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コンクリートが反射した太陽の光に目を細めながら、さっき通った道を遡っていく。ついさっき通ったはずの道でも、行きと帰りでは不思議と景色は全く違っていて まるで初めて通る道のように感じられた。
いつもの通学路とは全く別の、商店街の縁をなぞるような道を進んで行く。時間でいうと30分も経っていないぐらいの、ついさっき通った道なのだけれど。
今は、俺ひとりじゃない
俺の右側を少し俯いたまま歩く「氷川」をちらりと見る。傍から見れば俺たち2人はきっとカップルのように見えるのかもしれない。でも、俺たちの関係はそんな色のついたものではない。
まだ、友達になってから10分も経ってない
そんな、浅い関係だ
「......なぁ、氷川」
お互いに特に喋るわけでもなく、RPGのように縦1列になってあの怪我をしてしまいそうな工場跡地のフェンスを潜って、特に何かを話すわけでもなくライブハウスまでの道を歩いていた。
初めは俺の後ろを付いてきていたのだが、いつの間にか氷川は俺の横を歩いていた。
そして、そんな彼女へ10分ぶりに声をかける
「まだライブ、間に合うと思うか?」
右手に押された途中退場のスタンプを見ながら、そう訊いてみた。お互いの共通の話題は、俺の把握している限りだと日菜の事か音楽の話しか無いので、ここは取り敢えず当たり障りのない今日のライブの話にしていおいた。
べつにこのまま無言で帰っても問題は無いのだけれど、何となく、気まずくなってしまった。
「......このままいけば 最後のバンドの演奏には、間に合うと思いますよ」
左腕に巻いた、女性物の小ぶりな腕時計を見ながら彼女はそう返事をした。携帯電話を使うのではなく腕時計で時刻を確認する、少し当世風では無いその仕草は、氷川にはよく似合っているふうに感じた。
彼女が言うには、最後のバンドに間に合うらしいのだが。昨日リサと一緒に帰っていたあの女の子の演奏する姿は、どうやら見れそうにない。
「......そっか、ありがと」
少しだけ落胆した心をそのまま映し出したみたいな素っ気ない返事が口から出てきた。その俺の質素な返事を聞いた彼女の顔も、どこか寂寥混じりの寂しい横顔だった。
きっとお互い、もっと聞きたいことがあるはずだ。日菜とのこれからのことだったり、Reeves Roseはどうするのかだったり、考えなきゃいけないことはまだまだ山積みだ。俺たちはまだ、スタートラインに立っただけに過ぎないのだ。
でも、どう切り出していいのか。
掴みきれていないのだ。
あの時、
工場跡地で俺の言葉と共に伸ばされた手を取った氷川も、「友達になってくれ」と言い出した俺も、どこか胎の中では信用をしきれていないのかもしれない。
頭ではお互いにわかっていても、お互いまだ話し始めてからほとんど時間は経っていないのだ。
そう易々と人と手を取り合うことが出来たのなら、氷川紗夜は初めからここまで拗らせなかった筈だ。少し考えたら解りそうなのに、なぜ俺はあの時考えつかなかったのだろうか。
でも、
それでも、今こうやって2人でまたあのライブハウスに迎えていることは。氷川紗夜が日菜に向き合ってくれるようになったことは。
絶対に意味があるはずだ。
俺のした事は、間違いではなかったはずだ。
そう、考えることにした。
「......中野、さん」
俺の横から、氷川の声が聞こえた
首を曲げて右側の彼女の方を見る。さっきまでの草の生い茂った荒れた背景ではなく、コンクリートでできたブロック塀を背にした彼女は、あの空き地で見るよりもずっと綺麗だった。
「ん、どした」
そんな彼女に対して、友人に向けるような(氷川も今は、友人の1人なのだけれど)軽い態度で返事をする。俺のその薄っぺらい返事を聞いて、少しだけ緊張が解けたように 貼っていた肩を下ろす氷川。その仕草が見れただけでも、素っ頓狂な返事をした甲斐があった。そして、
「帰ったら、日菜と話。してみます」
その言葉が聞けただけで、今日ライブハウスに来た甲斐があった。そう、思えた。
「ちゃんと話、できるのか?」
弛緩した頬の表情筋が垂れ下がっていくのを自覚しながら、冗談めいた言葉を彼女に向かって言う。俺のその言葉を聞いた氷川は、俺と同じように表情を和らげながら言った。
「えぇ、ちゃんとお説教。しないといけませんから」
あぁ、きっと。日菜は今日大変だな。
なんて事を独り、緩みきった脳みそでそう考えていた。
お互いに表情は笑顔のまま。ぎこちないような、それでいて何処か滞りないような、そんな奇妙な居心地が流れる帰り道を辿っている。
この先の、Reeves Roseの行方はまだ検討もつかないけれど。とりあえず日菜と氷川は、心配ないのかもしれない。
俺の心配は、杞憂だったらしい。
そんな事を考えながら、ふと気になった。
「......そういえば、最後の出番のバンドってどんなバンドなんだ」
氷川が言うにはこのまま行けば間に合うらしいそのバンドは、一体どんなバンドなのだろうか。Reeves Roseが演奏した、あの『ヒューマノイド』を超えるような、友希那がステージの上で歌った『vinyl』のような、熱量の篭った演奏は聞けるのだろうか。
そんな期待を胸に収めながら、氷川に訊いた
「......確か最後の組は.....」
腕を組んで、空を見上げながら考え始める氷川。つられて上を向いてみると、さっきまで太陽を覆っていた雲たちは散り散りになってどこかに行ってしまっていた。
そして、そんな太陽を見上げている俺に向かって氷川はこう続けた。
「『Afterglow』、ですね」
好きなのはこの中だと...
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氷川日菜