めっちゃ嬉しい!!真っ赤!!!
入れてくれた人本当にありがとう!!!
まだまだ評価待ってます!!!
静かな、夜の住宅街に1人分の靴音が聞こえる。履いている自分の少し踵の上がった靴とコンクリートがぶつかり合って鳴る音が、他に何の音も聞こえない閑静な夜の闇に溶けだしていく。
そのどこまでも響いていくような、遠く響いていく自分の足元から発せられた音を聴きながら、今日の事を思い出す。
入れたかった中野くんとの予定は入らず、
美海に泣きながら電話をかけて その結果決まった今日の予定であるカラオケで、
たまたま、中野くんに会った。
ドリンクバーの前で立ったまま、腰を落としてゆっくり話すなんてことは出来ないまま、カラオケのフロントで話した事を、思い出す。
「すごい、偶然だね」
嫌味を言うつもりなんて、本当に一欠片も無かった。純粋にそう思っただけの言葉。でも、私のその言葉を聞いた中野くんの顔は バツが悪そうで。なんというか、とりあえず影があるような そんな顔だった。
「今日、友達がライブハウスで歌ってたんだよ。それで聴いてたら歌いたくなったから」
別になにも言っていないのに、言い訳みたいに中野くんが話し始める。『まだ、予定わかんない』って言って教えてくれなかった、謎に包まれていた彼の今日の予定は意外なところですんなりと知る事が出来てしまった。
「あ〜、確かに。歌いたくなるよね」
ライブハウスなんて行ったことないけれど、想像だけでそう返す。あんなに会いたかった筈なのに、どこか突き放したような、そんな言葉が出てしまう。
また、彼の顔が決まりの悪そうに歪んでしまう。
あの時、なぜ私はあんなにもつっけんどんな態度を取ったのだろうか。
私との優先よりもその『友達』の方が優先度が高かったから? 彼のために選んでいた服に触れてくれなかったから?
それとも、
彼が、嘘をついているように思えたから?
そこまで考えて、立ち止まる。
夜の帰り道。学校から家に帰るのであれば普段は通らない、住宅が並んでいる少し狭い道の途中で、立ち尽くすように留まっている。
金縛りにでもあったように、夜のコンクリートに絡め取られたみたいにその場から動けなくなってしまう。この場から1歩も踏み出せない、そんな漠然とした不安がどんどんと体を浸していく。
怖い、寂しい、何故か分からないけれど、そんな感情がとめどなく溢れていく。
そんな不思議な感覚の中、その音は聞こえてきた。
『優しい嘘を吐いてくれよ、現実は残酷だもの』
透き通った女性の声が、不安でいっぱいの私の体を揺らす。芯の通った力強さを持つその声が、私の足にまとわりついていたコンクリートの蔦を溶かしてゆく。
自由に動けるようになった足が、自然と声の聞こえるー方に吸い寄せられていく。この場所からすぐ側で、誰かが歌っている。
『酔いどれ踊れ、全てを忘れるまで強がり笑うだけ』
今の私に染み込んでいくような歌詞が、私の事を手招いているように思えた。街灯に群がっていく虫のように、私はその光のような美しい声に誘われて、暗くていまいち自分がどこに居るのかすら分からないような道を進んでいく。
そして、小さい公園にたどり着いた。
街灯と自動販売機の灯りだけが照らす公園から、その声は聞こえていた。その声の主を探すように、なるべく邪魔をしないように音を消して、公園へと入る。その声の主は、自動販売機の明かりで照らされた、薄暗いベンチに座っていた。そして、
そこに居たのは、先週の金曜日に見た。人形のような女の子だった。
『"Why don't you come back to me? "』
人形のような女の子から発せられる消え入りそうなまでに繊細な声に、もうひとつの声が重なる。
公園のベンチの奥に、目を這わせる。もうひとつの声の主を探すように向けられたその視線に、私は遅れて後悔する。
彼女の近くにいる男の人なんて、決まっているじゃないか。
『避けようの無い痛みを、二人分け合えるよ』
ベンチの左側に座る銀髪の少女と、中野くんが隣でお互いに肩を預けあって座っている。
私は、今日。立ち話しかできていないのに。
『"Cause I knoy you're lonely like me"』
嘘ばっかり。
私に向けられている訳では無いのだろうけれど、その英語の歌詞に悪態をついてしまう
『こびりついた悲しみを、拭いされるの?』
重なり合ったふたつの歌声が、まるでこの世界に2人しかいないみたいに、夜の街にその音だけが君臨していた。
歌い終えた少女が、中野くんの方を向いた。
もう、帰ってしまいたかった。
