薄暗い室内をスポットライトが駆け回る
リズムに合わせて手を高く揚げている観客達の中に、俺と友希那とリサの3人は紛れていた。
イベントが始まってから1時間ほど経って、現在は三組目のバンド...『Reeves Rose』の演奏の時間だ。
『Reeves Rose』はギターの氷川紗夜、ドラムの江戸川美雪、そして最後にベースボーカルの神田咲のスリーマンセルだ。茶髪のロングのボーカルが、ステージの上でMCをしているのを、会場の少し後ろの方で遠巻きに眺めていた。
ここまでに2曲...『会心の一撃』と『サイハテアイニ』の2つを演奏しているのだが、その2曲を聞いて感じた感想は。なんというか、言葉を選べば高校生らしい元気な 言葉を選ばなければどこか勢い任せな歌に聞こえた。
特に音楽に対して知識がある訳でも無いのだけれど、以前に友希那の歌を聞いてしまっていたから。少しだけ 『Reeves Rose』の演奏のハードルが上がってしまっていたのかもしれない。
全体を通しての感想はイマイチなのだが、理由は何となく自分でもわかっている。
氷川紗夜のギターが、精巧過ぎるのだ。
『会心の一撃』と『サイハテアイニ』は、『RAD WIMPS』という俺でも知ってるぐらいの有名なロックバンドの楽曲で、何度もCDの音源を聞いた事があるのだが。
その時に聞いたギターの音作りとそのままのような、まるでプロの演奏なのではないかと感じてしまう程の迫力があった。
音楽に関する知識は皆無なのだけれど、「すごい」か「すごくない」かの違いぐらいはなんとなく分かる気がした。間違いなく、氷川紗夜は「すごい」奴だ。それも、友希那が認めるほどの。
そして、その「すごい」奴と神田咲、江戸川美雪の実力差が きっとイマイチな理由なのだろう。ギターの完成度が高すぎて、結果的に浮いてしまってるような、そんな気がするのだ。
「ベースボーカルかぁ..」
リサが俺の横で、そう零す。
考え事をするような目でステージでMCをする神田を眺めていたい。その横顔が、やけに静かだった。
「ベースボーカルが、どうかしたのか?」
独り言のつもりだったのだろうか、俺の声に少し驚きながらリサがこちらを見てくる。
薄暗い中で見るリサは、やはりいつもよりも大人びて見えた。
「ごめんっ、聞こえてた...?」
照れ笑いしながら、目の前で両手を合わせて謝るような仕草を見せる。さっきまでリサの横顔にあった静かさとは正反対の、明るい表情が俺の真正面にあった。
「えーっと、私 ベースやってた時があるんだけど」
顔の前で合わせていた手を投げ出して、肩の力を抜くようにブラつかせる。気を抜いたようなその仕草が この熱気にまみれたライブハウスの景色の中で浮いていた。
「普通は、友希那みたいにボーカルだけとか ギターとボーカルなんだけど『Reeves Rose』はベースとボーカルなんだよね」
自分の名前が聞こえて、こちらを振り返る友希那と目が合う。確かに、友希那はあの時なんの楽器も持っていなかったな。
「ギターだとコード弾きながらだから割と音程って合わせやすいんだ。でも、ベースボーカルだとそうもいかなくて..」
音楽の話をつらつらと語り出すリサ。若者らしい(ギャルっぽいともいう)外見からは想像できないような言葉がリサの喉から発せられる。というか、リサってベースやってたんだな。
「ベースって、ギターと見た目は似てるけどやってる事って意外と違うんだよね。コードとコードの間を繋いだり、ドラムと合わせて演奏の厚みを増したりとか」
少し俯きながら、どこか嬉しそうにベースの事を教えてくれるリサ。そしてその説明を少しだけ頷きながら聞いている友希那。
「で、あのバンドのベースはコード弾きじゃなくて、リズムを作ってるんだけど。それって結構難しいんだ」
音楽の知識は全くないけれど、リサの説明でなんとなくわかった気がする。ベースボーカルって、難しいんだな。
目線の先でMCをしている茶髪の少女に目を向ける。汗で照らついた肌が照明を受けて光っている。その後ろでドラムの調子を確かめているのか、控えめに音を出しながら確認をしている黒髪のショートの女の子。そして、落ち着いて次の曲を待っている水色の髪の少女。
どことなく噛み合っていないような、どこかよそよそしいような そんな雰囲気のあるこの『Reeves Rose』というバンド。
なぜ、氷川紗夜はこのバンドに拘るのだろうか。
日菜が言うように、妹に負けないような自分だけのモノを ギターの演奏技術で手に入れようとしているのなら、友希那と一緒にバンドを組めば良さそうに思えるのだが。何故か彼女は友希那と組むことを渋っている。
一体、何故なのだろう。
「リサは、ベースボーカルやってみようって思ったりしないのか?」
ふと、気になった事を聞いてみる。
「ん〜、私はあんま思わないかな」
だってムズかしいし、と付け加えながら笑うリサ。
その笑顔は単純に俺の質問がおかしかったから。とかいう理由じゃない、もっと根の張った感情から来ている笑みだと、直観的に感じた。
「相当努力しないと、ベースラインを作りながら歌うって出来ないよ」
そのリサの言葉で、あのバンドに流れている空気の謎がわかった気がした。なぜ、氷川紗夜が友希那の誘いを受けないのかが なんとなくわかった気がした。
友希那の方へ視線を動かす。
ステージの上を眺めているその表情は、あのライブの時に見た人形のような表情と違って、少し高揚しているような、そんな横顔に見えた。
「次の曲で最後です!」
ステージの上のベースボーカル...茶髪の神田咲がマイクを通した大きい声で言う。
リサが教えてくれた補足情報のおかげで、このバンド...『Reeves Rose』の演奏を聞くのが割増で楽しみになった。
そして、
(もっとこのバンドの事を 知りたい)
そんな事を、ステージの上の神田咲を見ながら考えていた。茶髪のボーカルが、マイクスタンドにマイクを取り付けながら、ゆっくりと口を開ける。
「曲名は...『ヒューマノイド』」
神田 咲のその声からは、
あの時友希那に感じた静かな熱を感じた。
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