病まない雨はない   作:富岡生死場

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あと1人評価してくれればバーが伸びます、そして作品へのモチベが爆上がりします。誰か...助けて...

追記、みんなの評価のおかげで無事バーが伸びました。
評価してくれた人めっちゃありがとう。
感想書いてくれた人めっちゃありがとう。
もうちょっとで総評1000超えそうです。
評価待ってます。。。


28 内秘、見たくないモノ

 誰もいない放課後の教室で、1人席に座っている。

 

 少し暗くなり始めた窓の外からは部活生達の声が、掛け声から反省会、そして談笑へと切り替わっていき 今日一日の学校生活の終わりを表していた。

 

 視線を手元の携帯から黒板へ、そしてその上にかけられている丸い時計に移す。

 

 無愛想な真っ白な時計は、午後6時過ぎを伝えていた。

 

 葛飾の受けている補習が終わるのは6時10分なので。もうそろそろ駐輪場に向かい始めなければ行けないのだが、何故か腰が椅子にくっついたまま離れなかった。

 

 廊下と上靴がぶつかる事で引き起こされる無機質な音が、等間隔に耳に届いてくる。

 

 その何処から鳴っているのか いまいち掴めない音が、なんとなく胸中を不安の色に変えていった。

 

(もう、金曜が終わってしまうのか)

 

 そう考えた瞬間、無意識に机に突っ伏して塞ぎ込んでしまう。両目を両腕で覆い隠し、視覚から入ってくる情報をシャットアウトする。

 

 結局昨日も日菜と電話をして、無為に一日を過ごしてしまった。そしてきっと今夜も、そんな風に時間が過ぎるのだろう。それが、酷く恐ろしかった。

 

 また、友希那やリサと会えば。また、3人で一緒に時間を過ごせば、きっとまた俺の心は掻き乱されるのだろう。

 

(いや)

 

 俺が2人を掻き乱してしまう、のだろう。

 

 無責任にため息を零してしまいそうになる、そんな軽薄さにさらに自己嫌悪が覆いかぶさってきた。こんな思いがするのが嫌で、1人で夜を過ごすのが嫌で、日菜に頼ってしまっているのだろう。1人で逃げずに向き合うのが怖いから、葛飾に甘えてしまうのだろう。

 

 そんな何も出来ない俺が、また友希那とリサの2人と会って 何も問題が起きずに過ごす事が出来るだろうか。

 

 うまく、立ち回れるのだろうか。

 

 そんな思いに耽りながら、両腕によって隠された 真っ暗の視界の中、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇ、寝てる?」

 

 耳元から聞こえてくる高い声のこそばゆさで 目を覚ます。ドロドロに溶けて机の上に張り付いているような、そんな粘着質の微睡みの中、ゆっくりと瞼を開く。

 

 両腕の帳を少しあげて上を見ると、呆れたような顔の葛飾が居た。

 

「おはよう、中野くん」

 

 苦笑まじりに首を傾げながらそう言う葛飾の顔が、どこか遠くに行ってしまうような。そんな感覚が、寝起きの頭を刺激する。

 

 そっか、あのまま俺、寝てたのか

 

「ごめ、ねてた」

 

 回らない呂律で謝罪をする。

 言いきれていない「ごめん」の言葉がとてもマヌケで、それでいて 自分にお似合いだと思った。

 

 未だに俺は、葛飾に謝れていない。

 

『まだ、なんだと思う』

 

 だなんて 曖昧な言葉を告げただけで、まだ俺は謝れてさえ居ないのだ。そして、それは葛飾に対してだけじゃない。リサにも、まだ謝れてすらいないのだ。

 

「いいよ、待っててくれてたんだし」

 

 陽も落ちかけて、夕焼けが窓から差してくる。

 その赤橙色の光を受けて笑う葛飾は、やっぱり どこか物悲しさを感じさせた。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

 下校になっちゃうし、と振り向きながら告げる葛飾の背中を見ながら。葛飾が動く度に鼻をくすぐる花の匂いを感じながら。

 

 今日が終わらなければいいのに、

 

 なんて馬鹿のことを、本気で考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

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 2人で並んで自転車を押しながら、いつもより少し遅い時間の帰り道を歩く。俺が教室で寝てしまっていたせいで、いつもより20分ほど遅くなってしまった。

 

「でね、山元先生がさ〜」

 

 風景はいつもより暗いけれど、その分どこかいつもより明るい(というよりか、どこか必死な)様子の葛飾が、今日の補習であった話をしてくる。

 

「『これぐらい出来て当たり前ですよね』とか言ってきて、私それまだ習ってないんだよ? 酷くない?」

 

 2年から特進クラスに上がった葛飾の、特進クラスだからこその悩みやアクシデントを聞くのも 当たり前になってきてしまった。

 

 いつの間にか 葛飾と違うクラスだった事にも、こうして葛飾と一緒に毎日帰る事にも、慣れ始めてしまっている。

 

 そして リサとの関係や、日菜との電話も、生活一部になり始めていることを、客観視して漸く気づく。

 

 そして、その当たり前が当たり前じゃない事も、忘れ始めている。

 

 葛飾との距離感は本来、あの公園での出来事で壊れてしまっていてもおかしくはなかった、リサとの関係だって つい5日前の日曜日に愛想を尽かされてもおかしくはない。

 

 このギリギリの所で踏みとどまっているだけの日常に盲目的になっていい程、現状は芳しくない。

 

 でも、見て見ぬふりをしてしまう。

 

 明日が来なければいいなんて、そんなことを考えてしまう。

 

「それでさ〜」

 

 俺の相槌を聞きながら、また話し始める葛飾。

 その話してる顔や、隣で自転車を押す姿、その全てが嫋やかで、全てがどこか不自然だった。

 

 全てが人工的で、全てが作為的で、気を張っていなければ壊れてしまうような、生まれては消えていくだけの波の一つ一つに名前をつけていくような、そんな儚さがあった。

 

 きっと、葛飾は土曜日に俺がどこかに行く事に気づいているのだろう。

 

 だからきっと、こうやって取り繕うみたいに話しているのだろう。

 

 だからきっと、こうまでして俺に話題の主導権を握らせないのだろう。

 

 俺が誰かと一緒に、俺が何処かに行くことを、葛飾は気づきたくないのだろう。あの公園での出来事を偶然見てしまった葛飾は、もうきっとそんな思いをしたくないのだろう。

 

 昔の俺ならそんな事は気づかなかっただろう。

 

 でも、あの時葛飾に言われて初めて人の事を『想う』事の意味を知った気がする。

 

『俺のために服を選んでくれた』

 それだけの事にすら気づけなかった昔の自分よりは、少しは相手の事を想う事が出来るようになっただろうか。

 

 それとも、ただ葛飾がわかりやすいだけなのだろうか。

 

 でも、

 

 これだけは、なんとなくわかった。

 

「あれ、想じゃん」

 

 後ろからかけられた声、見知った声に 背中から冷たい汗が垂れていくのがハッキリとわかった。

 

 そして、

 

「......今井さん、だっけ」

 

 ゆっくりと声がする方に振り向いた葛飾の顔が、酷く歪んでいることも、わかった。




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