MH ~IF Another  World~   作:K/K

8 / 35
海原を朱に染めて/海に生きるモノたちの意地

 深く澄んだ海の底。海上から降り注ぐ光が海底を僅かに明るくする。音も無くただ時折魚たちが泡を生み出し、それが弾けて消えるだけの静寂の世界であった。

 そんな人の手が届かない海底、その岩壁に出来た大きな横穴の更に奥。自然が偶然創り出した大きな空間の中で、ソレは身体を折りたたみ惰眠を貪っていた。空間の壁にある無数の小さな穴は外へと繋がっているらしく空気が流れ込み、その穴から通じて来たのか岩床には仄かに光る植物が所々生え光の無い空間を僅かに照らす。そんな絶好の場所で、ソレは空腹を満たしたことでくる眠気に従って眠っていた。自らの欲求にこれでもかと忠実に従う。

 弱肉強食の世界ではあるまじき無防備な姿。だがこの場に於いて無防備を晒すソレに襲い掛かるものなど存在しない。それどころかこの世の全てから探し出しても、ソレに襲い掛かる気概を持つ生物など皆無に等しい。

 頭部から尾にかけて、約三十メートルはあろうかという巨体。寝息代わりに泡を立てる口からは鋭利な歯が無数に並び、どれもがその巨体に見合った大きさがあった。その横たわった巨体を覆い隠す程の翼は泳ぐ為に特化したのか膜が張ってあり、あるいは水かきにも見える。

 それの身体に生えた群青、黄、白といった三色に分かれた鱗は一枚一枚が通常の魚の鱗と比べることが烏滸がましく思える程分厚く、上から降り注ぐ光によって鮮やかな輝きを放っていた。

 その横穴の周囲には無数の魚たちが遊泳しており、中には肉食の魚も居る。だがどの魚たちもその横穴の前を通過していくことはせず、それの機嫌でも窺うように静かに息を殺すように泳ぎ去って行く。岩壁の穴を横切ることすら恐れ多いといった様子で。

 まさにソレはこの空間において絶対的存在であり、その圧倒的な力によってこの海を我が物としていた。

 このまま何事もなければソレはただ睡眠を貪り、平穏が続く。しかし、その平穏は呆気ない程簡単に終わりと告げた。

 周囲の壁から細かに伝わってくる振動を敏感に察知し、ソレは閉じていた眼を開く。目を開けるというただそれだけの動作にも関わらずソレれが眼を開いた瞬間に周囲にいた魚や魚群は一斉にその場から離れ、ソレの視界に入らないように必死に逃げる。

 周囲の慌ただしさなど目もくれず、それは寝かせていた首をもたげ、その眼を頭上に向ける。

 岩越しに遠く離れた海上。しかしソレの鋭敏な感覚は伝わってくる振動を受け取り、大きな何かが通ることを視覚以上にはっきりと捉える。

 振動の正体は、ソレが何度も襲い掛かったことのある海上を移動する物体。それが波を裂いて動く音であった。

 ソレは音の正体が分かり、首だけでなく体を起こす。

 最初は襲うつもりなどは毛頭無かった。ただ邪魔なものが近くを泳いでいるといぐらいの感覚であったが、そのまま通り過ぎようとした時、あろうことかいきなり攻撃を浴びせられた。幸いにも相手の攻撃が貧弱であった為に怪我を負うことは無かったが、攻撃を受けた怒りを抑えることが出来ず、複数いたその物体をソレは一つ残らず海に沈めた。そしてそこで、その物体を破壊すると中から餌が出て来ることを理解する。

 ソレの巨体を維持するには大量の餌が必要である。先程も満腹になるまで喰らったが、一度寝て目覚めるともう既に空腹を感じている。

 ならばもう一度腹を満たそうとソレは考え、翼を大きく広げると岩床に叩きつけるようにして羽ばたき、そのまま海水の中へと飛び込む。そして穴の中を通り、その勢いに乗って海上まで一気に上昇していった。

 

 

 

 

「何か見えるか?」

「いや、何も」

 

 十数回は繰り返されているやりとり。しかし両者にはそれに対してうんざりした様子は無く、その表情は真剣そのものであった。

 海上を走る海賊船。マストの頂上付近に作られた見晴台の中では、望遠鏡を覗いている数人の海賊が眼を光らせていた。

 複数ある海賊船の内の一隻が何かしらの原因で沈められ、それによって何十人もの仲間たちの行方が分からなくなった。

 そのことに対し、海賊たちの頭である船長は激怒し、残った船を全て動かして犯人を捜すこととなった。

 しかし犯人がどういった存在なのか一切の手掛かりは無く、探す方法もただ闇雲に探して犯人らしき存在を見つけるという非常に大雑把なもの。だが海賊たちはそれに不満一つ洩らさず、懸命に形の見えない犯人を捜し続ける。

 

「あん?」

 

 そのとき望遠鏡を覗いている海賊の内の一人が怪訝そうな声を出す。

 

