病まない雨はない   作:富岡生死場

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しばらく、葛飾が主人公のお話です。
今日と明日は一日に何本かづつ投稿しますので、お楽しみに。

評価くれればくれるほどモチベが上がります。あと9人でバーが伸びるので是非...!


閑話 空想、You always stay in my mind.

 高校2年生になって、初めての学校だ。

 

 高校1年の、最後の終業式に突然担任の先生から告げられた特進クラスへの移動。そんな、本来ならハッピーなはずの報せ。

 

 でも、それに反して今日の私は 少し不機嫌だった。

 

 なぜなら、

 1年の時にいた 彼が居ないのだ。

 

 1年生になってしばらく経った文化祭で 初めて喋って、そこからRINEを交換して、毎日 ずっと話をしていた。

 

 初めは大して特別でもなかった。ただ、たまたま仲良くなって、たまたま性別がお互いに違っていて、たまたま暇な時間があっただけ。特段『異性』として意識する対象では無かったし、きっと相手も意識していないだろう。そう思っていた、

 

 つい2ヶ月前の、バレンタインまでは。

 

 さすがに半年以上、毎日RINEで話しているのだし 渡さない訳にはいかないだろうと思い 友達にあげるついでに彼の分を用意していた時だ。

 

 バレンタイン前日に、友達の美海と電話をしながらお菓子を作っている時だ。美海と誰に渡すのかについて話していた時、ふと言われたのだ。

 

『え、中野くんと麗奈ってまだ付き合ってなかったの?』

 

 そう言われた時は私も特に動揺することなど無く、ただの友達だと答えていた。

 

 でも、しばらく経って。かなりの時間差で、どんどん羞恥が迫ってきた。

 

 それが、きっかけだ。

 彼の事を、考え始めたのは。

 

 そして、そんな彼が同じ教室に居ない事に、ひどい違和感を覚える。

 

 新しい担任の先生が、対して役に立たない精神論を説いているのを聞き流しながら窓の外を眺めるホームルーム。完全にアウェーな新しい教室の中、私は頬杖をつきながら空を見ていた。

 

 もしかしたら、彼も

 中野くんも、こうして居るのかもしれない

 

 なんて考えてみる。

 そんな、いつもと変わった教室の

 いつもと変わらない私だった。

 

 

 

 

 

 

 

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 一般クラスよりも少しだけ長いホームルームがようやく終わり、少しだけ話す事ができた新しいクラスメイトとの別れを済ませて足早に玄関に向かう。

 

 部活は1年の時に辞めてしまったので、学校の授業が終わったらあとはもう帰るだけだ。

 

 廊下には、少しだけ早くホームルームを終えた生徒たちで溢れており荷物を背負った背中が何度も誰かの荷物に当たる。

 

(もう、邪魔だな)

 

 口には出さずに脳内だけで呟く。

 

 いつもより斜めった機嫌は、私の考えをいつもよりも尖ったものにしてしまっていた。いつも傍にあったものが突然なくなる。それがこんなにも心をモヤモヤとさせるのかと、今更ながらに気付かされる。

 

 いつのまに、彼はそんなに私の中で大きくなってしまっていたのか。

 

 いつだったか、彼に私に好きな人が居ると伝えた事があった。もちろん、嘘なのだけれど。

 

 その時の私は、彼を異性だと意識してはいなかったし。変に好意を寄せられるのも面倒だったので、そう伝えてしまっていた。予防線のようなそんな軽率な言葉を吐いた自分が、本当に疎ましい。

 

 バレンタインの日の事を思い出す。

 

 友達にチョコを渡すのも違うと考えた私は、美海と電話をしながらほぼ徹夜でブラウニーを作っていた。作ること自体はそんなに時間はかからなかったのだが、如何せんそこそこの数のお菓子をラッピングするのが、かなりの集中を要していた。

 

 電話をしながら、深夜で疲れていた、美海の発言に動揺していた、そんな 色んな要因のせいでほぼ切れかかっていた集中力で作ったお菓子を 彼にあげた時のことだ。

 

『え、めっちゃ嬉しい。ありがとう』

 

 頬を緩めて、いつもの軽い調子の言葉遣いで出された感謝の言葉に 私の頬も緩んでいた事を、よく覚えている。

 

