「こんなのしかないけど」
リサがシュークリームを渡してくれる。
結局誘われるままにリサの家に上がり込んでしまった。
家の中は閑散としている。どうやらリサの家族は外出しているらしく、リサの家には俺とリサの2人きり。
昔は友希那と3人でお互いの家によく遊びに行っていたのだが、最近はそういうことも無くなってしまっていた。少しだけ、緊張する。
「うわ、めっちゃありがと」
出されたシュークリームをありがたく受け取る。
多分、客観視した俺はリサの部屋であぐらをかいていて。リラックスしているふうに見えるんだろうけれど、実際は全然リラックスなんてできていない。
心臓は絶えず、バクバクと全身に勢いよく血液を送っている。少し手の先が痺れるぐらいの緊張だ。
でも、リサに変に思われるのも嫌なので、あくまでも意識はしていない素振りで過ごす。
「良かった。...あ、ちょっと着替えてくるから」
そう言ってリサがもう一度立ち上がる。
リサの部屋に入ってからすぐ「食べるもの無いか探す」とか言って居なくなってたのに。またどこかに行ってしまった。
(落ち着きないな)
もしかしたら、こいつもこいつで。俺みたいに緊張してるのかも。アイツも、昔みたいに誘ってみたはいいものの、いざとなったら緊張してビビってるのかも。
そう思ったら、少し気が楽になった
冷静になって振り返ってみると。新学期初めの日から、色んなことがあった。葛飾とはクラスが別だし、途中に友希那、葛飾、リサ。3人も、たまたま出くわして。その上リサの家に来てるなんて。
色々、起きすぎだろ。
まさか、俺の星座占いもしかしてすごい良かったりするのだろうか。確認のために携帯を取り出す。順位は12番中8番目、全然。大したこと無かったわ。
(というか、今気づいたけどもうすぐ雨降るのか)
今の時刻はだいやい4時前。この天気予報では3時頃にはもう雨が降ってる事になる。
(でもまぁ、帰る時全然雲なかったし大丈夫だろ)
安直に大丈夫だろうと、高を括る。ほんとに、それしかしてこない人生だったな まぁ、大丈夫だろうって。このままでも問題ないだろう。だなんて誤魔化してばっかだ。
そういう、生き方しか出来ない。
「おっまたせ〜」
リサがドアを開け 勢いよく入ってくる。
息を、呑んだ。
リサの私服なんて腐るほど(語弊があるけど、貶してるわけじゃない)見てきたけど、それを差し引いても 新鮮だった。
少し露出が多い、この部屋着姿のリサは 幼馴染として長年共にしてきたけれど 高校生になって少し大人びた(女性的になった)リサがこの気の抜けた服に袖を通すと、それだけで彼女の魅力は、段違いだった。
取り乱しかけた思考を引っ掴んでこっちに寄越す。あくまで平静、コイツの普段着ぐらいなんべんも見てきたはずだ。
「てゆ〜か、今日どうする?」
リサが口元に1本だけ立てた右の人差し指を当てながら、問いかけてくる。いっつも思うんだけど、
「主語をくれ」
主語、ないとダメでしょ。
「あ〜 ゴメンゴメン」
口に当てていた右手をパッと離して ぷらぷらと振る。可愛かったから人差し指当てたままで良かったのに。
「いやさ、雨 降り始めちゃったからさ」
「え、まじ?」
「マジマジ」
帰り道にも何回もやったような、「マジ」の投げ合い。でも今回のは字面では同じだが、事態の重大さが違う。他愛ない世間話では済まない。
俺とリサは幼馴染だし、よくお互いの家に遊びに行ってたけど 決して家が近い訳では無い。なんなら歩きでなら遠い部類に入る。葛飾との分かれ道でたまたま会った場所からリサの家までは歩いて5分ほどだったけれど。そこから歩きだとまだ20分程はかかる。
傘さしながらだから、歩きか。自転車押していくのしんどいんだけどなぁ、1日だけこの家に置かせて貰おうかな。
「ごめん 傘、貸してくんない?」
リサにお願いする。今日の天気について特に注意を払ってなかったため 気の利いた折りたたみ傘なんて持って来ていない。だからこの家にある傘を貸してもらうしかないのだが。
