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甲高い音で 目が覚める。
携帯から鳴った通知音だと気づいたのは 起きてからしばらく経ってからだった。頭がぼうっとする、休日をいつも通り無為に過ごし 月曜日への憂鬱に心をすり減らしたまま早めに寝たのだが 通知音で起きるほど浅い眠りだったらしい。
リサの家で起きたアレは、お互い口に出すことは無かった。それから俺はリサの家から帰って自分の家で借りた服を洗濯し、乾いた服は畳まれて今は明日返す為に学校用のバッグに入っている。
家に帰った後もリサとは『友希那の事で相談』という口実で お互いRINEは続けている。そのRINEでも話に出すことは決してないが、無かったことにする事もできない、俺とリサはあの日 超えては行けないラインを踏み越えてしまった。
そんな事を考えながら、俺を起こした犯人である携帯を確認する。時刻は0時、学生ならまだ起きていても不思議では無い時間帯、相手は葛飾からだ。基本的に彼女が連絡を取ってくる時間は朝の登校前、下校後家に着いてから18時まで、そしてあとは深夜だ。だから俺もその時間帯に返事をするようにしているのだが そういえば葛飾に返信するのをこの二日間わすれていた。
リサがシュークリームを取りに席を外した時に携帯を確認して 返事を考えている間にリサが帰ってきたので、そこから返事をするのをずっと忘れていた。1度既読をつけたトーク画面は通知欄に表示されないので 意識の範疇から外れてしまっていた。
「土日って」
「どっか行ってた?」
文節を切って送ってくるのは 葛飾の癖だ。送って来た文の後ろには『れな専用スタンプ』を付けた いかにも女子高校生な文面だ。彼女に薦められ(スタンプショップで売ってるのを葛飾が見つけてくれた)て俺も『そう専用スタンプ』を買ったのだが、今のところ恥ずかしくて葛飾以外には使ったことが無い。
「家で寝てたわ」
いつも通り、そっけなく返す。葛飾は毎回スタンプ含めて3,4個の吹き出しで返信するのだが 俺はだいたい1文にして返している。そのせいで葛飾だけが乗り気みたいなトーク履歴になってるけど、実際のところ 返信してる内容自体は中身はすっからかんだ。
「どしたの」
「爆笑」
葛飾から直ぐに返信が来た、正直そんなに面白い事を言ったつもり無いのだけれど ウケたみたいだ。なんだ、今日チョロいな。
って、思ったけど。別に俺が激おもろ返信をした訳では無いみたい、よく見たら打ち間違えてたらしい。『いえtwねいぇts』とかいう訳分からない打ち間違えを確認もしないまま送ってしまっていた。
「寝起きだから打ち間違えたわ」
今度は打ち間違えが無いか、確認しながら送る。寝たままの上体は 寝ぼけた腹筋では起こしきれず、横ばいになってからやっとの思いで起き上がる。電気のついていない自室、見えるのは携帯の明かりで照らされた僅かな部分と カーテン越しに見える7割ぐらいの月だけ。
ベッドのすぐ側のサイドテーブルに置かれた水筒を手探りで見つけて 中に入れていた氷水を飲む、氷はもうほぼ無くなっていてさほど冷たくもない。鉄の味みたいな水を、喉に通す感覚が気持ちよかった。
「電話」
「かけてもいい?」
疑問符を浮かべた、体の真ん中に「れな」と書いた猫みたいな生き物が疑問符を浮かべているスタンプと、葛飾からの返信が来た。
いきなりだな、そう思ったけれど 葛飾だから、って理由で納得する。友達になってから約10ヶ月で、文化祭から今日までずっとRINEを続けているから、割とこのノリには慣れた。未だに電話をするのは、少し緊張するけど。
「イヤホン準備するから待って」
お返しに 体の真ん中に「そう」と書かれたアホ面の猫がOKマークを出しているスタンプを返す。葛飾に奨められて買ったやつだ。
返事の代わりにまたスタンプを送ってきた葛飾のRINEを通知欄だけで確認して、また暗い自室のどこかに潜んでいる自分のイヤホンを手探りで探す。電気屋で安く売ってた完全ワイヤレスの、未だに使い慣れてないイヤホンを3分ほど手探りで探したが、結局見つからず電気を点ける羽目になった。