「どうした?」

「いや、ただの漂流物――」

 

 そこで言葉が途切れる。隣に居る仲間の様子を不審に思い、一旦望遠鏡を覗くのを止めて隣を見ると、その海賊は目や口を大きく開いた状態で絶句していた。

 

「おい、どうした?」

「おいおいおい……嘘だろ……」

 

 望遠鏡越しの光景を否定したいかのように呟く仲間を見て、自分もその方角を望遠鏡で眺める。

 海原を滑るように流れていく巨大な物体。最初に見た時は、隣の仲間と同様に木か何かの漂流物であるかと思えた。しかし、枝に見えた部分はよくよく見てみると黄と青の体色が混じった鰭状であり、見え難いが膜も付いている。

 それは間違いなく魚などが持つ背鰭であったが、今まで見たことの無い程の大きさである。そしてその背鰭はこちらへ一直線に向かってきている。

 

「敵襲! とんでもない速さでこっちに向かってきている! 距離を開けろ! 水流石を使え!」

 

 望遠鏡から素早く目を離すと、声を張り上げて他の仲間たちに危機を知らせる。

 

「敵は! 他に船は見えないぞ!」

「海中を泳いで来ているんだよ! とんでもねぇ大きさの魚みたいな奴がな! いいからとっとと水流石を動かせ!」

 

 怒鳴りつける様子に只事ではないと理解した海賊は、急いで指示にあった通り水流石を動かす為に船の下層まで移動する。船の下層には蒼色の大きな円形の石が置いてあり、それに手を翳すと青色の石が輝き始め、水色に近い色と化す。

 その途端、立っていた海賊たちがよろける程の勢いで船が加速し始める。

 周囲の水の動きを操作して、帆などでは生み出すことの出来ない速度で動かすことの出来る魔法道具の一つである水流石。本来は軍艦などの高級な船などにしか積まれていないが、どういう訳か最近になって大量に漂流しているのを発見し、全部の海賊船へと装備することが出来た。

 急加速する船にしがみつきながら海賊は望遠鏡を覗き、巨大な背鰭の動きを見続ける。背鰭は船が速度を上げたのを見て、同じく速度を上げ後を追い始めていた。その速さは水流石を使った船以上であり、最初にあった距離の差が徐々に詰まれつつあった。

 

「大砲を用意しろ! このままじゃ追い付かれる!」

「馬鹿野郎! この勢いのままで大砲をぶっ放したら下手すれば船が倒れちまうぞ!」

「馬鹿野郎はてめぇだ! 追い付かれたら何されるのか分からねぇんだぞ! あっちは確実にこっちを狙っている! 少しでも距離を遠ざける方法をとれ!」

 

 海賊の鬼気迫る様子に納得し切れない様子の仲間であったが、凄まじい水しぶきが上がるのを見て慌てて音の方へと目を向ける。

 

「うわぁ!」

 

 水しぶきから飛び出してきたのは、海賊たちの乗る船と変わらない大きさを持つ巨大な魚。それが鰭を翼の様に広げずらりと並ぶ牙を見せながら海上を滑空して迫って来ていた。百戦錬磨の海賊も思わず情けない悲鳴を上げてしまう程の光景。

 飛び上がった巨大魚はそのまま船の最後尾に噛みつこうとするが、船の速度の方が僅かに早く、噛みつかれるよりも先に巨大魚の身体は再び海に沈んでいく。

 

「何だあの魚――魚かあれ!」

「知らねぇよ! 鱗も鰭もあったから魚だろう!」

「魚なのにあんだけでかいんだぞ!」

「でかい魚だっているだろう!」

「魚なのに飛んだんだぞ!」

「魚だって飛ぶだろう! というか俺に聞くな! 俺だってあんなの見るのは初めてなんだよ!」

 

 想像以上に巨大な魚に襲われ海賊たちも軽くパニックになっているのか、言い争いをしている者たちもいる。

 

「いいからさっさと大砲を準備しろ! 今度は避けられる保証は無いぞ! 回れ回れ!」

「あれがコーザたちの船を襲った奴か!」

「分からん! だが船を落とすような奴がそうそう居る筈も無ぇ! 可能性は高い!」

 

 辛うじて避けることで出来た隙を狙い、船に巨大魚の側面へと回るように指示する。言い争ってはいたが長年同じ生き方をしていた者同士、その指示に素早く従い、船に設置されている水流石を巧みに操作し普通ではありえない速度で船が向きを変えていく。

 

「大砲準備出来たかぁ!」

「とっくに出来ている!」

「良し! ならちゃんと狙えよ!」

 

 船の側面が開き、そこからいくつもの砲門が顔を覗かせる。本来ならば停船した状態で撃つものだが、相手が相手なだけにそんな猶予が無い。

 巨大魚は向きを変えてすでに船に向かって来ている。

 

「撃てぇぇぇぇ!」

 

