全部で4つに分ける予定です。
つまり、これが。最終章です。
しばらく読んでて疑問符が飛ぶかもしれませんけど。最後まで読み切った後にその疑問符が、どうか取れていますように
腰が抜けそうなほどの脱力感で、現実へ解脱する
少しだけ強い、外からの光が手厳しい。
瞼を絞りながら、ベッドに手をつけて体を持ち上げる。
無意識に、口から空気が漏れ出た
「......あれ?起きた?」
寝起きの耳に声が聞こえてくる。
辺りを見回してみると、視界にはイヤホンのコードが散らばっていて。自分の耳まで伸びていたそれが、俺の携帯に繋がれているのが見えた。
薄暗い部屋の中にぽつんと置かれた携帯から声が聞こえてくる事に、少しだけ理解が追いつかなかったけれど。時間をかけてようやく状況を呑み下す。
「......おはよう」
あぁ、寝落ちしたんだ。俺。
「おはよう」
からかうような日菜の声が聞こえる。寝起きの頭で聞き流しながら、昨日の事を思い出してみる。
「...俺、いつから寝てたっけ?」
あの後、夕飯を食べるために1度日菜との電話を切った。「ありがとう」の言葉以降、いじらしいような。えもいえない空気が流れたまま。耐えきれずに千切れるみたいに電話を切った。
騙したような罪悪感が、まだ氷川と。日菜の2人に対して抱え込んでしまっている。
半分、騙したようなものだから。
「えーっとね。多分12時ぐらいだったんじゃない?」
──まだ髪、ちゃんと乾いてなかったし
そう付け加える日菜の声は、誰かから隠れるみたいに小さく、抑えられた声で。なんというか、ひそひそ話を身を寄せあって喋っているような。そんな、変な気分だった。
「あー、まじか。......てか、切らなかったんだな。電話」
質問の繰り返しで、会話を繋ぐ。
でも、意識は会話ではなく考え事に向けられていた。どうにかして、昨日の事を思い出そうと必死だった。
夕食を食べて、日菜が風呂を終わってから。また改めて日菜と電話をしたんだった。電話を始めたのが、だいたい11時ぐらい。つまり、それから1時間ぐらいで寝てしまった事になる。
「想くんが話さなくなって、おかしいな〜とは思ってたんだけどね」
───いつの間にか、私も寝ちゃってた
笑いながら、また声を抑えて日菜が言う。
シャツに零したコーヒーの染みをそっと隠すみたいな。そんな些細な仕草みたいな声を聴きながら、昨日の事を思い出す。
「...あー。なんの話してたんだっけ。確か...」
日菜から、氷川と話した事とか聞いて。俺も氷川と話した事を伝えて。お互いにラリーを続けて、それで......
「...やっぱり、最後の方覚えてないかー。」
肩を竦めて笑う姿が、何となく頭に浮かんだ。
きっと、電話の繋がっている携帯の。向こう側では日菜が苦笑を浮かべているのだろう。見えてる訳じゃないけれど、声音で、伝わった。
「ほら、言ったじゃん。今日は......」
そこで、急に日菜の声が途切れた。
途切れる一瞬前。なにか音が聞こえた気がする。
──日菜。早朝からギター、弾かないで
マイクが拾うか、拾わないか。ぎりぎりの一線で踏みとどまって。その声を聴きとった。
凛とした、氷川の声が。朝で微睡んだ脳に、ふっと差し込まれた。春の陽光のように穏やかで、暖かい声が。イヤホン越しにささめいた。
(あぁ、そうだった)
昨日話した事、そして。
今日するべき事を、思い出した。
携帯を手に取る。画面には日菜との電話中のマークが表記されたまま。寝落ちたせいで、通話時間がおかしな事になってしまっている。
そんな数字を見て、少しだけ微笑む。
葛飾からの返事は、まだ無かった。
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ベンチに座ったまま。地面を見つめる。
コンクリートの照り返しが。春の癖に、嫌に暑苦しい。建物と建物の間を罷り通る強風や、室外機がごうごうと押し出していく熱気が、間接的に肺を。内臓を。犯していってしまっている。
寝落ちた後の、気だるさが残ったままの日曜日の昼前に、やっとの思いで身体を起こす。
電車に乗ったまま、ずっと揺さぶられているような。妙な浮遊感が、身体の中身を少しづつ持ち上げていってるような、そんな気がした。
