病まない雨はない   作:富岡生死場

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ヤンデレなのに全然病まなくて不安よな

今井リサ、動きます。


4 動悸、バニラ味の交差

「ふ〜ん、そうだったんだ〜」

 

 結局、友希那の発した『女の子』に興味を持ったリサに全部話す羽目になった。名前から、友達になったきっかけから、

 

 それと あと、好きになったきっかけも

 

 全部、話した。1度喉から吐き出したら 止まらなかった。今までそういや、こいつら2人に俺の高校生活について話すのって 無かったんじゃないかな。話し終わってから少し冷静になった頭でそう考える。

 

 リサや友希那と会った時も、2人の話も聞くし聞かれたら答えもするけど しっかり俺の事話すのって学校変わってからあんまりしなかったかもしれない。

 

「まぁ、だいたいそんな感じ」

 

 中学からの友達も数人しか居なくて 大体が違うクラスになってしまい、女子の友達がほとんどいない状態で。男子としか全くつるんでこなかったむさ苦しい高校生活のさなか出会った葛飾はさながら女神のようにさえ見えた。

 

 別に他に誰もいなかったから、誰でも良かったみたいないい加減な理由ではない。一番の理由は多分、

 

 葛飾に好きな人がいるから

 

 だろう。

 言ってて違和感がある事は自分でもわかってる。さっき2人に話した時も変な反応されたし、倫理的に間違ってるとも思う。

 

 持論なんだけど、【恋する乙女は綺麗】っていうのはきっと。恋をするから努力する、ってのもあると思うんだが きっと『恋をしている』っていう事実を知ることで、今まで「友人」として思っていた人により一層『異性』だと言うことを意識するきっかけになるんだと思う。

 

 文化祭の時に一緒の班になって、そっから急に仲良くなってRINEで毎日話すようになった。「おはよ」「おやすみ」「今日何食べたの?」「課題やった?」とか、それぐらいの他愛ない友人同士のメッセージのラリー、そんな中急に恋愛の話が出てきたのだ 意識が変わるのも仕方ないだろう。

 

 今まではただの友達だったのに 少し俺の中で葛飾のイメージが変わってしまった。

 

 何が言いたいかって言うと、葛飾に好きな人がいるって聞いてそのせいで俺も葛飾の事 意識してるっていう、それだけ。

 

「まぁ、なんかあったら相談乗ってくれよ。俺女の子の好みとかわかんないからさ」

 

 早くこの話題をどこか遠くに持っていきたい、そういう気分に駆られた。

 

 このまま話を続けると恥ずかしくて死んでしまう。

 

 俺の望みは叶ったようで、2人ともこの話題への興味も これ以上聞く気も無くなったみたいで、俺の言葉を皮切りに全く関係ない話を始めた。

 

 友希那の雰囲気は帰り道で会った時のピリついた肌が粟立つような感じはすっかり消え、どこか遠くに流れ出たみたいだ。

 

 リサと比べたらそんなに変わっていないようにも見えるが友希那も少し見ないうちにより大人びたように感じる。子供っぽさの象徴の制服ではなく、少し落ち着いた部屋着を纏った友希那は、どことなく物憂げな それでいて妖美な雰囲気だった。

 

 2人とも見た目は昔とは変わってしまっていた。きっと、2人から見た俺も変わってしまっているのだろう。でも それでも、こうして変わらず3人で居られる時間が残っている事が 変わってしまった俺たちを優しく包んでくれていた。

 

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「そろそろ、帰ろっか」

 

 どういうきっかけでなんの話をしていたのかも忘れるほど2転3転した雑多な話題が事切れた頃、リサが言った。時刻は20時すぎ、友希那の家ではもうそろそろ夕食を食べなきゃいけない時間 だったはず。さっきそんな感じの事が言ってたし。

 

 リサの両親は少し帰りが遅くなるらしい。俺が泊まることの了承を取っていた時 リサに教えてもらった。 だから20時過ぎの今のうちに家に戻っておく方が 都合がいいだろう。

 

「おう、じゃあ またな」

 

 友希那に別れの挨拶をする。微笑んで手を振ってくる友希那 今日、初めて笑っている顔を見た気がする。まぁ、笑顔と言うにはささやかすぎる表情の変化だけど

 

 友希那の見送りを受けながらリサの後ろをついて ベランダ伝いにリサの家に戻る。人数が減って 少し寂しい。とも思うが むしろ2人になったことで少し落ち着いた 心地良さみたいなのも感じられた。

 

「あのさ......」

 

 そんな気分に浸っていた俺に リサが話しかけてくる。声音は少し暗いものだったが 反対にリサの表情は嬉しそうなものにも見えた。

 

 カーテンを閉めていないベランダの窓から雨の音が聞こえる。不揃いなリズムで鼓膜を打つその音は 何故か不安を煽ってくるような 感じがした。

 

「相談乗ってくれ、って言ってたじゃん?」

 

 気まずそうにリサが言う、多分 葛飾の話を終わる時に そう言ったっけな、「相談乗ってくれ」って。

 

 愛想笑いみたいな、貼り付けられた笑顔だった。無理やり笑ってるように見えるのは 雨音が産んだ不安がそうさせているのか。それとも本当にリサが作り笑いをしているのか。

 

 俺には、どっちかわからなかった

 

「でもアタシ、無理かもしれない」

 

 一瞬だけ、作り笑いが崩れたような気がした。

 でもすぐ また笑顔を取り繕った。その笑顔と笑顔の隙間に漏れ出たリサの本当の表情は、不安と緊張と、困惑がまるで色つきの粘土みたいにぐちゃぐちゃに混ぜられて 無理やりくっつけられたような。そんな表情だった。

 

 もしかしたら、

 

 そう思った考えは間違っていなかったのかもしれない。

 

『まさか』から始まる俺の推理はきっとハズレじゃなかった。ハズレだったらこうして、リサの閉じられた瞼が、目の前にあるはずが無い。

 

 リサの手が俺の肩を掴む。逃げないように伸ばされた手に込められた握力は どんどん弱くなっていく。

 

 お互いの鼻と鼻がぶつかる。少し痛い。控えめに漏れ出すリサの呼吸がこそばゆい。

 

 少し震えた、頼りなげなリサのまつ毛が 俺の心の中の何かを揺さぶる。

 

 リサの前髪が俺の額にかかる。少し、痒い。

 いつもと違って髪を下ろしている姿が、余計に俺の胸を騒がせた。

 

 俺の推理が外れていたとするなら、こうしてお互いの呼吸が重なっているはずがない。

 

 俺の吐いた呼吸なのか、リサの吐いた呼吸なのか、そんなどうでもいい事が 何故か頭によぎった。場違いな考え事をしなければ きっと平静を保てない。

 

 互いの呼吸が溶け合う。

 

 何年かごしに、俺は初恋の相手と 人生で初めての口付けを交わした。

 

 キスはレモンの味なんかじゃなく、

 さっき食べたバニラの味がした。




次回予告


「おはよう」

そんな目を、見たくない

「さっきのこと、まだ覚えてる?」

腫れた目元が、痛々しかった

「さっきの、もっかいしよっか」

落ちるところまで落ちた自己嫌悪に

「おはよう」

もう一度蓋をする

次回『拘泥、曖昧なサイン』



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https://twitter.com/Tomiokasei4jyo?s=09

好きなのはこの中だと...

  • 湊友希那
  • 今井リサ
  • 葛飾麗奈
  • 氷川日菜
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