 掛け声を合図に爆音が一斉に響き、砲門から無数の弾が飛び出していく。しかし、動きの速い巨大魚は砲弾が着弾点に当たるときには既にその場を通過していた。

 

「外れたぞ!」

「一発目は様子見だ! これであいつの動きは大体把握した! 二発目は当てる!」

 

 そう豪語し、海賊たちは二発目の為の準備をする。その間にも巨大魚は距離を詰めつつあり、また飛んでこないかと海賊たちは警戒しながら大砲係の海賊たちへ急かすように声を掛ける。

 

「まだ準備できねぇのか! 鈍間!」

「うるせぇ! 大砲はお前らみてぇのとは違って丁寧に扱わねぇといけないんだよ!」

 

 急かす声に怒鳴り声が返って来る。言われずとも大砲係の海賊たちは一秒でも時間を短縮させる為に、最小の手間で準備を進めていた。

 

「次弾の準備が出来たぜ!」

「よし! 今度はきちんと狙えよ!」

 

 砲門が再び巨大魚に向けられる。

 泳ぐ巨大魚も再び飛び掛かる準備が出来たのか、背鰭が先程よりも浮かび上がっており、水面にぼやけてはいるが姿も見える。

 そして再び巨大魚が飛び上がり、船に齧りつこうとしたとき合図の声が上がった。

 

「撃てぇぇぇぇ!」

 

 白煙が噴き、爆音が響く。その中を突き進む無数の砲弾。当たる面積が最少となった正面からの砲撃のせいで一発目は当たらず、二発目も当たらない。だが三発目は確実に巨大魚の背中部分に向かっている。

 誰もが着弾を予想していた次の瞬間、思いもよらない光景を目にすることとなる。

 

キィィン

 

 それが一体何の音なのか海賊たちは分からなかった。そしてそれと同時に弾けた火花が、一体何と何が衝突したことで生じたのか分からなかった。巨大魚の鱗に穴を開ける所かその上を滑るようにして弾かれ、軌道を変えられた砲弾が水面へと着水し、巨大魚が砲弾の衝撃でバランスを崩し海に落ちて砲弾よりも派手な水柱を上げたのを見た時、海賊たちは一斉に何が起きたのかを理解した。

 

「嘘だろ! どんな鱗してんだよ! あの魚!」

「どうなってんだよ! 大砲が効かない魚なんて知らねぇぞ!」 

 

 常識外れの相手にさしも海賊たちも混乱するが、それでも日頃から身に沁みついているのか船内で動きを止めることはせず、パニックを最小限に抑えていた。

 

「次弾、とっとと準備しろ!」

「大砲効かない奴に撃ってどうすんだよ!」

「効かなくても牽制にはなるだろうが、間抜け! それと狼煙の準備もしろよ! 場合によっちゃ他の仲間も呼ぶぞ!」

 

 それぞれが指示に従い準備をしていく。何とか巨大魚に沈められないようにはしているがそれもいつまで持つか分からない。時間が進んで行くごとに状況は海賊たちにとって不利なものへとなっていく。

 

「水流石の魔力がそろそろ尽きる! 速度を落とさないとあと数分も持たないぞ!」

「速度は落とすな! その瞬間に追い付かれる! 大砲、まだか!」

「今、出来た!」

 

 大砲の準備が整えられ、撃退ではなく距離を開ける牽制の為に放とうとするが、そのタイミングで巨大魚が飛び上がるのではなく水面から上体だけを出す。

 そして首を後ろへと逸らした。次の瞬間には逸らした首を前へと突出し、それと共に大きく開いた口から何かを吐き出した。

 泡立つ液体が宙に白い線を描きながら直進する。恐るべきことに放たれる液体は巨大魚から距離が離れ続けても先端が弧を描かず失速もしない。ただ真っ直ぐに飛ぶ。

 そしてそれが船の側面へと触れたとき、側面を覆う板はまるで濡れた紙を破くかのように容易く貫かれ、その奥に居た大砲を準備する海賊たちを数人呑み込みながら直進し、反対側の側面まで到達すると再びそれを貫いていった。

 巻き込まれた海賊たちは巨大魚の放った液体の圧と壁によって瞬時に磨り潰され、流れ出た血が貫いていった液体を赤く染め上げ、その飛沫と一緒に海賊たちだった破片もばら撒いていく。

 あまりに簡単に貫通された船、そして甲板へと降る赤い飛沫、その一連の流れを海賊たちは半ば口を開けて見ていた。

 

「おいおい……魔法まで使うのかよ……あの魚……」

「おい! 大丈夫か! 何人殺られた!」

「畜生! 四人も巻き込まれた! くそ! くそ!」

「間違いねぇ! あいつがコーザ達の船を沈めた奴だぁ!」

 

 各々が感情を含めた声を上げるが、どの声にも巨大魚への怒りが込められている。

 

