感想のおかげでモチベ回復して投稿出来ました。
そろそろ大詰めです、終わってしまいます。
タイトルは、0話のオマージュです
「どしたの?」
日菜が後ろから声をかけてくる。
でも、その声に振り向くことも出来ずに。ただガラス越しに葛飾の事を眺め続けた。店内の照明の反射で、所々が煌めいたその景色は。どこか、ピンと来なかった。
向こう側にいる、葛飾は。もう踵を返していた。
「...あの人......」
氷川が、なにかを囁めいた。
でも、言葉の内容を咀嚼して頭に飲み込ませることはできなかった。
遠巻きに見え始めた葛飾の髪が、白いワンピースを着た後ろ姿が。どんどん小さくなって行った。
消えそうな背中を、まだ見続けている。
─────中野くんがいないとこでも、中野くんの事、考えちゃってたんだ、私
まだ消えない背中を、眺め続ける。
──────でも、ごめんね
公園で泣いていた葛飾の顔が脳裏に浮かぶ。けれど、そこにあるのはただの人混みだけ。朝靄みたいに、何もかもを人の群れが掠めとっていってしまった。
先送りにして、先を伸ばして。得るべくして得た結果を、今更ながらに咀嚼する。
周りに並んでいる楽器達と、その中に佇んだ俺と氷川姉妹。
ここまで来て、やっと。頭が冷めた。
「......あぁ、ごめん。なんだっけ」
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「じゃあね〜」
日菜が手を振ってくる。その横で、氷川が控えめに手を挙げていた。
それに応えて手を振っているはず、なのだけれど。正確な記憶は全くと言っていいほど無い。
日菜はあれから買うギターを選んで、購入自体はまた今度にするらしいのだけれど。その話を3人でしている途中も、ずっと頭の中では葛飾の事を考えていた。
本来なら、友希那のライブがあった日に隣で見るはずだった服を着た。葛飾の姿を遠巻きに見ていた。
今まで近くで見てきたはずのものを、遠くで眺めていた。
楽器店で感じた感情と、全く逆の感傷が。頭から爪先までをどっぷりと浸らせていた。
肌を撫でるように揺蕩っていく冷たい緊張と、胸のうちから湧き出てくる生暖かい後悔で、心と体が引き離れるぐらいにぐちゃぐちゃになっていった。
春風、と言うには少し夏の匂いが染み付き始めた5月の風が身を揺すった。帰り道をなぞって歩くだけのプログラムに成り下がった身体が、頭を揺らしながら動く。
ぽっかりと空いた脳ミソでは、本当に何も。考えられないでいた。
自業自得で自縄自縛。曖昧模糊で軽佻浮薄。
それに尽きるのだけれど、一丁前に失意していた。
4時を過ぎた太陽が街を浅く照らしている。まだまだ明るい時間だけれど、少しだけ陰ったような空模様。段落ちの雲で散りばめられた空色が街を覆っている。
周りには誰もいない帰り道、自分の足音だけが等身大に聞こえる。乾いた音が厭に耳に残った。
その足音と一緒に、今日の出来事が反芻した
息を整えるみたいに、右のポケットに入れていた携帯を取り出す。表示するのはRINEの画面、確認するのはいつかのやり取り。お互いに遠慮も負い目もなかった頃の会話を今更確かめる。
画面を触る手は、震えていた。
込み上げて来た、あまりにも遅い感情が吐き出す場所を求めて身体中を駆け回った。
頽れそうな膝が軋んだ。携帯を持った両手がやけに重くて、このまま伏してしまいたいと思った。
全てが疎んで見えた。
見たものを忘れて、ハイになったフリをした所で誤魔化せはしなかった。日菜と氷川、2人の前で湧き出た作為的な自然体が、余計に自分の心を浮き彫りにした。
結局、何が大事だったのか。
誰のことが1番大事だったのか、わからなくなった。
「想」
その時、声が聞こえた。溶かすような、透かすような声が鼓膜から脳に浸透していく。その声は、ほのかにバニラの香りがした。
「......リサ」
振り返ると、リサが立っていた。
「どしたの? 顔、変だけど」
笑いながら、首を傾げて聞いてくる。その表情がもう、わからなくなっていた。
ゆっくりと近づいてくる姿で、もうこれ以上来て欲しくないと思う強さと。そばにいて欲しいと思う弱さを感じた。
ただその姿を、何も言えず眺めていた。
「あのさ、ちょっと話したい事あるんだけど、」
─────いいよね?
口には出さずに、肯定を促すような目をリサは送ってきた。腫れていた目は随分前に治っていて、今では跡形もない。そういえば、今日の葛飾の目も腫れていなかった。
だからきっと今頃になって感傷に浸かったままなのは、俺だけなのだ。
事態はもっと前から起こっていて。周りの環境が全て変わってやっと、今更気づいたのだ。
「......いいよ、どこで話す?」
リサは笑っていた。
「じゃあ公園行こうよ、アタシの家の近くのさ」
確かにここから一番近くてゆっくり話せる場所なのだけれど、それ以外にももっと意味があるような気がした。
小さい頃に3人で遊んだ場所で、昔から待ち合わせに使ってた場所。そして、最近だと友希那と二人でいた時に葛飾と鉢合わせた場所。
葛飾を拒絶するような、そんな場所だった。
「あ、その前に聞いときたいんだけど」
リサが言った。
ふっと湧き出たような、跳ねるような声が聞こえた。
春の風で靡いた髪の間から見えるリサの表情は艶やかで、全てが彼女の思い通りに見えるほど達観したような。人の姿を借りた、なにかもっと大きな存在のようにさえ見えた。
「......なに?」
続きを促す言葉を声にするのがおぼつかないほど、目の前のリサに畏怖をしてしまっていた。自分の存在が浅ましく、気味悪いものに思えてしまったせいで、余計にリサに後ろめたさを感じてしまう。
手のひらが痺れるみたいな緊張が体を襲っていた。多分、今の俺の表情は柔らかいものでは無いのだろう。むしろ怯えるぐらいに硬いのかもしれない。
それでも、リサは。ふっと笑った。
「昔、私が想に言ったこと。覚えてる?」
春の風が首を撫でた。
バニラの香りが、またうっすらと残っていた。
芳香に身を包まれたまま、立ち尽くしてその言葉の意味を咀嚼する。リサの指す『昔』が、どの位置にあるのかは分からないけれど。必死に記憶を漁ってみる。
リサはまだ、笑っている。
俺が答えあぐねている様を見ている。
ノーヒントな質問への回答は、まだ用意できない。
さっきリサが言った「公園」という言葉を元に、公園での昔の出来事を思い出す。まだ家に帰りたくないから、と3人で遊んだ景色を思い出す。
陽光で火がつくほど熱された滑り台や、どうやって遊ぶのが正しいのか分からない、球体の遊具。並んでいるだけのタイヤに、錆びたせいで手に臭いが移るブランコ。
その中にポツンとあった砂場の山。
1人で山を作ることに専心していた時、2人が駆け寄ってきた光景が、不意によぎった。
あの時リサが言った言葉が、大事な言葉だったような気がした。
「......ごめん、わからない」
まだ、リサは笑顔だった。
困ったような、そんな笑顔だった。
「じゃあ、もっかい言ってあげるね」
いつかまた、その言葉は俺のなかから消えるのかもしれない。また、こうやって忘れてしまうのかもしれない。
でもリサはもう一度、言った
「アタシたちとソウはずっと、一緒でしょ?」
好きなのはこの中だと...
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湊友希那
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今井リサ
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葛飾麗奈
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氷川日菜