病まない雨はない   作:富岡生死場

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感想評価お待ちしてます。

これから先どうなるか、どうなって欲しいか。皆さんの話が聞けたら嬉しいです。


52 絞首、先送った代価

 氷川との会話からしばらく経って、御手洗から帰って来た日菜と合流した俺たち3人は。目的である楽器店へと赴いた。

 

 日差しが強い外にしばらく居たせいで、室内のありがたみが身に染みる。空調が整った楽器店の中には、当然だけれど沢山の楽器が並んでいた。

 

 普段なら、多分。来る機会はない場所だ。

 

 違いが分からないけれど、馬鹿みたいに高いピアノとか。ほんとに音が鳴るのか分からない程マットな質感の電子ドラム。触ってくれと言わんばかりに置かれているくせに『触らないでください』と書かれた紙が貼られているピアノ

 

 遠巻きに眺めるだけだった楽器が、目の前にある事が不思議だった。

 

 

 普段と見る位置が違うだけで、こんなにも見え方が違うなんて。

 

 

 視線を楽器から、氷川達にズラす。

 

 

 店の端のベンチで座っているだけの俺と少し離れた位置に居る、氷川と日菜。まぁ、俺が一緒に居ても楽器の事なんて分からないし。2人で相談して決めてくれるのが1番だから、除け者にされるのは別に良いんだけど。

 

 

 俺もいた方が気まずさがマシになる。って理由だったはずなのに、いつの間にか日菜は氷川と2人で喋るのが、平気になっている。遠目からでも、日菜が笑っているのが見えた。

 

 

 

 

 ──────つまるところ、俺がここに来る必要は無かったのかもしれない。

 

 

 

 楽器店の端の、椅子に座りながら。そう思った。

 

 

 

 ガラス越しに、店の外を眺める。

 

 コンクリートの表面で覆われた灰色の地面の上を、沢山の人が行き交っていた。

 

 子供連れの夫婦や、徒党を組んでいる少年の群れ。いかにも真面目そうなメガネの制服や、手を繋いだ初々しいカップル。

 

 それぞれが、それぞれの目的を持って行動している。

 

 きっとあの夫婦は、外食でもするのだろう。昼時だし。

 

 あの学生たちも、どこか遊びに行ったり。本を買ったり。映画を見たり。思い思いの行動をこれから起こすのだろう。

 

 

 

 俺の後ろにいる水色の姉妹も、2人ともがお互いの事を赦し、歩み寄ろうとしている。

 

 

 俺だけだ、何も自分で決めれていないのは。

 

 俺だけが、人に流されたまま生きているのは。

 

 

 リサと友希那の気持ちも、流されたまま何も答えを出せていない。

 

 友希那のバンド活動を手助けするのも、結局は負い目があったリサの頼みを聴いているだけ。

 

 葛飾との距離感も、決断を保留しただけで。何も決めれちゃいない。

 

 

 そして、未だに葛飾からは。何も返事は無い。

 

 

 あの時、リサが葛飾と会った時。

 

 すぐに葛飾を追いかけていれば、変わったのかもしれない。

 

『何回も約束破ってごめんなさい』って、すぐに伝えれていれれば良かったのかもしれない。

 

 

 でも俺は、何もしなかった。リサが怖かったから、日菜との落ち着いた、少しの安らぎの時間が脅かされたのが怖くて、葛飾の為の行動を起こせなかった。

 

 

 窓の外の景色を眺める

 

 

 

 

 

 あぁ、多分。その積み重なりが祟ったんだろう。

 

 

 

 

 嫌に落ち着いた思考が、頭に満ちていく。

 

 諦観と喪失感が肌を駆けて、体の内側が。レンジで温められた卵みたいに、ギシギシと軋んでいく。

 

 

 

 ガラス越しに見える景色。自分の知らない人が錯綜する代わり映えのない日常の景色。

 

 燦然と陽光を撒き散らしていた太陽が、ゆっくりと太陽で隠されて。暗くなっていく。

 

 さっきまで青々と天を覆っていた空が、コンクリートの地面と同じ灰色に変わっていく。

 

 

 

 

 普段と見る位置が違うだけで、こんなにも見え方が違うなんて。

 

 

 

 あの遠巻きで眺めていただけの沢山の楽器達を近くで眺めた時に感じた、目新しさと違和感が窓の外を見る自分の身にデジャブな感覚で舞い戻ってきた。

 

 

 窓の外に見えるいつもの景色。

 

 コンクリートを錯綜する人々。

 

 

 その中にハッキリ見えた、見知った人の顔。

 

 

 

 

 

 あの時と同じ白いフリルの付いた服を着た葛飾が、そこにはいた。

 

 

 

 

 でも、その横に居るのは葛飾の女友達でも、ましてや俺でもなかった。

 

 

(あれは確か......)

 

 

 

 ガラス越しに、葛飾と目が合う。

 

 

「ごめん想くん! 遅くなっちゃった!」

 

 後ろから、日菜の声が聞こえた。

 

 多分、さっきまで氷川と話し込んでいたギターの話が固まったのだろう。屈託のない明るい声だ、日菜はきっと今。笑っているだろう。

 

 その瞬間、確かに葛飾の瞳が揺らいだ。目の下を腫らした葛飾の顔が、くしゃっと。まるで出来の悪いテストをぐしゃぐしゃに丸めたように、歪んだ。

 

 

「日菜、店の中だから。あまりはしゃがないで」

 

 氷川が日菜を制する声が聞こえた。

 

 呆れているような声だけれど、多分少しだけ笑っているような優しい顔で、日菜を見ているに違いない。

 

 2人は、俺がガラスの向こうの何を見ているのか。分からないんだろうな。

 

 葛飾から見た俺は、どういうふうに見えるのだろうか。俺は、あの楽器達みたいに。遠巻きに眺めた時、どう見えてしまうのだろうか。

 

 ガラス越しの、葛飾は。もう、俺の事を見ていなかった。

 

 一瞬だけ俺の後ろに目を向けて、葛飾の隣を歩いている人の方を見た。

 

 

「──────────」

 

 何を言ってるかはわからないけれど、口の動きだけが鮮明に見えた。

 

 放課後、一緒に帰ってる時に見せるイタズラめいた笑顔は。俺ではない人に向けられていた。

 

 

(......思い出した)

 

 

 葛飾の隣を歩いている人が、誰なのか。

 

 前に葛飾から聞いた、俺が葛飾の事を好きになるきっかけを作った張本人。

 

 

 ────────つまり。

 

 

 

 葛飾の、好きな人。




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