病まない雨はない   作:富岡生死場

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『Flash!!!』は絶対に人生で1度は聴くべき


43 閃光、It's Flash

『行くぞ、飛べぇぇ!』

 

 

 ボーカルの少女が力一杯に叫んだ

 その叫び声と3種類の楽器の重なった音は会場を駆け回り、まるで光のような速さで辺りを飛び交って行った。

 

 友希那の時の、ゆっくりと周りを支配していくような雰囲気とは真逆で。一瞬で周りの温度を引き上げるようなそのパフォーマンスは、きっとあのドラムソロが引き起こしたマジックなのだろう。

 

 あの騙し絵のようなリズムが作り上げた、種も仕掛けも張り巡らされたマジックだった。

 

『It's Flash!!!』

 

 ボーカルの少女がまたもう一度、思いっきり叫ぶ

 

 その張り裂けるような声で会場はどんどんヒートしていく。手を振り上げて乱れる観客を、折り曲げた体はそのままに首だけ動かして一瞥するボーカル。

 

 その様子を見ながら笑顔で演奏するメンバー

 

 そこには、Reeves Roseには無かった...というか。『足りなかった』ものがあったような気がした。

 

『歌えぇ!』

 

 折り曲げた体を跳ね上げて、腕を掲げながら観客達にボーカルはそう叫んだ。それに合わせてまたもう一度、助走を取るように駆けていく演奏。

 

 もう観客たちは、何をするべきか。何をしなきゃいけないのかを、十分すぎるほどに解っていた。

 

『It's Flash!!!』

 

 今度はボーカルだけじゃなく、会場全体がそう叫んだ。ボーカルの彼女には1人だけでは敵わないけれども、観客200人ほどが全員揃えて叫ぶその声には圧倒的な力があった。

 

『It's It's Flash!!!』

 

 今度は演奏しているメンバー達も混じって全員でそう叫ぶ。楽器を抱えたまま叫ぶ彼女達の表情はどこか煌めいていて、その姿を見るだけでどこか多幸感に包まれるような気がした。

 

『It's Flash!!!』

 

 左ではリサと友希那が、右ではReeves Roseのメンバーたちが、羨望すら感じられる表情でステージを見ていた。複雑な感情や背景なんてのを一切合切に度外視したような、そんな晴れやかな顔だった。

 

 このライブハウスにいる人間、その全員が彼女ら...『Afterglow』に釘付けだった。全員が、手を振り上げながら叫んでいた。

 

 そして、

 

『...やるじゃん』

 

 ボーカルの少女がふっと笑ってそう言った

 その表情はやけに大人びていて、リサとはまた違う意味で色のある艶やかな表情だった。

 

 そんな表情を見せたかと思ったら、次の瞬間にはその赤みがかった顔をマイクに向けた。そのON/OFFの切り替えが、そのコントラストが 素直にかっこよかった。

 

『全ては冗談だって 本物か偽物かなんて』

 

 右手でマイクを握りながら、左手を振り乱してリズムを取りながら、観客を煽るように歌うメッシュのボーカル。その声を後押しするように演奏する4種類の音色が、彼女を讃えるように湧く会場が、まるでひとつの生き物みたいに蠢いていた。

 

『くだらないぜ、真実なんて。ただ下り坂を猛スピードで、駆け抜けるんだ』

 

 確かめるように、でも立ち止まらないように、地に着いた足を足にくい込ませてすぐに飛んでいってしまうような。そんな疾走感のある歌声と演奏だった。

 

 彼女たちを照らすスポットライト、その光を受けて輝いている彼女達から迸る汗が、心臓の鼓動をどんどんと速めていった。

 

『振り払えるんだ、思いのままに』

 

 左手を思いっきり握りしめて、絞り出すように天を仰いで叫ぶ。その、文字通り『必死』な姿の彼女を支える2人分のコーラスが聴こえてくる。歌っているのは多分、ギターとベースの2人だろう。

 

 そして、その姿を見て思い出した。

 リサと会った昨日の帰り道で、日菜がギターを弾きながら歌っていた事を話している時の事だ。

 

「モカちゃんも、それぐらい出来ますよ〜」

 

 そう、間延びした声で言っていた。確かに、彼女が言った通り演奏をしながら彼女は歌っていた。それも、白熱するような切れ味のあるギターをかき鳴らしながら完璧なコーラスを歌っていた。

 

 ちらりと、リサの方を見てみる。リサの視線は当然だけれど、ステージを見ていた。そしてその横顔に映っていた瞳は、モカの晴れ姿を網膜に焼き付けているような。そんな顔だった。

 

『ブレーキは折れちまってんだ』

「飛べぇぇ!!」

 

 コーラスに歌うのを任せて、また思いっきり叫ぶボーカル。その華奢な体の一体どこにそんなパワーが隠れていたのだろうか。言葉通りに飛び跳ねながら叫ぶその姿に、もう平静を保てるはずもなかった。

