「じゃあ、またね」
葛飾が笑顔で手を振ってくる。終わらないで欲しかった楽しい時間もあっけなく過ぎていった。お互い違うクラスになった事に対して、先生に冗談めかして悪態をつきながら ダラダラ話しているうちに、もう分かれ道だ。
透き通ったビロードのような髪から透けて見える少し真上より落ちてきた太陽を背にした葛飾は、とても綺麗だった。
「おう、じゃあな」
手を振り返して 分かれ道を行く。口惜しいけれど しょうがない、さすがに方向が違うのでついて行く理由もない。そんな事したらただのストーカーだ。
少し足を止める。
......正直、告白すればOKが貰えそうな気もする。ただやっぱり、俺は弱虫の鶏肉野郎だから どうにも1歩踏み出せない。このままだと、あいつの時みたいに ただの友達止まりになってしまうかもしれない。
昔の二の轍を踏まないためにもさっさと勇気を出さないといけないのに。
俺には友希那以外に、もう1人幼馴染がいる。幼稚園と小学校が一緒で(中学から別の学校になったけど)今でも連絡をとったり、たまに会って遊んだりもしてる。
そして、そいつが俺の元片思いの相手
結局告白しないまま、なぁなぁの関係で終わってしまった。宙ぶらりんのまま 解決もしないままの俺の気持ちは今では干からびてしまって 好きになった動機も、その時の温度もどこか遠くに散ってしまった。
「まぁ、もう今更どうしょうもないか」
自転車のハンドルを握ったまま 枝分かれする道の根元で立ち尽くす。斜めった自分の影を見つめるように 首を曲げて俯く。首の関節は自己陶酔へのパスポート、いつも考え事をする時は 帰り道でも俯いたままだ。
結果的には自分の気持ちに嘘つきになったけれど、それでもまだこうして幼馴染の関係で居れる。
それならそれで素敵じゃないかって。
そう、思う。
俺が告白できなかったのは、断られるのが怖かったのもあるし そのせいでいつもみたいに話せなくなるのが嫌だった。俺はフラれたとしても友達で居られる自信はあった。
それならそれでしょうがないやって、告白する側は思い切れる。でも、振る側もそうとは限らない。
とか言って、何回も何回も言い訳してる
.ダサいな。
「ねぇ、無視しないでってば〜」
「え?あっごめ...!」
突然の声に驚いて頭を跳ねあげる。
心臓がペシャンコになるかと思った。
いや、俺が異常なまでのビビりだからとかじゃなく。主語は大声の方じゃ無くて発言者、すなわち俺が考え事して無視してしまっていた相手。
なんでこんなにタイムリーな人が目の前にいるんだ。
そこには俺のダサさの象徴、意気地無しのせいで告白できずにいた 今井リサ、本人が居た。
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「なに 独り言言ってんの?」
ニコニコ笑って、こっちを見てくるリサ
表情は柔らかくてとても素晴らしいとは思うんだけど この状況は嬉しくない。絶対からかわれるし、理由なんて話せる訳ない。
『お前に片思いしてたのに告白できなくて俺ってダサいなって反省してました』
こんなの言えるわけない。
「クラス替えが最悪だったんだよ」
咄嗟に誤魔化す
まぁでも、葛飾と会うまではクラス替えのせいでロウな気分になっていたのだし、嘘ではない。
「へ〜、どんなんだったの?」
「友達と一緒のクラスだって思ってたのに登校したら別々だったんだよ」
友達って無意識に暈してる。どうして?そんなの決まってる。俺はまだほんの少しだけ、ほんのちょっとだけこいつの事を諦めきれてない。
だから、リサに俺には好きな人が居るって正直に。まっすぐ言えない。
ほんと、卑怯だな
2人ともにいい顔したいだなんて。
「え、マジ?」
簡単に俺の言葉を信じてくれるリサ、嘘をついてるわけでは無いのだけれど 勝手に罪悪感と、自己嫌悪がポツポツと顔を出す。
心臓の辺りから出てきた、 できもの みたいな緊張をかき消すように「マジマジ」とかいう 適当な返事をする。
若者特有の頭の悪い返事だ、こんな馬鹿みたいな言葉ばっか使ってるから 頭が悪くなって葛飾と別のクラスになってしまうんだ。
「私も友希那と別のクラスになっちゃった」
「え、マジ?」
「マジマジ」
全く同じ中身の会話を 配役を変えてアンコール
お互いが浮かべる表情もそのままで再放送、まぁでも。
若者の会話の「内容」なんて、あって「無いよう」な物なんだけど。あぁ、いけない。ついユーモラスな人間性が溢れ出してしまった。
「あっ、そうだ」
友希那で思い出した。
「友希那。なんか用事あるみたいだったけど、お前は一緒に行かなくていいの?」
友希那とリサは何するにしても一緒、セットでどこにも行っていた。友希那はなにか急ぎの用事があるみたいだったけど リサはこんな所で油売ってて良いのだろうか。
「あ〜、友希那ってば、最近歌に夢中だから」
(歌...?)
意外な要因に、呆気を取られた。昔から歌は好きだったけれど。まさか、リサを置いてまで?
そんな疑問が、靄がかった。
「それより、帰んないの?」
慌てて話題を変えた、そんな風に思えた。
わざわざ根掘り葉掘り聞くのも趣味が悪いし
「あ〜。じゃ、帰るか」
ここは、リサのペースに乗ることにしよう
「荷物、置く?」
自転車のカゴを指さして言う。懐かしいな、この感じ。中学の頃までは学校が違ってても、一緒に帰ることも結構あった。でも、中学2年生ぐらいからそれも無くなった。
さっきの、友希那に感じた違和感は。こういう所から来るのだろう。
昔から知っているつもりでも、今の友希那の事をしっかりと知ってるわけじゃない。
「ん、ありがと」
肩にかけていたバッグを遠慮することなくカゴに載せるリサ。中学の頃も、友希那は自分で荷物もってたのにリサはいっつも荷物を人に預けて来てた気がする。
その頃はまだリサの事が好きだったから、いちいち意識してたんだっけ。
昔とは対照的に意識することも無く 自然に荷物を預かって、昔と変わらない距離感で リサと一緒に家に帰り始めた。
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「そういえばさ」
俺の横で何かを思い出したように言う
カゴの中に置かれたバッグから取り出したピンク色の可愛らしいタンブラーを開け、言いかけた言葉ごと飲む。
喉を鳴らして液体を飲むその姿が、やけに蠱惑的だった。
「なんであそこで立ってたの?」
「あー、友達と帰ってたけど 道違うから別れたんだよ」
また、友達ってぼかした。
まぁでも、それ以上でも以下でもない。
葛飾は俺が片思いしてるだけで ただの友達だ。別にわざわざ丁寧に説明する必要も無いだろう。
自分で自分に言い訳する。
何回も言うけど、ほんとダサいな。
「ふ〜ん、そっか」
納得したような、しきれてないような 微妙な反応を返すリサ、こっちを見るわけでもなく 遠くを見ながら飲み終わったタンブラーの蓋を閉める。
「今日さ」
そして、なんでもないように。
当たり前の事を言うように、リサはこっちを見ずに遠くを見たままゆっくりと口を開けた
「アタシんち、来る?」
次回予告
「こんなのしかないけど」
誘われてやってきたリサの家
「おっまたせ〜」
昔と変わらない雰囲気が、嬉しかった
「よぉ、さっきぶり」
でも、きっとそれは、軽率すぎた
「...いらっしゃい」
次回『転換、変わったモノと変わらないモノ』
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好きなのはこの中だと...
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