「狼煙を上げろ! 船長たちにこいつのことを報せる!」

「わざわざ危険に船長たちを巻き込むのか?」

「へっ! 『船長たちを危険な目に遭わせる訳にはいかない!』なんていう青臭い理由でこいつのことを黙ってたら、船長にぶっ殺されるぜ!」

「はははははは! 違いない!」

 

 海賊たちは恐ろしい敵の前にしても豪快に笑い、その内に一人が手に持った筒に付いた紐を引っ張る。すると筒の先端が破裂し、空に向かって赤色の煙が昇って行く。

 

「なら俺らは船長が来るまで一秒でも長くあいつを引き止めなきゃなぁ」

「全く、人生の最期が魚に食い殺されるなんて思ってもみなかったぜ」

「ひっひっひっ! 散々わりぃことをしてきたんだ俺らにはそんな死に方が相応しいぜ」

「ま、想像してたのよりかはましだな」

「海で死ねるんだったら海賊としちゃ本望よ!」

 

 それぞれがどこか達観した様子で会話しながら、腰に差したサーベルを引き抜く。

 

「水流石に残った魔力をありったけ使え! あいつにこの船をぶつけてやれ!」

「船に風穴開けた分、あいつのどてっ腹にも穴を開けてやるぜ!」

 

 船が水の流れを操り急速に反転する。そして追い駆けてきた巨大魚へと正面からぶつかっていく。

 

「かかってこいやぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

「あれは!」

 

 遠く離れた場所で海賊たちを束ねる隻眼の船長は空へと昇って行く赤い狼煙を発見する。

 

「どうやら犯人らしき奴が見つかったみたいだな! すぐに向かうぞ! 水流石を使え! 予備はきちんと積んである! 出し惜しみするな!」

『おおおおおお!』

 

船長の乗る海賊船は他の海賊たちが乗る船よりも一回り程大きく、その御蔭で多くの物資や武器を積むことが出来た。

 船長の指示に野太い声が応じ、それぞれが迅速に行動を開始する。船の底に備えられた水流石が起動し、風を受けて走るよりも何倍も速い速度で現場へと向かう船長一行。途中、船長たちと同じく赤い狼煙を発見した部下たちの船も合流し、合計で五隻の船が目的の場所に向かって走る。

 赤い狼煙を発見しておよそ十数分後。現場へと辿り着いた一同は現場の惨状を見て誰もが顔を顰めた。

 

「……くそったれ!」

 

 怒りを込めて吐き捨てる船長。彼の目に映るのは四散し破片を海へと浮かべているかつての部下の船であった。

 海は船員たちの血で所々赤く染まっている。波で拡散していないところを見ると、船が破壊されてからそれほど時間が経過していないことが分かる。

 

「野郎ども! この周辺を――」

 

 続く言葉を掻き消すほどの音を立てて海水が激しく噴き上がる。一体何事かと誰もが驚愕するが、その驚きは更なる驚きに重なる。

 水しぶきから現れたのは見たことも無い巨大な魚。それが船の一隻に飛び乗る。その重量で船は一気に軋み、船全体に歪みが生じまともに航行出来ない状態にされた。

 

「何だこいつは!」

「魚に……! 魚に足が生えていやがる!」

 

 海賊の一人が指摘したように、巨体魚は船と変わらない程の巨体を二本の水かきがついた足で支え、船の中央付近に立っていた。その見たことも無い異形な姿に誰もが唖然とし、目を限界まで見開いて巨大魚を見ていた。

 しかし巨大魚の方は周囲の驚きに構う事無く、片足を軸にしてその巨体を躊躇なく振るう。尾鰭がついた巨大魚の尾が振るわれ、その尾の一撃は容易く船のマストをへし折りそのまま海へと飛ばす。それでも止まることの無い尾は周囲にいた海賊たちも巻き込んでいく。

 最初の海賊が太い尾に叩きつけられた瞬間、全身に走る衝撃によって体中の骨は小枝のようにあっさりと砕け、痛みを感じる間も無く絶命する。そしてその海賊を尾に張り付けたまま、同じように一人、二人と巻き込み合計にして八人ほど巻き込むと尾を振り切り、海賊たちの死体を海へと投げ捨てた。

 

「くそったれ!」

 

 襤褸切れの様に海へと放り出される部下たちの姿を見て、船長は怒りに任せて叫ぶ。しかし、叫ぶだけであり攻撃の指示は出さない。未だ生きている部下たちが乗っている船に向けて砲撃することなど出来なかった。他の船も同様である。

 巨大魚はそんな海賊たちの仲間意識を嘲笑うかのように喉を膨らませると、船体の端へと顔を向け、口から勢いよく水を放出するとそのまま反対側の端まで一気に首を振るう。

 圧縮された水は、刀剣などとは比べものにならない程の切れ味を以て船を易々と通過していき、首を振り切ったと同時に船体が真っ二つに割れた。

 

「うあああああ!」

「おおおおおお!」

「あああああああ!」

 