「...大丈夫ですか?さっきから。変ですけど」
視線をあげる。
見えたのは、昨日のTシャツ姿とは変わって、カジュアルな私服を着た氷川紗夜だ。
黒いスキニーで、白のYシャツの上に灰色のジャケットを羽織っている、シンプルで。なんというか、いかにも仕事が出来そうな。そんな雰囲気だった。
「......大丈夫。あと、服似合ってるな」
「それ、何回も聞きました」
お茶濁しの言葉は、あえなく撃ち落とされてしまった。
ため息をつくような、深い呼吸をして腕を組む氷川。
「......昨日も、日菜と話していたんですか?」
腕は組んだまま、瞳を閉じて言う。
不機嫌そうな声音は、今朝電話越しに聞いたものとほとんど同じように思えた。
「......うん、そうだけど」
でも、その当事者は今。ここには居ない。さっきまで一緒にいたのだけれど、御手洗中だ。
そもそも、なんで俺が氷川と一緒にいるのか、だけれど。
原因は、今朝ようやく思い出した昨夜の日菜の相談。
『お姉ちゃんとギターを買いに行きたいけれど2人で行くのはまだちょっと不安』らしい日菜が提案したのは、俺がその買い物に着いていけば、まだ気まずさがマシになる。
との事だったけれど。俺は俺で氷川と昨日喋ったの初めてだから、すごい居づらいんだけれど。
「......そうですか」
質問に答えて、相槌を打つだけで消えてしまう会話。そんな飾りみたいな、見せかけの声の掛け合いが萎んでいくのが、当然だけれど。悲しかった。
「......日菜、ギターこないだ買ったのに。また買うんだな。」
独り言みたいなつぶやき。氷川が拾ってくれるかも少し怪しいけれど、試しに言ってみる。
「......私と、同じものをしたい、らしいですから」
横を見てみる。
ふっと笑った横顔が、大人びていて。来ているカジュアルな服と噛み合って、どこか絵画を見ているような。そんな、吹き抜けたような感覚が体を通って行った。
あの熱風のようなビル風と、その感覚は似ていた。
「......なるほど」
目をつぶったまま笑う紗夜から視線を外して
また地面を見つめる。
それ以外何も、言えなかった。
逃げずに日菜と向き合い始めた氷川紗夜が携えていた笑顔は、あまりにも。眩しいだけだった。
「...日菜と俺が、Reeves Roseを引き離そうとしてた事、どう思ってるんだ?」
だから、あえて聞いてみる。
何とかして、その眩しさから逃れたくて。
堪えきれずに醜い問いを投げてしまう。
ビルが反射する太陽の光や、コンクリートの照り返し。それと、目の前にいる氷川。
その全てが、毒みたいに内側から体を蝕んで。ボロボロに腐らせていくような。そんな、勝手な妄想が頭を覆った。
「......嫌でしたよ」
少しだけ、安堵した
「...日菜が、男の人を使って私と、神田さんの邪魔をしようとしているなんて。考えただけで、嫌でした」
上を向いて、目を少しだけ開いて太陽を見上げる氷川。
地面を見て、太陽を逃れた俺とは。真逆だった。
「でも」
氷川が目を見開いた
「行動だけを切り抜いて、それしか見ないなら。きっと、何もかも悪いことみたいに見えてしまうんですよ」
達観したように、呟いた。
「......そっか」
それがひとつの、答えだと思えた。
日菜と、氷川紗夜の間にある。神田が付けた「Reeves Rose」というバンド名を借りるなら『無口な愛情』が、お互いを傷つけないようにするようで、お互いを引き離していた。
そして、離れていくうちに。お互いを行動でしか知れないようにしてしまっていた。
だから、日菜は気まずかったのだ。
氷川紗夜と2人で、買い物に行くのが。
2人で、何かをするのが。
「......変われたんだな」
拗ねるように、ささめいてみる
横にいる氷川がこちらを向く
氷川の目を見た訳ではないけれど、視界の端で揺れた氷川の服が。そう言っているように思えた。
「......あなたも、変わるんでしょう?」
多分だけど、今。氷川は微笑んでいるのだろう
それが。
味方だと言ってくれた日菜と少しだけ、重なって見えた。
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