶力を持っているらしく外から見た森の全体図が頭の中に入っており、その全体図を基にして常に自分たちの位置を鳥の如く真上から見下ろす視点で把握しているとのこと。

 自分には絶対に出来ない方法だと説明を聞いた王子は思った。

 村人たちは無事に王子たちが戻って来たことに安堵し、また第二の巡礼が成功したことを祝って宴を催してくれた。

 夜になると村の中心で前以って準備をしていた大きな火を焚き、その火を囲みながら料理や酒を振る舞い、村人全員で賑やかに祝う。

 王子は振る舞われた料理に舌鼓を打ち、村で造られた酒で喉を潤しながら旅で会った護国のモノのことを思い返す。

 護国のモノ──タマミツネとエスピナスは自分の想像を遥かに超える規格外の存在であった──身近な護国のモノであるアイルーは別方向で色々と規格外だが──二体と出会い、まだ知らないことが多くあることを思い知らされる。

 王子は気が早いと思いながらもこれから会うだろう最後の護国のモノに対して緊張を覚える。

 この森から遥か先にある山岳地帯。そこに住んでいると言われている護国のモノ。今まで巡礼を成功させてきた王子が今更緊張を覚えているのには訳がある。

 今だからこそ護国のモノたちと呼ばれているが、最初は護国のモノと呼ばれる存在はたった一体であった。

 最初に護国のモノと呼ばれ、この国の危機を救った絶対的な守護者。それが最後に会う護国のモノである。

 

「いつ旅立つの?」

 

 いつの間にか傍に褐色の子が来ており、その声で王子は一旦考えるのは止め、意識をそちらへ向ける。

 

「明日には発つつもりだ」

「早いね」

「王子はせっかちだからニャー」

 

 お供アイルーが揶揄うと王子は苦笑する。全くもってその通りなので反論することも出来ない。

 

「ふーん……」

 

 特に表情の変化は無い。別れを惜しんでいる雰囲気は無い。しかし、だからといって別れに無関心という風でもない。もしかしたら、湿っぽい感じが嫌いなのかもしれない。 思えば褐色の子は会った時からずっと強く感情を見せる感じではなかった。いつ旅立つか聞いてくれる分だけ少しは良好な関係を築けたと思われる。

 

「──来年」

「来年?」

「来年もまた森の案内を頼もうかと思っている。お前の案内があれば、あの森も怖くはない」

 

 案内の先約。決してお世辞ではなく本音である。こうやって宴を楽しめているのも案内役が有能であったからだと王子は本気で思っている。

 

「……考えとく」

 

 約束するとは言ってくれなかったが、前向きには検討してくれるらしい。王子にはその答えだけで十分であった。

 

「時間はあるからよく考えておいてくれ。来年はもっと大物のカエルを納めたいからな」

 

 言っている本人は真面目なのだが、それが可笑しかったのか褐色の子は少し噴き出した後──

 

「そうなるといいね」

 

 ──とだけ言い残して離れていった。

 

「今から来年のことを考えているなんて王子はやっぱり気が早いニャー」

 

 二人の会話を聞いていたお供アイルーは、窘めるようなことを言う。巡礼の旅は危険な旅ではないが、全く危険がない訳ではない。何かの拍子に事故が起こるとも限らない。お供という立場として嫌われてしまうかもしれないが苦言を呈する。

 

「──とはいえ湖と森と比べたら最後の巡礼はそこまで危険じゃないニャー」

「うん? どういうことだ?」

 

 最後の目的地には最初の護国のモノが居る。その輝かしくも恐ろしい伝説を知っている王子からすれば最も気を引き締める場所というイメージであった。

 

「王子は知らないのかニャ? 今度行く場所──」

「最初に護国のモノと呼ばれた存在が居る場所なのだろう? どのような存在かは知らないが──」

「僕も知らないニャ」

「何をだ?」

 

 王子の話と繋げて知らないと言うお供アイルー。一体何を知らないのか問い返す。

 

「最初の護国のモノだニャ。僕の父さんも爺さんも知らないニャ。きっと王子の父さん──王様も知らないし見たことが無い筈ニャー」

 

 お供アイルーの言葉に王子は衝撃を受ける。巡礼の旅についての詳細を、自ら試練という意味で敢えて聞かなかったが、初めて聞く情報に王子は思わず固まってしまう。

 数秒間の沈黙の後、王子はようやく口を開く。

 

「それは……どういうことだ?」

「僕も聞いた話だからどうしてそうなったのかは知らないニャー。ただ、今まで巡礼で王様と僕の父さんは最初の護国のモノに会ったことはないと言っていたニャー」

 

