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『Reeves Rose』の演奏が終わって、今はステージの上で次のバンドが機材のセッティングをしている。その様子を、ぼーっと眺めていた。
なんというか、彼女たちの最後の演奏を聴いてからあまり思考が纏まっていない。
きっと彼女たちにとって、というか。ボーカルの神田咲にとって、あの歌はどこか特別だったのでは無いだろうか。
あの『ヒューマノイド』という曲に込められた想いが、あるような気がした。
「友希那」
友希那に声をかける。左から俺、リサ、友希那の順番で立っていたので少し声をかけづらかったのだが、どうやらこの人混みの中でも聞こえたようで きょとんとした顔でこちらを見てくる。
「氷川紗夜の演奏、どうだった?」
音楽の知識なんて全くないし、ましてや氷川紗夜の事も大してわかっていない。でも、何故かさっきの氷川紗夜の事を友希那がどう感じたのかが 気になった。
俺の問いかけに1度視線を天井に向けながら考えるような仕草を見せる友希那。その様子を、友希那の方を見るリサの白いシャツで覆われた肩越しに眺めていた。
「1曲目と2曲目は、今までも聴いていた紗夜のギターだったわ」
目を瞑って、友希那が言う
関節が上を向くことで、友希那の白く細い首がはっきり見えた。その瀟洒な喉が、続きの言葉を吐く
「でも、最後の曲」
ゆっくりと目を開けながら言う。
その様子を、俺とリサは見守っていた。
「感情的に、でも自分で自分を制しているような、そんなギターだったわ」
友希那の言葉で、先程感じた確信を裏付けた。俺の考察もあながち間違いじゃないのかもしれない。
氷川紗夜と直接話したことがある訳でも、よく知っているわけでも無い。でも、こう思ってしまったのだ。
きっと、俺と氷川紗夜は似ている。
昨日の日菜の言葉を借りるなら『全然似てないけど似てる』と、そう強く感じた。
自分の軽率な行いで自分を雁字搦めにしてしまう事が起こりうることは、この1ヶ月の間に嫌という程理解した。リサと肌を重ねたあの軽率な夜から、変化させることに臆病になった自分と氷川紗夜の行動が、どこか似ていると感じたのはきっと気の所為じゃないはずだ。
日菜は、姉に拒絶されたと言った。
でも、その事を気に病んでいるのは日菜だけじゃないはずだ。きっと氷川紗夜も、同じぐらいに後悔をしているはずだ。
今までは自分の始めた事を追いかけるように始めていた妹が急に遠慮をするようになった事を、彼女はどう感じているのだろうか。
多分、後悔しているんだろうと思う。
自分の軽率な、妹への拒絶が引き起こした妹の変化を、氷川紗夜は後悔しているのだろう。
だから、変われないのだ。
軽率さを恐れて、自分の行動で周りを変化させてしまうことが怖くて、今のバンドを抜ける事が出来ないでいるのだ。だから、あの『Reeves Rose』というバンドに拘り続けているのだろう。
今のバンドを抜けて友希那と新しくバンドを組む将来を想像すると、自分が変えてしまった妹がチラつくのだろう。
その拘泥している様子が、俺と似ていた。性別も、性格も、きっと真反対でどこも似てないのだろうけれど。
それでも『俺と氷川紗夜は似てる』と、そう思ってしまった。
これからしばらくしたら俺たちと『Reeves Rose』は合流して一緒にライブを見ることになっている。その時、氷川紗夜になんて言うべきなのだろうか。
俺は今、俺一人の体じゃない。日菜の想いも全部引き連れて、今この場所に立っている。姉への感情を抑えてギターを始めることすら出来なかった、日菜の気持ちも背負ってこの場所に来たのだ。
そんな俺は、一体何をするのが正解なんだろう。答えはまだ分からないけれど、でも。精一杯足掻いてみよう。そう、強く思った。
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「あ、いたいた!」
4組目のバンドの演奏を聞いていると、後ろから声が聞こえてきた。演奏中のライブハウスの喧騒の中でもなお、その声はよく通っていた。声に気づいて振り返る俺とリサ、友希那はまだステージの上を見ていた。
「えーっと、神田咲です。さっきぶり...って事で大丈夫かなっ」
愛想の良い笑顔を浮かべながら、相手との距離感を探るような微妙な喋り方で挨拶をしてくる。そんな下から目線な視線を受けたリサが、
「うん! さっきぶり! めっちゃ良かったよ!」
神田咲の愛想笑いの5割増な笑顔でそう答える。流石というか、なんというか、鉄面皮とも言えるその貼り付けた笑顔は一瞬で相手との距離を縮めていた。
さっきまでステージに立っていた茶髪のベーシスト、神田咲と黒髪のドラマーの江戸川美雪の2人が 揃ってリサと話し始める、そしてその後ろで退屈そうに立っているのはギターの氷川紗夜。
その3人の中で氷川紗夜は ステージでも感じていた、少し浮いた雰囲気のままでそこに立っていた。
「......なんですか」
不躾な俺の視線に痺れを切らしたのか、氷川紗夜が警戒まじりの厳しい目でこちらを制してくる。まだ、会うのは2回目な筈なんだけど、こんなに嫌われていたとは思ってもみなかった。
「...いや、なんでもない」
良好な関係を築けているリサと神田達とは違った険悪な空気が、俺と氷川紗夜の間に流れる。
そんな曇天のようなうだつの上がらない空気を断ち切るように、ステージを見ていた友希那がこちらを振り向く。
「今日こそ答えを、聞かせて頂戴」
前フリなど無しで友希那が切り出す。もしかしたら、いまリサと神田咲、江戸川美雪の3人が距離を縮めて話しているのは 友希那とリサの作戦だったのかもしれない。
リサが2人を引き付けている間に友希那が氷川紗夜と1対1になる状況を作る、そんな作戦を2人は考えていたのかもしれない。
考えすぎだとは思ったけれど。もし、本当にそういう手筈だったとするなら それ程までに怖いものは無い。
もしそうだとするなら、なんてこの2人は狡猾で。恐ろしいのだろうか。
「......その前に、私も聞きたいことがあります」
友希那の刃物のように鋭い言葉を躱しながら氷川紗夜が訊く。その氷川紗夜の表情はどこか、濡れそぼった花のような 憂いがあった。
パフォーマンスを終え 汗で濡れた肩を右手で抑えながら 自身の体を抱きしめるような姿勢で、俯きながら次の言葉を発するための空気を肺に取り込んでいる。
その大袈裟な呼吸が、鉛のように重かった。
「......いいわ、続けて」
腕を組みながら真っ直ぐ氷川紗夜の方を見る友希那、その言葉を受けて少し肩を震わせる氷川紗夜。
その様子を眺めているだけで、心臓の鼓動がどんどんと鈍く重たくなっていく。嫌な予感...というか、嫌な確信が身体を浸していく。
俺と友希那、そして氷川紗夜の3人の間に流れている空気は、この熱気溢れるライブハウスの片隅とは思えないほど殺伐としていた。
そして、
「なぜ、日菜にギターを始めさせたのですか」
ゆっくりと、日菜の姉が。
氷川紗夜がそう言った。
https://twitter.com/2Jrp71n98IkWeNw?s=09
カフェ兼ライブハウスの『Pelargonium』は「ゼラニウム」という花がモチーフです。
ちなみにゼラニウムの花言葉は「予期せぬ出会い」です
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