田中琴葉への頼みごと   作:パンド

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『神麻疹』其ノ伍

 

 

 

「なあ、琴葉……」

「駄目ですプロデューサー、まだ見ないで下さい」

「あっはい」

 

 10分後。

 車で向かえば早く見積もっても30分はかかるはずの琴葉の高校へ、田中琴葉とプロデューサーの2人はいた。

 かなり気不味い空気を纏いながら、2人で視聴覚室への道を歩いていた。

 正確には、プロデューサーに抱きかかえられた高坂海美もいるのだが、彼女は依然として眠ったままだ。

 10分間のお姫様抱っこは琴葉の心に深い爪痕を残していき、ゆでダコよろしく真っ赤に染まった顔はまだ戻っていない様子であった。

 なのでプロデューサーは琴葉の隣に並ばないよう、そして横顔が見えないよう、ピッタリ後ろを歩いている。

 

「ところでプロデューサー、その頭の葉っぱはどんな意味が?」

「ん? ああ、これは気配を隠す仕掛けだよ。見つかったら絶対騒ぎになるしな」

「なんでもありですね……本当に」

 

 その辺の木から葉っぱをとって頭に乗せたときは頭の心配をしそうになったけれど、実際この状態のプロデューサーには誰も話しかけないどころか見向きもしないのだ。

 まるで御伽話に出てくる狐や狸みたいだなと思って、そういえば本当に狐なのだと思い出す。

 プロデューサーが、狐。

 厳密には魂に狐が住んでいると彼は言っていたけれど、琴葉にはその違いが分からなかったし、最近は驚くことが多過ぎたせいか、なんだか一周回って落ち着いた気持ちでその事実を受け止めることができた。

 

「言い忘れてたけど……ありがとうな、琴葉」

「……プロデューサー?」

「いや、受け入れてくれてさ、俺のこと。アイドルの皆んなに話すのは、当然だけど琴葉が初めてだったから」

 

 咄嗟のことではあったけれど、あの姿を見られて特に変わらなかった琴葉の様子に、プロデューサーは少なからず救われていた。

 

「そんな、私の方こそ……その、助けてもらったお礼がまだでしたよね。ありがとうございました、プロデューサー」

「いや、それは当たり前のことだよ。俺はプロデューサーなんだから」

「だったら、私も当たり前のことをしただけです」

 

 2人が、2人で、2人ともお礼を言って。

 なんだか、不思議な雰囲気になって。

 

「……じゃあ、お互い様ってことにしておこうか」

「そうですね、その方が私達らしいと思います」

 

 自分と彼は、アイドルとプロデューサーだから、上でも下でもなく、横並びの存在だから。

 だから、やっぱり隣にいるのがいいのだろうと思い、琴葉は歩調を遅くしてプロデューサーの横を歩き始めた。

 

 

「──着きました、この部屋です」

「視聴覚室か、そういえばあったなぁこんな部屋」

「私も使うのは年に数回ですけどね」

 

 たぶん学校の中で影の薄い部屋Best3に入る、だからこそ追釜が占拠したところで大して問題になっていないのだろうが。

 ともあれ、ここまで来た以上は海美を元通りにする為にも、今度こそ追釜に話を聞いてもらって、聞かせてもらわなくては。

 

(今回はプロデューサーも一緒だし、きっと平気……うん)

 

 なぜか、根拠もないというのに、琴葉はプロデューサーが側にいてくれるだけで、それだけで勇気が湧くのを感じた。

 コンコンと、部屋の扉にノックをして、

 

「失礼します、追釜先生」

「────えっ」

 

 隣のプロデューサーがどういうわけか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているのを横目に、琴葉は扉を開いた。

 視聴覚室は、相変わらず机と椅子が乱雑に積み重ねられていて、中央の空きスペースを取り囲んでいた。

 そして彼は、妖怪事の請負人──追釜大知は、教壇に腰掛けて、まるで2人が来るのを待っていたかのように。

 