 お供アイルーが語るに最初の護国のモノが住んでいると思わしき場所は見つけたが、何度も巡礼として会いに行ってもその姿を見たことは一度もないとのこと。

 

「僕の父さん曰く、最初の護国のモノは他の護国のモノたちと違って僕たちと深く関わらないようにしているかもしれないだとニャー。それぐらい会うのを避けているらしいニャー」

 

 孤高の存在だというのだろうか。今回の旅でタマミツネとエスピナスには会った。最後の護国のモノにも会えるかもしれないと淡い期待を抱いていたが、ここに来て無情な現実を突きつけられる。

 

「伝説になるぐらいの存在だというのに、それ程なのか……」

「色々と語られているのは僕も知っているニャ。でも、実際のところ、最初の護国のモノがこの国の歴史の中ではっきりと記されたのは一度だけだニャー」

 

 遥か昔、王子の父の父つまり祖父の代にこの国に危機が訪れた。

 他国からの侵略戦争である。

 兵士の数も質も圧倒的に劣っているが降伏することも許されず、娯楽のように摺り潰されることが決まっていた。

 しかし、天はこの小さな国を見捨てなかった。

 蹂躙される筈であった小国は、何処からか現れた存在──最初の護国のモノの参戦により大国を押し返し、見事に国を守ることが出来たのだ。

 

「それは俺も知っている話だ。寝物語で何度も聞かされた」

「僕もそうだニャー。その後に何か色々と伝説が作られたみたいだけど、全部箔を付ける為のものニャー。最初の護国のモノはそれっきり人前に現れることは無かったニャー」

 

 王子は複雑な気持ちになる。救国の守護者としての話が一番有名だが、その他にも多くの逸話もあった。だが、お供アイルーの言葉を信じるのならばそれらは全て人が創作した話。子供ながらに感動したりしていたが、真実を知ってしまうと非常に虚しい。

 

「なら、今度向かう場所も実は最初の護国のモノと何の関わりもない場所なのか?」

「それは違うニャー。ちゃんと根拠があって巡礼の場所として選ばれているニャー」

 

 最初の護国のモノに救われた後、王の命令により飛び立った方角への探索が始まった。長い時間を掛けて探したらしいが中々見つけることが出来なかったという。

 やがて、探索を打ち切りになろうとした時にそれは見つかった。

 挑む前から登る気をへし折ってしまう断崖絶壁の山。その登頂部に辿り着いた者は存在しないと言われている山の麓で見つかった一枚の鱗。

 まるで本物の銀と見間違う程の光沢を持ったそれは間違いなく最初の護国のモノの鱗であり、探索していた者たちはこの山こそが最初の護国のモノの住処だと確信した。尤も、これ以降はそれらしい痕跡も情報も見つからず探索者たちも限界であったので半ば強引な決定であったという。

 それ以来、その山は護国のモノの住処として巡礼の地に定められたが護国のモノが目撃されという情報は一切無く、本当は違うのではないかと薄々思われていても今更変更も出来ないので暗黙の了解となっている。

 

「何ともまぁ……」

 

 真実が分からないままなし崩し的にやって来たことが今に繋がっている事実に王子は顔を顰める。中途半端なことを嫌う正確故にその曖昧さが気に入らない。

 

「もしもの話だが──」

「山に登ろうと言い出したら僕は速やかに城に連絡を入れるニャー。いくら王子が常識外れをした体でもあそこを人間が登るのは無理ニャー」

 

 いつもよりも低い声で警告をされた。暗に『自分の立場を考えろ』と告げられる。

 

「──すまない。聞かなかったことにしてくれ」

 

 好奇心が先走って軽率な発言をし掛けたことを素直に反省する。お供アイルー以外に王族や城に仕える者が居ないせいか抑制が出来ていない。

 王を継ぐ者としてあれこれ率先しなければならないという思いがあるが、その結果立場を忘れるような行動をしては本末転倒である。

 

「王子に何かがあったら僕だけの責任じゃ済まないニャー」

 

 お供アイルーは念押しのように釘を刺してくる。そう言われてしまうと王子も無茶なことは出来ない。

 

「分かった、分かった。本当にすまなかった」

 

 お供アイルーは半信半疑の半眼の眼差しを王子に向ける。今日が終わるまでお供アイルーのその目付きは変わることはなかった。

 

 

 ◇

 

 

 夜が明けて王子たちは森の村から旅発つ。また来年も来ると約束をして。

 そこからの道中は全く困難というものはなかった。

 村に立ち寄って村人たちと交流し、時には村人たちに混じって労働をし、村の特産物などで宴をして一晩を明かし、別れを告げて旅を続ける。

 それを繰り返しながら目的地を目指す。時折、立ち寄った村で最初の護国のモノについての話を聞くこともあったが、大抵は王子も知る話であった。

 集められる情報は限りなく少なく、それでも日数は進んで行き、進んだ分だけ旅も進む。

 そして、遂に──

 