 そして、その時。私は初めて自覚したのだ。

 きっと 私は彼が好きなんだ、と。

 

 でも、私は一歩 踏み出せなかった。

 

 バレンタインなのだし、その場でもう告ってしまえば良かったと 今でも後悔をしている。

 

 あの時自分の吐いた予防線のような嘘と、私の中にある『フラれるのが怖い』という両方の気持ちが邪魔をした。

 

 ......いや、違うかな。

 きっと理由は後者だけだ、前者はただの言い訳。

 

 単に私は、フラれるのが怖かっただけだ。

 

 中野くんとの今みたいな関係が無くなるのが、怖かっただけだ。

 

 そんな弱い自分の心に気づいた私は、どうしたらいいかわからなくなって 彼に何も伝えること無くそのまま家に帰ってしまった。それから私は、バレンタインの夜に私は、美海に電話していた。

 

 そして、思いっきり泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

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 自転車を漕ぐ。2ヶ月前の内省を終えた私は、そのまま友人に会うこともなく すんなりと駐輪場へと辿り着き、1人で家路についていった。

 

 春休みを終え、久しぶりに自転車から見る帰り道の光景に懐かしいさを覚えていた、その時だった。

 

 私の視線の先に、見知った背中が見えた。

 自転車を押しながら歩いている、彼の背中があった。そして、その横には。見覚えの無い女性の背中があった。

 

 後ろから見ただけでわかるような、美人だ。

 

 中野くんの方を見ている横顔が、人形みたいに綺麗だった。その人形みたいな顔を覗き込む中野くんの横顔は、楽しそうな表情だった。

 

 その顔に気づいた時には、もうダメだった。

 

 もう一度強くハンドルを握り、思いっきりペダルを踏み込む。ピンと張った腕に乗る私の体重を、全て伝えるように足を動かす。地面に食いついたタイヤの摩擦で動き出す自転車の動きに苛立ってしまう。

 

 早くあそこに行かないと行けない。

 

 そんな気持ちに焦らされながら、必死にペダルを漕ぐ。そして、抑えきれないような苛立ちと胸に渦巻いている嫉妬に焦がされながら。やっとの思いで彼の近くに辿り着く。

 

「あのさ..」

 

 彼が、隣にいる女の子に話しかけようとする。

 

「中野くん」

 

 その声に被せるように、喉を震わせた。

 横目でちらりと、人形みたいな女の子の方を見る。

 

「...想の友達?」

 

 彼を下の名前で呼んでいる。それだけで、この人の事が少し嫌いになってしまった。それぐらい、今日の私は機嫌が良くないみたいだ。いや、もしかしたら普段でも嫌いになってたかもしれない。

 

 それぐらい、目の前の女の子は綺麗だった。

 

「うん、元おんなじクラスの友達」

 

 友達、か。

 

「今は変わっちゃったけどね〜」

 

 笑って、表情に出そうになる感情を押しとどめた。

 もう一度、女の子の顔を横目で見る。

 興味を無くしたような表情が、余裕のあるその涼しそうな顔が、私の心を引っ掻く。

 

「そ。じゃ、私 急いでるから」

 

 そう言って私と中野くんから離れていく女の子。

 最後まで、表情らしい表情は見えなかったけど、とりあえず。

 

「中野くん、あんな可愛いお友達いたんだ。知らなかった」

 

 私よりも、親しい異性が彼に居たことが。

 そしてその異性が、綺麗だった事が、歯がゆい。

 

 でも、

 

 わざと困らせるような、揶揄うような言葉を選んで言った私の棘に戸惑っている彼の表情を見て 少しだけ安心する。

 

「大丈夫? 私邪魔しちゃった?」

 

 せっかく会えたのに、嫌な気持ちでスタートしてしまった彼との会話。でも、戸惑っている彼の表情を見れたおかげで 少しだけ、気分が楽に 落ち着いて来た。

 

「いやいや、全然大丈夫」

 

 その言葉で、さらにもう一度安心する。

 

(全然大丈夫、だってさ)

 

 今はもうこの場に居ない。

 さっきの女の子に向かって、私はそう呟いた。




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