「かけていい?」
そう送ったら すぐに葛飾が電話をかけてきた。そういや、前に電話かける時にグダグダするのが嫌いって言ってたな。失念してた。
『れな』と、でかでかと表示された着信画面の左に鎮座している緑の受話器を真ん中にスライドする。聞こえてきたのは葛飾の声では無かった。
けたたましい轟音が耳を打つ。
「おぉぃ!?」
たまらず漏れる声、起きてから1度も震えていなかった喉が、情けない声をあげる。イヤホンは外さずに音量を一気に落とす、メーターの半分ぐらいだった音量でさえあの威力だったのだ MAXだったら もしかしたら鼓膜がどこかに行ってしまったかもしれない。
「起きた?」
声だけでも 彼女が笑っているのが解る。
「めっちゃ起きたわ、ビビった」
葛飾が俺の返事を聞いて 多分なにか言ったのだろうが、再度鳴り始めた轟音で、全く聞こえなかった。多分、ドライヤーの音だ。葛飾は確かだいたい夜の11時ぐらいにお風呂に入るから、まぁ この時間だとドライヤー使っててもおかしく無いな。
風呂入る時間まで知ってるとか キモ、そう思った奴 後で体育館裏な。別に俺がストーカーしてるとか、そういう訳じゃない。RINEしてるとだいたいそれぐらいの時間に「お風呂入ってくるね」って言われるからだ。
「寝ぼけてたみたいだから、起こしてあげようと思って」
「めっちゃ優しいじゃん、ありがと」
嫌味を込めて感謝の言葉を返す。「でしょ?」だなんて巫山戯て返してくる葛飾の声は 最高に愛しかった。
そんな呑気な頭に、一昨日の光景がフラッシュバックする。
少し腫れたリサの目元、頼りなさげに震えた長いまつ毛、さらけ出されたリサの肢体
「で、どうしたの」
心臓が血液を送る速度が 速くなっていくのがわかる。もしかしたら葛飾にも聞こえてしまっているのではないか、そう心配になってしまうほど 俺の聴覚に張り付いた鼓動音。
自分のしでかした事が、まだ忘れられない
こうしていつも通り呑気に葛飾と話したり、9時から寝ている間にも、もしかしたらリサは泣いているのかもしれない。
「全然返事こないから、どうしたのかなって」
多分、この5ヶ月で返信を全くしなかったのは昨日が初めてかもしれない。返事をしないだけで 心配して電話をかけてくれるなんて、優しいんだな 葛飾は。
「1回既読つけてから無視したまんまになってたわ。ごめんごめん」
嘘をつく必要も無いし 正直に白状する
「せっかく映画一緒に見ないかなって思ったのに、無視されちゃった」
わざとらしく あざとい声で俺の罪悪感を煽ってくる
「え、マジでごめん」
でも きっと誘われてても行かなかっただろう。前日に女の子に手を出して泊まって、その次の日に他の女の子と映画見に行くだなんて 俺には出来ない。
「うそうそ、まだ見に行ってないから 来週いこ?」
言葉が、詰まった。
行きたい気持ちが2割、行きたくない気持ちが3割、吐きそうな気持ちが残りの5割。
「あぁ、来週はまだどうなるかわかんないや」
行きなくない、そう言えばいいのに。また俺はどちらも選ばなかった、楽な一旦保留にまた逃れる。
「ん、わかった」
それからは、ずっと聞き手に回った。葛飾の新しいクラスのグループRINEで挨拶を誰も返してくれなかった話とか、新しく増えた友達とか、特進クラスだけ宿題が多くて終わらないだとか。
時には楽しそうに、時には嫌そうに話す 天真爛漫な葛飾の声は、先程のあざとい声よりも よっぽど俺の罪悪感を煽っていた。
葛飾の話を聞きながら考えていたのは全く話とは関係無い事だった、爪 伸ばしとこ。
次回予告
「やばい、眠い」
電車に揺られているような浮遊感の中
「......葛飾」
会いたい顔と、会いたくない顔が重なる
「ねぇ、ごめんって」
また、その目だ
「爪、切っといてね」
次回『廃忘、脈打つ異常』
https://twitter.com/Tomiokasei4jyo?s=09
好きなのはこの中だと...
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