「着いたな……」

「着いたニャー」

 

 巡礼の旅の最後の目的地である山へ着く。そこには話で聞いていた以上の山が王子たちを待ち構えていた。

 ほぼ垂直に等しい山肌が端が見えない程に広がっており、また山の頂上も雲に隠れて見えない。

 自然に作られた壁そのもの。調査を断念した気持ちも今では分かる。これを踏破しようとするなら途方もない時間と資金と命が失われることになるだろう。そして、得られるものはそれに見合うとは断言出来ず、また空振りに終わってしまうかもしれない。

 賭けるには得るものと失うものがあまりに釣り合わない。

 

「……」

 

 目の前の山を見てしまえば登って探すとはもう一度言えなくなってしまう。先々代が諦めた気持ちも良く分かってしまう。

 それでも出来ることなら会いたかったという思いが胸中に過る。我ながら未練がましいと思いながら。

 

「……山の麓に祀る為の場所を作ってあると言われているニャー。そこでお祈りをしたら王子の旅の目的もほぼ完了ニャー」

 

 せめて伝説を後世に伝える為に用意された奉納場。他の護国のモノたちと違って何を納めればいいのか分からないので感謝の気持ちだけを捧げる。

 奉納の場に着く。そこには野菜や果物といったものが付近に住む者たちから既に納められてあった。

 そして、王子はふと気付く。奉納の場に収められた不似合い物。槍と剣と盾。随分昔からあるのかその三つの武具は所々錆びていた。

 

「何故こんなものが?」

「それは──」

「それはここに住む御方の象徴ですよ」

 

 説明をしようとしていたお供アイルーの言葉を継いだのは、顔に深い皺が刻まれ腰が曲がった老婆であった。

 

「アイルーを連れているということは、王族の方ですね。おお、ありがたやー」

 

 老婆は王子たちを拝み出す。

 

「象徴とはどう意味だ?」

「その言葉通りですよ。護国のモノはその三つの武具を巧みに操り敵を撃退した、と私は母から聞かされました」

 

 拝むのを止め、王子の問に答える。

 

「槍と剣と盾を……初めて聞いたな」

「腕がいっぱいあるのかニャー?」

 

 ここに来て新しい情報を得た王子。しかし、どんな姿か想像も出来ない。

 

「古い話ですからねぇ……今ではこの三つの武具の意味を知っている者は少ないです」

「そうか……」

 

 徐々に風化していく伝説に寂しさを感じてしまう。

 

「そうなると新しい武具を納めたいが──」

 

 武器などを一切持たない旅なので準備出来ていない。

 

「──よし! 磨くか!」

 

 言葉だけでは感謝の気持ちが足りないと思っていた王子はせめてもの気持ちとして武具を綺麗にすることを決める。

 

「まずは近くで磨く道具を探すとしよう」

「はいはいニャー」

「それならば私の家に何かあるかもしれません」

 

 老婆の案内により一旦王子たちは離れていく。遠くなっていく山を見ながら王子は密かに思った。

 

(いつか一目でも良いから伝説を見たいものだ……)

 

 

 

 ◇

 

 

「うん……」

 

 微睡みの中から目を覚ます。

 

「起きましたかニャ?」

「……すまない。寝ていた」

「ずっと働き詰めだったから仕方がないですニャー」

 

 苦笑し、座っていた椅子から立ち上がる。

 

「……夢を見ていた」

「どんな夢ですかニャ?」

「私が最初に巡礼の旅をしていた時のことだ。君と最初に出会った時の」

「ああ。僕もずっと覚えていますニャ──王様」

 

 あれから年月が過ぎ、王子は王となった。そして、お供アイルーであった彼も今では村のアイルーたちを束ねる立派な村長になっている。

 

「……今からでも遅くはない。君たちは──」

「王様。ここが僕たちの居場所であり故郷ですニャ……故郷の為に戦うのは当然のことですニャ」

 

 そういう嘗てお供と呼んだアイルーは全身に鎧を纏い、手には剣を握っている。彼が率いる他のアイルーたちも斧や槍、小型のタルなどで武装をしていた。

 

「──感謝する。護国のモノたちよ」

 

 礼を述べる王もまた鎧を纏い、腰には帯剣をしている。

 

「勝とう。我らが故郷を守る為に」

 

 王の最初の巡礼の旅から十数年後。小さな国は他国からの侵略という未曾有の危機に陥っていた。

 




正体は伏せましたがヒントは出したのでまあ分かるかと。答えは完結を投稿するまでお控えください。
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