 

「数刻ぶりだな、田中。そして──数年ぶりだな、狐小僧」

「げぇ、ガマ先?!」

 

 琴葉と、ついでにプロデューサーへそう告げた。

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

 プロデューサーにとって、追釜大知は恩人である。

 それは間違いない。

 狐狗狸(こっくり)さんに取り憑かれた、飲み込まれそうになっていた自分を引っ張り出してくれたのは彼だし、その後の身の振り方についても色々とアドバイスをしてくれたのも追釜だ。

 だから、彼にとって追釜は恩師であり、大きな恩がある。

 

「いやでもガマ先、あんた別れる時に『もう二度と会うこともないだろう』とかなんとか言ってなかったか?」

「私は大したことなど知りはしないが……言ったかも知れんな。そういうお前も『ああ、あんたには世話になった。ありがとう』だとか言ってい──」

「覚えてるじゃねえかバッチリと!!」

 

 渾身のツッコミが炸裂し、プロデューサーはがっくりと項垂れた。

 琴葉の話を聞いてまさかとは思ったが、本当にそのまさかとは、まさかこの人と再会するとは。

 

「でも、そっか。琴葉のことも助けてくれたんだな……ありがとう」

「成り行きだ、気にするな。故に金を取る気もない」

「俺の時には50万要求された気がするんだが……」

「お前は自分から首を突っ込んだ上に、面倒な後処理までさせたのだから、当然の金額だ」

 

 その50万の返済をする為に、プロデューサーの高校時代の半分は、追釜の使いっ走りとしての生活だった。

 危ない橋を何度も渡らされたし、あの世とこの世を反復横跳びする羽目にもなった。

 とはいえ、大切なアイドルである琴葉が同じような目に遭わされないのなら、それに越したことはない。

 

「もとより、今回は大口のスポンサーが付いている。この近隣で妖怪事を請け負う分には、あの女に請求するさ」

「へぇ、スポンサー」

「物好きな小説家だよ、まぁ今はその話はいい。問題は、だ」

 

 そう言って、追釜は改めて琴葉へ向き直り、平たい声で語りかける。

 

「よくもまぁ、昨日の今日で妖怪に出会えるものだ……これはいよいよだな」

「その、私も別に遭おうとして遭っているわけじゃ……」

「だろうな、そういう意味ではお前は非常に運が悪いが──狐小僧が居合わせた点で言うのなら、運は悪いがタイミングは良いらしい」

 

 狐小僧、というのは先程も言っていたがプロデューサーのことを指しており、琴葉にとっては頼りになる大人であった彼が、こうして小僧扱いされているのを見ていると、なんだか不思議な感じがした。

 それにプロデューサーと追釜は、どこか仲が良い──とは違うけれど、お互いのやり取りには親近感にも似たなにかを感じる。

 

「それで追釜先生、海美ちゃんのこと──助けて貰えるんですか?」

 

 プロデューサーに抱かれた海美を見て、琴葉は追釜へと尋ねた。

 その為に彼を訪ねたのだ。今は光を失っているが、あの十字の痣を消さないことには、同じことの繰り返しになる。

 もし彼女を助けられとしたら、追釜を置いて他にはいないと琴葉は考えていた。

 

「いや、助けない。正確には助けられない、私ではな」

 

 けれど追釜は、そう言い切った。

 高坂海美を助けることはできないと、あっさりと。

 

「そん、な。どうして」

「実を言うとな、ここ二日間私が相手をしていた妖怪というのが、この娘にあたる」

「………っ」

 

 追釜が相手をしていた妖怪。

 彼が取り逃がした妖怪、それが海美なのだとしたら、まさか追釜の手にも負えない状態なのかと、琴葉の頭に最悪の予想が過ぎる。

 

「待てよガマ先、あんたが海美を取り逃したって? 悪い冗談だぞ、それは」

 