 二つに切断された船から海賊たちが次々と海に放り出されていく。すぐにでも助け出したいが巨大魚の存在がそれを阻む。

 巨大魚は海賊たちの怒りの視線を浴びながらも、我関せずと言ったように沈み行く船を踏み台にして大きく跳躍し海へと飛び込んだ。

 その泳ぐ速度は尋常ではなく、飛び込むと同時に巨体が見えなくなるほど深く潜行する。

 次にどの船が狙われるのか、それぞれに大きな緊張が走る。本来ならばこの場に留まる訳にはいかないが、まだ海に放り出され生きている仲間たちがいる。

 

「船長ぉぉぉ! 俺らに構わないでください!」

「すぐにここから離れてくれぇぇ! このままじゃもっと犠牲が出る!」

 

 だが海へと放り出された海賊たちはもがきながら助けを求めるのではなく、自分たちを見捨てろと叫ぶ。

 

「馬鹿野郎! くだらねぇこと言ってんじゃねぇ! すぐに引き上げるから待ってろ! おい誰かロープを持ってこい!」

 

 海賊の一人が見捨てろと発言した仲間に激怒し、助けようと救助用のロープを探そうとするがその肩を誰かに掴まれた。

 

「何ですか、この手は? 本当にあいつらのことを見捨てるんですか、船長!」

 

 掴まえた手の主は船長であり、その顔は恐ろしい程に真剣であった。

 

「――このまま船を反転させる! 反転させると同時に水流石を使って一気に離脱するぞ!」

「船長!」

 

 冷徹な判断に非難の声を上げるが、船長を聞く耳を持たず指示を出し続ける。周りもその指示に従い行動に移る。

 

「本当に……! 本当に見殺しにするんですか!」

「散々、好き勝手やって来たんだ。その報いを受けるときが来たんだよ。あいつらに。そして――」

 

 小声で最後に何かを呟いたが何を喋っているかは船長にしか分からなかった。

 

「だからって」

「うおおおおおお!」

 

 そのとき海でもがいていた海賊の一人が海中へと引きずり込まれる。

 

「奴が上がってきたぞ! 急げ!」

 

 掴んでいた手を離し、相手がこちら側に向かって来る前にこの場から離れようとする。船長の声で海賊たちの動きは更に早くなる。その間にも次々と海上にいた海賊たちが海の中へと姿を消していった。

 

「こい! こっちに来い!」

 

 腰に差してあった剣を引き抜き、それで水面を叩きながら未だに生き残っている海賊たちが巨大魚を挑発する。少しでも長く相手の注意を引く為の命懸けの挑発であった。

 

「ぐうっ!」

 

 その音に反応したのか、海中から顔を出した巨大魚はその鋭い歯を生き残っている海賊の胴体に突き立てる。易々と人体を貫通し、そのまま食い千切ろうとするが喰らい付かれた海賊は口から血泡を吐きながらも腕を伸ばし、手に持つ剣を巨大魚の顔に突き立てようとする。

 

「これ、でも、喰らってろ!」

 

 渾身の力を込めての一突き。だが最後の足掻きも巨大魚の鱗に容易く弾かれ、無情な結果に終わる。

 

「ちく、しょう……!」

 

 悔しげに呟くと同時に、喰らい付いていた巨大魚の上下の牙が合わさったことで海賊の身体は半分に食い千切られ、その半身が海中へと沈んでいく。

 非情にして残酷な光景。だがやっている巨大魚自身には悪意など全く無い。ただ獲物を襲い喰らうという生物が持つ当たり前の行動であり欲求。あまりに圧倒的な力の差がある故にそう見えてしまう。

 現に海賊たちには巨大魚が悪魔の化身のように見えた。その時点で捕食者と被食者の立場が明らかなものとなる。

 

「全船反転完了しました!」

「すぐに出せ!」

 

 報告と同時に素早く船長は指示を出す。全船は船底に仕込まれている水流石を一斉に起動させこの場から素早く逃げ始めた。

 しかし巨大魚の方もこの場から逃げていく海賊船たちに気付き追おうとする。

 

「まだここに残っているぞ!」

 

 その巨大魚の行く手を遮るかのように生き残っていた海賊が声を上げ、少しでも船との距離を開かせる為に時間を稼ごうと巨大魚の注意を引こうとする。

 それを見た巨大魚は水中で大きく羽ばたく。それによって得られた加速を用いて巨大魚は一気に海賊に接近すると、その側を加速した状態で通り過ぎて行った。

 

「待て! 俺は――」

 

 そこまで言い掛けて海賊は言葉を止めた。今までずっと沈まない為に足をばたつかせていたのに急に足の力が入らなくなり海へと沈み始めた為に。

 どんなに力を込めても足が動かず体は沈んでいく。自分の身に一体何が起こったのかと視線を下に向けたとき男は絶句した。

 血に染まる海水。その向こうに在ったのは血煙を出しながら先に沈んでいく男の下半身であった。

 巨大魚はあのすれ違いの時、その刃すら凌駕する切れ味を持った鰭状の翼で男の肉体を両断していたのだ。海賊が痛みを感じなかったのはその翼から滲み出ている強力な麻痺毒のせいであり、それによって海賊の痛覚は完全に遮断されていた。

