病まない雨はない   作:富岡生死場

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15 再度、重なる呼吸

「っていう、感じ」

 

 締まらない言葉で話を締める。

 昨日起こったことを、全部リサに話す。

 

 ベッドに腰をかける俺と、椅子に腰かけるリサ

 ベッドの高さと椅子の高さは食い違っていて普段なら身長的に俺の方が目線は上なのだが、今はリサの方が目線が高く。相談している間、ずっとリサが俺を見下ろしていた。

 

 カラオケで葛飾に会ったこと、

 友希那と公園で話したこと、

 それを葛飾が聞いてたこと、

 

 見下ろされたまま、全部 話した。

 

「そっか、友希那が」

 

 驚き、と言うよりは納得に近いような、そんな反応をするリサ。さっきまでずっと相槌を打つだけだったのだが、ようやく言葉を発してくれた。

 

「返信、来てないの?」

 

「まだ来てねぇわ、既読もついてねぇし」

 

 携帯を手に取り、葛飾とのトーク画面を表示する。昨日の1文だけのRINEを見る度に心が冷え固まるような気分を味わう。面積の少ない会話と同時に、昨日までの何気ない楽しい会話が見えた。

 

 携帯から視線を上げる。

 

 ヘアゴムを外していつもと少し髪型が違うリサ

 その外したヘアゴムは、今俺の前髪をくくるのに使われている。昔、遊ぶ時に邪魔でよくやってたやつだ。

 

 手で自分の前髪を触る。束ねられた部分から広がる稲みたいな感触が何となく気持ちいい。

 

「想はさ、葛飾さんの事。どう思ってるの」

 

 その質問は 少し前ならきっと、1番答えづらい質問だっただろう。でも、今なら落ち着いて答えられる。

 

「好きだよ」

 

 ただ『好き』なだけ。

 友希那の気持ちから逃げるための言葉。

 そう思われるかもしれない。

 

 でも、俺の中にある葛飾への気持ちはきっと、本物のはずだ。失ってから初めて気づく物なんて、歌詞の中だけのものだと思ってた。でも、違った。

 

 昨日のあの瞬間から、葛飾の事が頭から離れない。

 

 あの涙や、あの声や、あの姿が。

 

 網膜に焼き付いて剥がれない。

 

 だから、今ならはっきり言える

 

「だから、話してみよっかなって」

 

 葛飾とも、友希那とも。

 2人ともに話をしてそれでケジメをつける

 

「そっか」

 

 リサが、少し笑いながら言う

 1週間前のあの日の事を思い出す

 リサと溶け合ったあの夜、

 次の日の霞みたいな朝、

 

 リサの嘘に乗っかったあの日の事を

 

「うん、やっぱそうだよね」

 

 そして、リサの表情を見て思い出した

 あの時 垣間見たリサの本当の表情を

 

 笑顔と笑顔の間に潜んでいたドロドロした粘土細工みたいな感情が押し固められた表情がリサの顔に這い出る。

 

 その表情を見て、ゾッとする

 

 底冷えするようなリサの声音が、俺の心臓を撫でる。

 

「想」

 

 俺の名前を呼ぶリサ

 さっきまでとは別人みたいだった

 

 女の子の表情の8割はウソ

 

 今更、そんな事も思い出した

 

「葛飾さんが自分から離れていきそうで、辛かった?」

 

 ゆっくりと言葉を口に出すリサ

 椅子の背もたれに体を預け 手を前に伸ばしたままなんでもないような、世間話をするようにそう聞いてくる。

 

「きっと辛かったよね。会いたくて仕方なかったんじゃないかな?」

 

 俺ではなく、部屋の天井を見ながら。

 リサが言う。

 

 上を見ながら喋る事で、リサの喉が動く様がよく見えた。

 

 部屋の照明がリサの顎のラインにそった影を、くっきりと生み出す。上着を脱いでブラウスだけの服装が見せびらかすように覗かせる鎖骨。

 

 その全てが、作為的なモノだった

 

「夜も葛飾さんの事考えたら、泣きそうなぐらい辛かったんじゃない?」

 

 そう言って、リサが瞼を閉じる。

 だいぶ腫れの引いた目元。でも、完全に消えたわけじゃない。メイクで誤魔化したその腫れの痕が俺の手を震わせた。

 

「想のその気持ち、わかるよ」

 

 ゆっくりと、椅子から立ち上がる。リサのその様子を、俺はただ見ることしか出来なかった。

 

「だって、アタシもそうだもん」

 

 目を開き、俺と目を合わせる

 友希那の時みたいな、支配的な視線だ。

 

「アタシも、想が離れていくってわかって。葛飾さんの所に行っちゃうって気づいてから、ずっと辛かった」

 

 ゆっくりと、リサが近づく

 

「でも、想が葛飾さんの事好きなら、諦めようって思ってた。見守ろうって思ってた」

 

 全部が全部、過去形で伝えられるリサの言葉

 

「そう思ってたのに、相談に乗って応援しようって思ってたのに」

 

 俺の足先と、リサの足先が触れる。

 それぐらいの、距離だ

 

「友希那ってば、凄いことするね」

 

 リサが自嘲気味に笑う

 

「そんな事されたら、我慢できないじゃん」

 

 携帯が鳴った

 いつもは振動だけだが、アラームをかけていたせいで設定がいつもと違っている。そのせいで部屋になるRINEの通知音。きっと、葛飾からだ。

 

「ねぇ、想」

 

 一瞬 携帯に意識を向けていたせいで、気づかなかった。リサの表情がまたドロドロしたものに変わっていた。

 

「葛飾さんの事、今は考えないで」

 

 俺の手を、リサがとる

 逃がさないとでも言いたげなその動作は行動の抑制に留まらず俺の視線や、選択の余地すら狭めた。あの日の罪悪感や、後悔や、自責で動けなくなっていた。

 

「あの時みたいに、私の事だけ考えて」

 

 また、雨だ。

 前の時も、こんな雨だった。

 カーテンから見えた月を思い出す。

 

「あの時みたいに、私の名前だけ呼んで」

 

 瞳を閉じるリサ。至近距離で見るリサの長いまつ毛は、前みたいに揺れてなどいなかった。

 

 また、バニラの匂いがした。




次回予告


「あ、起きた?」

重い瞼の先に見える影

「どうだった?」

2度目の光景に、自己嫌悪すら起きない

「その人、なんて名前なの」

そして、また少しづつ俺たちは変わっていく

次回『嚆矢、新しい起点』


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ちょっと更新遅くなるかもです。評価とか感想をお世辞抜きで言ってくれるだけで意欲になるので良ければお願いします。前の話とか振り返って読んでくれたりすると嬉しいです。

好きなのはこの中だと...

  • 湊友希那
  • 今井リサ
  • 葛飾麗奈
  • 氷川日菜
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