地球降下作戦が起動した瞬間、成層圏の雲海が赤く裂けた。
月軌道から切り離されたVTOLは、重力に引きずられるように大気圏へ突入する。
計器が警告音を鳴らす中、操縦席でイズモは冷静に前方を見据えていた。
イズモ「ドルシア軍が来る」
レーダーに無数の反応が浮かび上がる。
迎撃艦隊。
逃げ場はない。
イズモ「迎撃する」
短く言い切った声に、迷いはなかった。
イズモ「ヴァルヴレイヴ各位、熱暴走を防ぐため一機ずつ出ろ」
イズモ「このVTOLにも下方迎撃装置が付いている」
VTOLが旋回し、腹部ハッチが開く。
チャフが散布され、レーザー砲が閃光を放った。
敵艦の一隻が直撃を受け、爆散する。
イズモ「帰還せよ」
ヴァルヴレイヴパイロット「了解」
残存敵を振り切り、編隊は雲の下へ消えた。
イズモ「予想進路から離脱する」
イズモ「カエデ、角度と進路を再計算」
カエデ「ドルシア領内への着陸が最適です」
イズモ「今回は潜入だ」
イズモ「ドルシア軍にスパイする」
イズモ「メンバーは俺とエルエルフ、マリエ」
地上、カルルスタイン村。
静かな村だった。
だが静けさは、偽りだ。
銃声が響き、イズモの肩を弾丸が掠める。
その瞬間、エルエルフが背後から兵士を殴打し、気絶させた。
マリエが通信機器を押さえ、イズモと目を合わせる。
イズモは痛みを無視し、立ち上がった。
潜入は始まった。
イズモ「北東に敵戦闘機、機数二。未確認機だ」
イズモ「ポジトロンライフルで狙撃」
パイロット「了解」
青白い閃光が夜空を貫き、敵機は音もなく落ちた。
だが撤退はできなかった。
監視網が異常を感知し、包囲が始まる。
やがて三人は捕縛された。
だが拘束は長く続かなかった。
イズモの放ったドローンが起動し、警備兵を次々と無力化する。
混乱の中、エルエルフとマリエは仲間の元へ向かった。
その間、イズモは独自にハッキングを進めていた。
イズモ「……見つけた」
101人評議会。
Ru採取用潜水艦が、モジュール77へ向かっている。
イズモは即座に情報を送信した。
この動きが、エルエルフの奪還作戦と重なっていることを理解しながら。
一度離脱した輸送艦の中に、人の身体が残されているのを見つけた時、イズモは察した。
罠だ。
それでも彼は戻った。
ヴァルヴレイヴに乗る直前、あえて姿を晒し、捕まる。
兵士「時間だ。早く行け」
拘束されたまま連行される中、背中に刃が突き立てられた。
激痛。
だがイズモは倒れない。
傷は瞬時に再生した。
イズモ「この時を待っていた」
背後の高官が驚愕するより早く、イズモはATFを起動し、その身体を貫いた。
だが相手もまた、再生する。
イズモ「これが世界の真実だ」
次の一撃で、完全に息の根を止める。
施設内は地獄と化した。
改造兵、警備兵、全てを掃討する。
イズモ「俺はこいつらに人体改造された」
イズモ「101人評議会という組織が、俺みたいな存在を量産している」
イズモ「その装置がヴァルヴレイヴ、ジオールの兵器だ」
通信回線を掌握し、全世界へ接続する。
イズモ「101人評議会、見てるか」
イズモ「無限の命を与えるふりをして、人体実験を続けてきた礼をしないとな」
イズモ「世界中の行方不明、魔女狩り、狼男、ヴァンパイア」
イズモ「その全ての黒幕はお前たちだ」
イズモ「今こそ、101人評議会とドルシアを倒す」
イズモ「神着と人類が共存する世界を作る」
イズモ「敵は明確だ」
イズモ「情報操作も無駄だ。君たちのシステムは俺が持っている」