 だが事情を知らない海賊には何故こうなったのか理解出来ない。夥しく流れる血を見ながら思考する暇も無く海賊は海の底に向かって沈んで行った。

 多大な犠牲を払ったものの辛うじて巨大魚との距離をとることに成功した海賊一同。しかし未だ油断出来る状況では無く。今もなお離れた場所から背鰭が海賊たちの後を追って付いて来ていた。

 

「いずれは追い付かれるな……」

 

 船を加速させる水流石もいずれ魔力が尽きる。この場に集合するときにもかなり消費していたので切れるのも時間の問題であった。

 

「船長、どうします?」

 

 海賊の一人が今後について尋ねてきた。表面上は冷静な表情をしているものの長年人を見てきた船長には、その内から不安が滲み出ているのが分かる。

 

「時間が無ぇ。今から俺の言うことをよく聞け」

 

 そして船長の口から語られる今後の行動。それを聞いた海賊たちは一斉に抗議の怒声を上げた。

 

「こんなときにふざけたことを言ってんじゃねぇよ! 船長!」

「そんなことをしたらどうなるか分かってんでしょうが!」

「頼みますから、別の方法を考えましょう!」

 

 それぞれが聞いた内容を批判するが船長は首を横に振る。

 

「さっさと他の船にこのことを伝えろ」

「ですが!」

「……部下も船も多く失った。まあ、散々悪いことをしてきた罰をようやく受ける時が来たってことだな。奴は海の神様が送り込んだ死神かもしれねぇ」

 

 船長は自虐的な笑みを浮かべながら言う。

 

「――でもなこれ以上は思い通りにはさせねぇ。まだ罰が残っているんならまとめて全部俺が責任を持って引き受ける。それが頭としての最期の務めだ」

 

 自虐的な笑みは消え、本来の海賊らしい荒々しい笑みへと変わる。

 

「なぁに、只では済まさねぇ。派手にやってやるぜ!」

 

 

 

 

 逃げる船たちに追う巨大魚。最初は開いていた距離も巨大魚の速度でじりじりと詰めていった。

 巨大魚は海中で見つめる先にある四つの船後尾に狙いを定める。

だがそのとき、並んで移動していた船の一隻が突如方向を変えて残りの三隻から離れて進んで行く。

 群れから離れていく船の存在を怪訝に感じる巨大魚。一隻の方を追い駆けるか三隻の方の後を追うか選択しようとしたとき――

 

キィィィィィィィィィィィン

 

 巨大魚の聴覚を震わす甲高い音が離れていく一隻から聞こえてきた。聴覚の奥が痛むような不快な音。

 明らかにこちらを挑発するようにそれを何度も鳴らす。その度に巨大魚の中で怒りが蓄積していく。

 すぐにでもこの不快な音を絶たねばならないと思い、狙いを一隻に絞り込み、その後を全力で追い始めた。

 

 

 

 

「へへへへへへ。来たか!」

 

 離れていく一隻に乗っている船長は、後ろに付いてくる巨大魚の背鰭を見て上手く誘うことが出来たと確信する。

 海中で鳴らしていた音。本来ならば海獣などの生物を遠ざける為のものであったが、あれほどの大きさを持った巨大魚ならば逆に挑発するのに持って来いのものであった。

 

「よーし良い子だ。来い、来い。しっかり付いて来い」

 

 甲板には船長以外誰一人おらず、ただ舵を持つ船長が船に一人。船が分かれる直前に、船長以外の人間は他の船に乗り移っていた。

 舵を取りながら時折巨大魚との距離を確認し、ひたすら全速力で走る。いずれは水流石の魔力が切れ止まってしまうが、いつ止まるかなど船長には関係なく、どれほどこちらに引きつけておけるかが重要であった。

 

「最期の最期でお前に迷惑をかけちまうが、許してくれよ。相棒」

 

 話し掛けるのは長年乗って来た船。雨の中、嵐の中、戦いの中、命を乗せてきた唯一無二の存在。

 

「でも最期にあんな大物とやり合えるんだ。男だったら燃えるってもんさ。まあおとぎ話のように最期はあいつを倒してめでたしめでたしってことにはならないだろうけどな」

 

 船長は周りに並べてあるいくつもの樽のうちの一つに触れる。これこそ船長が考えた策の為の必需品であった。

 

「襲って、奪って、斬って、殺してばっかの人生だったが、やっぱ報いってやつはきちんとくるんだな。今度は俺らが襲われて、殺される立場になってる。だがそれもこれで終いにしないとな。あいつらには二度と海に戻って来るなってきつく言ってあるしな」

 

 独り淡々と語る船長。

 やがて魔力が切れかけてきたのか船の速度が落ち始め、頬に当たる風や髪を靡かせる勢いが弱まったのを感じる。

 

