ノンは、思ってもいないタイミングで能力が発現してから出現したカンガルーをもふもふし、能力を調べることに日々を費やした。
カンガルーの体を洗ってあげようかと試したらカンガルーが消えてしまったことに驚き、一緒にお風呂に入れないことをノンは悔やんだ。しかし、カンガルーの持つ袋の便利さに気付き、色んなものを格納できるカンガルーであることから念獣の名前を“ハンガルー”に決めた。
餌としては、オーラ、料理、食材などをハンガルーにあげることができ、ノンは大いに喜んだ。餌をあげすぎてハンガルーが太ってしまった時、ノンは思わず苦笑した。ぽっちゃりになったハンガルーもノンにとっては可愛らしいので、大の字になってお腹にダイブしておいた。
因みに、ノンのお気に入りは、全裸になってハンガルーの袋に入ることである。全身でもふみを堪能でき幸せを感じられる行為だが、袋の入り口である袋の縁を手で握ることは必須である。なぜかというと、ノンが初めて袋の中に入った時に、袋には底がなく体が沈みこみ、水に溺れるような感覚を受けて危機感を抱いたからだ。その際は、咄嗟に袋の縁を手で握ることで事なきを得た。それからは、袋に入る時には必ず袋の縁を掴むようにノンは心がけている。
これでもふみを完璧に充足できるとノンは思っていた。ところがどっこい、ハンガルーは、非念能力者には見えないようで、全裸でハンガルーの袋に入りもふっていると、ノンは空中に裸で浮かぶ幼児として非念能力者の目に映る。そのため、ノンが全裸でもハンガルーの袋の中にいれば見えないから問題ないよねと思って、安心してもふっている姿をミトに見られた時は、一悶着あったという。その騒動のあと、ノンは誰も近場に人がいないことを確認して、お気に入りの行動をするようになった。
ハンガルーは、ノン自身からどのくらい離れても問題ないか確認したらくじら島の全域問題なかった。また、いつぐらいまでハンガルーを維持できるのか確認するために、苦渋の思いで一度も餌を与えず、常に出し続け確認してみたら、消えることはなかった。こればっかりは、放出系能力者としての恩恵と、今まで修練の成果である念技術とオーラの総量のおかげだとノンは思った。
ノンはハンガルーをもう一体生み出せないか試してもできなかった。ハンガルーに頼むことで念獣を新たに生み出すという発想にはいたらなかったのだ。それにより、第2の能力のとっかかりである小型のハンガルーには気づかなかった。
そんなノンは、ハンガルーをもふりつつも念の修行と共に身体能力向上に務めていた。修行とは別に、通信教育も始まった。幸い前世の思考能力をノンは保持しているおかげか、ミトによる通信教育を軽々とこなすことができていた。そのノンの姿にミトは納得がいかないものの、十分に勉強にも励んでいる姿から修行に専念することをノンに認めていた。
それから3年後、ノンが9歳になる頃、懐かしい気配を森の中で感じた。その気配をノンは辿っていく。懐かしい気配以外に、もう幾つか、いつも感じている気配もあることに気づいた。ノンが森を掻き分け進んでいくとキツネグマの親子とゴン、それから、青い帽子を被った銀長髪の青年を見つけた。
ノンの気配に青年は気づいたのか、ノンのいる方向を振り向く。ノンは振り向いた青年の姿を見て記憶にある少年の姿を思い出した。
「もしかして、カイト?」
そう尋ねると、青年は驚いたようで、確認するかのように口を開いた。
「ああ、そうだが。ノン……か!?」
その言葉にノンは、肯く。
「おーーー綺麗になったな。というかノンは、やっぱりオレのことを覚えていたのか」
「ふふー。もちろん。覚えているよ!カイトも大きくなったね」
「大きくって、まあ、あれから7年も経っているからな」
ノンとカイトのやりとりにゴンは唖然としていた。どうしてノンはカイトのことを知っているのだろうかと。そんなゴンの様子にノンはニヤリと笑う。
「ゴン、私は小さいときの記憶がしっかりあるって言ってなかった?」
「うん。ノンが話していたことは覚えているけど、いつも訳の分からないこと言っていたから、小さい時の話もそれかと思っていた」
「ゴン酷くない!?」
「いや、でも本当にノンに関しては理解できないことが多いよ」
「ううう。なんてこった」
ノンは頭を左右に振りながら、キツネグマの親子の方にとぼとぼ歩いていき、両手を広げ親キツネグマのお腹の毛並みにダイブした。
「ねえ、ママコン。私の言動って変かな?」
いつにもなく島のボスの遣瀬ない声色を聞いたママコンこと親キツネグマは、内心ではそもそもキツネグマをもふってくる人間自体おかしいと思ったが、すぐに頭からその思いを片隅を追いやり、自身のお腹に埋もれているボスの背中を優しくなでた。その姿は、まるで母親のよう……!!