イズモ「通信終了」
静寂が戻る。
イズモは深く息を吐いた。
イズモ「さて、月に帰るか」
即席でVTOLを組み上げ、夜空へ飛び立つ。
地球降下作戦発動の報が入った瞬間、ドルシア軍中央指揮室の空気は凍りついた。
成層圏監視スクリーンに、赤く裂ける雲海と複数の降下軌跡が映し出される。
参謀「月軌道からVTOLが切り離されました。数、未確定」
司令官は無言で腕を組んだ。
敵が来るとすれば、この瞬間しかない。
それも、正面からではない。
司令官「迎撃艦隊を展開。だが深入りするな」
次の瞬間、警告音。
一隻の迎撃艦が光の奔流に飲み込まれ、爆散する。
参謀「下方迎撃……想定外の装備です」
司令官「……最上イズモか」
その名を口にしただけで、胸の奥がざわつく。
モジュール77独立以降、報告書に必ず現れる異物。
戦術、判断、速度、そのすべてが常識の外にある。
参謀「敵編隊、雲下へ離脱。追跡困難」
司令官は小さく舌打ちした。
迎撃戦は失敗。
だが、問題はそこではない。
数時間後。
ドルシア領カルルスタイン村。
静寂を破ったのは、一発の銃声だった。
兵士「侵入者だ!」
だが次の瞬間、背後から衝撃。
兵士は意識を失い、地面に崩れ落ちる。
監視カメラに映ったのは三人。
少年の姿をした男。
無表情な銀髪の兵士。
そして少女。
参謀「確認。エルエルフ、マリエ、そして……イズモ」
司令官の喉が鳴る。
なぜ、ここにいる。
直後、北東空域で未確認機が二機、音もなく消えた。
参謀「ポジトロン反応……狙撃です」
司令官「包囲しろ。殺すな。必ず生け捕りだ」
数分後。
三人は拘束された。
司令官は安堵しかけた。
だが、その感情は長く続かない。
警備区画で通信が途絶え、兵が倒れていく。
ドローン。
自律兵器。
参謀「内部から制圧されています!」
司令官「……やはり罠か」
だが次の報告で、司令官は理解できない感覚に襲われた。
参謀「イズモが自ら再拘束を受けています。逃走可能だったはずです」
司令官「……何?」
理解不能。
敵が自ら捕まる理由などない。
護送中、映像が乱れる。
刃が突き立てられ、血が飛ぶ。
参謀「刺突確認。致命傷のはず……」
だが少年は倒れない。
肉体が、再生する。
司令官は息を呑んだ。
資料でしか知らない存在。
神着。
イズモ「この時を待っていた」
次の瞬間、高官が貫かれる。
ATF。
人の形をした兵器。
司令官「撃て!」
だが遅い。
施設内は瞬く間に制圧される。
改造兵も、警備兵も、意味をなさない。
イズモ「俺はこいつらに人体改造された」
その声が、全回線に流れた。
イズモ「101人評議会という組織が、俺みたいな存在を量産している」
司令官の背筋が凍る。
隠してきた真実。
絶対に外に出てはならない情報。
イズモ「無限の命を与えるふりをして、人体実験を続けてきた礼をしないとな」
参謀「通信遮断を試みていますが……無理です。完全に掌握されています」
司令官は椅子に深く沈み込んだ。
終わった。
イズモ「今こそ、101人評議会とドルシアを倒す」
イズモ「神着と人類が共存する世界を作る」
宣言が終わり、通信が切れる。
静寂。
司令官は震える手で顔を覆った。
戦争ではない。
これは、革命だ。
夜空の映像に、小さな光が映る。
即席で組み上げられたVTOLが、月へ向かって飛び立っていく。
司令官「……我々は、怪物を作りすぎた」
誰も答えなかった。
旧世界の支配構造が、音を立てて崩れるその瞬間を、ただ見つめることしかできなかった。