これ以上、2人のやり取りを見ていられなかった。でも、また不安の影が私の足を掴んで離さなかった。
「私、はじめてだったの」
私が動けずにいる間に、銀髪の少女が騙り始める。
「はじめて?」
オウム返しに、中野くんが聞き返す。
夜の公園、ロマンチックな2人だけの世界に、異物が混ざりこんでしまっていた。
「誰かのために歌を歌ったのは、今日が初めて」
そして、銀髪の少女が言った。
その言葉で、全てが繋がったような気がした。
耳に入ってくる情報が、私以外の存在が、どんどんと遠くなっていく。
彼の見に行っていたライブは、きっとこの女の子が出ていたのだ。それを、見に行っていたのだ。私との予定は、『まだ分からない』、決まるかどうか分からないこの人の予定に負けたのだ。
その事実に、卒倒してしまいそうになる。
「もう一度言うわ」
突然、聴覚が戻ってきた。
凛としたその声が、私の意識を引き戻した。
でも、
「愛してる」
聞かなきゃ良かった。
心の底から、そう思った。
「俺は」
中野くんの声が、聞こえる。
あぁ、きっと。返事をしてしまうんだろうな。
この人形のような彼女に、取られてしまう。
そう、思っていた
「葛飾が好きだ」
「だから、ごめん」
銀髪の少女と中野くんの、2人だけの世界に突如として私に名前が現れた。
予想だにしなかった言葉に、驚きを隠しきれなかった。
「友希那とは、付き合えない」
震えた声で、そう言う彼の姿に目を奪われる。『友希那』、そう呼ばれた彼女が、俯いたまま何も言えずにいた。
長すぎる沈黙が、辺りを包んでいた。
まだ、私の足は動こうとしなかった。
「わかった」
フラれた後とは思えないほどに澄んだ声が、沈黙を破る。なにか決意を固めたような、そんな雰囲気を友希那さんは纏っていた。
「なら、こうするわ」
そう言って、友希那さんが体をベンチから浮かせた。
淀みのない、その動作が。目の前で起きている光景を一瞬だけ眩ませる。
少し後ろに反った中野くんの背中を抱きとめるように伸ばされた友希那さんの手が彼を捉える。
私の足に絡まっている不安の影と同じように、中野くんの体には友希那さんがまとわりついていた。
目の前のその光景が、理解できなかった。
理解、したくなかった。
ゆっくりと、中野くんと友希那さんの顔が距離を取っていく。彼の頬に伸ばされた右手が、肩に添えられた左手が、その姿を見ているだけで、意識が持っていかれそうな程に狼狽していた。
そして、もう一度友希那さんの顔が近づき始める。
その時だった、私の足が。
不安の影から開放されたのは。
ふらつくような足取りが、靴と地面を擦り合わせて音を鳴らす。
その音に弾かれたように、2人の視線がこちらに向く。
「葛飾.....」
彼が、私の苗字を呼ぶ。
いつになっても近づけない。
私と彼との距離感をその呼び名が表していた。
そして、
「......ごめん」
そう、つぶやく。
何に対しての『ごめん』なのかは、自分でも判別が付いていない。盗み聞きしたことになのか、苗字で呼ぶ彼に苛立ってしまったことになのか、それとも、彼が私の事を好きだと言ってくれた、気持ちに対してなのか。
......いや、きっと。全部だ。
「私さ、もしかしたら」
嫌に落ち着いた胸が、つらつらと私の気持ちを勝手に吐き出し始める。言えずにいた気持ちが、どんどんと溢れ出して行く。
「もしかしたら、中野くんに会うかもって思って。服、選んだんだ」
抑えきれなかった。
どうしても、聞いて欲しかった。
スカートをぎゅっと掴んで、何故か溢れてくる涙を堪えながら言う。
「中野くんがいないとこでも、中野くんの事、考えちゃってたんだ、私」
今日で、もう最後にしよう。
もう、聞きたくなかった。彼の事で、こんなにも辛い思いをするのなら ホントの事なんて知りたくなかった。
彼が今日、私と居ない間に行っていた事に気づかないままでいられたら、どんなに楽だっただろうか。
どんなに、幸せだっただろうか。
「でも、ごめんね」
彼が私の事を好きだと言ってくれた。
それだけ聞いて、帰れば良かった。
後悔が、今更体を焦らしていた。
「ちょっと、考えさせて」
もう、忘れてしまおう。
この辛い気持ちも、知ってしまった事実も。
消そうにも消せない彼への気持ちだけ握りしめて、無かったことにしよう。
そう思いながら、そう 決意をしながら。
私は精一杯、笑った。
好きなのはこの中だと...
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