 そう言ったのはプロデューサーだ。

 自分に捕まえられた海美を、追釜が捉え損ねるなど考えられない。

 この力の使い方を教えてくれたのは、他でもない追釜大知なのだから。

 

「そうだな、確かに無理やり引き剥がすことは可能だった」

「なら!!」

「ただし、そうした場合。ほぼ確実に後遺症が残る、これは避けられないことだ」

 

 後遺症。

 その言葉に、琴葉とプロデューサーは口を噤んだ。

 それがどんなものであれ、海美のアイドル生命に関わることだったからだ。

 重苦しい空気の中、しかし追釜は淡々と。

 

「だがまぁ、私はこうも言ったぞ。私には助けられないと」

「おいおい、あんたじゃなきゃ、誰が海美を助けるって言うんだ?」

 

 妖怪事の請負人である追釜でなければ、誰が。

 プロデューサーはそう言って、追釜に追求の視線を向けた。すると追釜はゆっくりと手を上げ。

 

「いるじゃないか、ここに適任が」

 

 田中琴葉を、指差した。

 

「わ、私が……?」

 

 琴葉は困惑した。

 自分が、海美を助ける。

 襲われた時も、ここに来てからも、ただ見ていることしかできなかった自分が?

 そんなこと、出来るわけがない。

 自分には、そんな力はない。

 それは追釜にだって分かっているはずだ。

 なのに、なぜ。

 

「なぁガマ先、それは──」

「兎に角、時間だ。狐小僧、その娘をいったん下ろせ」

 

 有無を言わせぬ口調に、プロデューサーは反射的に海美を下ろしてしまった。

 こればかりは習慣というか、条件反射というか、こういう時の追釜には逆らわない方が上手くいくという経験則に因るもので。

 

「では、お目覚めの時間だ」

 

 追釜がそう言った瞬間、海美の体を覆う十字の痣が光りだした。

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

「『迅麻疹』──迅速なる麻疹と書くが、時代によっては神なる麻疹とする見方もある。ある意味では、人の願いを叶える存在だからだ」

 

 迅麻疹、転じて神麻疹。

 人の憧れを食い物にし、身体能力を異常に強化することで、本人の意思とは関係のなく人の身のままで人外じみた力を与える神。

 ああ成りたい、こう成りたい。

 そんな憧れを、羨望を、曲解して、極大解釈して、ありもしない力を植え付ける。

 

「そいつが、海美の体を?」

「あぁ、仮に神だとしてもこいつは悪神だ……本人が願うことを止めない限り、こいつは娘の体に寄生し続ける」

「──随分と、失礼な口をきいてくれるね」

 

 追釜の説明に割り込んできたのは、紛れもなく海美の声だった。

 しかしその中身は本人ではなく、彼女の体を覆う者──迅麻疹による意志である。

 

「何度も言うけど、何度でも言うけれど……私は、この子の望みを叶えただけ。この子がああ成りたいと願ったから、私は神として(はやさ)をあげただけ」

 

 それだけだと、海美の声で迅麻疹は語る。

 彼女の望んだ速さを与えただけ。

 願った力を授けただけ。

 でも、それは。

 

「でも、海美は望んでないはずだ」

 

 プロデューサーは彼女の言い分を聞いた上で、それでも否定した。

 

「いいや、願った。この子は願った。そうでないと私は在れないんだから」

「──確かに、海美は願ったのかも知れない」

 

 こう成りたいと、願ったのかも知れない。

 だが、そうだとしても。

 仮に、海美が願ったのだとしても。

 

「けど『こんな形で願いが叶う』ことを、海美は絶対に望んでなんかいない」

 

 こんな、仲間を傷付けることを厭わない願いの叶え方を、高坂海美は望まない。

 それだけは絶対にあり得ない。

 