「そうよね。私の言動は変ではないよね」
ノンはママコンをもふることでメンタルを回復させて自分の勘違いを深めるのであった。カイトはそのキツネグマとノンの不可思議な行動に興味を抱き、一言述べる。
「いいハンターってやつは動物に好かれちまうんだ」
その言葉が聞こえたゴンとコンは、いま目の前にしているママコンとノンのやりとりは、カイトの言葉と何か違うような気もしたが、何が違うのか言葉にすることができず、もどかしい思いだった。
「そういえば、カイトはどうしてここに居たの?」
メンタルをリセットしたノンは、ママコンのお腹に背中を預けるよう向きを変えて、そういえばとカイトに聞く。カイトは頬を掻きながら答える。
「ジンさんに認めてもらうための最終試験が、ジンさんを探し当てることなのさ。これがどんな狩りより難しい。手がかりがあるかと思いジンさんの生まれ故郷まで来てみたわけだ。そしたらマダラリスの警戒音を聞こえてここまで来たと思ったら、こんな時季なのにキツネグマの親子と少年が楽しそうに過ごしている様を見つけて呆然としていたらノンが来たってわけさ」
「なるほどね。カイトも苦労しているのね。私もキツネグマをもふれるようになるまで苦労していたわ。それにゴンを襲わせないようにするのも大変だった」
ノンは、カイトの答えを聞いた後、腕を組みながら首を何回か縦に振り、自分も苦労している様を語った。ゴンは訝しげな目線でノンを見ていた。というのもノンが、もふらせろと発狂しながら森の動物たちと力技でお話しているのを知っていたからだ。
「ところで、ゴン。パパは死んでいなかったでしょ?」
怪訝な目でノンを見ていたゴンは、急にこちら向いて話してきたノンに内心驚きつつ、ノンが過去に話していたことは、カイトがジンについて話してくれたおかげで本当であったことに信憑性が増し、思わず心が踊った。そして確かめるようにカイトに聞いてみた。
「ねえ、カイト。親父はハンターで、カイトの師匠で、オレとノンが小さい時に一緒に旅していたって本当なの?」
そうカイトに聞いてきたゴンは硬い表情をしていた。だが、カイトはゴンの目に持つ光が、あまりにもジンとそっくりなことに気付き、衝撃を受けながらも、はっきりとゴンに話す。
「ジンさんは死んじゃいないよ。ゴンのおばさんは、嘘をついてでもジンさんの後をついでもらいたくないようだな。だが、ゴン。ゴンも優秀なハンターの器量だよ」
ゴンはカイトの言葉に、表情を緩めニコリとした。そのゴンの表情をノンは見て、どことなく肯いていた。
それから、カイトとゴンとノンとで数時間談笑した。カイトは、ルルカ、コンゴ、クート、トリプルがどうのこうの話していたが、ノンは二首狼オオカミのところだけ積極的に聞いた。カイトはそのノンの様子に、ビーストハンターを目指しているのかとノンに聞くと、もふみハンターを目指していると返され、カイトは戸惑いを隠せなかった。そのときは、どこかぎこちない感じになったが、最後には、円満な関係でゴンとノンとで、カイトを港まで見送って、その日は終わった。
翌日から、ゴンはノンと同様に修行を開始した。どうしてかとノンがゴンに尋ねると、ハンターになってジンに会いに行きたいからと語った。ノンはゴンの変化を喜びつつゴンに負けないようにさらに修行に励むのだった。しかし、ゴンの豹変振りは、ミトには中々受け入れ難く、遂にゴンまでジン化してしまったと嘆いたとかなんとか。
そんなミトに追い討ちをかけるように、ノンとゴンは1999年のハンター試験を受けたいとミトに告げた。ミトは狂気に囚われた。その姿は、ノンの人生で初めての恐怖を与えた。ノンは腰を抜かし、転生後に初のしゃくり上げながら涙を流し、粗相をしてしまった。ゴンは、ミトに恐怖を感じたが、初めて見るノンの怯えようを目にして、あたふたした。
ミトは、始めハンター試験を受けたいと話した子供達に烈火の如く対応した。だが、そんな自身の姿を見たノンを見遣ると、ノンがおかしいことに気づいた。今までどんなことがあろうともニコニコしながら、天真爛漫に奮っていたノンが、床に大きな水たまりをうみだし、尻餅をついて、大きく声を上げながら、号泣しているのである。
初めて見るノンの慄き慟哭している姿を作り上げてしまったことに、ミトは体中が冷えていき、次第に冷や汗が大量に溢れ、怒りは消失した。今は、大人として、ノンの保護者として自身を恥ずかしく思いつつ、どうノンを宥めるべきかを迅速に考えねばならないと判断した。しかし、ノンを宥めようにもこの状況を生み出してしまった手前、ノンになんと言ったら良いのか判断がつかなかった。
ノンから発せられる圧迫感と異様な緊張感。およそ1秒先、ノンに少しでも近づいたら自身を拒否される未来を知ったミトは、一瞬にして、脳裏の中では、過去の一切が高速で雑然と流れ、その直後に弾け散り、現在と混ざり合った。一言。ノンとの家族としての執着と娘との今後の関係の境界で、かつてなくめまぐるしく働いた脳細胞の中で導き出した一言は、通常であれば選択し得ないものだった。
「私もモフリストになるわ」