評価とお気に入りだけが僕のスタミナです。
「おはよう」
目が覚めた時、目の前にはリサの姿があった。押さえつけられたみたいに重たいまぶたの隙間から見えるその姿はぼやけていて、本当にそこに存在するか 怪しいとさえ思った。
まるで、何も無かったような顔をしてこちらを覗き込んでくる。少し腫れた目元が、俺の心をより一層、痛めつけた。
俺が寝ている 床にしかれたしわくちゃな布団。ゴム製の膜が、俺の中にあった大事な倫理感と一緒にゴミ箱に捨てられていた。
そんなモノを、じれったいビニールみたいなモノを、持っていた事が情けない。
一睡した後でも抜けきれない、何もしたくない気分が 汗ばんだ身体を包む。 あぁ、借りた服、洗濯しないとな。
「おはよう」
リサに、挨拶を返す。
まだ起きていない喉が 震えた声を吐き出す。
情けない。
ほんとに、何から何まで。
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あの後、あの キスの後は結局何も起きなかった。
何も、起こさなかった。
リサはきっと、俺に気持ちを伝えてくれたのに 俺はそれを受け止めきれなかった。あの時リサの事を抱きしめる事が出来たら、あの時拒むことが出来たら、きっともっとはっきりした関係になれたはず、なのに。
俺はどちらもしなかった。
どちらも選べなかった。
そしてそのままリサの両親が帰ってきて、俺とリサの2人に流れていたベタついた、居心地の悪い嫌な空気はリサの母親によって開けられたドアを通って何処かに行ってしまった。
母親を前にしたリサは驚くほど明るい表情だった。少し、恐ろしささえも感じた。女の子の表情の8割は嘘って、どこかで聞いたことがあったけれど 案外本当かもしれない。
だとすれば、さっきまでのリサのあの表情も、嘘だったら良かったのに。あの不安や緊張や そんなネガティブな感情がこねくり回された ごちゃ混ぜの表情も 夢だったら良かったのに。
そんな気持ちが渦巻いた胸中を押し殺して 俺も精一杯の作り笑いをした。正直、ちゃんと笑顔ができているかも解らないけど。
久方ぶりにあったリサの母親に挨拶をして、最近の身の上話とか 昔の思い出を語った。俺に続いて 話し始めるリサの顔には 不安の色はもう無かった。
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「想」
リサが俺の事を呼ぶ
シャワーを浴びてすぐの髪がリサのパジャマを濡らしていた。肌なんて全く見えない筈なのに、その姿はやけに色っぽかった。
廊下の照明に背中を照らされたリサの姿は 神々しさすらあった。少し縮んだ俺の心とは対称的な、雄大さみたいなものが その姿にはあった。
「さっきのこと、まだ覚えてる?」
この時、『覚えてない』とか『なんの事だよ』とか そういった類の言葉を返しておけば 良かったのかもしれない。そうすれば きっと 前みたいな、なんの憂いもない幼馴染の、仲のいい友人でいられた。
でも、それも 後の祭り、後悔先に立たず。
先にシャワーを浴びて、リサのお父さんから借りた服を着た。まるでこの家の一員みたいな風貌の俺は、その時何も答えなかった。どう答えていいかわからなかった。
リサの質問にも、リサの気持ちにも。
俺の沈黙を どう受けとったのかはわからないが、リサは何も言わず ドアを閉めて 自分のベッドに腰掛けた。俺は リサの部屋の真ん中で 座布団に胡座をかいて座っている。
「布団、もう一個あるから。取ってこよっか」
昔 よくリサの家で泊まる時にはリサの部屋で寝ていた。友希那と3人でベッドに無理やり入る事もあったし、2人がベッドで俺が床に布団を敷いて寝る事もあった。
けれど、その時と今の俺とじゃ訳が違う。
そもそも高校生の男女が同じ部屋で寝る、なんてのがおかしい話だし 加えて今日の俺とリサは、きっと。いつもの関係では居られない。
「ん、ありがと」
でも もしかしたら。今日一緒にこの部屋で一夜を共にして
