投稿ペース遅れ気味です。やる気が下がりがちなので何かしらの拍子にまた投稿再開します
「......なぜ、ここがわかったんですか?」
俯いたまま、氷川紗夜が訊いてくる
無骨でどこか殺風景な廃工場を背景に、座り込んでいる姿から吐き出された震えた声が、千鳥足でフラフラと俺の鼓膜へと辿り着く。
「......日菜から聞いたんだよ」
隠すこと無く氷川紗夜に伝える
俺の返事を聞いた彼女の肩が、弾かれたように持ち上がった。引き絞られたその首筋が、どこか寂しかった。
「......そうですか、日菜が」
もう一度、俯いたままそう零した
さっきと変わらない姿勢で座り込んでいる氷川紗夜。でも、さっきよりもどこか自嘲気味に、吐き捨てるように言ったその言い方が少しだけ異質だった。
自暴自棄になったような。
そんな、開き直った感じがした。
「......前にもここに来た事があるのか?」
日菜が予想する事が出来て、あの状態で氷川紗夜が向かったのだから 初めてくる場所では無いことなんてわかりきっていた。
でも、敢えて俺は訊いてみた。
どこに話の取っ掛りを見つけていいかわからなかったから、というのも理由の1つなのだが もう1つ理由がある。
「......えぇ、何度か。来た事があります」
ポツリと、彼女はそう零した
そしてやはり、わかりきっていた肯定が返ってきた。観念したようにそう言う彼女の頭上には今にも雨が降ってしまいそうなほど、雲が空を覆っていた。
「......それは、日菜も一緒にか?」
また、答え易そうな質問をする。
俺の『はい』か『いいえ』かだけで答えられる簡単な質問に、ゆっくりと沈黙を繋いで たっぷりと時間をかけて声を発する。
「......はい。...小さい頃に、よく」
ポツポツと染み出てくる紗夜の言葉は、この廃れた廃工場の空気と同化していく。そのグラデーションが、俺の心にすっと染み入ってくる。
(あぁ、そういう事か)
『何度か』来たことがあるのに『小さい頃に、よく』日菜と一緒に来ていた事への違和感が、自己完結される。
きっと、彼女は。
「......ここで、日菜に言ったのか」
日菜への拒絶を、この場所で言ったのか。
ストンと心に落ち着いたような、パチリとパズルのピースがハマったような。そんな気分がした。
声を発した自分の喉が少しづつ暖かくなっていく。核心をついたその声の振動が、氷川紗夜の鼓膜を揺らしていく。
俺の言葉を聞いた彼女がゆっくりと顔を上げる
「......はい」
ここにきて初めて、氷川紗夜と視線が交差する。彼女の目尻は、赤く腫れていた。
まるで、あの時のリサみたいな腫れだった。
「......そっか」
その目元に耐えきれずに、彼女から目をそらす
苦し紛れに見た真上の空模様は、相変わらず最悪だった。もうすぐ降りそうなその雨雲は、3週間前の金曜日。リサの家に泊まりに行く日の帰り道みたいだった。
「......あのさ、俺さ」
目は、まだ氷川紗夜とは合わさない
上を向いたまま、ふつふつと湧いてきた罪悪感や怯えを溢れさせないように上を向いたまま、堪えるようにそう呟いた。
「多分、似てるんだわ。お前と」
どくどくと血液を送り出す心臓の胎動が、まるで雨音みたいに煩く鳴り始めた。体の内側から聞こえるその音は止むことなく、どんどんと音量が上がってくる。
その音をかき消すみたいに、言葉を続けた
「俺もさ、後悔してんだ」
脳裏に浮かんだのは、リサの部屋で見た笑っているリサの顔。公園のベンチで見た夜の景色を背にした友希那の顔。そして何度も見た、葛飾の苦しそうな顔。
その全ての原因を生み出したあの軽率な夜の事を、未だに悔やみ続けている。
後悔しないことがリサへの償いだと思っていた。
けれども、それすらも俺には ままならなかった
「お前も、きっと後悔してんだろ?」
まだ視線は下ろせない。
上を向いたまま、空気を吐き出した。
「そんな.....」
『そんなことない』と、言おうとしたのかもしれない。でも彼女の口は 『そんな』まで言ったっきり、続くことは無かった。
「昔の自分が、憎いんだろ」
少しだけ、視線を下ろす
でもまだ、彼女の顔は見えない。
元々あったはずの工場のゴミ捨て場の残骸が視界に入る。その崩れたコンクリートの塊が、錆びた鉄筋の跡が、俺の中の形骸化した倫理観と決意を表してるみたいだった。
「でもさ、自分以外の誰かになんて なれる訳ないんだよ」
もう少し、視線を下ろす。
でもまだ、彼女の姿は見えない。
コンクリートの塊から突き出た錆びたパイプの柱が、天に向かって仁王立ちをしていた。
「後になって何をしようが、取り返しなんてつかないんだよ」
またもう一度、視線を下ろす。
少しだけ、彼女の姿が見えた。
でもまだ、彼女とは視線は合わなかった。
「でもさ、氷川紗夜」
首の間接を下ろしきる。
やっと、彼女と視線が混ざりあった。
彼女の瞳が、まっすぐと俺の目を見ていた。
「取り返しのつかない事ぐらい、誰にでもあるんだよ」
ゆっくりと、噛み締めるみたいに続ける
「なんで日菜が俺と会ったのか、知ってるか?」
歯を食いしばって、次の言葉を紡ぐ
「なんで俺があの日、お前と友希那の待ち合わせ場所に居たか、わかるか?」
俺のその言葉に、氷川紗夜の瞳がどんどんと震えていく。きっと、俺が言いたい事に気づいたのだろう。
「お前を、あのバンドから引き離すためだ」
その言葉が、2人だけの廃墟に響いた。
好きなのはこの中だと...
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