※評価のひとこと欄無しになってましたすいません。
「葛飾......」
無意識に口から零れた
友希那の肩越しに見える姿は夜の影に隠れてうっすらとしか見えなかったが、今日カラオケの中で見た格好そのままだった。
違う
そう言いそうになって、口を噤んだ。
一体、何が違うんだ。
葛飾の見たままだろう。
友希那が俺にキスをしようとしてきて、俺はそれを拒まなかった。ただそれだけ。
どこが違うと言うのだ。
弁解なんて、する余地はない。
友希那は、じっと葛飾の方を向いたまま
何を言うわけでもなく、見据えていた。
「...ごめん」
そう、葛飾は呟いた
いくら小さな声だと言っても他に誰もいない閑静な夜の公園では俺たちの耳に届くには、十分な音量だった。
葛飾の震えた声が、
鼓膜だけではなく俺の胸を揺らす。
友希那は、俺の身体にもたれかかったまま葛飾の方を見ていた。後ろ姿だけでは、友希那が今 いったいどんな顔をしているのか伺う事もできない。
「私さ、もしかしたら」
夜の公園の空気で反射した、エコーがかった声が響く。うっすら見える砂場には 遊び終わったあとの崩れた山が見えた。
「もしかしたら、中野くんに会うかもって思って。服、選んだんだ」
スカートをぎゅっと掴んで、俯いた葛飾が。
淡々と言葉を紡いでいく。
「中野くんがいないとこでも、中野くんの事、考えちゃってたんだ、私」
震えた声は、どんどん潤いを増していく。
消え入りそうな声と、涙を零さないように鼻を啜る音が響く。
「でも、ごめんね」
深く息を吐いた後。
少し落ち着いた声で、葛飾は言った。
暗がりの中でも、真っ赤になった顔がよく見えた。
「ちょっと、考えさせて」
苦笑混じりに、泣き腫らした顔で言い切った葛飾は、俺の返事を待たずに去っていく。
きっと、俺と友希那の会話を聞いていたのだろう。俺が友希那に言った「葛飾が好きだ」っていう言葉を、葛飾は聞いていたのだろう。
だから、『考えさせて』と言ったのだ。
「......」
喉が、動かない。
いや、たとえ動いたとしても
一体俺は何を言うのだろう
何を言う資格が、あるのだろう。
葛飾の零したあの涙に、俺はどう償うのだろう。
葛飾の服装は、女友達と出かけるにしては確かに少し気合いが入っているとは思った。それがまさか、俺のことを考えてくれてただなんて、思ってもみなかった。
俺はただ、葛飾の事を好きなだけだった。
好きなだけで、葛飾の事を想ってなかった。
その事実が、胸を抉った。
「ねぇ、想」
友希那の声だ
ようやくこちらを振り向いたその表情は、全くの無だった。何を考えているのか。どういう気持ちなのか。その表情には、何も描かれていなかった。
「『葛飾が好き』って言葉の意味、わかってる?」
心臓にナイフを突き立てられたような感覚が走る。刺さったそのナイフは俺の中にある後悔や、罪悪感や、無力感を、引きずり出した。
「その言葉は、私の気持ちから逃げるための言葉じゃないの」
全く感情を見せないその表情が、むしろ安心した。何もないその表情が、俺の心の沸騰石になっていた。
「私は、リサとは違う」
両手を俺の肩と頬から下ろして、俺の両足に当てる。太ももに乗ったその感覚は、俺の心を溶かしていった。
「リサは、葛飾さんに譲ってるみたいだけど。私はそんな事、しない」
俺の足に手を乗せ、ベンチに膝立ちになった友希那は身を乗り出し 俺の目を見たまま、顔を近づけてくる。
「葛飾さんから、奪ってみせる」
葛飾ではなく、俺に向けての宣戦布告
その言葉と共に、俺と友希那の呼吸が再び重なった。
今度は、口をつけるだけの子供のキスじゃなかった。
ココアの甘い味が、口に広がった。
ゆっくりと、2人の距離が開く
さっきよりも落ち着いた様子の友希那は、俺の身体から手を離し ベンチから立ち上がった。
俺は、まだベンチに深く座ったまま。
力なく背もたれに寄りかかっている。
「じゃあ、おやすみ」
別れの言葉を言い残し、踵を返して公園の出口へ歩いていく友希那。その後ろ姿は力強かった。左手には、飲みかけのココアの缶。
その味がまだ、口に残っていた。
次回予告
何度鳴っても、意味が無い
何度考えても、意味は無い
何度燻っても、変わらない
「ねぇ、聞かせて。何があったのか」
また、その表情に救われる
次回『悔恨、ひとりよがりの救済』
https://twitter.com/2Jrp71n98IkWeNw?s=09
ココア(カカオ)の花言葉は、『片思い』です。
好きなのはこの中だと...
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