それで何も起きずに済んだら、朝目覚めた時 きっと何もかも夢だったって思えるかもしれない。
リサと俺は友達で。恋愛感情なんて一切ないって。
元々、リサの事が好きだったんだし 自分にとっては願ってもない状況なはずだ。葛飾の事好きだったけどそういや昔はリサの事好きだったし 全然いいよ。って思えたら良いんだけど。
そこまで俺の心は融通が効かなかった。
1度リサと友希那に告げた葛飾への気持ちを、嘘にしたくなかった。このままじゃ、リサに意識させるために言ったみたいじゃないか。
だから、ここでもう一度やり直す。
もう一度俺とリサとの関係を買い直す。
でも、俺とは全く違う決意を
リサはしていたみたいだった。
「想のバッグ」
唐突にリサがそう言った、
「さっき想がお風呂入ってる時、見ちゃったんだ」
俺のリュックを指さして 続きを言った。
グレーの学校用のバッグ、始業式とホームルームぐらいしかなかった為 教科書の類は全く入っていない。入っているのは、筆箱とファイルと生徒手帳と財布ぐらい。
あと、強いて言うなら
「ゴム、持って来てるんだね」
以前、二宮が俺に渡してきた ピンクのお菓子みたいなデザインの袋。男ならこれぐらい持っとけとか、そんな事言って悪ふざけで渡してきたソレが、こんな事になるなんて。
回想する俺に近づいてくるリサ、シャンプーのうざったいぐらい甘い匂いが 近づく。
濡れた髪が、しだれ桜みたいだった
頬には赤が刺されていた
濡れそぼった花のような香りが、思考を満たす
また 楽な道を、
水の味を覚えてしまう
目の前の花に、手を伸ばす
葛飾の事、リサは知ってるんだし。いいか。
そう思ってしまった俺は、返事も抵抗も する気力が起きなかった。今日の事を無かったことにする、その決意は甘い匂いと ひた濡れたリサの全てを許すような 優しい表情の前では無力だった。
いつの間にか消えていた2人の距離
2人の間にあった見えない壁は 一体どっちが先に崩したんだろうか。葛飾の事を話した俺が先か、それとも家に来るように誘ったリサが先だろうか。
「さっきの、もっかいしよっか」
主語のない、曖昧な言葉が せめてもの救いだった
開けっ放しのカーテンから見える月は 綺麗だった
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「あのさ、想」
リサが俺に話しかけてくる。なかったものにしたい昨日が終わった今日の朝、カーテンの隙間から雨が上がって雲ひとつない空の光が差していた。斜陽が照らすリサの顔は 俺と違って睡魔の影が全くない 晴れ晴れした顔だった。
「想の相談、アタシ ちゃんと乗るね」
目をそらさず リサが言う。「想の相談って、ちょっとおかしいけど」なんて少し下を向きながら1人で笑うその顔は、少し 大人びた悲しさがあった。
「その代わり、アタシの相談にも乗ってね」
また、リサが笑っている。
笑わない友希那とは逆で ずっとリサは笑っている。俺の過ちを洗い流してくれるようなその顔に またもう一度救われる。
結局は、全部リサがきっかけをつくってくれていた。俺の背負うべき罪悪感を 半分こ、リサが肩代わりしてくれている。
「友希那の事、相談乗ってくれる人 探してたんだ」
なんて事ない、幼馴染の会話。
俺が戻りたかったその関係をまた演じてくれている。
女の子の表情の8割は嘘、らしい。
本当に、そうなのかもしれない
そう痛感しながら、自分の稚拙さを恥じながら
「おう、任せろ」
俺も、その嘘に乗っかった
次回予告
「どしたの」
泥人形みたいな身体が弛む
「起きた?」
当たり前が、酷く眩しかった
「どうなるかわかんないや」
また、仮初に甘えてしまう
「ん、わかった」
次回『煩悶、ただいま日常』
https://twitter.com/Tomiokasei4jyo?s=09
ちなみに、枝垂れ桜の花言葉は「優美」と「ごまかし」です。
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