 

『It's Flash!!!』

 

 でも、ただ単純には俺は楽しめないでいた。俺の周りの友人や、知りもしない他人と同じ様には飛び跳ねたり叫んだり歌ったりだのといった、無邪気な行為は何故か出来ずにいた。

 

 何となく、何となくだけどこの歌は、俺によく染み入るような。そんな苦味があった。

 

『It's Flash!!!』

 

 そんな俺の事などとうに通り越して、置いてけぼりにしたまま会場とAfterglowのメンバーがどんどんと一体化していく。リサも、友希那も、神田も、江戸川も、全員が俺から離れていって 俺だけが取り残されるような。そんな感じがした。

 

『密かに期待しちゃいないかい? 思い通りに行きやしないぜ?』

 

 叫び声から一瞬にして歌い声へと変化を遂げたボーカルの声。旋律に乗っていくその声が、綺麗だった。でも、

 

『遣る瀬無いね、それでも主役は誰だ? お前だろ?』

 

 その歌声と歌詞の荒々しさのギャップが、食い違いが、歪であって尚且つそれにはどこか正しさがあった。

 

『輝けるんだ! いつだって思いのままに』

 

 ゆっくりと演奏がまた、助走を取るように引いていく。それはまるで海のようだった。寄せては返す波のように激しさと静かさを持ったそのメリハリのある音が、演奏が、圧倒的なバンドとしての結束や、コンビネーションが生み出す確かな結合が生み出した自然現象とも言える物だった。

 

 ドラムがまるで、俺たち観客を制しているみたいに。超えては行けない一線を作り出していた。最後のクライマックスまで俺たちを引き止めるような、そんなリズムだった。

 

「...中野さん」

 

 そんな、少し静かになった演奏の合間に。氷川が声をかけてきた。

 

「どうした、氷川」

 

 その声に反応して右を見る。

 そこに居た彼女は、どこか晴れやかな顔をしていた。

 

「......凄い、ですね」

 

 まるで子供みたいに、氷川がそう言った。

 

 きっと、彼女もどこか。俺と一緒で、この歌に飲み込まれきれないで居たのだろう。多分、俺も氷川も。この圧倒的な光のような純粋さを前にして、立ちすくんでいるのだろう。

 

 それほどまでに、ステージは眩しかった。

 

『間違いだらけの人生が 光を見失わせるtonight 一瞬でいい今だけでいい 逆らって』

 

 髪を振り乱しながら、身体を震えさせながら、全身で、全霊で、魂で歌っていた。その姿を、俺と氷川はただただ呆然と見つめるだけだった。

 

『全てを求めないで 時の流れを許して』

 

 もしかしたら、俺が何かをしなくても。この曲を聴くだけで、Afterglowの演奏を聴くだけで何もかもが解決したのかもしれない。

 

 そう思ってしまうほどの何かがここにはあった。

 

 俺も、氷川も、この歌をこの場で聴くだけで。

 自分の中の何かが変わったような、そんな気がした。

 

『その身を焦がしてでも、光放って』

 

『It's Flash!!!』

 

 またその言葉で。そのキーワードで会場が一体化する。

 俺と氷川だけが、また置いてけぼりにされていく。

 

「...ほんと、凄いな」

 

 演奏にかき消されるほど矮小な、ちっぽけな呟きで氷川にそう返事をする。でもきっと、氷川には聞こえてるはずだ。

 

 何となく、そう思った。

 

『全ては冗談だって、本物か偽物かなんて』

 

 会場はまた温度を上げていく

 

『くだらないぜ 真実なんて ただ下り坂を猛スピードで』

 

 右も左も、飛び跳ね 歌い、思い思いの形でこの波に乗っていた

 

『駆け抜けるんだ 振り払えんだ思いのままに』

 

 手すりをぎゅっと握って、耐えるようにその演奏を聴いていた。

 

『誰もが矛盾を抱えてんだ』

 

 ボーカルが、コーラスと演奏に後押しされながらどんどん歌詞を紡いでいく

 

『翻弄され踊り踊らされ』

 

 その歌詞の一つ一つが、まるで俺の今までやってきたこと全てを説教しているみたいだった

 

『それでも何度でも立ち上がれ』

 

 圧倒的な迫力と 透き通った、どこまででも響いていけそうなボーカルの声が耳に響く

 

『いつだって主役はお前だろ!』

 

 その手すりを握った俺の左手を、誰かが掴んだ

 

『輝けるんだ! 変わらない思いのままで!』

 

 その手を辿るように、ゆっくりと首を上げていく

 その白い、今にも折れそうな花のように嫋やかなその腕の主は

 

『歯止めは もはや効かないんだ!』

 

 照明に照らされた、友希那だった

好きなのはこの中だと...

  • 湊友希那
  • 今井リサ
  • 葛飾麗奈
  • 氷川日菜
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