「さて。これで愚痴る時間も終わりだ。それじゃあ、いっちょやるか!」

 

 鼓舞するように声を張り上げると、船長は周りに置いてある樽を肩に担ぎ上げた。

 船の速度は最速のときと比べると半分ほどまで落ちている。あの巨大魚の速度ならばもう間もなく追い付く筈。

 船長は背後を見る。そこに巨大魚の背鰭は無かった。

 船が海原を裂いて走る速度も弱まり、波打つ音も同時に弱まり、周囲は驚く程静かになった。頭上を飛ぶ鳥の泣き声、そして自分の心臓の鼓動音がやけにはっきりと聞こえてくる。

 何度も危険な橋を渡って来た。修羅場もそれなりに経験してきた。だが今、船長が味わっている静寂はそれとは比べものにならない程緊張し、気を抜くと膝が震え出してしまいそうになる。

 頭上で鳴く鳥たちの声が急に止まる。それが巨大魚が現れる前兆だと船長は察した。

 

(来る……!)

 

 船のすぐ側で膨大な量の海水が空へと向かって噴き上がる。桁違いの大きさ水柱を突き破り中から飛び出してきた巨大魚は甲板を滑るようにして着地し、それだけで大きく船を揺らす。

 

「くらいやがれ!」

 

 それと同時に船長は担いでいた樽を巨大魚に向けて投げ放つ。樽の栓は既に開いた状態であり宙を飛びつつ、中身である琥珀色の液体を撒き散らしながら巨大魚の身体へとぶつかった。ぶつかった拍子に樽が割れ中身の液体が巨大魚へと掛かるが、樽が当たっても琥珀色の液体が掛かっても巨大魚は微動だにせず、首を動かし丸く瞳の無い目を船長へと向ける。

 相手が全く動揺しないのも想定内のことであり、船長は怯むことなく周りに置いてある樽を次々と投げつける。切れ込みを入れている為、少し強い衝撃を受けるだけで樽は割れて中身をぶちまけていく。

 その液体を浴びる度に元々、光沢のあった巨大魚の鱗はより艶を増していく。

 ある程度樽を放った後、船長は次なる行動へと移った。上着に手を伸ばすと懐から一本の小さな棒を取り出す。

 だがそれと同時に巨大魚の方も動き始める。船長に体の側面を見せた状態で首と尾を軽く丸める。弓なりになった格好で足を横へと滑らせるかのように踏み出したかと思った瞬間、その巨体が一気に加速した。

 それを見た船長は事前に距離を取る為に大きく後方へと下がった。

 

「なっ!」

 

 驚愕する船長の声。距離をとったにも関わらず全身を奔る衝撃。何が起こったのか理解をする前に背中から船のマストへと叩きつけられた。

 距離もあった。回避したタイミングも間違ってはいない。だが当たっていないかに思われた巨大魚の体当たりは船長に接触していた。触れた箇所はほんの少しの筈であるが考えられない程、勢いよく突き飛ばされた。

 

「ごほっ! おふっ!」

 

 喉をせり上がってくるものに耐え切れず船長は吐いた。吐き出されたのは胃の内容物、そこには赤い色も混じっている。たった一撃で内臓に損傷を与えられたらしい。

 

「こ、の……!」

 

 ほんの少し身体を動かすだけで体の内に杭でも刺し込まれたような激痛が走る。内臓だけでなく骨にも損傷があるらしい。折れているのか罅が入ったのか、そんなことを考えるのも馬鹿らしくなるほど全身が悲鳴を上げる。

 船長は崩れそうになる身体を無理矢理マストへと押し付けて支え、なんとか立ったままの状態を保つ。

 そんな船長を見て巨大魚は悠然とした態度で歩み寄って来た。

 大きさからたった数歩で目の前に来る距離。その距離こそ船長に残された最後の時間。船長は痛みで朦朧としながらも自らの手を見る。そこには先程懐から取り出した小さな棒が握り締められていた。巨大魚の体当たりを受け、折れなかったのも手放さなかったのも奇跡のように感じられた。

 

「へっ」

 

 船長はその細く軽く力を込めれば容易く折れてしまいそうな棒を、もたれかかっているマストへ押し当てると悲鳴を上げる身体を酷使し、一気に擦る。すると擦った部分に煙が立ち昇ったかと思えばすぐに煙が火へと変わる。

 巨大魚に比べればあまりに小さく儚げな火。だが船長にはその火が巨大魚を追い込む為の希望の光に見えた。

 

「お熱いのはお好きか?」

 

 冗談を口にしながら船長は手に持った火を巨大魚に向けて投げる。しかし投げられた火は巨大魚には届かずその手前で失速し甲板の上へと落ちた。

それでも船長の顔から笑みは消えない。

 歩み寄ってくる巨大魚にいとも容易く踏み消されそうになる小さな火。そのとき巨大魚が踏み消すよりも先に火へと触れたものがあった。それは巨大魚の体から滴り落ちていく琥珀色の液体。それが棒の部分に触れそこから火の部分へと伝わっていったとき、琥珀の液体が紅蓮の火へと変わる。

