評価読むだけでモチベが上がる。
「いや、違う」
目の前のツインテールにそう言う。俺と友希那が付き合ってる、と誤解しているらしい。フードコートに設置されたゴミ箱を背にして、ツインテールの目を見る。
「俺と友希那はただの幼馴染だ」
友希那の方を指さしながら、説明する。指を指した先にはさっきまで座っていたテーブルで氷川紗夜と2人で話をしている友希那がいた。遠目から見ていてもわかる、明るい雰囲気では無い。そもそも友希那が明るい人間じゃないのもあるが、氷川紗夜の表情が少し暗いのだ。
さっきの、日菜とは大違いだな。
「あ、そうだったんですね」
少し落ち着いた様子の少女、さっきまで上げていた手を下ろし 握られていた拳も広げる。落胆と安堵が入り交じったような微妙な反応に、何も悪い事はしてないのだが 申し訳ない気分になる。
「私、宇田川あこって言うんですけど」
気を取り直した様子のツインテール、宇田川あこ は聞いてもないのに自己紹介を始めた。日菜とは違って、先に自分の名前を名乗ってくれるらしい。
「私を、友希那さんのバンドに入れてくれませんか?」
さっきまでの気の抜けた表情を変え、真剣な表情で俺の目を見て言う。それと同時に、俺の携帯が震えた。2人の視線がその携帯に吸い寄せられる。
「ごめん、携帯見ていい?」
宇田川の了承をとり、送られてきたメッセージの内容を確認する。送り主は友希那だった
「その子、だれ?」
あいつ、どこに目が付いてるんだよ。友希那がいるテーブルに視線を向けるが、友希那はこちらを見ているわけでもなく 氷川紗夜と向き合っている。どうやって俺と宇田川の会話に気づいたのだろう。
「お前のバンドの加入希望者だって」
急いで友希那にRINEを送り、連れていく事を伝える。どうやら話し中、という訳でもないらしいので1人増えても問題ないだろう。
「宇田川、友希那のとこ行くぞ」
一瞬戸惑った様子だが、すぐに表情は明るくなり威勢よく返事を返してきた。小動物みたいな宇田川を引き連れ友希那のいるテーブルに向かう。後ろにピッタリくっついて行進する姿は、どこぞのRPGみたいだ。
なら、俺が勇者でこいつは魔法使いとかかな。
俺には、勇気なんて無いけど。
すぐにネガティブな考えを運んでくる脳内連想ゲームをしているうちに友希那達のいるテーブルに着いた。まだいたのか、と言わんばかりの氷川紗夜の表情が肌に刺さる。
「友希那、こいつがお前とバンド組みたいって」
氷川紗夜の視線は無視して、あくまで友希那に向かって告げる。多分、この場の雰囲気を見る限り 話し合いは上手く言ってないのだろう。リサから聞いた話だと、氷川紗夜の入っているバンドがコイツの事を手離したくないらしい。
友希那が欲しがるような人材だ、一筋縄ではいかないのだろう。
「......その人が?」
冷たい視線を向け、宇田川を品定める。
その視線を少し萎縮した様子で受け止める宇田川。
「じゃ、俺帰るから。がんば」
取り繕うみたいに別れの言葉を並べ、逃げるみたいにテーブルから離れる。宇田川の不安そうな視線と、氷川紗夜の今日何度めか分からない不思議そうな目、友希那の冷たい視線、その3つを背中で受け止めながら出口へと向かう。
宇田川には申し訳ないが、俺が友希那のバンドの加入を勝手に決める訳には行かないし こうするしか無かったのだ。
1人で言い訳をしながらショッピングモール内を進む。フードコートを出て、女性物の服屋がたくさん並ぶフロアを抜け どれがガラスでどれが自動ドアか、イマイチ分からない出入り口を抜け、駐輪場へ向かう。
少し傾いた陽の光が目を刺す。
その光に抗うように瞼を下ろし、視界を絞りながら自分の自転車を停めた辺りを 30分ほど前の記憶を辿りながら目指す。そこまで迷う要素の無い駐輪場に置かれた自分の自転車を見つけるのは、そう難しい事ではなかった。
だが、
「あ、やっと来た」
俺の自転車のイスを触りながらこちらに向かって手を振る日菜の姿には、理解は及ばなかった。姉が来るから、と言って逃げるように帰った筈なのだが。
「やっぱ、男子の自転車のイスって高いんだね。座って待とうと思ったのに」
笑いながら、まるで友達みたいにそう言ってくる日菜の姿はどこかアンバランスで、不気味で、気味が悪かった。
「なんの用だよ」
俺と日菜以外に誰もいない駐輪場。
リサと俺の事を勘づいているらしい日菜には、無意識に語調が荒くなってしまう。そんな少し崩れた俺の話し方を、笑いながら受け止める日菜。
「あれ、お姉ちゃんの事聞きたかったんでしょ? まだなんも教えてないじゃん」
確かにコイツのお願いを聞いただけで、氷川紗夜について何も知らなかった。今わかっているのは名前と、バンドに入ってる事と、そのバンドを日菜も、友希那も、快く思ってない事ぐらいだ。
「だから、教えてあげようと思って待ってたんだけど」
「あー、ありがと」
人差し指を唇にあてて言う日菜に、少し食い気味に感謝の言葉を言う。なんとなく、葛飾と雰囲気が似ている。それは髪型が似ているせいなのか。それとも。
『こいつが意図的に真似ている』からだろうか。
「とりあえず、今のお姉ちゃんのバンドの事なんだけど」
もう一度、俺の自転車を叩きながら言う日菜。やめろよ、人の自転車叩くの。
「バンドの名前は『Reeves Rose』っていうの」
リーブスローズ、か。どういう意味が込められているかは分からないが綺麗な名前だな。なんて言うか、オシャレで。
斜陽を背にしながら俺の自転車の椅子を指でトントンと叩きながら日菜が続きを言う。
「リーダーでベースボーカルが『神田咲』、ドラムが『江戸川 美雪』、両方ともうちの高校の2年」
淡々と必要な情報を言っていく日菜は、どこか事務的でさっきまでの悪魔みたいな、ふらついた怪しさはなかった。
「で、想くんへのお願いは一つだけ」
自転車から手を離し、携帯を操作しながら近づいてくる。日菜の表情には何も映っていない、ポーカーフェイスってやつだ。
そして、俺の目の前に携帯を差し出す。
表示されているのはRINEのQRコードだ。
「私の代わりに、その2人からお姉ちゃんを引き離して」
わざわざ、友希那の前で言わなかった意味がわかった。こいつにとって俺は、ただの都合のいい人間なのだろう。当たり前だが、これからバンドを組む友希那が氷川紗夜に嫌われてしまっては意味が無いし、リサにも頼みずらい。
そして自分自身が手を汚すのは嫌だ。だから、弱みも握っている俺が適役だったのだろう。
「大丈夫、私も手伝ってあげるから」
また、こちらを見透かすような視線でこちらを見る。
安心させるような声で、それでいてどこかこちらの事を嘲笑ってるみたいに、日菜が言う。
ほんとに、悪魔みたいだな
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