病まない雨はない   作:富岡生死場

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また、つなぎの回感が否めない。


38 以心、地続きの今

 デカい鉄の扉をくぐって、半地下の階段を上がって外に出る。さっきまで小洒落た照明で申し訳程度に照らされた暗い室内にいた分、太陽の光が目に痛い。

 

 刺すような紫外線が網膜の裏を圧迫していくような、そんな痛みを堪えるように瞼をぎゅっと絞る。

 

 それでもなお入ってくる陽光が焦れったくて視線を下に移す。その先に見える手に押されたライブハウスの途中退場のスタンプが汗で少し濡れて光っていた。

 

「......どこだよ」

 

 友希那の言った通り、行ってどうするつもりだったのだろうか。氷川紗夜が飛び出して目指す場所なんて、全く検討がつかない。

 

 でも、

 

 あの場に居てもどうしようもなかったのも事実だ。あの場で留まっていたとして、氷川紗夜と友希那、日菜との関係性が好転する可能性なんて微塵も無かった。

 

 だからきっと、間違いじゃなかったはずだ。でも、正解だったとも言いきれない。現にこうして俺はどこに行けばいいか解らずに迷ってしまっている。俺には、氷川紗夜の行動なんて検討もつかなかった。

 

 だから、

 

「......もしもし」

 

 携帯を操作して電話をかける。待機画面からすぐに通話画面に切り替わった携帯の液晶が、太陽の明るさのせいで見づらかった。

 

「どうしたの? そっちまだライブじゃなかったっけ」

 

 イヤホンではなく、携帯の通話用のスピーカーから聞こえてくるのは日菜の声だ。俺には氷川紗夜の行動なんて検討もつかないけれど、日菜になら解るかもしれない。

 

「急に悪いんだけど、日菜。お前 1人になりたい時ってどこに行く?」

 

 その俺の質問で一体 今なにが起こっているかの想像が、日菜の出来のよすぎる脳内ではできたらしい。さっきまでの明るい声じゃなく、落ち着いた声で日菜が言う。

 

「......普段ならトイレとかお風呂だけど..」

 

 あいにく、その両方とも俺がどうこうできる場所では無い。やはり1人になりたい時に行く場所なんてものは、他人が気軽に足を踏み入れる事が出来ないパーソナルなスペースなのだろう。

 

 そして、

 打つ手が無くて困っている俺に日菜が続けた。

 

「多分......あそこだ」

 

 ポツリとそう零した日菜。

 何か昔を思い出すような、そんな声だった。

 

「...あそこってどこだよ」

 

 ようやく慣れ始めた目に入ってくるアスファルトの照り返しを受けながら視線を上げる。徐々に曇りがかっていく空が、まるで誰かの心模様を見ているようだった。

 

 つっけんどんにそう訊いた俺の声を受けた日菜が、またゆっくりと零すように言った。

 

 

 

「多分...空き地...工場跡の空地」

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 日菜の指示通りに歩みを進め、向かったのは少し街から離れた場所にある元々は工場があったらしい空き地だ。手入れの全くされていない、山ほど雑草の生えた石だらけの地面が少し寂しかった。至る所に穴が見えるボロボロの錆びたフェンスには植物がまとわりついており、まるでこの場所だけが世界から切り離されて何百年も経ってしまったんじゃないかと思ってしまうほど、それぐらい寂れていた。

 

「......ほんとにこんな場所に居るのかよ」

 

 誰もいない...いや、もしかしたら氷川紗夜が居るかもしれない 廃れた土地で、思わずそう零した。何かを思い出したように呟いたその日菜の直感を信じてここまで来たはいいものの、本当に居るのだろうか。

 

 疑いながらちぐはぐな金網の周りをブラブラと歩いてみる。靴で踏みしめた地面が、石と石が擦れてなる音が、この場所の寂しさをありありと見せつけていた。

 

 そして10メートルほどゆっくりと踏みしめるように歩いた時、ボロボロで植物の張り付いた金網に 人が通れそうな穴があるのに気づいた。

 

 そしてその穴の辺りには、誰かが通った跡のように不自然に地面に這いつくばっている雑草の道が見えた。

 

 誰かが、ここには居る。

 そしてその誰かはきっと、

 

 そこまで考えた俺はその穴を無我夢中で潜った。少し小さくて服に引っかかったけれど、通れないほどの窮屈さでは無かった。ガサガサと煩い音を立てながら揺れる、生えっぱなしの不格好なススキのような植物が肌に当たってこそばゆかった。

 

 ようやく金網を通り抜け、出迎えるように視界を塞いでいた雑草をかき分け、やっとの思いで立ち入った工場跡地は 想像しているよりも もっとずっと、寂れていた。

 

 元々は白かったであろう壁に染み付いた黒ずんだ汚れや、壁が崩れてがむき出しの鉄骨や室内の景色。その全てが退廃的で、核戦争が起こったあとの世紀末にタイムスリップしたような、そんな気分になってしまうほどに物悲しい光景がそこにはあった。

 

 日当たりや水はけが悪いらしい地面はまだ湿っていて、歩く度にスニーカーの裏がぐしょぐしょになっていく。

 

 靴を濡らしながら、ようやくたどり着いた二階建ての工場の跡をぐるっと回りながら空き地を徘徊する。丸みを帯びた屋根の形に沿って出来る影が、俺の体を包み込む。

 

 途端に暗くなった視界には、アスファルトでできた、ぐしゃぐしゃの地面と地続きになっている道がある事に気づいた。

 

 このアスファルトの道は、どこに続いているのだろう

 

 そのふっと湧いてきた疑問を確かめるために、歩みを進める。どこか神秘的ですらあるこの光景に充てられて、当初の目的である氷川紗夜の事すら忘れかけながら ゆっくりと歩いていく。

 

 そこには、工場の建物よりもずっと錆びて茶色になってしまったゴミ捨て場があった。不思議とそこは嫌な臭いがしなかった。むしろ、全くの無臭で さっきまでいた土と雨水の臭いが消えた分 他よりもずっと居心地の良ささえ感じられた。

 

 ゴミ捨て場の周りには、コンクリートでできたブロックのようなものが沢山並んでいた。ちょうど腰を落とすのにちょうどいいような高さで、休憩をするにはちょうどいいような大きさのコンクリートの塊が点在していた。

 

 そして、

 

 そのいくつもあるベンチのようなコンクリートの塊の中の1つには、人影があった。そこには、膝を折って顔を伏せている、氷川紗夜の姿があった。

 

 この物悲しい工場空き地の背景に似合った格好でぽつんと座り込んでいる氷川紗夜の姿を見ながら、ゆっくりと ぐちょぐちょになったスニーカーでアスファルトを踏みしめながら彼女の元へ歩いていった。

 

 そんな中、俺の考えている事はひとつだった

 

 やっぱり、

 

(姉妹って、すげぇんだな)




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だいぶ僕の過去作のオマージュが効いてます。気になった方はぜひ「もし氷川姉妹に兄ちゃんがいたら」も読んでくださると嬉しいです。

好きなのはこの中だと...

  • 湊友希那
  • 今井リサ
  • 葛飾麗奈
  • 氷川日菜
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