「ふん、そんなこと、貴方には分からないでしょ? 貴方は何も知らないんだから」

「かもな」

「だったら──」

「だから、本人に聞くとするよ」

 

 プロデューサーの瞳が黄色に染まり、獣の瞳が開く。グラっと、海美の体が倒れそうになって、琴葉は慌てて彼女を支えた。

 

「簡易催眠だ、今から少しだけ海美を呼び戻す」

「プロデューサー、私は……」

「たぶん、海美は琴葉に聞いて欲しいんだと思うよ。だから琴葉を狙ったんだ」

 

 琴葉なら、海美の願いを止めることができると分かっていたから。

 迅麻疹は、自分でも気がつかないうちに琴葉へ執着していた。

 

「こういうことで良いんだよな」

「上々だ、やはり田中が適任だろう」

「それは……まぁ、俺も同感だよ」

 

 大人2人がそう言う横で、琴葉は海美を膝枕している状態になりながら、その時を待った。

 やがて海美の目が薄らと開き、ポツリと。

 消え入りそうな声を、琴葉へ。

 

「……こと、は」

「海美ちゃん!! 大丈夫、私はここだよ」

 

 琴葉の返事に、海美はボンヤリとした声で、まるで独り言のように言葉を紡ぐ。

 

「ごめんね、琴葉……たくさん迷惑、かけちゃって……」

「ううん、気にしてない」

 

 本当に、そんなことは気にしてないよと、琴葉は海美の頭を優しく撫でる。

 

 

「……私ね、お姉ちゃんみたいになりたかったんだ」

 

 三日前に聞いた、海美の持つ姉への憧れ。

 超人的な姉と、それに憧れる妹の話。

 それが今回の発端であると、琴葉はやっと理解することができた。

 姉のように成りたいという、強い気持ちが、迅麻疹を呼び出したのだと。

 ああ成ることが、高坂海美の願いだったから。

 

「お姉ちゃんみたいに、もっと上手く踊れたらいいなって」

「……うん」

「私なんかより、ずっとずっと凄い、お姉ちゃんみたいに……成りたくて。でも、成れなくて」

 

 コンプレックス、である。

 高坂海美は優秀なダンサーだ。

 その事実に偽りはなく、シアターの誰もが彼女のダンスを認めている。認めているし、見習っている。もし仮に認められない者がいたとしたら、それは海美本人に他ならない。

 どれだけ努力したところで、その上をいく姉の存在が、無意識のうちに彼女の中にコンプレックスを生み出していた。

 コンプレックスはやがて願いとなって、願いが迅麻疹を現出させた。

 

「だから、私……私っ」

 

 いったい、自分は何をしているのだろう。

 虚しさが涙となって、海美の瞳から溢れだす。

 姉に、自分の凄いところを見て欲しかった。私は頑張ってるよって、だから安心してねって、そう伝えたかった。

 なのに、中々思い通りにいかなくて。

 頑張っても、頑張っても、姉は軽々とその上をいく。

 そんなとき、ふと頭に響いたあの声に、よく考えもせずに頷いてしまった。

 『貴女がそれを願うなら、私が叶えてあげるから』

 その結果が、この有り様だ。

 自分なんて、高坂海美なんて。

 嫌になる、自分のことが嫌いになりそうで、海美は──

 

「あのね、海美ちゃん」

 

 だから、田中琴葉は言わなくてはと思った。

 辛そうに涙を流す海美に、自己嫌悪に陥っている海美に、憧れることを止められない、願い続けてしまった海美に。

 

「私たちがいる、私たちが頑張ってるこの世界は、アイドルは、誰が一番凄いか──じゃなくて、誰が一番好きなのか、それが大事なんだと思うの」

 