 液体の流れに逆らうように液体に火が奔る。逆らって奔る火は勢いを増して炎へと転じ、やがて本体の巨大魚の身体を灼熱で包み込む。

 全身を包み込む炎に堪らず巨大魚は身悶えする。

 

「くはははは! 特性の海獣油だ! 海に飛び込んでもちょっとやそっとじゃ消えねぇぜ!」

 

 海獣の脂肪から作りだした特性の油。非常に燃えやすく消えにくい点から主に灯りなどに用いるが、海賊の彼らは商船相手に使用する焼き討ち用に大量に保管していた。

 体に付着した炎を飛ばそうと何度も身体を揺するが炎は消えず、小さな火があちらこちらへと飛散し船に燃え移っていく。

 

「熱いか! 苦しいか! 少しは俺の仲間が味わった痛みが理解出来たか! この魚野郎ぉぉぉぉ!」

 

 部下を殺された怨みと怒りを込め、ありったけの声で叫ぶ。

 巨大魚にその言葉などは理解出来ない。だが今も味わっている苦しみを与えた人物が今、何処にいるかは正確に把握していた。

 そして同時に自分が纏っている鱗が熱によって急激に脆くなっていくのを理解していた。このままではいずれ砕けて剥がれ落ちていく。

 この痛みへの報復か。それとも大事をとって逃亡するか。

 

巨大魚の選択は――

 

 

 

 

 巨大魚は大きくその場から踏み出す。しかし向かう先は海ではない。その足が向かう先にいるのはマストへともたれ掛かる船長。

 巨大魚は再び一歩踏み出すとその口を限界まで開き、踏み出した勢いのまま船長をマストごと喰らい付いた。

 太いマストが瞬時に半分程の細さまで噛み締められる。当然巨大魚とマストに挟まれている船長は無事では無く、巨大魚の鋭い無数の牙が体を貫きそこから血を大量に流している。もたれ掛かったマストのおかげで辛うじて体が喰い千切られることだけは避けられていた。

 牙が内臓にまで届いたのか船長の口から血塊が吐き出される。だがそれでも船長の顔には海賊としての荒々しい笑みは消えない。

 挟まれてはいるが唯一動かすことの出来る右腕を動かし、腰から剣を抜き取ると燃え盛っている巨大魚の丸い眼へと向けそれで刺し貫いた。

 

「へへ……これで、御揃いだ……」

 

 流石に目までは鱗のような硬さは持っておらず、剣を突き刺された眼球は破裂し巨大魚は血の涙を片目から流すが、それでも噛む力は弱まらない。何があろうと確実に殺すという強固な意志があった。

 

「殺し合いは……お前の……勝ちだな……」

 

 命の光が消えていく瞳で見つめながら、船長は自分を殺そうとしている巨大魚に対し負けを認める。

 

「だけどな……」

 

 そしてその瞳は同時に別の物を見ていた。船のあちこちに飛び移った火。そのうちの一つが床に撒かれている黒い粉へと触れると、その黒い粉は激しく延焼しながら導火線のように引かれた粉を伝わっていく。

 撒かれている黒い粉の正体は砲撃に使用する火薬であった。

 船長の残した本当に最後の手段。それが成功する保障は無く賭け同然の手段であった。その賭けに船長は己の命を賭ける。

 このまま火が上手く伝わるとは限らない。途中で途切れてしまっているかもしれない。だがもし万が一思い通りにいったのならば、火薬の伝わった先にあるのはこの船に積まれた全ての火薬が保管されている火薬庫。そこに引火すればさぞかし凄まじいこととなるであろう。

 

「――てめぇも道連れだ」

 

 最後の台詞を吐くと同時に船長の瞳から生命の光が消える。だが間も無くしてその眼に再び光が映り込んだ。

 荒々しく輝く紅蓮の光。すなわちそれは――

 

 

 

 

 ピチャピチャと波打ち際を歩きながら、浜辺で拾った木の棒を振り回して遊んでいる一人の子供がいた。

 何か新しいものはないかと目を光らせ、引いては押し寄せてくる波や濡れた砂の感触を楽しんでいた。

 そのとき子供の目に入り込んでくる、丸まった黒い布らしき物体。

 それを躊躇う事無く拾うと子供は大きくそれを広げた。そしてそれに描かれたものを見て子供は大きく目を輝かすと、黒い布の端を持っていた棒の端へと結びつける。

 そして完成したそれを嬉しそうに眺めながら、子供は棒を高々と掲げて砂浜を走り出した。

 風に揺れてなびく黒い布。それには片目に剣が突き刺さった白い骸骨のマークが描かれているのであった。

 

 




題名が二つある様にこれとは別の終わり方をする話を書いていて思いついたので二つにしました。
これがノーマルエンドとしたら次はトゥルーエンドといった感じです。
別のエンドはもう少しお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。