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何度目かのスヌーズでようやく意識が眠りから這い出る。随分煩くなった電子音が部屋に鳴り響く。
今日は日曜日。本来なら葛飾との約束の日だったのだが、もう早起きをする必要も無くなった。
昨日、あのあと葛飾からRINEが来ていた。
「明日、雨だからやめとこ」
分割もしてない、スタンプもない、葛飾らしくない文面でそう伝えられた。「わかった」と短く返信をしたのだが、既読すらつかない。
窓に打ち付ける雨の音がうるさい
まるであの時みたいな雨音が耳に張り付く
先週の金曜の夜、リサとのあの日の記憶がフラッシュバックする。
俺は今まで何をしていたんだろう。
昨日の葛飾の言葉を聞いて、思う。
『好き』って言葉を、誤解していたのかもしれない。
昨日の友希那の言葉を聞いて、強く思う。
まだ、胸に刺さったナイフが抜けない。
抜いたらきっとまた後悔や、罪悪感や、無力感が溢れ出てきてしまう。それが、怖い。
結局、臆病なんだ。
そっと布団を剥ぐ、まだ鳴ったままの携帯のアラームをようやく止め、もう一度窓の外を眺める。
窓に打ちつけられた雨粒が弾ける、重力に屈した水が流れ落ちていく。その様子を何度も何度も眺める。
あぁ、逢いたいな
やっと、葛飾の気持ちがわかった気がする。
こんな思いを、ずっとしていたのか。
こんなにずっと人の事を考えたのは初めてかもしれない。今までも葛飾の事は好きだった。何気ない時にふと考える事もあった。でも、それを行動に起こせなかった。
葛飾みたいに、出来なかった
昨日の葛飾の服装を思い出す。フリルのついた可愛らしい服装が頭に過ぎる。葛飾が、俺のために選んでくれた服。
リサの言っていた言葉を思い出す
「褒める時は、ちゃんと褒めた方がいいよ」
俺は葛飾にちゃんと伝えられてただろうか。
あの時感じた素直な気持ちを、
伝えられただろうか。
もしかしたら、
もう葛飾と話す事は無いかもしれない
それぐらい、あの「ごめん」は切実だった
ため息が、零れた
もう1回、2週間前からやり直したい。
こんな思いをするぐらいなら、もう一度選択肢を選び直したい。
『じゃあ、その時は何を選ぶの?』
自分の言葉で、自分の喉を絞めた。
1番都合の悪い疑問が、自分の頭に浮かぶ
『結局、何が大事なの?』
叱責の記録は、いつだって記憶に記されていた。
記録として残っていた。
自分のこれまでの人生で嫌という程 実感してきた、自分の不甲斐なさやいい加減さが、積もり積もって自分を責める。
『誰かのことを本気で好きになったことなんて、あるの?』
もう、やめてくれ
『誰かのこと、想ったことあるの?』
うるさいな
『誰かの気持ちに応えたことあるの?』
黙ってくれよ
『お前に、何ができるの?』
「頼むから、やめてくれ」
誰もいない部屋で、そう呟いた
応えるみたいに、電子音がなった。
その音は携帯からじゃなく、玄関から鳴っていた
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家のドアを開ける。
さっきまでは壁越しだった雨の音が
空気を伝って鮮明に聞こえる。
「やっぱ、まだ家に居たんだ」
玄関のチャイムを鳴らしたのは、リサだった
いつもみたいな明るい声じゃなく、呆れが混じったような そんな声だった。
「あー、雨だしやめとこうって話になったんだよ」
嘘ではない
そういう口実を葛飾は使ったのだし、表面上は何も偽っていないのだが。
「...うん、そっか」
俯いて、リサがそう零した
きっと、リサなら勘づいているのだろう。
じゃないと、わざわざ俺の家に来るはずがない。
「濡れるし、上がれよ」
「うん、ありがと」
ぐっとドアを押し込み、リサが家に入りやすいように開ける。それ以上は何も言わず、俯いたまま家に入るリサ。
今、家には俺しかいない。父さんは仕事、4月は忙しいので今週は毎日のように仕事に行っている。母さんは友人とお出かけらしい。高校からの友人だったらしく、雨などお構い無しの様子で出かけたようだ。
普通なら、雨でも出かけるよな
やっぱ、葛飾と会うことはもう無いのかも
そう思いながらドアを閉める。
脳裏に浮かぶのは葛飾の顔
昨日、俺が泣かせてしまった顔だ。
罪悪感に苛まれながら
ドアに向いたままの視線を廊下に振り返らせる
視線の先にはリサがいる。
さっき家に上がったから居るのは当たり前なのだが
俺の家を背景にしてリサが存在するこの光景が、気持ちの悪いものに思えた。
葛飾の事を気に病みながら、
自宅で別の異性と会っている事実がおぞましくて醜い事に、今更ながら思えた。
「そういや、なんでウチに来たの」
誤魔化すみたいに、リサに聞く
普通に考えれば、リサが俺と葛飾の事を知っているはずが無いのだ。友希那が連絡していればそれで納得はできるのだが、そんな事をするとは思えない。
「あ〜、家に帰った後、友希那の部屋に灯りついてなかったから。何かあったのかな〜って思って」
恐ろしいまでに、リサは勘が冴えていたようだ
なんでもないふうに言うリサの姿が
また一段と気味が悪く思えた。
俺がまだ知らないだけで、もしかしたらリサはもっと多くの事を気づいてるのかもしれない。
ライブでの友希那の事や、公園で起きた事も、もしかしたら全部知っているのかもしれない。
リサの事を考察する
いったい、どこまで知ってるんだ
おもむろに、リサが自身の髪に手をかけた
後ろ髪を結んでいたゴムをゆっくりと外す
リサが動きを見せる度に
バニラの匂いが辺りをつつむ
「じっとしてて」
ヘアゴムを持ったリサがそう言う。
ゆっくりと、近づく
そして、俺の長い前髪をヘアゴムで結んだ
ただそれだけの事で
色んな想いがフラッシュバックする。
昔はよくリサに長い前髪が邪魔だったのでヘアゴムで髪を上にあげて貰っていた。そんな事、もうとっくに忘れていた。
「想、変わってなさすぎ」
笑いながら、リサがそう言う
俺の周りで色んな物が変わっていった。
いつのまにか大人の魅力を持っていたリサ、情熱的な告白をするようになった友希那、遠くなってしまった葛飾。
でも、リサから見た俺は
変わってないらしい。
ずっと、幼稚なままだった。
人の気持ちを、考えていなかった
「ねぇ、聞かせて。何があったか」
微笑みながら、リサが言う。
その表情はあの時とおなじ、全てを赦すような。
そんな表情だった
次回予告
「そっか、」
あの頃と同じの、ヘアゴムの感触
「想はさ、どう思ってるの」
あの頃と同じの、甘えた考え
「好きだよ」
何も、俺は変わっていなかった
「そっか」
次回『再度、重なる呼吸』
https://twitter.com/2Jrp71n98IkWeNw?s=09
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