 きっと自分が限界まで努力して、時間をかけて、vocal・dance・visual全てが全盛期を迎えたとして──それでも、自分より凄い人はいるのだろう。

 田中琴葉は、それを知っていた。 

 人には限界があって、上には上がいること。

 誰もがNo. 1には成れないこと。

 頂点は一つしかないこと。

 そして。

 仮にそうだとしても、『誰かの一番』には成れることを、琴葉は知っていた。

 ファンにとって、応援しているアイドルは誰がなんと言おうと自分にとっての一番星だ。

 その人より歌が上手いアイドルがいても、その人より完成されたダンスを見せるアイドルがいても、その人よりも高いビジュアルを持つアイドルがいたとしても。

 それは決して、アイドルを応援しなくなる理由には成り得ない。

 海美の姉がどれだけ優れた人であっても、海美のファンは、海美だけのファンだ。

 

「だって海美ちゃんは、海美ちゃんだから、高坂海美なんだから。皆んな、海美ちゃんだから好きなんだよ──それじゃあ、ダメなのかな……?」

 

 海美が、高坂海美だから、好きなのだ。

 代わりのいない、替えの効かない人だから。

 

「……琴葉は」

「うん」

「琴葉も、私のこと……好きでいてくれる?」

 

 それでも、不安そうな顔を浮かべる海美へ、琴葉は即答してみせる。

 

「好きだよ。私は、海美ちゃんのことが大好き」

「えへへ、そっか……よかったぁ……『この子のこと、よろしくね』」

 

 最後に、そう言って笑って、海美はまた琴葉の膝で眠ってしまった

 そんな海美を、琴葉は愛おしいそうに抱きしめる。もう二度と、彼女が不安になんてならないように。

 海美の体に、十字の痣は……もう、一つも残っていなかった。

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

「結局、あれでよかったんでしょうか」

「あれで、というと?」

「海美ちゃんの記憶を誤魔化したことです」

 

 後日、とあるオーディションを終えた琴葉は、プロデューサーと2人車に乗っていた。

 迅麻疹は跡形もなく消え、海美はすっかり元気になった。今日もこれからシアターでデュエット曲の練習をする予定になっている。

 高坂海美は元通りになった。

 体も、そして記憶も。

 プロデューサーが催眠をかけて、海美の記憶を誤魔化したのだ。

 海美の記憶の中では、あの日は無理にレッスン出てきて、琴葉を待っているうちに寝てしまい、そしてプロデューサーに家まで強制送還されたことになっている。

 

「俺はよかったと思ってるよ。忘れられるなら、忘れた方がいい」

「確かに、無理に覚えておく必要はないのかも知れませんね……」

 

 自分が悪神に取り憑かれて、仲間を襲った記憶なんて、無いに越したことはない。

 

「それに全てを忘れたわけじゃないさ。琴葉の言葉は、ちゃんと海美に届いてるよ、きっとな」

「そうだといいんですけど、私も必死でしたから」

「でも、間違ったことは言ってない、そうだろ?」

「少なくとも、私は正しいと思ったことを言ったつもりです」

 

 琴葉は自分の本心を、海美に語ったつもりでいた。それが伝わっていればいいなと、彼女は願う。

 誰もが、誰かの一番なんだって。

 きっと誰かが、他の誰でもない貴女を待っているんだと。

 そう知って欲しかった。

 

「あ、そうだプロデューサー」

「ん、どうした?」

「学校へ私を連れて行ったとき、なんでも言うことを聞いてくれるって言いましたよね?」

「え? あー、言ったっけなぁ、どうだったか、俺も必死だったから──」

「言いましたよね?」

「はい、言いました……」

 

 運転しながら項垂れるという器用な真似をするプロデューサーへ、琴葉は珍しく悪戯っ気のある顔で。

 

「じゃあ、今日のオーディションに受かっていたら。撮影中の送り迎え、プロデューサーにお願いしてもいいですか?」

「えっ、いや構わないが……それでいいのか?」

「はい、いいんです」

 

 それがいいんです。

 本人に聞こえないよう、琴葉は心の中でそう付け加えた。

 

 

 

 

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