「......ん〜」
え、何その反応。
まさか貸してくれないとか? それとも可愛い柄の女の子らしい傘しか無い、とか? 別に柄とかは気にしないから、なんでもいいんだけどな。
そんな呑気な事を考えていたら、今日2番目に衝撃的な言葉が またもやリサの喉から震え出た。
「明日休みだし、泊まってけば?」
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「うん、わかった〜」
リサが 携帯電話のマイクに向かって言う。俺が泊まることになるので、リサが代わりに両親に確認を取ってくれている。
俺の方は、もう親に連絡し終わった。二つ返事で了承してくれた。この辺りからもやっぱ、俺の親もリサのこと信頼してるんだなって実感する。
「あ、おっけーだって〜」
電話を終えてリサが俺に言う。嬉しそうな表情でこっちを見る光景は 俺の頬を弛ませるには充分すぎた。俺が泊まることを喜んでくれる 元片思いをしていた身にとっては嬉しくない筈がない。
ふと、昔のことを思い出した。
リサの家に遊びに行った時は 2階のベランダから友希那の家に渡っていた気がする。今考えたら結構危ない事をしていたと思う。1歩間違えば転落事故だ。
でも、久々に やりたいって思った。
「リサ、今から友希那んち行かないか?」
親指を立てた右手をカーテンに向けて、言う。今の俺の顔は きっとイタズラを思いついた時みたいな そういう嫌な表情なんだろうな。自覚できるぐらい 頬の筋肉が上がっているような感覚がする。
リサも乗り気みたいだ、俺と同じみたいに イタズラをする時の顔になっている。服装や背はあの頃から変わったけど そういう所は変わってないんだなって、少し 安心する。
「イイよ、いつもの。あそこからだよね」
リサが立ち上がって 窓の方に向かう。俺はそれを見ながら友希那に窓を開けるようにRINE(メッセージのSNS)でお願いする。
いくらベランダに着いたとしても、窓が開かなかったら意味が無いからな。すぐに既読がついた、ちょうど暇だったんだろう。
もう リサが準備を済ませてこっちを見ていた。多分友希那も俺たちが何したいか察しがついたはずだし、もうベランダに行っても大丈夫だろう。
「行くか」
屋根が付いているとはいえ、ひた濡れたベランダの少し滑る感触は 体温だけでなく俺の肝も冷やしていた。
だけど、すごく 楽しかった。
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「......いらっしゃい」
少し、嫌そうな表情で友希那が迎えてくれる。ベランダからそのまま友希那の部屋に入ろうとしたら足が濡れてるからタオル持ってくるまで一旦待ってって言われて、リサと2人で冷たいベランダに待機していたせいで 部屋に入れて安心する。
「よぉ、さっきぶり」
帰り道に会ってから 約3時間ぶり。リサの家に着いてから2時間ぐらいダラダラしてたから、多分それぐらいだと思う。前にあった時より 少し表情や雰囲気は柔らかい物だった、自分の家ってのもあるだろうけど やっぱりリサが要るからってのもあると思う。
「......そうね」
少しむくれた顔で 友希那が言う
「あなたが 仲良い女の子と帰り始めた時 以来ね」
仕返し、とでも言うようにイタズラっぽい表情で友希那が言い放つ やべ、そんな話題出されたら。
「え、なになに?」
ほら、リサが興味持っちゃった。
次回予告
「ふ〜ん、そうだったんだ」
懐かしい友希那の部屋
「なんかあったら相談乗ってくれよ」
きっと、俺はこの日を後悔する
「あのさ...」
シュークリームに入っていたバニラの味
あの味を俺はきっと忘れる事は無いだろう。
次回『動悸、バニラ味の交差』
https://twitter.com/Tomiokasei4jyo?s=09
好きなのはこの中だと...
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